攫われた先で
体が震える。
それが寒さによるものなのか、それとも恐怖から来るものなのか、自分でもわからなかった。
物置小屋のような場所に閉じ込められて、どれほどの時間が経ったのだろう。
部屋は真っ暗で、時間の感覚が少しずつ狂っていくのを感じる。
……そういえば、昔も、こんなことがあった。
父が殺された後、私はしばらくの間、アルベルト様によって監禁されていた。
けれど、あの日と決定的に違うのは、今は、守らなければならない存在がいることだ。
近くで、私以上に小さく震えている子どもたちを、強く抱きしめる。
私が怯えれば、そのまま子どもたちの恐怖になる。だから、私がしっかりしなければならない。
ーーそれは、本当に突然だった。
いつものように、子どもたち数人と畑で野菜を収穫していた時、近くに大きな荷馬車が止まり、屈強な男たちが次々と降りてきた。
異変に気づいた時には、すでに遅く、気づけば、私たちは囲まれていた。
「……なんですか?」
私は子どもたちを背中に庇う。
だが、大柄な男たちの間から、胡散臭い笑みを浮かべた一人の男が距離を詰めてきた。
その男は、どこか神官を思わせる格好をしていた。
「子どもたちと一緒に私たちのもとへ来ていただけませんか?」
「……それより、貴方たちは誰ですか」
「私たちは貧しさに苦しむ子どもたちを救済する者です」
「……?」
「私たちのもとへ来れば、皆、幸せになれますよ」
穏やかな口調とは裏腹に、その男の目は一切笑っていなかった。
底知れぬ冷たさに、背筋が凍り、一歩、後ずさる。
子どもたちが私の腕を必死に掴み、私も離すまいと強く握り返す。
「……そうですか。従う気はないと」
男は小さくため息をついた。
「では、子どもたちだけで結構です。”子どもしか価値はありませんから”」
「……っ!?」
怒りと恐怖が混ざり合い、睨みつけるが、男は意に介さない。
「手荒なことはしたくないのですが……連れて行きなさい」
神官のような男の合図と同時に、二回りは大きい男たちが子どもたちを引き剥がす。
「やめて! 何をするの……!!」
「ソフィお姉ちゃん!!」
必死に手を伸ばすが、背後から腕を取られ、身動きが取れない。
「この女はどうします?」
「警備に駆け込まれたら厄介です。殺しておきなさい」
息が止まった。
――まずい。
このままでは、子どもたちを連れて行かれ、追いかけることすらできなくなる。
「……私も、連れて行って」
「は?」
「大人でも、女なら少しは価値があるでしょう」
男たちの真意はわからない。けれど、先ほどの会話から察するに――。
「ははは……面白いですね」
男が、私の顔をじっと見つめた。
「確かに……ブロンドの髪に白い肌。商品としては悪くない」
――やはり。人身売買だ。
父が、かつて裏で牛耳っていた――。
「連れて行きなさい」
その言葉と同時に、私も拘束され、荷馬車へと運ばれる。
担がれる直前、私は畑仕事をサボって川沿いで遊んでいた一人の少年に視線をやった。
遠くから怯えた様子でこちらを見ている。
――どうか、そのまま逃げて。そして、ナタリーさんに伝えて。
それだけが唯一の頼みの綱だった。
そして、目隠しをされ、抵抗もできないまま連れて行かれた先が、この部屋だった。
ここには、私たち以外にも子どもたちが集められていた。
外では取引が行われているのか、先ほども数人の子どもが部屋の外へ連れ去られていった。
身なりからして、貧民街の子どもたちだろう。身寄りのない子は、消えても誰も探さない。
――常習犯だ。
勢いでここまで来てしまったが、ここからどうすればいい。
どうやって、子どもたちを守りながら逃げれば――。
「ソフィ姉ちゃん……僕たち、殺されちゃうの?」
「大丈夫……大丈夫だから」
そう言い聞かせるように、強く抱きしめる。その時だった。
ガッシャーン!!!!
激しい音と共に、外が一気に騒がしくなる。
「逃げろ!」という男たちの声も聞こえた。
助けが来たのかもしれないと、一縷の希望に、私は必死に扉を叩く。
「ここです! 子どもたちはここにいます!」
だが、反応はない。
体当たりで扉を開けようとした瞬間――、目の前の扉が開いた。
だが、そこに立っていたのは神官の男だった。
「……!」
息を呑む間もなく、首根っこを掴まれ、慌てた様子の男に外へ引き摺り出される。
「貴方でいい。来なさい!」
首元に刃物を突きつけられ、対抗できないまま、部 連れ出された先は、長い廊下だった。大理石の床、大きな窓から差し込む光。
何かから逃げるように進んだ先は、行き止まりだった。そこで、男は舌打ちをして、立ち止まる。
その時――。
「そこまでだ。人質の場所を吐け」
聞き間違えるはずがなかった。
影の中から響いたその声を。
「さもなくば、ここで殺す」
姿を現した彼を見た瞬間、胸が締めつけられた。
――やっぱり、彼だ。アルベルト様。
銃を構えた彼も同様に、私と視線が交わると同時に、目を見開いた。




