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生きたい

その後すぐに救護班が現れ、私はアルベルト様の腕から引き離され、外へと連れ出された。

足を引きずりながら外に出ると、辺りは野次馬で溢れかえっていた。

人身売買の一味と思しき者たちが、手錠をかけられ、次々と連行されていく。

その光景を遠目に眺めていると――


「ソフィお姉ちゃん!」


聞き覚えのある声が、耳に飛び込んできた。

顔を上げると、そこには一緒に攫われていた子供たちの姿があった。

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、騎士たちに保護されている。


「よかった……」


子供たちは騎士の手を振りほどき、私の方へと駆け出してくる。

私も子供たちを抱きしめようとしたその瞬間――、

子供たちの背後、野次馬の中に、不自然な影が見えた。


「……せっかく、計画はうまくいっていたのに」


虚ろな目をした男が、ふらふらとこちらへ歩いてくる。

おぼつかない足取りで、何かを呟き続けている。


「お前たちの……せいで……」


次の瞬間。


「お前たちのせいで!!!!!!」


男は叫び声とともに、ナイフを振り上げた。

野次馬に紛れていたせいで、騎士たちの反応が一瞬遅れる。

その一瞬が、致命的だった。


――私は気づけば、足が前に出ていた。


先ほどまで痛めていたのが嘘みたいに、足が軽く動く。


「っ……!!!」


子供たちを庇うように前に立ちはだかった、その瞬間。

鈍い衝撃と共に、ナイフが脇腹に深く突き刺さるのが、はっきりと見えた。


「っ……!」


先ほどの銃弾とは比べものにならないほどの血が、一気に溢れ出す。

男がナイフを引き抜こうとするのを、必死に腕を掴んで阻止した。

――ここでナイフを抜かせたら、次は子供たちが。


その一心で、歯を食いしばり、耐える。

やがて、騎士たちが駆けつけ、男の身柄を取り押さえた。

それは、ほんの一瞬の出来事だったのだろう。

けれど、私には永遠のように長く感じられた。


男が拘束され、ようやく安心した、その瞬間――

力が抜け、足からその場に崩れ落ちる。


「ソフィお姉ちゃん!!」


子供たちの泣き叫ぶ声が、遠くで聞こえる。

けれど、身体はどんどん冷え、意識が薄れていく。


ああ……、子供たちを庇って死ねるのなら、本望かもしれない。

このために、神様かここまで生きながらえさせたのだと思えば、納得もいく。


よかった。よかった……。

これで、よかったはずなのに。


――どうして。


どうして今、あの人の顔を思い浮かべてしまうのだろう。

どうして、最後にもう一度会いたいなんて、思ってしまうのだろう。

ちゃんと、さっき別れの言葉を言えればよかった。


――「私は大丈夫だから。あなたも、あなたの人生を生きて」

そう、言えればよかったのに。


「ソフィア……ソフィア!!!」


その時、「ソフィお姉ちゃん」という声の中に、私を呼ぶ声が混じった。

――幻聴?

けれど、不思議と身体が温かい。

気づけば、私は誰かの腕の中に抱き上げられていた。

視線を上げると、そこには、倒れた私を抱きかかえ、必死に見下ろすアルベルト様の姿があった。


「ソフィア! しっかりしろ! 意識を保つんだ!」


その瞳には、溢れそうなほどの涙が浮かんでいる。

――ああ……幻じゃない。

彼がここにいると、その暖かい体温が証明している。


「絶対に死ぬなと言っただろ! ここで君が死んだら、俺は……俺は何のために……!」


彼の目から、涙が零れ落ちた。初めて見た。彼が泣いている姿を。

苦しんでいる表情は何度も見てきた。

けれど、いつも感情を押し殺していた彼が、こうして涙を流すところなんて、見たことなかった。

――でも、貴方が泣いているところなんて見たくない。


どうすれば、彼の涙が止まるのだろうか。

私は残った力を振り絞り、震える手で彼の涙を拭った。


「……私……まだ……生きたい」


その言葉に、彼は息を呑んだように目を見開く。

そして、信じられないという表情のまま、次第に、心から安堵したように――笑った。


――よかった。その笑顔が見られて。

私は、ずっと……貴方のその顔が、見たかった。

その表情を最後に、私の意識は静かに遠のいていった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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