第二章 僕は普通のネズミじゃない!
「初一、初一! 大丈夫か!」と、慌てて孫娘に駆け寄ったお爺さん。
その声に初一は我に返り、ゆっくりと顔を上げた。手のひらの上には、もうあのネズミの姿はなかった。ただ、淡く白く光っている夜露草の種子だけが残っていた。
「……お爺ちゃん、今の、見た?」
「見たとも。これは……これは!異変した夜露草!明らかに霊根純化の効果を持っていて、一千の霊石に値する宝植だ!一体なんだったんだ……?」お爺さんの声は震えていて、
お爺さんの声は震えていて、目は驚きと興奮に大きく見開かれていた。
「千霊石って……そんなにすごいの?」初一はまだ状況が飲み込めず、手のひらの上の種子をぼんやりと見つめた。
「すごいなんてもんじゃない!」お爺さんは声を低くして周囲を見回し、誰にも聞かれていないのを確かめてから、ぐっと初一の肩に手を置いた。「これは、お前の人生を変える宝だ。だけど……下手に持っていると、命を狙われるぞ」
「え……」
初一は種子をぎゅっと握りしめた。それはまだ、ほんのりと温かかった。まるで、あの小さなネズミがまだそこにいるかのように。
「僕は、そこにいないよ。今の僕は、君の丹田の中にいるよ。」
不意に響いた声に、初一はびくりとした。そして次の瞬間、彼女の意識はふっと内に引き込まれ、見たこともない異空間が目の前に広がった。
静かで広大な空間の中央、柔らかな光を放つ蓮のような台座の上に、あの小さなネズミが、まるで天下を手にした王様のように悠々と寝転がっていた。
「えへへ、これなら安全だよね。誰にもいじめられないし、君にしか僕の存在は感じられないんだ」
ネズミは小さな前足を組んで、にやりと笑った。
「まさか、こんなところで“天霊獣体”の子を見つけるなんてね。いやー運がいいな、僕!」
「天霊獣体……?」
初一がぽかんとしていると、ネズミはぴょんと立ち上がって、ふわっと宙に舞った。
「うん、君はね、霊獣と契約すると、お互いに修練のスピードがだいたい五倍くらい速くなる特別な体質なんだよ!しかもね、このスピードは君の成長と共に、もっともっと加速するんだ!」
ネズミは目をキラキラさせながら笑い、くるりと宙を舞った。
「よかったぁ、これで僕も早く仙界に戻れるかもしれない!とにかく、これからよろしくね!一緒に頑張ろう、相棒!」
「五倍のスピード?……じゃあ、私って天才になれる?」
そんな考えがよぎった瞬間、契約によって結ばれた二人の間に、ネズミの情報が初一の脳内に流れ込んできた。
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【生息虚空鼠】
年齢:200歳
種族:霊獣一階・第4層(人間換算:練気4層)
特性:霊植の栽培と異変能力を持つ。全身透明で空間利用の天賦を有し、隠密行動に優れ、霊的感知能力が高く、宝探しにも長ける。
弱点:成長には大量の霊気を要し、成年前の戦闘能力はほぼゼロ。
契約効果:契約者(初一)と修練レベルが連動し、霊気が自動的に共有される。
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「お、お爺さん!後でちゃんと説明するから、今は修練に入らなきゃいけないの!」
そう叫ぶと、初一はくるりと身を翻し、急いで部屋へと駆け戻った。
手のひらから伝わる霊気はどんどん強まり、まるで体の内側から泉が湧いてくるようだった。
彼女は息を整え、すぐに修練の姿勢をとった。練気3層から4層への突破——それは、霊脈のさらなる開放と、霊力の質の変化を意味する大きな壁。
でも今の初一には、生息虚空鼠という強力な“相棒”がいる。
「いける……いけるかも……!」
体の奥底から湧き上がる霊気の流れと共に、彼女の丹田が微かに光を放ち始めた——。