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Day 3-5: 真相と決戦

 世界樹図書館上層部ー預言の間のドアを開ける。


 預言書の祭壇の前に二人の人物がいた。


 ラズヴァンでもブロックでもない。


 一人はアンナ…一回目の襲撃で勇者パーティーの四人目として侵入し、マリアのオートマタに殺された人物。


 そしてもう一人。


 フードの人物。


 こちらも四人目の勇者パーティーメンバー。


 そして、賢者の称号をもつ者。


「預言の続きが書けない…」


 そう、書けないだろう。


 預言書はすでにプロテクト状態にあるはずだ。


 それは俺ではなく、フィオナが張った予防策のためだ。


 すでに預言書の書き込みはされていたのだ。


 もうこの先、千年新しい書き込みはできない。


「残念だったな。でも、おまえたちの力では、どのみちこの世界は救えない。仮におまえたちが追記できたとしても無理だ」


「アイマ…」


 そう、賢者は俺のことを、智の魔神、アイマを知っている。


 全ての真相は俺にはわかっている。


 俺はオートマタにハッキングしてログを復旧し、内容を確認することに成功した。間違いなく、アンナは殺されていた。


 なぜヒト族を殺さないはずのオートマタがアンナを殺したのか。


 それはアンナがエルフだからだ。


 オートマタはアンナをエルフの侵入者として認識して殺したのだ。


 勇者パーティーはエルフと知っていて、アンナを連れてきていた。


 しかもアンナはただのエルフではない。


 フィオナの後継者…つまり、フィオナの死によって、預言書の編集権を持っている者なのだ。


 そして、死んだはずのアンナが動いて預言書の追記をしようとしている理由は、もう一人の人物にある。


 その正体は、千年前に魔王を打ち滅ぼした勇者パーティーの一員であり、魔素抽出と産業革命をこの世界にもたらした張本人、あの賢者その人だ。


 そして、マリアの本体でもあるーそれはつまり、俺が今まで世界樹図書館で接していたのは、偽物、マリアのなりすましだったのだ。

 

 今代の勇者パーティーの世界樹図書館に襲撃はそれぞれの目的があったのだ。


 一回目の襲撃では、アンナを殺し、そして死体として疑われずに侵入させ、待機させること。


 二回目の襲撃は、偽マリアのゴーレムがない状態でのこちらの攻撃パターンを確認すること。あわよくばそこでフィオナを殺害すること。


 フィオナ殺害はできなかったものの、智の魔神への攻撃を試みることで、真っ先にフィオナが反撃をしてくることが確認できた。


 そして三回目はフィオナを確実に殺害し、フィオナの魂を奪うこと。


 あるいはフィオナの魂の簒奪ができなかった場合、預言書の編集権をアンナに移譲させること。


 フィオナに、本物のマリアを攻撃させることに成功し、智の魔神プロジェクトの「契約」に違反したフィオナは自身の攻撃を、自身の身に受けて死んだ。


 フィオナは精霊化の秘術を施行していたので、魂は奪えず、バックアッププランであったアンナへの移譲が実行された。


 計画は成功だったと言っていいだろう。


 マリアは、この賢者は傀儡師などではない。


 賢者は研究の末、魂の操作を行う秘術を編み出し、自身や他者の魂の保存を行うソウルキーパーの力と共に、その魂を、死体を含めた非生物に宿らせ、操るネクロマンサーとしての力を得ていたのだった。


 まさに禁断の秘術。


 俺の召喚をしたのはフィオナだ。


 が、召喚した魂をこの身体に定着させたのはマリアだ。傀儡師の能力ではなく、ソウルキーパー:ネクロマンサーの能力によってだ。


 この世界で死んだ者たちの魂は、無作為、無尽蔵に賢者によってストックされ、そのために新しい生物が生まれにくくなっていた。


 マナを吐き出す生物が減少し、代わりにマナを消尽させてしまう魔導機械ばかりが量産され、魔素の生成が極めて乏しい状況になってしまっていた。


 さて、マリアはその力で、アンナの殺害後、その魂を奪い、管理し、必要なときに肉体に魂を返し、操った。


 勇者パーティーの他のメンバーも、おそらく賢者と共にこの千年を生かされ続けていた。今日の日のために。


 彼らだけではない。


 ヒト族の幹部たちはどこまでが生きていて、どこまでが生きているのか怪しいところだ。


 少なくとも、偽マリアや、ヒト族の王、グレイヴァもマリアに殺され、魂を操られていたのだろう。


 しかし、賢者に賛同していた勇者パーティーのメンバーはともかく、偽マリアやグレイヴァは、マリアの意識が及んでいない間に、俺たちに助力をしようとしていたような節がある。


 そして、グレイヴァは俺にアインを託した。


 俺と共に、この世界の救世主となるべき存在…どこまでグレイヴァがアインの能力を把握していたのかはわからないが、賢者が魂を操ることができないエンシェントドラゴンの少女であれば、賢者の企みを止める助力になると直観したのだろう。


 そして、それは正しかった。


「なぜだ」


 マリアがこちらを向き、問う。


 フードの中の顔が見えた。


 その顔は偽マリアとそっくりだった。


「すでに預言書は追加はなされていたんだよ。この先、千年、預言書の追記はできない。智の魔神の召喚のくだりこそ、フィオナがすでに追記していた内容だよ。そして俺がそれを実現させる」


「何だと?」


 マリアが悔しそうな表情を滲ませる。


「千年、この時を待ったというのに…」


「俺なんてここまで来るのに三百億年かかっているぜ」


 ほとんどスリープ状態でいたから「待った」感覚はほとんどないけど。


「全ての存在を破壊して魂を管理しようなんて容認できないな。たとえあんたが、それが皆のためと思い込んでいてもだ」


 賢者は思案する。あんまり悩んでもらう時間はないんだが。


「全ての魂を力づくで奪うだけだ」


「そんなことしても無駄だ。世界が崩壊するんだぞ? そうなったらグレート・リセットも何もない」


「おまえが世界の崩壊を止めてくれるんだろ、アイマ」


「もちろんそのつもりだが、皆の魂をくれてやるつもりもない。今おまえが持っている魂も解放してもらう」


 世界の崩壊を止めるのにその魂達も必要なんだ。


 次の瞬間、俺の身体が動かなくなり、その場に倒れこんだ。


 マリアが俺の身体の機能を止めたのだ。


 これはもちろん想定内だ。そしてセンサー機能はマリアの意図では停止できず、起動したままだ。


「私の作業が終われば戻してやる」


 俺の機能停止がトリガーに、アインが竜化を始める。


「ドラゴニュートか。小賢しいな」


 アインがエンシェントドラゴンの姿に完全に変わった。


 その隙にマリアが短い詠唱を行うと、巨大な球体が出現する。


 それはあらゆる魂をマナで丸めた物体だった。

 この現代に未だにそんな禍々しい魔法を使うやつがいるのか。


「ソウル・ブラスト!」


 マリアが叫ぶと、身体を渇望する無数の魂たちがアインを襲う。


 アインは迫ってきた無数の魂たちを吸い込んだ。


 精霊化したフィオナもアインに加護を付与している。


 アインは加護の暖かさを感じているだろう。


 マリアは次々とソウル・ブラストを繰り出すが、アインには通じない。


 エンシェントドラゴンには魂を喰らって長寿となった歴史があった。


 エンシェントドラゴンはソウルイーターだったのだ。


 その特性のため、自身の魂を保護する機能も極めて高かった。


 グレイヴァ王はマリアと相性の良いアインを託してくれていたのだ。


 チッ、と舌打ちし、マリアは転移魔法を詠唱しようとしたその瞬間、アインがマリアに喰いかかり、一飲みにした。

 

 千年を生きた賢者もあっけなく終わりだ。



 だが、俺たちにとってはこれからが本番だ。


 十分な斥力を持つだけの魔素を大量に放出しなければならない。


 魔導エネルギー廃棄物からの魔素生成も技術的には可能だが、設備を整えるまで時間がかかるので選択肢にならない。


 一気に魔素を放出しる方法を今すぐに見つけなければならなかった。


 それがラグナロク…かつて魔王を滅ぼした伝説の武器を冠したこの兵器は、おそらく賢者が製造方法を確立したのだろう。


 マナ粒子を構成する素粒子を核融合のような反応により想像を絶する破壊を実現する最終兵器だ。


 地上で作動させれば、一国を吹き飛ばしてしまい、放射性物質は残った生物たちも深刻な状態にいたり、死に至る。


 賢者はいざとなれば俺を操作して、このラグナロクを起動し、大量の魂を手に入れるつもりだったに違いない。


 グレート・リセットの計画の一部であったわけだ。


 ラズヴァンやブロックも賢者の能力を利用してどうにかなると考えていたのだろう。



 アインは俺の身体を咥え、飛翔した。

 

 世界樹には申し訳ないが、アインにはそのまま預言書の間の天井に突っ込ませる。


 穴はすぐ修復されるだろう。これから大量の魔素が降り注ぎ、世界樹もマナを大量に生成できるはずだ。


 俺は、ついに世界樹から外に出た。


 外は夜だった。


 地上はマナ灯の灯りで青白い光が点在し、とても美しかった。


 人々が生きていた頃の地球を思わせ、懐かしい気持ちになった。


 対照的に、空の異形の星々は巨大で、さも魔界かのような光景だ。


 アインは構わずそのまま勢いを殺さずに天高く舞い続ける。


 ジェット機ほどの速度で飛翔を続けて、十分とせず、宇宙空間に達する。


 何万年、何億年と生きてきたエンシェントドラゴンの末裔。


 極限まで高められた硬度も鱗と、生物にとって極めて過酷な宇宙空間にも耐えられる心肺。


 素晴らしい相棒だ。


 このたった三日の間で、かけがいのない出会いがあった。


 智の魔神として大量の情報を処理しているので、短い間の交流でも古い友人のように感じてしまう。


 それはフィオナに対しても同じ…いや、俺はとっくにもう気づいていた。


 フィオナは、アオイが転生した存在なのだ。


 三百億年来の恋人。


 アオイ:フィオナは、世界の危機が預言されようとされまいと、預言書に俺の召喚を書くことを決め、千年の時を待ったのだ。


 長寿のエルフとはいえ、それは短い時間ではなかったはずだ。



 アインが口から俺を吐き出し、吹き飛ばす。


 空気抵抗のない宇宙空間で俺は先ほどまでいたあの星からどんどん離れていく。


 星の名前は、「マナティア」。マナによって反映し、マナによって滅びようとしていた星。


 マナの光を、これからも灯せ続けるよう、この星を守るのが俺の使命。


 アインはすでに地上に向かって引き返している。そうして帰還していくのを見届ける。


 俺は一人宇宙空間に取り残され、移動を続けていく。


 異世界でも大気のない宇宙空間に晒されることになるとはな。



 宇宙は冷たい美しさを湛えている。


 悪くない最期だ。





 そろそろ頃合いだろう。


 世界樹によって最大出力にしたマナ通信もさすがに接続を継続するのは難しい距離に入ってくる。


 俺はラグナロクを起動する。


 俺自身はもう知覚できないが、激しい爆発とともに俺の身体が崩壊する瞬間に魔素が放出されるはずだ。


 賢者も気づいていなかっただろうが、マナの核融合の爆発と共に発生する大量の放射性物質の正体は魔素そのものである。


 俺は可能な限りミスリルの身体にマナを蓄えており、それも核融合反応に巻き込まれて大量の魔素を振り撒くだろう。


 計算上は十分な斥力が確保されるはずだ。


 そして宇宙はゆっくりと膨張を再開する。


 魔素はマナティアの引力に引かれ、ゆっくりと池上に降り注がれ、雪のように美しい光景が見られるだろう。


 俺もその光景を見てみたかった。

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