第11話 森。
「ふええええ、さすがに暑いよ。少し休もう?」
一緒に仕事していたクルトに、思わず声をかける。
森の中はひんやりとはしているが、木を掘り出す仕事はやはり重労働。少し休ませて!
「ああ。水、飲むか?」
その辺に湧いている泉の水を、クルトが持ってきた木のカップで掬ってくれる。ほれ、と言って差し出されたカップをありがたく頂戴する。すごく冷たい。はあああ、生き返るね。
苔むした切り株に座って、小休憩。
このところ肉体労働が続くので、パン売りのおばちゃんの息子のズボンを貰って履いている。断然、動きやすいし。
いやあ、私はほんのちょっと前までお屋敷の侍女とかやっていた気がする。ついこの前のような気もするし、もう何年も前のような気もする。
その前は…窮屈なドレスを着て、婚約者殿の顔色を窺ってお茶も飲めない令嬢だった。もう…何十年も前のことみたいだ。まあ、もちろん、そんなに生きてないけど。
木漏れ日がきらきらしてきれいだ。
静かだ。遠くで鳥のさえずりが聞こえる。
空気が美味い。体中が浄化される気分?
「年取ったらさあ、こんな森の中で暮らすのもありかなあ。最初はどうなるかと思ったけど。うふふっ。意外とあってんのかもなあ。私。」
「・・・そう?退屈じゃない?」
私が独り言のようにそうつぶやくと、隣の切り株に座っていたクルトが不思議そうに聞いてくる。
「やることがいっぱいあって、退屈する暇もないよね。今度は畑もやるんでしょ?」
「畑って言うか、放牧場ね。馬の気晴らしにいいかと思って。」
「そうかあ、馬も大変だもんね。ここで王都までの道のりの半分なんでしょう?ちょっと休ませろや、って思うわね。あははっ。」
「・・・今回、また12本分増やすだろう?トイレも増設するだろう?レンガは間に合うかな?あと、放牧場用の杭に柵用の板。ひと段落したら、冬用の薪を用意しなくちゃな。」
「薪?ああ。木を切るの?」
「切って、積んで、干して…人手が欲しいな。」
「ありゃあ、忙しいなあ!あははっ。」
「・・・お前は、帰りたくないのか?もう日に焼けて田舎の子みたいだぞ?本当はお嬢様なんだろう?」
「うーーーーーん。こんな生活知らなかったから、新鮮?」
「すぐ飽きるさ。」
「そう?」
「・・・・・」
クルトは私が返したカップにもう一度水を掬って、ゆっくり飲んでいる。
シャツの袖をまくって、首にタオル。
あんただって、騎士って言うより、木こりみたいよ?
北部の出だって言ってた。銀色の髪に、綺麗な紫の瞳。
北の人は色素が薄いのかな。
「ところで、そろそろお坊ちゃまが夏休みで帰ってくるよね?お嬢様はどうするのかな?婚約。今のところ、保留、でしょう?あ、でも家賃払ったか。」
「何かあったのか?あの二人、仲良かったんだけど?」
「うーーーーーん。仲良しと結婚は違う、と気が付いた、とか?」
「・・・・・」




