Day 3-2: 歴史に隠された秘密2
ヒュブリス王の後を継いだエリオル暫定王が、魔族召喚より難易度が高いと言われていた勇者召喚の技術を急ピッチで確立し、ついに異世界から、勇者召喚に成功したのだった。
勇者に続けて、剣聖、聖女、賢者の徴を持つ異世界人の召喚もなされ、勇者パーティーが結成された。
勇者パーティーは強かった。
技術レベルが高い異世界からやってきたのか、賢者を中心に、強力な武具の開発を始められた。
特に、魔族が世界にもたらした魔素をマナに変換し、武器や防具を強化したり、強力な魔法を開発することに成功し、魔族の領地に深く攻め入るごとに彼らは強化されていった。
また、王政府と共同で冒険者ギルドを開設、また冒険者ファンドを設立し、魔族と互角以上に戦える冒険者達の育成と報酬を受け取れるミッションの設定を行うことで、魔族とのゲリラ戦、防衛戦を効率的に行える体制を敷いた。
魔族にとってはあらゆるところでテロリズムに晒されるような状況であっただろう。
次第にヒト族が優勢となり、五年に及ぶ長い戦いーエリオル聖魔戦と呼ばれるーはついに終結することになる。
勇者パーティーが人智を超えた強さを誇った魔王の討伐に成功したのだった。
魔王討伐で勇者が扱った武器はラグナロクと呼ばれていた。
急激に力を弱めていく魔族に対し、ヒト族は容赦が無かった。
家族や恋人や友人を蹂躙され、殺戮された恨みは想像を絶するほど深く、冒険者を中心にあらゆる残虐な手段で魔族や魔獣が狩られていった。
勇者たちはこの状況を良いものとは考えなかった。
憎しみ憎しみを呼んでしまう。
魔族にもヒト族への憎しみが募り、抗争が再び激化して、種族間の殺し合いが終わることがないだろうことを憂慮したのだった。
そこで、勇者パーティーのメンバーであった賢者がある提案を行った。
魔族の持つ魔素を活用することで、ヒト族の生活を豊かにしようと。
そのために魔素を持つ魔族を生かすべきだと。その方がより魔族を苦しめることになり、ヒト族の繁栄にもなるのだと。
正式に王となったエリオル含め、ヒト族はこの考えには合意した。
賢者にとっても苦肉に策には違いなかった。
次々と捕えられた魔族たちは、生命を維持するための最低限の魔素だけになるまで魔素を抽出されていった。魔素を奪われ、力を失った者たちは、当初は解放されていた。だが、魔力に依存して生活を成り立たせていた魔族たちは、獣を狩ることもできなくなり、生活そのものが立ち行かなくなってしまっていた。
魔族達は次第に不満を募らせ、魔素は魔族が管理すべきだと主張を始めるようになった。
ヒト族はその訴えに耳を貸すことは無かった。それどころか、反抗的な魔族を次々と処刑していった。
そんな折、エルフが預言書の預言実現のため、ヒト族を利用して魔族を召喚させたことが明るみに出てしまう。
ヒト族はエルフ族を糾弾し、魔族によって多くの犠牲が出たことを追及した。
エルフ族も魔素によって強大な力を得ていたヒト族に対し、強く反発することはできなかった。
何よりも、ヒト族を利用して、自分たちに危険が及ばないように預言を実行したことは事実だったため、後ろめたさがあったことも確かだろう。
そして、エルフ王は、ヒト族に、次の千年の預言書の追記内容の決定権を与えた。
ヒト族は、自らに魔素の管理権が与えられるという内容を預言書に記載することを決めた。
この記載により、魔素の管理をヒト族が一手に行うこととなり、さらには、かつての迫害者の地位を逆転させ、自らを魔族、残ったもともとの魔族をヒト族と呼ぶようになったのだった。
魔素を奪われた魔族達は、魔族に特徴的だった角なども失い、外見もほとんどヒト族と見分けがつかないものになっていた。
(一方、魔族の間では角形状のブレインマシーンインタフェースが流行し、より魔族らしい外見になっていくことになる)
この結末について、特に賢者は大きな悔いを残したという。
その後、ひっそりと一人、自身の研究に勤しんだという。
ヒト族は、この救国の英雄達の活躍を後世に積極的に語り継ぐこともなく、勇者パーティーは歴史から姿を消すことになる。
そのヒト族が勇者パーティーの真似事をして今の魔族に復讐を試みるとは皮肉なものだ。
もはや実力差が開きすぎて相手にもならないのだが…
その後、魔素は科学技術に不可欠となり、大量に消費されるようになった。
魔素が不足するとたびたび、魔界から魔族が召喚され、魔素が補充されるようになった。
しかし近年の乱獲により、魔界の魔族自体が急速に減少し、魔族召喚に成功することはほとんどなくなっていたのだった。
現在のヒト族=旧魔族は、未だに生命維持に魔素を必要としていた。
が、魔族=旧ヒト族はそれでも出稼ぎに雇ったヒト族から魔素を絞ることを行い始め、ヒト族の人口自体が減ることにつながっていた。
もともと弱者であったヒト族はさらに弱まっていったのだった。