第03話「必要なピース」
屋敷に帰った僕は即座に父上に報告した。
その表情は正直、がっかりが隠し切れないと言ったものであった。
父上は表にこそ出さなかったが、母上との会話の中で「【水魔法】を継いでほしい」と言っていたのを知っていたし、母上は母上で「私のように【剣技】を継ぐか、【火魔法】等で辺境の治安を守って欲しい」と言っていたのを僕は知っていたからだ。
「父上の期待通りではなかったかも知れません、しかしこのスキルは世にも珍しい成長するスキルのようなのです。今後の成長に期待をしていただければと思います」
「・・・分かった。今日は下がってよい」
全然分かってない表情してるなぁ、と思いつつ自室に下がろうとして、一つ思い付いたことをお願いしてみた。
「父上、このスキルの成長に欠かせないスキル持ちを探していただきたいのですが、お願いを聞いてはいただけないでしょうか?」
「どのようなスキルだ?」
「【睡眠】持ちは投獄されたと聞きましたが…」
【睡眠】は対象をしばらくの間眠らせるスキルであり、レアではあるが全くいないわけでもない。
泥棒し放題になるので盗賊に身をやつすものが多くいて、捕まった後奴隷紋を施されて投獄されていたものが僕の記憶では居た筈なのだ。
「・・・まぁ良かろう。彼のものはこちらでも扱いに困っておったところだ。扱いを間違うなよ」
「それともう一つ、このスキルを使って医療院の手伝いに行きたいのです」
「良かろう。活躍に期待する」
期待されてねーなー、と言う声で父は僕を今度こそ下がらせた。
◆◆◆
一週間後、僕は早速牢獄に来ていた。
「これはこれはユアン・モルガン様。お話は御父上から伺っております」
恭しい一礼で迎えてくれた牢獄長はすぐさま、面会させてくれた。
「投獄されて日が浅く、反抗的な態度が収まっておりませんゆえお気を付けくださいませ」
ジャラリ、と牢屋の大きな鍵が開く。
「エフィ、出ろ」
牢獄長の声に、浅黒い肌の長髪の女が胡乱な視線を返す。
しかし、エフィと呼ばれた女は動こうとしなかった。
「”エフィ、出てこい”」
魔力を込めて牢獄長が命じると、首元に見える奴隷紋が光り、苦痛気な顔をしながらこちらに歩いてきた。
奴隷紋は登録された人物への絶対服従が刷り込まれているが、二度命じられなければ動かなかったところを見るとかなりの魔力を持っているようだ。流石にこちらに危害を加えたりは出来ない筈だが、意に反する命令には軽度に抵抗出来るようだ。
(そうでこそ試しがいがある…)
僕の中の被虐心がちろりと燃え、心の中で舌なめずりをした。
薄着をさせられた女は細身ながら肉感的な体型をしていた。
「新しい御主人様だ。挨拶をしなさい」
看守長の声にも無視を決め込んだのか、返事をしない。
「”苦痛を与えられたいか?”」
「・・・エフィだ」
渋々、と言う顔だったが、その中に怯えた表情が混じっていたことを僕は見逃さなかった。
◆◆◆
看守長のスキルで奴隷紋に僕を主人として書き込んでもらった後、僕は牢獄に二人だけにしてもらった。
「僕と仲良くやっていく気はない??」
「・・・。」
無視を決め込むつもりか。
良ィ。
それでこそ望むところだ。
ハンマー、ペンチ、ナイフ。
背嚢から小道具を取り出した。
さぁ、楽しい楽しい拷問の時間の始まりだ。