Day 1-12: 三度目…
書物庫の端で、アインは腹いっぱいになったのか、本を枕に眠ってしまった。勇者パーティー襲撃には立ち合わせたくなかったから好都合だ。
では学習を再開するとするか。
と、早くもプラグが抜かれる。
「来たわ」
だろうな。そこにはいつも通り、フィオナがいた。だが、今回で最後だ。今回は勇者たちを逃すつもりはない。
「マリアが目を覚まして、侵入を教えてくれたんだけど…」
「何かあったのか?」
「…マリアは戦ってはいけないって言うのよ」
「なぜだ? 理由は言っていたか?」
「いえ、『グレート・リセット』の時と同じ。話そうとしたらまた気絶してしまったわ」
気になるな。マリアが直接的にグレート・リセットに関わっていないとしても、ヒト族である限り、何かを知っている可能性は高いだろう。
そのマリアが戦うなと言うからには何か根拠があるはずだ。
だが、これ以上勇者たちの狼藉を許容する時間的な余裕もない。
俺はまだ世界の危機に関する何の手掛かりも得ていない。もし対処に時間を要するようであれば、すでに負けている可能性すらあるのだ。
「俺たちに他の選択肢はない」
フィオナも頷く。
大ホールには、ラズヴァンとブロックがすでにおり、臨戦体制だ。
と、すさまじいスピードで一つの影が躍り出て、俺に突進してきた。
反応しきれない。
「フィオナ!」
咄嗟にに叫んだ。
フィオナは即座にウィンド・アローを詠唱する。
単独の敵にターゲットする強力な魔法だ。不意打ちで手加減に余裕ができていない。
フィオナの魔法には風の精霊の加護によるマナ強化が無条件で発動するため、最悪、殺してしまうかもしれない。
そこで襲撃者は踵を返して去っていく。深いフードのあるローブを纏った、おそらくヒト族の女性だ。
襲撃者が向かう先には勇者パーティの三人がいた。
「ネメシス・ショット!」
俺は準備していたネメシスを単ターゲットモードで人差し指から放出した。
ネメシスは聖女の杖に命中し、消失させた。これで転移魔法は使えないはずだ。
「ブロック、突っ込め。ラズヴァンも魔導砲準備だ。一気に終わらせるぞ」
ブロックが勇者パーティーに突進する。ラズヴァンが魔導砲を構える。
俺も距離を縮めながら、次のネメシスの準備をする。
ブロックが後5メートルほどの距離でウォーハンマーを振りかざす。
フードの女性はすでに勇者パーティーの背後に周り、そのまま逃げようとする。
勇者パーティーは咎めもせず、その場に止まり、フードの女性を逃すために守ろうとでもしているようだ。
何か違和感がある…
「ギガ・インパクト!」
ブロックのウォー・ハンマーが地面を叩くと、地面に激しい振動が起こる。
勇者パーティーは三人とも転倒した。
「ネメシス・マルチホーミング!」
続けて俺のネメシス・追尾モードで勇者パーティーのそれぞれをターゲットにし、避ける体勢の取れない三人に確実にヒットさせる。
「ラズヴァン、念のため構えておいてくれ。おそらく気絶しているはずだけど」
勇者パーティーに近づく。
ピクリとも動かない。
大丈夫だ。致命傷ではないはずだが、瀕死の状態になる程度のダメージにはなっているはず。
逃げた四人目のメンバーはすでに完全に姿を消していた。
あれは何だったのだろうか。
「あっ!」
ラズヴァンが叫ぶ声がした。
「どうした?」
ラズヴァンは答えない。勇者パーティーから少し距離を置き、振り返る。
ラズヴァンが何かを見ている。
その視線の先には…
フィオナだ。フィオナが倒れている。
俺はフィオナに駆け寄った。
首の辺りを触ると極めて低温だった。血流も感じられなかった。
疑いようがない。死んでいる。
どういうことだ?
俺は何か重要な間違いをしているのではないか。
推論を繰り返すが、蓋然性の低い回答が出るだけだ。データが足りていない。
その上、フィオナを失ったショックと悲嘆の感情が推論のパフォーマンスを極端に落とす。
感情の感度を低く設定できないのか…
長かった、智の魔神召喚一日目が終わった。