第12話 キャンピング。
「ねえ、クルト?寝た?」
「ん?起きてるよ。」
今日は珍しく宿泊客が少なかったので、マルちゃんはヤン爺さんの孫に帳簿を教えるらしい。2階の部屋が一部屋空いているので、そこに泊まると言っていた。明日は日曜日なので、託児所も休みだし。
私たちも帰るのもなんなので、なにせクルトはお嬢様の護衛騎士だしね…キャンプサイトに泊まってみようと提案したら、クルトがすんなりついてきた。もちろんキャンプ代は私のお給金から払った。
簡易宿泊所と呼ぶのもなんな、向かい合わせのベンチに三角の屋根が付いたようなところ。マルハウスから借りてきた毛布をたたんで敷いて、寝転がる。空いた三角の空間から星空が見える。
なかなか寝付けなくて、隣に寝ているクルトに声をかけてみた。
少し離れた場所ではまだ宴会をやっているようだが、隣同士が結構間が空いているのでさほど気にならない。私たちも風呂に入ってから、村民の出している出店でご飯を食べ、ほんの少しお酒も飲んできた。素朴な料理に地元の酒。
「マルちゃんはすごいよね。この村は過疎化が進んでいてさ、働き先もないし。若い働き手は町に出ているし。いろいろと問題ありの村だったのにさ、見た?みんな楽しそうだったよね。」
「ああ。そうだな。立地条件がドンピシャなんだ。北街道を使う旅人や商人にはちょうどほしかった場所だしね。客も楽しそうだし、やっている村の人たちも楽しそうだ。何よりだな。」
「…マネできないなあ…あの子は本当に家とかのしがらみから離れても生きていけそう。」
「おまえだって、結構たくましいよ?普通のお嬢様だったら、こんなの侍女の仕事じゃない!って怒って帰りそうなもんでしょ?うふふっ。穴掘ったり、木を引っこ抜いたりしないって。」
何を思い出しているのか、クルトが星明りの中で笑っている。
クルトの銀髪がぼんやりと光って見える。
「でも、まあ…お嬢さまとランドルフ様の婚約が正式に解消されたら、俺たちもここにいる必要もなくなるんだけどな。」
「そうか…そうだよね」
来たときはほんの1か月くらいだろうと思っていた。奥様もそう言っていたし。お嬢さまが音を上げるまで付き合って、お屋敷に連れ帰るはずだった。
私だって自分の家の領地に出向くことはあったが、暮らしは王都の屋敷とさほど変わらないものだった。馬に乗ったりはしたけれど…。田舎の生活、っていう感じではなかったな。
…田舎暮らしなど、汚いし、不便だし、虫とかいるし…でも…楽しい。楽しいと思っている自分がいる。
…クルトは早く帰りたいのかなあ…
三角の星空を見上げる。
翌朝、目が覚めると、早い馬車はもう出発するところだった。
クルトと朝市に出かける。
機嫌のいいおばちゃんから冷やかされながら焼き立てのパンを買い、肉屋でベーコン、八百屋で野菜を買ってはさんで食べた。お隣にパンケーキも売っていて、結構評判の様だ。
私はそこにハンナおばさんのスープ、っていうのを買った。クルトはエラおばあちゃんのミネストローネスープを飲んでいた。味見したが、どっちも美味しかった。
紅茶とコーヒーを売っている店もあって、食後のお茶も楽しんだ。




