第9話 風呂。
廃屋から引きずり出して干しておいたカーペットを、マルちゃんと二人で叩く。
タオルで口と鼻は覆ったけど、あまりの舞い上がるホコリに吐きそう。
マルちゃんはさほど気にならないようで、黙々と叩いている。
修繕中の家の脇で、小屋を壊した廃材を薪代わりに積んでいたクルトが、涙目である。
「風向き!!!!考えようぜ!!」
3つあった小屋は、二つ分の廃材の使えるところを使って、屋根をかけて、一つだけ生き残った。馬小屋にするらしい。馬もいないのに??残りは薪か、補修用の部材になる。
あとは…お嬢様が、あ、マルちゃんがここに来るまで着てきたドレスを雑貨屋に持ち込んで、カーテン用の生地を買った。売れ残っていた生地らしく、所々日に焼けていたけど、まあ今までのよりはいい。
家具もクルトが丁寧に補修した。ねえねえ?騎士養成学校って、そんなことまで教えてくれるの?
水を流すための樋も作った。ほんと万能だな、騎士養成学校。
「流すよー」
「はーい。いいよー」
まず、流してもらった水でよく風呂を洗って、水をためる。
廃材と一緒に、かつてカーテンだったものも燃やす。いい焚きつけになった。
ここまでやって、ほんと汗だく。
体中、埃っぽいし。
風呂だ!風呂!!
マルちゃんには今日必ず、洗った綺麗な着替えを一式持ってくるように言ってある。
石鹸は屋敷から何個か貰ってきたものを持ってきた。
洗うぞ。
一緒に風呂に入って、マルちゃんを丸洗いした。ああ…すっきりした。
マルちゃんの髪を乾かしている間、残り湯に入ったクルトがぽかぽかになって風呂から出てきた。髪をガシガシ拭いている。
「残り湯な、どうする?足して明日も入る?それとも捨てちゃう?」
椅子に座っておとなしく私に髪を拭かれていたマルちゃんが、
「捨ててしまうのはもったいないですわよね?そういえば騎士さま?排水はどこに流してあるんですの?」
「ああ。あの屋敷周りの木の水分補給になっていたみたいですね。良く考えて作ってあります。ただ、10年近く使っていなくても木が枯れないことを考えると、根が良く張っているんでしょうね。」
「・・・なるほど。」
「残り湯ねえ…屋敷では洗濯に使っていたけど。寒い頃には重宝したな。」
私の独り言に、マルちゃんがふむふむとメモを取る。
さて、薄汚れていた窓ガラスも綺麗になった。
夜なべして作ったカーテンもかかった。
雨漏りも直したし、傷んだ床も直した。
風呂も問題ないことが分かった。
取り込んだ絨毯はダイニング脇の控室に敷いた。どうもここを子供用にするみたいだね。カーテンもここだけ明るい花柄だ。
その奥にあった倉庫も片づけた。泥棒に気付かれなかったのか、そっくりしていた。
黒板とか、事務用の机とか、椅子。木箱に入りっぱなしの替えのシーツや食器。
使えそうなものは引っ張り出して使うことにする。物を出してみると、結構広かった。一部屋分くらい?もちろん、掃除しておく。
今朝、差し入れに貰ったパンに、野菜やハムをはさんで食べる。少し早い夕食。
やかんは無かったから、小さ目の鍋でお湯を沸かしてお茶を出した。
「やっと片付きましたね。あとは…小さい子供用の《《清潔な》》布団。小さい子供用の食器。やたら走り回らないように、部屋の出入り口にゲージもいるかな?あとは何ですかね?アンネ?」
「そうですね。預かった子供をケガさせたりしないようにゲージはあったほうがいいですね。クルトに作ってもらいましょう。それから…ぬいぐるみとかもあったほうが良いかしらね?遊び道具?あとは…台所の鍋は間に合いそうでしょうか?」
「ああ。やかんがいるな。カップや皿は物置から出てきたからいいとして。大きな水瓶もいる。前使ってたらしいのは割れてたから。それくらいかなあ。あ、玄関のカギは直して置いたけど、外からかける南京錠みたいなのが欲しいかな。」
私とクルトの会話を聞きながら、マルちゃんがふむふむ言いながら、メモを取っている。
「・・・それから、マルちゃんさん。ここを宿屋にしませんか?」
クルト?何を言いだすんだ?
「うん。立地条件はいいのよね。」
え?マルちゃん?
「そうなんです。北街道はこの区間、ちょうど宿場がないんです。あと4.5時間馬で進むと領主館のある大きな町です。でも、夜通しは走りたくない。馬も休ませたいんで。で、仕方なくその辺の荒野で野宿するわけなんですけどね。あまり気持ちのいいものではない。水場らしい水場も無いですしね。」
「二階の部屋を客室で使える?でも5部屋じゃ足りないわよね?」
「そうですね。キャンプ地みたいに整備したらいかがでしょう?荷を積んだ商人たちは、荷から離れたがりませんしね。ここが拠点で、管理人を置きます。食堂と風呂。馬用の水。飼葉。あとは衛生面を考えて、トイレですかね?食事はここで食べてもいいし、薪を売って自炊でもいい。」
「・・・いいですね。ここの2階は、女性専用にしてもいいかも?」
「ああ。そうですね。」
え?さくさく進んでるけど?託児所は???ねえ、クルト?