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Day 1-3: マリアとヒト族

 俺が召喚された中層の祭壇の間ー会議室に戻り、樹木のテーブルを囲んで、俺たちはマリアへの尋問を始めた。


「まずは言い訳から聞こうじゃねーか。ああ? おまえがあいつらとつながってないってことをちゃんと説明しろや」


 魔族とヒト族はよほどいがみあっているのか、ラズヴァンが個人的にマリアを嫌っているのか、もう少し歴史や統計データを学習したいところだ。


「私はみなさんご存知のように、勇者パーティから追放されているんです」


「だから何だってんだ。脅されて情報流しているんじゃねーのか?」


「それはないです。バカにされているのは分かっていますが、実際は私の方が強いですし…」


 それはそうだ。


「そもそも何で追放されたんだ?」


 他メンバーには周知のことかもしれないが、俺はその経緯を知らない。


「当時の勇者パーティは破竹の勢いで高難度ダンジョンを攻略していました。一時は魔王も倒せるんじゃないかともてはやされていました」


「魔王討伐なんていつの時代の話だよ…今が北暦何世紀か分かってんのか?」


 北の魔族の暦がグローバルスタンダードなのね。


「目立ちすぎたのかもしれません。実のところ、ほとんどのダンジョンは、私のオートマタで索敵もザコモンスターの駆逐していましたし、ボス戦も私が弱らせてから、彼らがトドメを刺すだけでした」


「ブロック工房製のゴーレムじゃな」


 マリアが頷く。


「彼らも実際、そんなに弱いわけではないんです。剣と魔法が全盛の時代であれば、まだ良かったと思います。でも世界を見れば、現代は魔導工学全盛で、そんな時代じゃないことは少しでも外に出たことがある者だったらすぐにわかるのですが…とにかくヒト族は閉鎖的なんです。ダンジョンなんてただの娯楽施設みたいなものですし」


 バッティングセンター的な?


「そこで私みたいに外国製のミスリルゴーレムなんかを取り入れればすぐに他のヒト族を圧倒できます。でも、逆にそれが目立ちすぎたんだと思います。世間でも、勇者の実力より私のゴーレムに注目が集まりだしたんです。ヒト族は未だに力がある者がエラいみたいな文化なので、勇者パーティの中でも疎まれるようになってきて。そんなときに今回の預言書の件が伝えられたので…」


 渡りに船って感じで追い出されたのね。


「そもそもヒト族は四種族の中でも最弱です。それなのに他の種族の代表者の方々の中に送るのですから、死んでもいいと思われている私が選ばれただけなんです。ヒト族の代表というよりは、勇者パーティの中でも『役立たず』の私を追い出そうということになりました。勇者パーティのメンバーということで代表としての名目にも合うということで…結果的に正しい人選だったとは思うのですが」


 自信家なのか卑屈屋なのかよく分からんな、この子。ただ、あの邪悪なイケメン・美女たちとは確かに違う善性のようなものはあると思う。


「劣等種族の自覚はあるようだな」


 ラズヴァンが高笑いするが、フィオナに睨まれ、「失敬」と萎縮した。


「では、なぜ勇者たちは襲撃してきたんじゃ?」


 ブロックが話を軌道に戻す。そう、そこを明らかにしないといけないだろう。


「ヒト族の社会は今ひどい状況です。魔族やドワーフ族のようにテクノロジーを扱う知性も産業を興す能力もなく、エルフの大森林のように自然や精霊に恵まれた土地も持ちません。ただ力がある者たちが、人々を奴隷のように働かせて私腹を肥やしているだけで、飢えていくばかりで人口も急激に減らしてきているんです」


 俺の世界の人間と比べてもえらいダメっぷりだな、ヒト族...とはいえ、俺のいた人間社会もあっけなく終わったから大して変わらないか。


「言ってしまえば、ヤケクソなんだと思います。預言書のことはもちろん彼らも知っています。なぜアイマのことまで知っていたのかはわかりませんが…自分たちの実力を見誤った勇者たちが、預言書やアイマを奪って、英雄にでもなろうとしたんだと思います」


「ヒト族の王が命じたのでもなく、ただの独断で蛮行に走ったって言うんじゃな?」


 ブロックが驚いたように言う。


「そうだと思います」


「そんなアホなやついるのか?」


 ラズヴァンが心底蔑むような表情を見せた。


 マリアはうつむく。


 そこまで黙って話を聞いていたフィオナが口を開いた。


「そうであったとしても、このプロジェクトを邪魔されるわけにはいきません。マリア、ヒト族の王に横槍を入れさせないように伝えてもらえませんか? 個人の功名心のせいで、全種族も世界も崩壊してしまうんです? そうなってしまったら英雄も何もないんです」


「はい、わかりました。でも、勇者は発言力が強いんです。聞いてもらえるかどうか」


「最悪の場合、実力行使させてもらうことになりますよ。今は種族の枠を超えて協力すべき時で、そんなことをしている場合ではないのですが」


 フィオナは語気を強める。


「そりゃいいな。魔王様に報告すれば、刺客を送ってくれると思うぜ」


「現代の魔王は殺生沙汰はあまり興味ないと聞いたが意外じゃな」


「自分の興味ごとを邪魔されるようなら、それくらいするよ、あの方はね」


「マリア、私たちは本気です。状況をしっかり認識してもらってください」


「わかりました」


 そこで尋問は終わり、となりそうだったのだが、何かが引っ掛かる。


 まだダメだ。まだ一つ重要なことを聞けていない。


「俺に話をさせてもらっていいか? できれば一対一で。俺ならしがらみもないし、もう少ししっかり分析と対策ができるはずだ」


 三人は不審そうに俺を見たが、ブロックが最初に応えた。


「アイマがわしらに不都合なことをするはずがないから、いいんじゃないか」


「まあ、そうだな」


 ラズヴァンも同意してくれたようだ。君らが設計・製造したのはハードウェアだけで、知能のソフトウェア部分は全く別物なんだが、信用してくれるんですね。


 フィオナは少し心配そうにしているが、それがマリアに向けられたものか、俺に向けられたものかはよくわからなかった。あるいは、どちらにもかもしれない。


 三人が部屋を去り、マリアと一対一になった。


「俺が聞きたいのはアンナについてだ」


 そう言うと、マリアの顔がこわばった。


「あの娘のことはよく知りません」


「そうじゃない。誰がアンナを殺したのか知りたいんだ」


 マリアの顔はさらにこわばったが、すぐに観念したように表情を緩めた。


「アイマには隠し事できないのね。智の魔神だもんね」


 マリアはため息をついた。俺は何かマリアには他の三人にはない違和感を感じる。俺がかつて人間だったことに関係するのか? そういうのとは違う気がするんだが。


「勇者たちが彼女を殺したんじゃないのよ。私のオートマタがアンナを殺したの。ヒト族は殺さないはずなのに…」


「どういうことだ?」


「オートマタはヒト族を認識する機能を持っているのよ。ヒト族と認識すると、攻撃はするものの、致命傷は与えないよう制御しているのに…」


「そんな仕様があるのか…フィオナ達もそれは知っているのか?」


「言ってはいませんが、察してくれていると思います」


「なぜオートマタがやったと思うんだ?」


「オートマタのミスリルクローの刺し傷が致命傷になっていたんです」


「AI、いや、オートマタの画像認識能力だって限界はある。誤認識はあるだろうな」


「もちろん、それはそうです。ですが、確信がなければ殺してはいけないんです」


 フェールセーフの機能は重要だな。


「誰がプログラムを設計したんだ? つまり確信がなくても殺してしまうようにしたのは誰だ?」


「わかりません。本当にわからないんです」


 これ以上追求しても仕方ないか。誤作動である以上、アンナには申し訳ないが、責任追求しても仕方がないし、犯人追求は俺の役目でもない。再発防止策は考えた方がいいだろうが。


「いや、いいんだ。マリアが何か一人で抱えようとしているなら手伝ってあげようと思っただけだから」


 するとマリアが一瞬驚いた顔をして、それから寂しそうに微笑んだ。


「私、そんな優しいこと言われたのは初めてだわ。生身の人たちは人のことなんて気にしないもの。不思議な魔神さんね」


 マリアは優しい表情がかわいらしいな。


「困ったことがあったらいつでも言ってくれよ」


「うん、ありがとう」


「もう一つ聞きたいんだけど、いいかな」


 場が和みかけていたが、マリアはまたかすかに警戒したような様子を見せる。しかし、できるだけ今は情報を集めておきたい。

 図書館の書物だけでなく、生身の存在からもリアルな情報があった方が今後の活動に役立つだろう。


「ヒト族は今回の預言とこのプロジェクト…魔神を召喚して預言を追記することについてどう考えているんだ?」


「それは私個人の考えを聞きたいの? それともヒト族の代表として答えればいい?」


「どちらも聞きたいけど、まずはヒト族の代表の意見…それがヒト族の多数派の意見か、統治者の考えかは任せるけど、一般的な意見を聞かせてくれ」


「そうね、ヒト族の大多数は、預言の内容を聞いたら喜ぶでしょうね」


「喜ぶ? 世界が無に帰るのに?」


 前の宇宙で世界が無に等しい状態になって死を迎えいれられることを喜んでいた俺が言うのも何だけど。


「まだアイマは今のヒト族の現状は学習していないのよね」


「まあね。ただ、一般的に生物は大きく環境が変わって生が脅かされるのを好まないと認識しているんだけど。環境の変化を望むのは、現在の環境が生存に著しく不利な場合だけだ」


「そうよ、今のヒト族にとっては、現在の環境が著しく生存に不利で、その環境を変えることも著しく困難なのよ。それなのに魔族はドワーフは良い暮らしをしているから、妬みや恨みもあるわね。彼らの国に出稼ぎせざるをえなくて奴隷のように働かされているヒトも年々増えているし、世界なんてリセットしてしまえばいいと思っているヒトはかなり多いと思うわ」


「君自身はどうなんだ?」


「私もあまり変わらないけれど…運良く一般的なヒトよりは才能に恵まれているから、世界は無くなってほしいとは思っていないわ。同じ世界のリセットでも、種族関係なく皆が公平で幸せな生活ができる世界になるようにリセットしてほしい。ヒト族よりもっと辛い目にあっている少数種族だっているわ。そんな種族でも救われてほしい。予言書にはそんな世界になるような追記をしてほしいわ。お願い、アイマ…」


 媚びるような目で俺に訴えてくる。


「もちろんそうしたいと思う」


「あの勇者たちもやり方は違うけど、同じことを望んでいる気がするの。アイマが公正な世界をもたらしてくれるなら、あのヒトたちもきっと野蛮なことはやめると思うわ」


 そうなのだろうか? そんな理知的なやつらには見えなかったが…


「そうしてくれたら、何でも言うこと聞いてあげる! 魔神さんが何を望むかは知らないけど」


 そう言って艶っぽくマリアは微笑んだ。何だか悪魔っぽくもあるな。俺は何を望む!?


 スローライフでしょう。


 マリアと一緒に、オートマタも使わせてもらって、俺の町を作って、スローライフでしょう。


 俺の町では、皆等しく幸せなスローライフができるようにするぞ。


「楽しみだね。何か考えておくよ」


 どうやら一人ずつ話を聞いた方が本音と有用な情報が取れそうだな。


「話す時間をくれてありがとう。悪いが、次はフィオナを呼んでくれるか?」

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