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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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悪役令嬢が真実の愛を勝ち取るには?

作者: れとると
掲載日:2024/11/26

4000字余りの百合短編です。設定ふわっと目ゆえ、矛盾があったらお許しを。

「お前との婚約は破棄だ、シオン」



 貴族学園卒業の日。そのパーティで。

 アスター公爵令嬢シオン・アニューラは、そう宣告された。



「子どもの勝手で婚約破棄とは。

 帝国のご令嬢方を、侍らせるようになってからというものの。

 ずいぶん幼稚になられましたね? リカルド王太子殿下」



 王子に対するシオンの返答は、辛辣なものであった。


 幼き頃より王太子の婚約者として、未来の王妃として教育されてきたシオン。

 何かに取り憑かれたように、教養も、武芸も何でも身に着けた。

 東に名君あると聞けば、行って誼を結び。

 西に賢者あると聞けば、行って教えを請い。

 各国の令息令嬢が集まるこの学園でも、一・二を争う才気と言われながらも慢心せず。

 そうして若き身でありながら、父・アスター公爵の片腕となって今も東奔西走していた。


 そんな彼女は、王国のことを第一に考えており。

 拡張主義の隣国に傾倒する婚約者とは、意見が合っていなかった。



「なんとでも言うがいい。俺は()()()()を、手に入れる」



 そう言われ、シオンは神童と名高き黒髪の少女を思い浮かべる。

 だが、その姿はこのパーティ会場にはなく。



(あれ? いま私、誰のことを思い浮かべたの?

 黒髪で、黒い目の……知らない子)



 シオンは僅かに混乱し、目を泳がせた。



「父上をかどわかし、アスター公が専横を働いているのは明白。

 お前に選択肢はない、シオン」



 王子が嘲笑うように言葉を続ける。


 リカルドは力をつけているアスター公爵が、独立することを危惧していた。

 もちろん、彼の後ろに居並ぶ、帝国令嬢令息がそう囁いているわけだが。

 婚約破棄を宣言したということはもう、王子自身が望んで彼らの手をとったということである。



「それはこちらの台詞です。

 では持ち帰って検討させていただきますので、リカルド様」


「フン。公爵領がある間に、返事を持ってくるがいい」



 シオンは一礼し、会場を後にする。



(さようなら。お慕いしておりました、リカルド様)



 道分かたれた婚約者を、振り向くこともなく。




 ◆ ◆ ◆




(忙しくなる……領に帰ろうとすれば、暗殺か誘拐の危険もある。

 学園内の方が安全ですらあるけれど。

 確実に、お父さまと連絡を取りつつ進めなくてはならない)



 使用人や令嬢を連れ、シオンは中庭を行く。



(ロウクォーツ大神殿からの呼びかけで、帝国包囲はなりつつある。

 かの国の激発が今少し収まれば、あとは我が王国の国内問題だけ……。

 リカルド殿下はもう帝国の傀儡。第二王子殿下はまだ成人前。

 リカルド様の廃太子が決まれば、状況は振り出しに戻る。

 けどこのまま帝国を引き込み続けるようなら。

 お父さまが立たねば、ならなくなる……。

 そんな状況は、避けたいわ)



 シオンは、前からふらふらとやってくる少女を避けるように端に寄って。



(戦争なんて、したくない。

 今の緊張状態さえ、緩和できれば…………)


「――――まずは帝国内の皇子暗殺を防がないと――――」



 すれ違った黒髪の少女の、物騒な呟きを耳にする。


 シオンは。

 遠く響く、何かの音に耳を澄まして。





「時計が…………動き出した」





 そう呟くと、振り返った。



「カリアナ、オディリア。()()()()()?」


「えっ、3月」「8日ですけど……」



 令嬢たちの答えを聞き、シオンは僅かに思案する。



「そう。学園でのこと、しばらく任せるわ」


「シオン様?」「いったい」


「……………………そうね」



 荒れた黒髪を揺らし、歩み去る少女の背を見て。

 シオンは少し、頬を緩めた。



「疲れたし、バカンスに行ってくるわ」




 ◆ ◆ ◆




 石畳の街道を往く馬車の中で。



「楽にして頂戴。デルタ、だったわね?」



 乱れた黒髪、やせこけた顔を見せる少女を前にし。

 シオンは穏やかにほほ笑んだ。



「あ、あの。この、馬車は、どこへ」



 誘拐同然に連れてこられた少女の名は、デルタ。

 三年ほど前に貴族学園に入った平民出の少女で、神童と名高かった。

 だが震えるその姿は、噂の才媛とは思えぬものであった。



「ロウクォーツ島の、龍神霊峰。

 そこにある保養地へ向かってるわ」


「っ。クリア後ダンジョンがある場所……。

 確かに、安全、だけど」



 妙なことを口走るデルタの言葉を聞き流し。



「そうね。そこまで辿り着ければ安全。

 それまでに何かあったら、終わり」



 シオンは涼やかに述べる。

 ハッとした様子で、デルタが顔を上げた。



「どうする?」



 シオンの問いかけに。



「確かに、このパターンは今までやってない……。

 うまくすれば……でも各地の情勢には手出しができなく……」


「交流のある神殿の賢者様から、お手紙を送ってもらえる。

 神殿で聖別された使者が送るから、返事まで確実にもらえるの」



 シオンが追加の言葉を投げかけると。

 落ちくぼんだ少女の眼窩から、黒い瞳がじっと見てきた。



「どうかした? デルタ」


「いえ、その。シオン、様は。なぜこのような、ことを」


「死ぬほど疲れた子の顔を見たら、嫌になったのよ」


「はぁ!?」



 素っ頓狂な声を上げた神童に、シオンは思わず吹き出して少し笑った。



「だってあなた、すごい顔よ?

 見たら一発で、仕事する気なんて失せて。

 帰ってご飯を食べて、暖かい布団で眠りたくなるわ」


「そんなこと言ってる場合じゃ……!」


「〝果報は寝て待て〟」



 シオンに真剣な顔で告げられ、デルタが押し黙った。



「東国ではそのように言うそうね。

 あなたも何やら忙しそうだし、英気を養いましょう?

 デルタ」



 少女は不審そうに、視線を彷徨わせながらも。



「バカンスに行きましょう。私とあなた、二人で」


「…………はい。シオン様」



 馬車が目的地に着くまで、降りることはなかった。




 ◆ ◆ ◆




 しばし保養地で過ごした二人。

 デルタの顔に、艶と張りが少し戻ってきた頃。



「はぁ、今の状況がゲームの筋書きと同じ、ね。すごい話」



 シオンは「乙女ゲーム」とやらの話を聞かされた。

 この世界は、そのゲームと酷似しており。

 デルタはゲームの主人公(ヒロイン)

 シオンは悪役令嬢(ライバル)だと言う。

 リカルド王子らを巡り、二人相争うのだとか。


 そしてデルタは、さらなる秘密に言及した。



「はい。でも何度、どうやってクリアしても。

 学園入学の日に、時間が巻き戻されるんです」


「時間が巻き戻される……ひょっとして龍神の秘術かしら?」


「っ……そう、です。

 私、転生したとき。龍神様? にこれをもらって」



 デルタが服の中から、首飾りの先端を出す。

 それは時計草(パッションフラワー)に二匹の龍が〝∞〟の形で絡みつくアクセサリー。

 その者が死したとき、時間を巻き戻す選択を提示するという秘宝。


 誰でも持つことはできる。

 しかしその先に待つ受難ゆえ、すぐ手放す者が多いという。

 何度やり直そうとも、強く賢くなるわけでもなく。

 ただ変わらぬ絶望を覚えるだけだ、と言われている。



「最初はこれで、何度もやり直してました。

 でも。これっていうエンディングを迎えた後」



 いくらか人らしい顔になったデルタの瞳が、暗く沈む。



「3月31日を過ぎると、なぜか時が巻き戻るんです。

 私は、何もしてないのですが」


「…………そう」


「それでずっと、戻ってしまう条件を探してて。

 関係者全員、生き残らせれば、もしかしたらって。

 でも……シオン様だけは、どうしても毎回、亡くなって」


「昨今の情勢から行くと、確かに何か起きれば私は死にそうね」


「っ、はい。ただでさえ、悪役令嬢として断罪されやすい。

 だから私が関わらないようにして……。

 でもなぜか、3月31日になったら、亡くなられて。

 あとはもう、徹底的に戦争とかが起こらないようにするしか」


「ふぅん。戦争回避にどうすればいいか、少し意見をくれない?」



 シオンは呼び鈴を鳴らし、使用人に紙とペンを持ってこさせた。

 さらに、多数の手紙や紙が入った箱も持ち込まれる。



「ここのところの情勢をまとめながら、アプローチを考えたい。

 ドルチル共和国の呼応が弱いのよね」


「えっ。シオン様。私の言うことって……その。

 信じてくれてるんですか?」


「信じてないわよ。情報の裏は自分で取る。

 それで?」


「あ、あー……はい。共和国なら、臨時議会の招集は嘘で」


「なるほど、時間稼ぎか。オーツ連邦。

 もう雪解けのはずなのに、道路が通れないって」


「そこは王国……リカルド王子の工作です。

 帝国じゃないので、つつくともめます」


「やはりあの王子が立ちふさがるのか…………でも」



 シオンは素早く書き留めつつ、手紙をしたためていく。

 その最中。



「――――――――こうすればよかったのね」



 そっと呟いて。



「シオン様?」


「何でもないわ。帝国、あなた皇子の暗殺に言及してたわね?」


「それは事情が複雑で――――――――」




 ◆ ◆ ◆




 また幾日か経ち。

 二人は、王国の貴族学園へ戻ってきた。

 情勢が分からず不安だという、デルタたっての願いゆえであった。



「信じ、られません…………」



 シオンに手を引かれ、馬車を降りたデルタが呟く。



「今日、本当に4月3日、なんですか?」


「そうよ。まだ不安なら、どこか話を聞きに行く?

 学園のどこかでも、王城でも」


「ほとんど何もしなかったのに……。

 学園も、王国も無事。

 本当にどこも、開戦してないんですか?」


「してないわね。それで」


「あっ――――」



 二人の前に、やってきたのは。



「シオン……」


「お返事を持ってきました。リカルド()王太子殿下」



 廃太子された王子その人であった。

 監視と思しき騎士が二人、彼に付き従っている。



「婚約の破談、受け入れますので。

 ところでお探しの〝真実の愛〟とやらは」



 シオンは手を離し、デルタの背を少し押した。



「こちらですか?」


「デルタ! 探したぞ。酷い目になど――――」


「いえ」



 言葉数少なに、デルタは下がる。



「デルタ、俺はまた王太子に舞い戻る!

 もう一度、俺と一緒に……!」



 デルタが無言で、シオンの手を握った。

 シオンはしばし、不思議そうな目で隣のデルタを見つめた後。



「わざわざありがとうございました。

 デルタは話もなさそうですし。

 私からもそちらの方とのお話は、以上ですので」



 そう告げた。

 騎士がリカルドを押さえ、引っ立てていく。



「なぜだ!? デルタ! 俺の、俺の――――!」



 強い風に吹かれ、リカルドの声もすぐに遠くなる。



「こんなエンディングでよかったの? デルタ」


「いいんです、これで」


「そう……」



 デルタが、繋いだままの手に。

 ゆっくりと指を絡めていく。

 美しい輝きを取り戻した、その瞳から。

 一滴の涙を、流して。


 シオンは、その涙を。

 陶然と、眺めた。



(この瞬間のために、どれほどやり直しただろう――――――――)



 デルタの手を、シオンは固く握り締める。



(私の巻き戻りは、限定的。この子と巡り合うまで、周回(ループ)を自覚できない。

 でも、限られた時間と機会を何度も繰り返し。

 この子が誰かと結ばれるたびに、やり直し。

 少しずつ仲を、深めて。

 ここまで、これた)



 春の風が強く吹く中、シオンは口を開く。








「「――――――――やっと手に入れた」」








 風に消えた呟きは、()()()

 シオンは目を見開き、隣のデルタを振り返った。

 デルタの腕が、シオンに絡みついていく。



「そりゃ私、ゲームの悪役令嬢シオンが時計草(パッションフラワー)持ってるの、知ってますし。

 だからまずシオン様に好かれるように、何度も繰り返した後。

 あなたが、ループの記憶を取り戻して。

 予想外の動きをしないようにしながら」



 運命の秘術の使い手は、二人。

 2つの時計草が、役目を終えて。

 静かに、崩れ去った。






「あなたが私を選んでくれる、この奇跡のようなエンディングを迎えるために。

 何万回でも、やり直したんです」








一時的と思われた、その地域の平和は。

二人が生涯を終えるまで、ずっと続いたという。

人の世に無関心を決め込んでいた龍神たちが、急に介入を始めたからであった。


彼らが幾万年かぶりに行動を変えた理由は、一説によると。

時計草の試練を乗り越えた乙女たちを、祝福したからだとも言われている。


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