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Day 1-1: 世界樹図書館と預言書

 そうしてフィオナが話を始めた。


「この世界は大きく四つの国によって統治されています。この世界樹図書館を中心とした、「エルフの大森林」、ここから西側にヒト族の「ヴァレンティア王国」、東に「ドワーフ王国」、北に魔族の「魔導王国」になります。


 そこでフィオナが小型のスマートフォンのような形状の端末を取り出すと、端末が光り、中空に大陸の地図が表示された。縮尺も表示されたが、単位がよくわからないので、広さはよくわからなかった。だが、相対的に明らかに魔族の領土が大きく、全世界の二分の一以上を占めていた。


「歴史的には各種族の間でいろいろあったのですが、現在は大きな争いもない、といいますか、それどころではない状況になっていまして、それがアイマを召喚した理由でもあります」


 そこで、今度は端末から分厚い辞書のような本が映し出された。


「オリジナルは別の場所に厳重に管理されていますが、これが『預言書』です。世界樹が現在の世界の情報を集約し、この預言書の記載が自動でなされます。預言書には少し先の未来まで記述されます」


 そこでフィオナは大きなため息をついた。


「先日、重大な記述がされました。正確に内容をお伝えします。『今から1年の刻を経て、世界が一となり、全ての存在は無に帰する。それを防ぎ、世界をさらに繁栄させるには、智の魔神を召喚し、その智を借りて預言書の続きを授かれ』これが預言書の最新の記載になります」


 1年後に世界が無くなるということか。1日が24時間なのかどうかもわからないが、おそらくそれほど長い時間は残っていないだろう。


 正直なところ、少しほっとした。死にそびれたかと思ったが、うまくいけばあとたったの1年で今度こそ死ねるかもしれない。

 スローライフがないなら死が望ましい。


「つまり、俺が召喚されて、世界を救うためにその追記内容を考えなければならないということだな」


 まあ、あれだ。何かやっているふりをして、適当に3日過ごせばいいわけだな。


「預言が出てからどれくらいの時間が経っているんだ? つまり、あとどれくらいで終わりの日が来るんだ?」


「あと3日です」


「は?」


「あと3日です」


「いや、それはわかったけど。3日しかないの? 一日は何時間ある?」


「え? 24時間ですけど」


 智の魔神なのにそんなことも知らないの?って顔しないで。この世界には今召喚されたばかりなんだから。


「なんでもっと早く召喚してくれなかったんだ?」


 3日で死ねるならいいじゃないかと思うべきところかもしれないが、せっかくなら少しこの世界のことをちょっと知るくらいの時間はあっても良かったんじゃないか。


「いろいろ手続きとか、作業とかあったので…」


 まあ、いいや。いろいろあったけど頑張って間に合わせたのね。


「単純に『その災害を防いで、世界を繁栄させました』とかいう記述はできないのか?」


「記述は具体的なものでなければ効果がでません」


「なるほど。じゃあ、預言書の『世界が一となり、無に帰する』というのも文字通りその状態を迎えるということなんだな。それにしても、『智の魔神を召喚せよ』って預言書はアドバイスまでくれるのか?」


「預言書の著者は世界樹です。世界樹は世界を維持繁栄することを常に志向しています。だからどの種族も世界樹を大事にしています。もちろん悪用しようとする輩も多いので、こうして各種族の有力者たちの間で管理や守護をしているわけです」


「なるほど。じゃあ、君たちはこの世界でもかなりの有能な方々というわけだ」


「そう考えていただいてけっこうです」


「わかった。俺の使命も理解した」


 預言書が俺にやれっていうからには、きっと俺はやるのだろう。

 少しこの世界に興味が出てきているのは確かだ。


「預言書の追加は原則一回きりと考えてください。預言書の編集能力はエルフ族の代表に引き継がれていまして、今代の編集者が私になります。各代のエルフが千年に一度だけ書き換えることが許されています。つまり、千年に一度だけ未来を変えることが許されているということです。こうした本当に緊急のときのみ、四種族で追記内容を検討します。今回は、預言書に従って、四種族で協力してあなたを召喚したわけです」


 オーケー。3日以内に預言書の言う世界の危機の原因を明らかにして、それを回避する案を考えて、一度だけ追記してその対処を実行させれば良いんだな。

 あんまりやる気はないけど。


「状況はわかった。いろいろ知りたいことはあるな。現在の世界の文化水準がどの程度なのか興味があるな。その端末なんかを見ているとなかなか優れたテクノロジーがありそうだね」


「これは魔族が開発した魔道具です。できれば、世界の危機に関係しそうなことから知っていただきたいですが、この世界樹図書館は世界中の知識を集積した図書館ですので、いくらでも学んでいただくことはできます」


「それはいいな。この世界の成り立ちなども知ることができれば預言書の言う世界の崩壊の要因となることもわかりそうだ。ただ、どのような文字で文書は書かれているのかな。もし俺の知る文字でなければ、まず文字から学習しないといけないからね」


「そのことに関しては問題ない」


 ラズヴァンが横やりを入れてきた。


「アイマが視認した文字は、頭脳が意味を解釈して理解できるような機構になっている。知りたきゃ設計書も見せてやれるが、それよりも世界救済を優先してくれると助かる」


「わかった。最善を尽くそう。ただ、その設計書もおそらく作業を円滑に進めるためには重要だ。この頭脳のスペックを知っておく必要があるからな」


「なるほどな。少し整えてから渡すから待っててくれ。その間に基礎的なことを学習しておくんだな」


 「整える」という言葉が引っ掛かった。その設計書はすでにブロックが読んで、製造できる形式だったはずだ。それを俺のために整える、ということだろうか? あるいは俺に学習されると都合の悪いことがあるのだろうか?


 まあ、どちらでもいい。俺は推論を最適化できるはずだで、設計書を読めば、設計書を改ざんしたところで何かわかるはずだ。


 俺が世界崩壊の要因を判明させて、回避方法を推論して、フィオナが一回だけの追記をする。


 目的は明確だ。


 あとは俺のやる気の問題だな。

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