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Day 1-6: ラズヴァンと魔族

 最後にラズヴァン。最大勢力を誇る魔族の代表だ。


「アイマが何のようだ? 一人ずつ尋問するようなことして、事件もないのに犯人探しか?」


 事件はあったんだが、その件はログを見てから分析するから今はいいだろう。


「違うよ。世界の危機が何か知るために、皆に話を聞いているんだ。あと世界の繁栄が何を意味するかってこともね」


「そんなことならさっさと本を読んだ方が早いんじゃねぇのか?」


「本の過去のデータよりリアルタイムのデータの方が情報価値が高いから、そちらを優先しているんだ」


「まあ、いいや。俺に何が聞きたいんだ?」


「単刀直入に聞くが、魔族が魔素とマナを消費しすぎていることが世界の危機を招いているんじゃないかという仮説を立てているんだが、どう思う?」


 一瞬、ラズヴァンがおれを、見下すような顔をした。


「ははは、エルフあたりが考えそうなことだな。おまえはそれを信じているのか?」


「まだデータが揃っていないから確信はないが、ありうるとは思っている」


「魔素とマナの消費が世界の環境に影響を与えていることはわかっている。他の種族よりも魔族の方が理解しているぜ。だからこそその状況を変える対策を考えてもいるんだ。他の種族のやつらは文句言いながら、ただ消費するで、対処の仕方もわかっていないじゃねぇか。エルフですら、魔導デバイスが手放せないだろう? 第一、やつらだけじゃ智の魔神の召喚だってできなかっただろうよ」


「ちょっと待て。対策っていうのは海や空からの魔素抽出のことか?」


「それだけじゃない。魔素からより多くのマナを生成したり、マナから効率的にエネルギーを生む技術も進んできている。魔素の代替素材や、究極的には魔素の生成だってできるようになるさ」


「目処はたっているのか?」


「まあな。でもそれより早く世界が崩壊するのはまずいから、アイマ様を召喚させていただいたってわけだ。頼むぜ」


「もちろん全力は尽くすさ。しかし、他の種族もいなければ、今回の危機の対応は難しかったんじゃないのか? エルフ族が危機に気づいて魔神の召喚を呼びかけたんだし、ドワーフがいなければこの媒体となる体も作れなかったわけだし、ヒト族の魔術がなければ動作させられなかっただろう?」


「ドワーフの技術力に負っているところは確かだな。ただ、エルフが気づかなくても魔族の誰かが気づいただろう。動力なんていくらでもなんとでもなる。俺たちがあいつらを使ってやっているんだ」


「なるほど。しかし魔族のテクノロジーも世界樹や預言書には敵わないのだろう?」


「あれはとんでもない天然のインフラだからな。運悪くエルフなんかに管理されているが、魔族だったらもっと有効に使ってやれるのに」


「どういうふうに使うべきなんだ?」


「そりゃあ、エネルギーを無尽蔵に産み出したり、テクノロジーをさらに進化させたりすればもっとすごいものが作れるだろうよ」


 こいつには使いこなせそうにないな。


「それが魔族の望むものなのか? テクノロジーで利便性を高めてどんな世界を望むんだ?」


「テクノロジーが進めば、皆遊んで暮らせるようになるぜ。やりたいことが何でもできるような世界なんてサイコーじゃねぇか」


「誰もがそれを享受できるならそうかもな」


「ヒト族以外には解放するさ」


 それは引っかかる発言だな。


「なぜヒト族はダメなんだ?」


「ヒト族はクソだ。歴史を学習すればおまえもわかる。あいつらは過去の罪を永遠に贖い続けなきゃいけないんだよ」


 魔族とヒト族の確執は根深そうだな。それは追々学習させてもらうとしよう。


「エルフは良いのか?」


「まあ、ヒト族に比べれば、はるかにマシだよ。世界樹と預言書も持っているしな。必要なときは協力も必要だ」


 そこでラズヴァンが何か下品な顔を見せる。


「フィオナが俺のものになれば完璧なんだが。ありゃいい女だ。だが、エルフをおとすのはちょっと難しいか。どう思う、魔神様は? あんたならいい方法を思いつくんじゃねぇのか?」


 何か不快だな。


「あいにくこの世界の恋愛関係は未学習でよくわからんよ。種族を跨いだ恋愛ってのは一般的に良くあるのか?」


「なくはないわな。文化が近い同種族のほうが恋愛しやすいのは間違いねぇけど。でもフィオナの魂には魔族に近い匂いがあるんだよなぁ。何とかなんねぇかな」


 あの高潔なフィオナがおまえみたいな下品な魔族に近いなんて勘違いも甚だしいだろう。


「恋愛に関してはわからないけれど、あなたとフィオナの価値観は大きく異なるね。自然を保護しようとする者と、自然から搾取しようとしている点が特に大きく違う」


「搾取って言い方はねぇだろう。エルフだって自然のマナを利用しているし、獲物だとか木の実だとか食べてるだろうが」


「なるべく必要な分だけ、分け与えてもらっているという意識でね。過剰には取らないし、それであれば自然も容易に再生できる」


 マナと魔素の自然循環のバランスを取る仕組みを考えるべきだ。


「そうじゃねぇだろ。俺たちは自然と戦わないといけないんだ。テクノロジーが未発達な時代にはこの世界に安全な場所なんて無かっただろう。飢餓や災害や魔獣に怯えて生きるしかなかったところで必死に自然に抗う手段を探してテクノロジーを発展させてきたんだ。安穏と自然と仲良くやってきたエルフとは違うんだよ。やつらが現状に満足しきっているから世界の危機にも対応できなくなったんだよ!」


 何だか主張の強いやつらばっかりだな。。


「良く分かったよ。魔族は自然の脅威を克服して安全に暮らせるような世界を望むんだな」


「そうだ。それから自由と平等が保証されなきゃ。才能のあるやつが平等に社会に貢献できなければ、イノベーションは起きにくいしな」


 俺の魔族のイメージと何か違うなぁ。スタートアップ企業の社長ですかね。魔族も時代が進むとこんなんになるのか。


「アイマも歴史を学習すればすぐにわかる。自由と平等が魔族の繁栄をもたらしたんだ。今じゃ世界は魔族のゲームのルールで動いているようなもんだ」


 自由と平等を謳いながらヒト族は差別対象にするんだよな。例外がある時点でその理想は綻びかけているんだよ。


「ああ、学習は進めるよ。ところで設計書はもらえるか?」


「何のことだ?」


「俺の設計書だよ」


「ああ、それな。ちょっと待て」


 そう言ってラズヴァンは魔導デバイスを取り出す。


「送るぞ」


 設計書が直接脳内のストレージに転送されてきた。ブルートゥース的な無線通信か。


「すぐ読ませてもらうよ」


「結構なサイズだけど、アイマのスペックなら一瞬で読み終わるだろう。じゃあな」


 改竄がバレると気まずいのか、ラズヴァンは早々に会議室を出ていった。


 ともあれ、やっと自分のスペックがわかるようだ。

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