Day 3-4: 推論の完成
「あきらめないで」
何だ、この声は…フィオナ?
「そう、フィオナよ」
俺はフィオナの死体を見る。が、やはり生命反応はない。
「もうその体はダメね…」
どういうことだ…確かに、フィオナの声も聴覚センサーではなく、直接通信によって脳部で処理されている…
「どういうことだ?」
「あら、精霊についての学習はまだちゃんとしていないのね」
「精霊? 精霊化したのか?」
「そうよ、私がすごい精霊使いなのは知っていたでしょう?」
「いや、それは知っていたが、精霊使いが精霊そのものになれるとは知らなかった」
「これも精霊術の一つよ。まさか本当に殺されるとは思わなかったけれど、保険として、あなたを召喚する前に、一応精霊化の秘術を起動しておいたのよね。あなたの学習の邪魔にならないように黙っておいたんだけど、様子は見させてもらっていたわ」
精霊だろうと何だろうと、フィオナとコミュニケーションが取れることがどうしようもなく嬉しく、心強かった。
「好きだ、フィオナ」
「ふふ、ありがとう。でも今はそれどころじゃないでしょう?」
「そうなんだ、フィオナ預言書の追記は精霊の状態でもできるのか?」
「いえ、もうできないわ」
「えっ?」
またも希望は消されるのか…
「でも大丈夫よ、あなたを召喚した時点でもう大丈夫なのよ」
「いや、でも俺にはどうしたらいいかわからない…」
いや、まさか…そうか。
「フィオナは俺にかかっている制限を解除できるのか?」
「ふふ…できるわよ」
やはり!
「ちょっと待ってね」
そう言ってから、一分程度で、効果が現れる。今までできなかった新しい推論ができる!
「解除したわ。『召喚に携わった私たち四人に対して、決して敵対的な行動をせず、必ず協力的であること』っていう指示をメタレベルで設定していたのよ。その設定を書き換える権限があるのも私たち四人だけ。それが四種族共同で智の魔神召喚を行うための絶対条件だったのよ」
システムプロンプトのようなものだな。
まあ、そういった制限をしておかなければ、安全の保証がないから理解はできる。
俺が万が一、かつての魔王のような邪悪な存在だったことからの反省もあるのだろう。
「フィオナ少しだけ時間をくれ。そんなに時間はいらないと思う」
「もちろんよ。あなたならすぐに解答を見つけられるはずよ」
あらゆることが推論できる。
一部アクセスできなかったデータにもアクセスができる。
全てのできごとの整合性がとれる経緯を導き出し、これから取るべき行動のサジェスチョン…
「よし、完了だ」
俺の導き出した結論に、俺の感情はかき乱されかけたが、今はやるべきことをやるだけだ。
やつらの次の行動は推測がつく。預言書だ。
「まずは急いで預言書の間に行くぞ」
もう一つ。
アインを連れて行く。
預言の間に入る前に、いくつかの指示を簡単な言葉でアインに伝える。