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セトリエ③

息子の厨ニ病を叩き潰すために書いた

夜明け前にガランガランと鐘が鳴って目が覚めた。

沢山の人達が食堂に集まっている。こんなに居たんだ。みんな既に食べたり喋ったりしている。

アルズゴックさんがやって来ると、みんな一斉に食事を止めて敬礼。朝礼みたいなのが始まった。

「先発別動隊は昼に裾元に集合。本隊は二日後、それまでに新就任者への業務伝達を。十日前後を目安に戻るぞ」

後ろでみんなの後頭部を仰ぎ見る。

こうやって見ると、みんな色々な色の髪だ。

明るい茶色、暗い茶色、薄い茶色ーー。

茶色にも色々あるのだなぁ、やっぱりストロベリーピンクはいないんだなぁ~。

……ラノベの世界ではないのかな、ヒロインはドコ行ったかな!?

黒髪もいるけど、赤みがかかっていて、日本人の黒髪とは違う。日本人の髪なんて、みんな同じ黒だとしか思ってなかったったけれど、微妙に違かったのかな?もう確認しようがないけれど……。

あ、そうだ。

「スグフさん、」

「うん、何だいセトリエ」

今日のスグフさんは、髭を剃って髪も綺麗に結い上げているので、メッッチャ男前! てか、若くない?

私も、厨房のおねえさんが小さい頃に着ていた服を頂いて、着てみました! やっぱ大っきかった!

「あの、やっぱこの国の王子様って、髪は金色で眼は青だったりするんですか?」

「ん? いいや違うぞ。……んん、何だ? 何でそんなにがっかりしているんだ?」

「えーだって王子様といえばそうじゃないですか、イケメンでカッコよくって金髪碧眼で! 定番!キラキラ〜」

「……イケメンデカッコ?」

変換しないかー!

「あ、お嬢ちゃん居た居た」

と、昨日のおじさんが作業場で作ってもらったブーツが届いた! 可愛い黄緑色に染めた革に、ポイントでお花模様が付いている。

「おおお〜〜!」

テーブルに並べてある食器を雑に掻き寄せ空けた隙間に立たされて、ブーツのお披露目! ファッションショーかよ!

「可愛い外履きも履いたことだし、」

私が残した皿の上のものをヒョイヒョイと口に放り込みながらスグフスグフさんが言った。

「厩舎にでも行くか」


「これがウマ!?」

ウマは、馬ではなかった! デカい!

ティラノサウルスみたい! 二本足で歩いてるよ! コッチの大人二人乗せれるほどの巨体に、顔の正面にはギョロギョロした大きい目が一つ。被せた馬具から覗くガチガチの牙! あ、前足(?)に小さい翼がある!

ーーこれに乗るの!?

怪獣とか魔獣とか言っていい位コワイキモイ。マジファンタジーいぃ。

「え、見たことないの? 本当に? 見たことないの?」

「えっと、これじゃない馬は見たことあるけど……」

「これじゃないウマ……?」

そうだよねー。

馬具をガジガジ噛んでいる姿は可愛くない。よく見たら馬具に隠れて蜘蛛の複眼みたいな小さい目も左右三個ずつ付いていた。必ずどれかしらの眼が私を見てるうぅ!

「乗った事ある?」

「無いです」

アッチの世界の馬だって乗った事無い。

てか怖くて乗りたくない。馬車ないのかな。

「馬車!? 人を運搬するのにウマを使うの?」

スグフさんと厩舎にいた人達で、ワイワイが始まる。

「運搬にウマ使うなんてあり得ない、贅沢」

「普通というか荷車はウシだよな、ウシ知ってる?」

「ウシ?」牛車ってこと!?

「そうウシ。ウシも見たことないの?」

「あ~はい」頷く。うん無いと思う、コッチのウシ。

「重運搬屋に行けば一匹二匹居るんじゃないのかな」

「ジューウンパンヤ?」

「粉麦や酒や肉を主に運ぶ人達のことだよ。綿や布織物、細工物などは軽運搬屋。手紙も軽運搬。セトリエの国では無かった?」

「あー、うん、ありました。流通ですよね」

「リュー、?」

笑って手を降って誤魔化す。

「あ、あの、お城まで、ここからどのぐらいで着くんですか?」

「ここから五日程度かな。ウマで急げば、三日で着くよ。 セトリエ居るから、今回俺達は後続隊ね。宿泊のみで行こう」

うーん、ソレって近いのか遠いのかよく分からん。

「あの私、ウマ乗ったこと無いんですけど、どうすればいいですか?」

「あ、そっか、じゃあ」

と、スグフさんは私をひょいと抱きかかえると、そのまま向き合わせで抱え込むようにウマに乗り上がり、「行くよ」と走り出した。

前向きではないの!?、赤ちゃん抱っこでの移動!

視界が高い!

怖い、怖い、高い、怖い、高い!

揺れる、跳ねる、跳ねる、胃も跳ねる!

気持ちワル!

吐く、吐く、吐く、吐く、吐く!


「ちょっと調子に乗った」スグフさんのせいで、あっという間に砦の麓にある池の宿場町に着きました。

大した距離ではなかったけれど、だけどだけど!

ーー変なゲップが止まらない。もうイロイロギリギリ一歩手前。

ウマって思っていたより揺れる。酔う、てか酔った。

もうムリ。

「あらあら、怖かった?」

変なゲップに気付いて速度を緩めてくれたスグフさん。いやいや、君のせい!

ウマから降ろしてもらったら、足元がふらついて、その場でしゃがみ込んでしまった。

「……気持ち悪い……」

「あら~」

最後の力を振り絞って抗議したら、掬うようにスグフさんの膝におすわり抱っこされた。

一緒に砦から出発した騎兵団の方達も寄って来て、心配そうに声を掛けてくれたり、お水や飴をくれた。

「あら~どうしようかな」

またウマに乗って戻れない、歩いて帰るには遠い。

そうだよね、私のせいで行程が色々と延期になっては、足手まといになっちゃう。

でも「私を此処に置いて皆さん帰って」なんて言えない。離れるのは怖い。側に居ないと。独りになるのは怖いんだ。

スグフさんの服を掴む手が滑る。

強く掴み直す。

気持ち悪くて脂汗出てくる。

頭上で何か言っている。

視界が滲む。

気持ち悪い、離れたくない。


「セトリエ、今日はここまで、 ね」

スグフさんは私と目が合うように顔を覗き込んで、そう言った。

「……ごめんなさい、ご、ごめんなさい」

「うんうん、お国言葉で謝ってるんだね。泣かなくていいんだよ」

涙がぼろぼろ出る。ごめんなさい。足手まといでごめんなさい、迷惑かけてごめんなさいーー見捨てないで。

「気にかけないで、俺こそすまなかったね、初めてウマ乗るのに慣らしもしないで相乗りさせて」

さて、と言ってスグフさんは私の頭を肩に乗せるようにして抱っこすると、

「今日は麓の宿で休もうね」と、砦に戻らずに騎士さん達馴染みという宿へ私を連れて行った。

歩く振動さえも煩わしくて、スグフさんの首にガッツリしがみつく。手綱引いてるウマさんの生臭い鼻息が頭に吹き付けるけど、文句を言う気力もない。


宿はやっぱりファンタジー小説のように、一階が居酒屋みたいな食堂で、二階三階が宿屋になっていた。

二名は先発として予定通りお城に出発して、私達残りは一週間以上かけてゆっくり追い掛けることになった。途中野宿もするらしい。大幅な日程変更は仕事の効率に響く。申し訳ない気持ちでいっぱい。新兵は強行訓練で一度は吐くらしいので大丈夫、と言われても何の慰めにもならない。

「セトリエゆっくり寝てね、お水ここにあるからね。あとこれ舐めて、嘔気が治まるから、ね」

どこかの部屋のベッドに横になって休む。口の中には飴。苦いミントの入ったキャラメルみたいな食感。飴は貴重らしい。そうだろうな、中世に甘味は滅多に手に入らなかっただろうから。

なが~いため息がでる。生欠伸半分、気鬱半分。

ポンちゃん吸いたい。犬吸っても癒されるんだから。


気持ち悪いの治まったら、お風呂入ろう、ということになって。

昼間から温泉かな、猫足バスタブかな、なーんて思ってた私がバカでした。

でもさ、また何で!?

「ちっちゃい子が独りで身体洗える訳無いでしょ!」

「独りで洗えまーす!」

コッチの世界の入浴は、厨房の竈の傍に衝立て立てて、大盥に湯釜のお湯張って、その中で石鹸で身体を洗う、というスタイル。

石鹸あるだけ有り難いけれど、お湯を持ち運ぶの大変なのは分かるけれど、こんなガチャガチャ人の出入りが激しい所で入浴なんてマジで!? 衝立てデカいけど、覗けるし!

「ちっちゃくても乙女なんで、見ないで下さーい!」

「子供なのに恥ずかしがって」

「子供じゃないんで!」

すったもんだひと悶着の後に、

「もうセトリエってば、おしゃまさんなんだから」と、おでこ人差し指で押された。

え、ナニそれ!? あと「おしゃまさん」って何? チート変換したよ。

「セトリエ、少し温めにしたからね、コッチが濯ぎの分」

「あ、ありがとうございます、女将さん」

宿場の女将さんが、湯釜からお湯を汲んでくれた。

「盥の中でお小水していいからね、この後洗濯に使うから」

……え!?

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