隴西李艾傳記
大曆十年秋,宦者程琳記隴西李艾事。
艾與琳同里,少相善。艾家貧,父早亡,母織以養之。艾性敏,讀書過人,常語人曰:「丈夫生世,當取功名,不可久困草澤。」里中人皆知其志高。
後數年,艾屢試不第。家益貧,妻王氏以織補助生計,日食不繼。艾猶讀書不輟,夜常至深。
鄰人有戲之者曰:「李秀才,書讀破萬卷,何不見功名?」
艾聞之,笑曰:「時未至耳。」
一夕,艾讀書方畢,忽室中金光自梁而下,如日入戶。妻驚起,欲呼,艾止之曰:「勿懼。」
艾視之良久,曰:「此天命也。」
自此,言語漸異。
或謂夢見天帝,授以金冊;或謂夜聞天鼓,命其誅妖。程琳聞之,以為心勞所致,書戒之。
未幾,艾書來愈急,辭氣怪甚。曰:「天門已開,金闕有人召我,命我西行泰山,誅千年妖物。」
程琳大驚,遣李福往視。
福至其家,但見門戶貼符甚多,朱墨雜亂,風動則微響。
入門,見艾披髮不冠,手執木劍,立庭中。
福曰:「李秀才何為如此?」
艾不答,忽仰天大笑曰:「天兵十萬,已在雲外,何不速下!」
聲震屋瓦。
福欲勸之,艾怒目視曰:
「汝一介凡夫,安知天機!」
遂逐福出。
福惶惶而還。
程琳聞之,遣醫者復往。
醫至,艾不納。醫問其疾,艾曰:
「我無疾,疾在世人。」
遂取藥碗擲地,曰:「此穢物,不可近我。」
醫懼而退。
自是,艾晝夜不食,或立庭中數日不動。
夜則書符,滿屋皆是。或對空語,或忽大笑。
妻王氏泣曰:「君若如此,家當如何?」
艾叱曰:「婦人之見,何足與語天道!」
鄰里畏之,不敢近。
其母哭曰:「吾兒已非昔人。」
艾聞之,笑曰:「我非人,我奉天命行事。」
一日,艾忽沐浴更衣,著黃冠羽衣,負一破囊。
出立門前,謂妻曰:
「天車已至,我當西行泰山。功成之日,自當接汝母子同登天界。」
妻抱子泣留之。
艾不顧,拂袖而去。
里人隨之,見其行甚疾,如履風上,不數步已入山中。
有追之者,至山口則失其所在。
後數日,有獵人言見山中一人,披髮誦咒,對空呼喝,若與人戰。
亦有言夜聞山頂如雷,如萬人行軍。
皆莫知其實。
其妻王氏,後攜子流落里中,乞食度日。
里人憐之,時有周給。
程琳在宮中聞之,久不語。
後歎曰:
「艾志本高,而失其所歸,遂至於此。」
因泣而書之。
大曆十年霜降夜記。宮燭欲滅,風動紙窗,若有馬蹄與呼號聲,自遠而來。
大暦十年の秋、宦官の程琳は、隴西の李艾のことを書き記した。
李艾と程琳は同郷の出身で、幼い頃から親しくしていた。李艾の家は貧しく、父は早くに亡くなり、母は機織りをして彼を育てた。李艾は聡明な性格で、人並み以上に学問に優れ、よく人にこう語っていた。
「男子たるもの、この世に生を受けたからには功名を立てねばならぬ。いつまでも片田舎に埋もれていてはならない。」
村の者は皆、その志の高さを知っていた。
数年後、李艾は何度も科挙を受けたが合格できなかった。家はますます貧しくなり、妻の王氏は機織りで家計を助けたが、その日その日の食事にも事欠く有様であった。それでも李艾は勉学をやめず、毎夜遅くまで書物を読んだ。
ある時、近所の者がからかって言った。
「李秀才よ、本を万巻も読んだというのに、どうして功名が得られぬのだ?」
李艾はそれを聞いて笑い、
「まだ時が来ていないだけだ。」
と答えた。
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ある夜、李艾が読書を終えた時のことである。
突然、部屋の梁の上から黄金の光が差し込み、まるで太陽が家の中へ入り込んだかのようであった。
妻は驚いて起き上がり、声を上げようとしたが、李艾は制して言った。
「恐れるな。」
彼はしばらくその光を見つめた後、
「これは天命だ。」
と言った。
その頃から、彼の言葉は次第に奇妙になっていった。
ある時は「夢の中で天帝に会い、黄金の書を授けられた」と語り、またある時は「夜に天の太鼓の音を聞き、妖怪退治を命じられた」と語った。
程琳はその話を聞き、心労によるものだと思い、手紙で戒めた。
しかし間もなく届いた李艾の手紙は、さらに異様なものとなっていた。
そこにはこう書かれていた。
「天門はすでに開かれた。金闕の宮殿より使者が現れ、私に西の泰山へ赴き、千年の妖物を討てと命じた。」
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程琳は大いに驚き、李福を遣わして様子を見させた。
李福が家を訪ねると、門や戸には数え切れないほどの符が貼られ、朱と墨が入り乱れていた。風が吹くたび、それらはかすかな音を立てた。
中へ入ると、李艾は髪を乱し冠もかぶらず、木剣を手にして庭に立っていた。
李福が尋ねた。
「李秀才、なぜこのようなお姿なのですか?」
李艾は答えなかった。
突然天を仰ぎ、大声で笑って言った。
「十万の天兵はすでに雲の彼方に集っている! なぜ早く降りて来ぬのだ!」
その声は屋根瓦を震わせた。
李福が諫めようとすると、李艾は怒りに満ちた目で彼を睨みつけて言った。
「お前のような凡人に、どうして天の秘密が分かろうか!」
そして李福を追い出した。
李福は恐れながら帰り、その有様を程琳に報告した。
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程琳は医者を派遣した。
医者が訪れると、李艾は中へ入れようとしなかった。
医者が病について尋ねると、李艾は言った。
「私に病はない。病んでいるのは世の人々だ。」
そう言うと薬碗を取り上げて地面へ叩きつけ、
「このような穢れた物を私に近づけるな。」
と言った。
医者は恐れて立ち去った。
それ以来、李艾は昼夜食事を取らず、時には庭に何日も立ち尽くしたまま動かなかった。
夜になると符を書き続け、家中が符で埋め尽くされた。
ある時は空に向かって話し、またある時は突然笑い出した。
王氏は涙を流して言った。
「あなたがこのようになってしまったら、家はどうなるのですか。」
李艾は叱りつけた。
「女の浅知恵で、天の道を語る資格があるものか!」
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近所の者たちは彼を恐れ、誰も近づこうとしなかった。
母は泣いて言った。
「我が子は、もう昔の子ではない。」
李艾はそれを聞いて笑い、
「私はもはや人ではない。天命を奉じて行動する者なのだ。」
と言った。
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ある日、李艾は突然身を清め、新しい衣服に着替えた。
黄色の冠と羽衣をまとい、破れた袋を背負うと門前に立った。
そして妻に言った。
「天の車はすでに到着した。私はこれより西の泰山へ向かう。功を立てた暁には、お前たち母子を迎えに来て、ともに天界へ昇ろう。」
王氏は子を抱きしめながら泣いて引き留めた。
しかし李艾は振り返りもせず、袖を払って去っていった。
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村人たちは後を追った。
すると彼は風の上を歩くかのような速さで進み、わずか数歩のうちに山中へ消えていった。
追いかけた者もいたが、山の入口に着いた時には、すでにその姿を見失っていた。
数日後、ある猟師がこう語った。
「山中で髪を振り乱した男を見た。呪文を唱えながら空に向かって叫び、まるで誰かと戦っているようであった。」
また別の者は言った。
「夜、山頂から雷鳴のような音が聞こえた。まるで一万の軍勢が進軍しているようだった。」
だが真実を知る者は誰もいなかった。
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その後、王氏は子を連れて村を流れ歩き、物乞いをして暮らした。
村人たちは哀れに思い、時折食べ物や金銭を与えた。
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宮中にいた程琳は、この話を聞いて長い間何も言わなかった。
やがてため息をついて言った。
「李艾の志はもともと高かった。しかし、その向かうべき道を見失ってしまった。そして、ついにはこのような結末を迎えたのだ。」
そうして涙を流しながら、この出来事を書き記した。
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大暦十年、霜降の夜の記録。
宮中の灯火は消えかけていた。
風が紙の窓を揺らす。
その音は、遠くから聞こえてくる馬の蹄の音と人々の叫び声のようであった。




