9話 天号の魔法使い
「そこまで!」
参ったという為の口も焼いてしまったので、勝敗はレオンの意識が完全に落ちてから決せられた。
ジョゼット先生が回復魔法で手当をすると傷はすぐに消えるのだが。
「ひ、ひいいいいい!!!」
意識を取り戻したレオンは人格が変容してしまったかのようだった。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
「わかればよろしい」
ふう。すっきりした!
「お前ら! 俺が勝ったんだから、コソコソ陰口言うのやめろよ!」
衆群がざわめいた。
さて、俺は俺のやり方で主張を通した。少し、生きやすくなるだろう。
◇◆◇◆
夜。嫌いと言われても戻る場所は変わらない。
「何よ。あの勝ち方」
「いいじゃん! 勝ちは勝ちだ!」
「公女の使い魔なんだから、もっと優雅な」
「そんな勝ち方できる余裕も時間もチートもなかったんだよ」
普通は何かあると思うよ? 無限ガチャチケットとか、ゲームの能力とか、伝説の紋章とか。
俺にはなんもねえもん。あーやって勝つしかない。
「ごめん」
は?
「貴方の言ってたこと正しいよ。多分。貴族たちは、卑怯だし、私が1人なのは私の性格のせい」
「言い過ぎたとは思ってないよ」
「それにしてもやりすぎだわ」
◇◆◇◆
あれから、俺とフィーを見る皆の目線が変わった。
公女とその恐るべき使い魔というものに。
そして、俺は魔法の勉強にまい進していた。
あっという間に、クラスの平均程度の魔法が使えるようになり、季節は夏を迎えようとしていた。
◇◆◇◆
イェルディスはある人物を呼び出した。
「ふぅ! 暑いわい!」
扇子を仰ぐ。
「それで、私に何用でしょうか? 公爵閣下」
レイナ・レバレッジ。閃光の二つ名を持つ天号の魔法使いだった。
「其方を呼んだのは他でもない! 指導して欲しい生徒がおるのじゃよ」
「天号の私に? 一体どんな生徒ですか? もしや、姪のメアリ嬢でしょうか?」
「いや? あれは既に私が鍛え上げた。主に指導してもらいたいのはあれよも、もっと特殊な生徒じゃよ」
「公女以上に特殊? まさか王族ですか?」
「いんや」
「ではどのような?」
「異世界からやって来た男」
「はい?」
「いやのぉ! 私のもう1人の姪が召喚した使い魔なんじゃが」
ハクの知らないところでそんな計画が始動しようとしていた。
◇◆◇◆
「ミスターハク! ミスターハク!」
早朝。ジョゼット先生の声だ。
「もう! またなの!? 今度は何をやらかしたの!?」
「ここ二ヶ月は何もしてないでしょーが! 変なことは!」
「主様とフィー様の関係も相変わらずですワン」
「「うっさい!」」
◇◆◇◆
さて、また学園長室に呼び出されたわけだが
「ふぁあああ」
眠い。絶望的に眠い。
「おい。普通の貴族なら極刑ものの不敬じゃぞ?」
「生憎、契約のせいで死ねないんで」
「舌が回るのぉ。そんな主に紹介したいものがおる!」
「奇麗なお姉さんだったらいいなぁ」
おっと本音が
「安心せい! その通りじゃ!」
「マジですか!?」
あかーん。心の声が駄々洩れやー。
「入れ!」




