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セトリエ②

息子の厨ニ病を叩き潰すために書いた

で、翌日。

起きたらスグフさん居なかった。

何時だろう。外は明るい。

あー無断欠勤。主任ゴメンナサイ。皆さんゴメンナサイ。申し送りは済んでいるし資料は共有フォルダ入っているので、今日の業務は大丈夫。後はもう知らん。

スマホを鏡にして顔を覗く。随分爆睡したみたく、目は腫れてなかった。

よし、居ないうちに用を済まそう!


「わーマジか」

背伸びしないとドアひらけませんでした。重いし。

日が出てるのに薄暗いのは、窓が小さいからか。ガラス窓じゃない、ただの壁穴に柵付いたみたいな。雨の時どーすんの?

昨晩お茶飲んだ部屋には誰も居なかった。

部屋の端にのぼりの階段、反対側の端にくだりの階段がある。リアルロープレ。

上ってみよう。うわ、段差キツ。

階段の途中のドアを開けたいんだけど、固くて重くてムリ。

えぇ~、この先外階段で屋上出れるんだよね、どんなトコ来ちゃったのか見たかったのに。

戻って、今度は階段下ってみる。

階段、と言っても板組んだだけのハシゴみたいなので、スカスカなのがコワイコワイ! 段差キツイし!

「あ」

すぐに誰かが私に気付いたらしくて、ドドドッと駆け上がって来た。

階段がめっちゃ揺れる!落ちそ!

「ひいっ!」

ベリっと剥がすように階段から持ち上げられて、

「やあ、セトリエだね。起きたのかい、お腹空いてないかい? 小母さんがウシの乳持って来てくれたよ。火入れしてくれたから、幼い子供もお腹壊さないよ」

ーーお前誰よ!?

日に焼けた肌にくりっとした茶色の目、昨晩会ったかなこんな人?

「……お、おはようございます」

しどろもどろ答えたら、私を抱っこしてる人も周りにいた人も「おお〜〜」とどよめかれた。

ーー珍獣扱い!?

一階は食堂みたい。奥の仕切りの向こうに大きな鍋が見える。

小母おばさーん、この子この子!何か飯頼むよ」

呼ばれた先にいたのは、デカイ男の人達の中で一際小さい中年のおばさん。

コッチの女性は小さい、というか標準身長なのか? と思ったら、後ろに居るおねえさんは普通に大きかった。

「んん、んな事急に言われたって、何食べれるのか聞かないと」

「何処かの良い所のお嬢さんみたいだものな」

「あらそうなの、なら尚更此処で食べれるもん無いんじゃないのかい?」

……何だかお兄さんとおばさんでやいのやいのになっちゃってるけど。

「あ、あの、おはようございます、おばさま」

声掛けたら、みんながしーんとなった。

ヤダ怖い! みんな注目してる!

「あ、あのなんでも食べます、お願いします」

「……あのねお嬢ちゃん、此処には硬いパンしか無いんだよ、食べたことあるのかい?」

腰に手を当てておばさんが言う。

硬いパン。え、どのくらい硬いの?

「えっと、がんばります?」

疑問に疑問で返したら、おばさんはブツブツ文句言いながら、奥からパンとカフェオレボウル持ってきた。カフェオレボウルには温かい牛乳。

「……いただきます」

また周りにいた人「おお〜〜」とどよめかれた。

一体何なんだよ!?

てか、パン硬い! カッタッッ!

割れなくて「はぁ!?」と思わず声が出た。

途端に食堂内に爆笑が響いた。

「ほら、こりゃ齧るのも無理だろう」

「歯が欠けちまうかもな」

「そんなちっちゃな口には入らないだろう」

「どれ、切ってやろう」

「あ、そういう切り方じゃなくて薄く切るんだよ」

「ウシの乳に浸せば柔らかくなるからな」

「これじゃあ、肉食えないな」

「煮豆に刻んで混ぜるか?」

「ちょっと狩ってくるか?」

「お、いいなそれ」

「明日出立だから、狩るなら今のうちか」

「じゃあ小母さーん、今晩はウサギかカモなー!」

「え、えぇ~! 嫌だよ、血抜きしないとじゃない!」

「あ、俺プディング食べたい」

「あれはヤギの血!」

「じゃあ城戻ってからか」

「おーい、鍛冶屋から戻ってきたぞ! 皆取りに来い!」

「お、じゃあお嬢ちゃんまたな」

「セトリエも明日城に出立か?」

「身元まだ不明だから、先ずは裾元で確認だな。スグフが行ってる」

「よく食べるんだよ、セトリエ」

コクコク肯く。

パン飲み込めなくて、口の中、牛乳と唾液でいっぱい! 焦げた匂いが鼻に抜ける。

皆さん、私のこと可愛がって下さってるのはよく分かる。だがしかし、頭ナデナデ、というよりグリグリとか、アゴコチョコチョとか、犬か猫みたいな扱い!

ガタガタと人の出入りが多い、何人くらいいるんだろう?

ようやくやっとパン薄切り1枚食べて、燻製みたいな匂いの牛乳を飲み干す。

「あの、おばさまご馳走さまでした。すみません、パン残しちゃって。お皿どこに置けばいいですか?」

「ゴチ? んん、ん? ああそうか、お前さんのじゃないのかい。そうだねじゃあ此処ら辺に纏めて」

「あ、はい。ーーあの、洗います」

「ん?」

「あの、スポンジと洗剤どこですか?」

「スポンジ?」

え、スポンジ通じない!?

「スポンジってのは知らないけれど、器の汚れは其処の布で拭き取って、其の袋に入れておいて。後で煮沸するから」

「あ、はい」

指差された先には、食器がたっぷり入った布袋がぶら下がってた。後で食洗機に入れるのかな?


てか、どうしよう、私。

お外、行ってみる?

いや〜、独りではちょっと……。

あ~、こういう時にスマホあるとラクなんだけどな〜。

部屋に戻るかな〜。

あ、窓から外見てみよう!…… 届くかな?

届かないかー!

あ~じゃあ、玄関出るだけ、お外見てみるか?

玄関のドア、デカいなー重そうだなー、取っ手が高いなー。

……ムリかなー。

「おや、お嬢ちゃん」

頭の上から声が降ってきた。

見上げたら、アルズゴックさんだった。

「あ、お、おはようございます」

「ん? んん、挨拶か、礼儀正しいね。御機嫌よう」

『御機嫌よう』かー! 使ってんの初めて聞いたわ!

「何処か行くのか?」

「あ、あの、お外見てみたくて……」

「ああ、それでは……うん、室内履きのままでは行けないね。子供用の外履きなんて無いよな」

アルズゴックさん、顎髭弄りながら考えると、ひょいと私を抱っこして、玄関の扉を開けた。

……抱っこもう慣れた。

目の前は広場になっていて、高い石壁が囲ってあった。

建物の左に沿って行くと、キャンプ場の野外炊飯場みたいな屋根とテーブルと竈が見えた。

「よい」

その場で作業している人達が敬礼すると、手を振って返すアルズゴックさん。

偉い人だわ〜! メッチャ偉い人に抱っこされてるわ〜!

厚い革を縫ってる人に、私の外履きを作るように言ってくれた。

「よろしくお願いします」丁寧にお辞儀したら、

「おお〜っ!」ってまた歓声があがった。

これももう慣れた。

「では」

と言ってアルズゴックさん、私をテーブルの上に置いて戻って行っちゃった!

その後は、おじさん達に足測られたり、染色した革の色選びしながら、

「何処から来たの?」とか

「異国の貴族の子かい?」とか

「こんな汚い処、初めてでしょう」とか

「子供がいるのに汚い言葉使うんじゃねえよ!」

とか……大丈夫、変換されなかったから。


今いる場所のお話も聞いた。

アルズゴックさん、領主様でした! マジか!

ここは、アルズゴックさんが領主で治めているドマニ辺境領で、森を挟んで隣の国のノミ自治区と他の国をつなぐ唯一の貿易路のそばに建っている、ドマニの砦。この砦が建ったのは六十年ほど前。砦が建ってる場所から少し下ったところに宿場町が出来てるらしい。

これでも小さな砦だって!

「え!? 戦争とか、あるんですか?」

ドキドキしながら尋ねると、

「あるけど、この地はドマニのものだからね、ここでは起きないよ」

と笑って答えた。

無いわけではないんだー。昔は隣のノミ自治区といざこざしていたらしい。

砦の端にある小川と、その下の宿場町の池が生活用水になっている。

宿場町は立地上小さいけれど賑わっている、娼家もあるって……。

商人を狙って野盗も出るけど、アルズゴックさんが厳しく取り締まっているから、商賈も襲われる頻度は減っている、と。

……ちょっとは襲われるのかー。どの世界も犯罪ゼロにはならないのかー。

「お嬢ちゃんの家族もすぐ見付かるよ」

あぁ、異世界から来ました、なーんて言えないもんね、ホントすみません、ご厚意ありがとうございます。


「よし、じゃあ完成は明日。今履いて硬い所は後で脂塗ると柔らかくなるからな。地面歩いたこと無いようなこんなに柔らかい足の裏じゃあ、敷物沢山積めないとな」

「あ、はい……」

と、言いましても、どうやって戻ればよいのやら。

だってテーブルの上から降りれない。高いよ、飛び降りたら足骨折するよ!?

ーーえ、抱っこお願いするの!?

いやマジめんどくさ、小さいってめんどくさ!

コッチ、デカ過ぎ!

「ああ、汚れちゃうな。じゃあまあ、こう、か」

おじさん達の一人が気付いてくれた。あーよかった、自分から抱っこお願いするなんて恥ずムリと思った瞬間、デカい布が体に巻き付いた!

「きゃあぁぁ!」

そのまま持ち上げられて、背負われた!

アレだな、スリングだな、赤ちゃんの!

あんまり良いポジション取れないまま、玄関の前のポーチで降ろされた。

「あ、ありが、とう、ござい、ます……」

目が回りながらもちゃんとありがと言った私、えらいと思う!

そして!

開けれないんだってば、ドア! ちょっと大きめにノックしたけど開かないし!

仕方ないので、ポーチの端にしゃがんで、誰か来るのを待つ、か。


「………………」

玄関から続く石畳のアプローチは、途中で右に曲がっている。

ーーあそこまで行ってみようか?

靴に泥が付かないようにアプローチを進んでみる。

石畳が終わった先は階段になっていて、木製の門があって、その先は坂道になっていた。

坂道の下から話し声が聞こえる。

う〜ん、ここから先はちょっと怖い。

足元を見ると、影が伸びていて、夕方になっていた。

あ~、一日終わっちゃったかぁ。今日の体験すごかったなー。こんなの毎日続くのかなー。

見上げた空は、アッチの空とあんまり変わらないみたいだ、太陽ひとつだし。ひとつでいいよ。

ファンタジーもういいよ、もう帰りたいよ、設定細かいよ、この後イベントとか起きて欲しくないよ、王様とかに会いたくないよ。

砦のみんな優しくて泣けてくるよ、私も何か恩返ししたいよ、聖女とかよく分からない設定欲しくないよ、普通に瀬戸理絵でお礼がしたいよ。


「わああああ! 泣いてるう! セトリエどうしたの!? リエ? え、泣いてるよ、セトリエリエどこか痛い所あるの!? 」

「ぎゃああああああ!」

突然騒がれ抱き上げられて、悲鳴を上げる。急のタカイタカイ〜は、怖いってスグフさん!

「ああハンカチハンカチ、ああ何どうしたの!?」

片手で私を抱き上げて、もう片方でポッケからハンカチ出そうとして、手袋やら帽子やらボロボロ落としているスグフさん。

ーーあぁ、私、泣いてたのか。

「あはは、大丈夫です、大丈夫ですよ」

涙を手で拭いながら笑って答えると、スグフさんはすごく、すごーく渋い顔をしたので、またちょっと笑ってしまった。

「セトリエ」

すごく言いづらそうにスグフさんが話し出す。

「今日、宿場に行って、君の家族を捜索したんだ」

あああ~ぁうん。異世界なんて、子供の戯言だよね~。

「軍の伝令使って、この辺一帯の役所に確認したんだけど、もしやと思って央都やアベマの各役所まで捜索人申告を確認したんだけどーー」

アベマアベマ……作業場のおじさん達に教えてもらったなー、すっごく遠いんじゃなかったっけ?

「すまない、何処にもセトリエの家族が見付からなかった」

そうだね、私の家族アッチだからね。

てか、今日一日ずっと探してくれてたってこと!?

ヤダ泣けちゃう!

「あああああのね、まだ捜索続けるようにしているからね、アルズゴック様の直印で動いているから!」

またグスグス泣き出した私をあやすように、体を揺らしながら、ポンポンしながら、その場でグルグルし始める。優しい。

「それでね、セトリエ」スグフさんがやっと取り出したハンカチで顔を拭いてくれる。ちょっと痛い。

「俺達、実は明日、ドマニ城に帰還する予定なんだ。よかったら一緒に来ないかい?」

「あ、はい」

あっさり返事した。

「え、いやあの、裾元で家族待つことも出来るんだけど、勿論苦労はさせないし、大事にするし、何かあっても俺が守るし……」

……ん、プロポーズみたいな!?

「行きます、一緒に行きます」

……んん、プロポーズの返事かな、私!?

あははと笑ってギュッとスグフさんに抱きついた。

後ろで「おおおお〜〜!」と野太い歓声があがった。

うん、慣れた。

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