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Day 1-11: 竜人種の少女

 ドラゴニュートの歴史は過酷だった。


 ドラゴンは、魔界由来で地上に定着したものと、もともと地上で発生したものとで大きく起源の異なる二種が存在し、前者は古代種、後者は一般種と呼ばれている。


 古代の魔王は古代種のドラゴンを屈服させ、その後魔族との交配により、ドラゴニュートとして生存を続けた者たちがこの少女の先祖のようだ。


 ドラゴンは魔族の家畜のように扱われ、主に戦争や、魔王や幹部たちの移動手段として扱われ、食糧難となれば食肉とされ、武器の素材とされることもあった。

 まもなくドラゴンは絶滅危惧種となり、国際的に保護されるようになった。


 ドラゴニュートも歴史的に奴隷として扱われ、人型に変身もできる便利さから、あらゆる作業に使役されてきた。見せ物にされることも多かったようだ。


 魔族の産業が盛んになってきた頃から、ドラゴニュートはヒト族に使役されるようになったのだが、そのヒト族自体が貧困に喘いでいるのだから、その奴隷の待遇は想像に余りある。


 おそらく栄養状態もひどく、近年の魔素減少もあり、もともと少なかった人口がさらに減少している超少数種族と言えるだろう。


 まずはコミュケーションを試みるか。


「話はできるか?」


 少女は相変わらず怯えた表情を見せ、何も答えない。


 困ったな。


「何か食べ物はないか?」


 フィオナに聞く。


「おい、待てよ、アイマ。飯を食わせるつもりか?」


 ラズヴァンが遮ってくる。


「何か問題があるのか?」


「こいつはスパイの可能性が高いだろうが。飯なんか食わせてる時間もないぜ」


「食べ物を食べさせるくらい問題ないだろう。かなり栄養状態も悪そうだ」


 フィオナが頷いて会議室を出ていく。


「俺はアイマだ。君の名前は?」


「…アイン」


 か細い声で答える。話は通じるようだな。


「アインか。俺の名前に似て良い名前だね」


 俺は微笑んだ…つもりだが、そういえば俺の笑顔はちゃんとできているだろうか。余計怯えさせることになるとまずいが、ラズヴァンやブロックに比べればきっとマシだろう。


 フィオナが銀のプレートにのった食事を持ってきた。何切れかの干し肉に、キノコや山菜が添えられている。


 そういえば俺も久しく物を食べるという行為をしていないな。少し有機生命体が羨ましい。


「はい、どうぞ。食べて」


 フィオナが言うと、アインは真っ先に肉をつかんで貪った。


 胃に負担がかかってしまうので、よく噛んでほしいが、よほど腹が減っているのだろう。あっという間に肉を飲み込んでしまっている。ドラゴニュートの胃は強靭であるなら良いのだが。


「大した食い物でもないのにうまそうに食うな」


 とラズヴァン。


 キノコも山菜もあっという間に平らげ、まだ足りなそうな顔をしているが、少し落ち着いただろうか。


「何でここに置いていかれたかわかるか? 何か言われていることはないか?」


 そう聞くと、アインは首を横に振る。


「そうか」


 まあ、そうだろうな。何かミッションを与えられているタイプのスパイには見えない。


 そうなると何か仕込まれているものがないかというところだが…


「ブロック、この首輪が何かわかるか?」


「それは隷属の首輪じゃよ」


「主人に逆らうと締まったりするやつか?


「そうじゃ。ヒト族の呪術がかけられているじゃろうな」


 ヒト族は呪いが好きだな。勇者パーティーといい、暴力と呪いを好むとは…


「念のため、何か仕掛けられているか調べられるか?」


「ああ、そうじゃな」


 ブロックがアインに近づく。


 アインは怯え、後ずさる。


「何もせんよ。ちょっとその首輪を見せておくれ」

 

 ブロックは笑顔を見せたつもりだろうが、その顔がまた怖いな。


「これは…」


 手を伸ばしかけて、ブロックが驚いた顔をする。


「どうした? 何か仕掛けられているのか?」


「いや、隷属契約が失効しておるんじゃよ」


 どういうことだ? グレイヴァ王が隷属の契約をしているんじゃないのか?


「こいつは危ないぞ。古代種のドラゴニュートを自由にしてしまっておる」


 怯える少女と怯えるヒゲモジャのドワーフじじい。何かのコントに見えるな。


「マジかよ。早く拘束しろよ」


 ラズヴァンも狼狽える。


 いや、こんな可哀想な少女を拘束とか可哀想でしょうよ。


「俺が預かるよ」


「おい、ふざけるな、何を考えているんだ。そいつは古代種のエンシェントドラゴンに変身するんだぞ? どれだけヤバいやつかわかってねぇだろう?」


 それくらいはさっき学習したよ。


 アインに敵意はない。その上、操られてもいないなら拘束など必要ない。


「グレイヴァ王は、預言書の編集者と智の魔神を要求しただろう。つまり、狙いはフィオナと俺だ。俺たちが責任を持って保護する」


 そう、あの要求は何らかのメッセージだったはずだ。それを解明することがとても重要なことだと推論できる。


「アイン、行こう。フィオナ、悪いがもう少し食べ物を分けてもらえるか? 食べさせたら学習を再開する。勇者パーティーの襲撃に備えよう」


 アインは大人しく俺についてくる。少し警戒を緩めてくれているようだ。

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