7、文化祭
体育祭が終わってすぐに文化祭の準備が始まった。
うちのクラスは文化祭で舞台発表をすることになっていて何班かに分けてダンス発表をする。
俺の班は男子7人の構成でアイドルのダンスを昼休みや放課後や朝に少し早く来たりして練習している。
そして、文化祭は明日に迫ってきた。
うちのクラスは男子23人、女子22人の35人クラスのため男子は7人グループが1つと8人グループ2つで女子は11人グルーが2つだ。
合計5グループの発表で俺たちのグループはトリを飾る。
服部さんたちは韓国アイドルの曲を踊るらしい。
今日はリハーサルだけでそれが終わるとすぐに帰った。
「そういえばさ、原田くんって、2日目誰かと回る予定ある?」
「ないよ。絢斗も凌我も部活の友達と回るって言ってたし」
「じゃあ、一緒に回らない?私、なっちゃんと回るから3人でだけど」
「いいの?」
「うん」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
そう笑うと服部さんもどうぞと笑った。
文化祭か。
楽しみだな。
翌朝、文化祭1日目が始まった。
今日は主に舞台発表だけだ。
俺たちのクラスは今日の舞台発表のプログラムの一番最後。
大トリを飾るのが俺たちで大丈夫なのかな。
午前は他クラスの演劇や吹奏楽部の発表があって昼休憩を挟んで、うちのクラスの発表がある。
早めに昼食をとって、衣装に着替えた。
俺たちのグループは7人で色違いの繋ぎだ。
俺と絢斗は中に黒のTシャツを着て、袖を脱いで腰より少し上で巻いている。
凌我と同じグループのメンバーのうち1人は半袖の繋ぎで凌我に至ってはタンクトップみたいに袖をまくってる。
他のメンバーも各々好きな着崩し方をしている………わけでは無い。
俺たちが真似ているアイドルのメンバーと同じ着崩し方をしているだけだ。
というか、俺がセンターとか普通におかしいだろ。
ダンスはまあまあ形にはなったとは思うけど、絶対凌我の方が上手い。
運動神経オバケだし。
「どうしたの?颯真、緊張してるの?」
「めちゃくちゃしてる。絢斗は平気そうだね」
「まあ、失敗したらその時はその時って割り切ってるから」
「羨ましい。1番羨ましいのは凌我たちだけど」
普段通り騒いでいるメンバーを見ていると、少し落ち着いてくる。
人前とか、正直苦手だけど、それは俺だけじゃないから。
顔を上げて舞台袖に移動した。
文化委員会が放送をするとトップバッターの服部さんたちのグループが舞台に並んで音楽が流れ始めた。
数年前に流行った曲だ。
生徒のほとんどが聴いたことがあるのだろう、観客側も口ずさんでいる姿が見える。
それにしても、服部さんってダンスも出来るんだな。
運動全般得意なのかな?
俺の目にはキレの良いダンスを踊っている彼女しか入ってこない。
しかも、クールな表情で踊っているのがさらに綺麗。
けど、やっぱり俺は彼女の笑顔が一番好きだ。
最後までクールな表情のまま踊り終わって彼女たちは舞台袖にはけてきて次のグループが舞台に出ていく。
「お疲れ、服部さん。すごく盛り上がってたね」
「緊張した〜。原田くん、ちゃんと見てくれてたんだ」
「うん。カッコよかったよ」
「ありがとう。原田くんたちのダンスも見てるね。頑張って」
「ありがとう」
舞台袖はそんなに広くないため、踊り終わったグループからクラスの席に戻っていく。
服部さんにカッコいいって思ってもらえるように頑張ろう。
気がついたら、俺たちのグループの前のグループがもう踊り始めていた。
すごい歓声だ。
この歓声の中、失敗したら。
いや、余計なことは考えるな。
ゆっくりと深呼吸をして順番が来るのを待った。
「行くぞ、颯真、絢斗」
凌我に背中を軽く叩かれて顔を上げると、もう俺たちの番が来ていた。
走って舞台に出て真ん中に集まった。
まだダンスを始めてもいないのにすごい歓声が響いていた。
音楽が流れ出して、1人ずつ離れていく。
最後に俺が立ち上がって全員でイントロ部分のダンスをする。
それから両端から各一人ずつダンスをしてセンターの俺が舞台の前の方に歩くとサビに入る。
ミスをしないように、ミスをしないように、と丁寧にダンスをしながら顔を上げるとうちのクラス席に座っていた生徒たちが他と比べられないくらいに盛り上がっているのを見て嬉しくてつい笑ってしまった。
笑いながらもそのままダンスは続行して大きなミスもなく最後までやり遂げて決めポーズで締めくくった。
一度幕が下りて、マイクを持って舞台に戻るとアンコールの声が響き渡ったが時間と俺たちの都合上アンコールは出来ずに司会の文化委員さんが頑張ってくれた。
『こんなに盛り上がると思ってなかったので正直驚きました。最後まで見ていただき、ありがとうございました』
「「ありがとうございました」」
絢斗の挨拶に全員が頭を下げると幕が下がっていった。
あ〜、楽しかった。
クラス席に戻ってそれぞれ教室に戻っていった。
着替える前に先生とクラス全員で写真を撮った。
「原田くん」
「ん?」
振り返ると服部さんがニヤッと笑ってスマホを向けていた。
俺もスマホを構えて写真を撮り返した。
「可愛い」
「っ、ありがと、」
服部さんって可愛いって言うだけで照れるんだよな。
それがまた可愛い。
制服に着替え直してショートホームルームが終わると俺たちは各自帰る。
明日模擬店をする他のクラスは放課後に残って明日の準備があるらしい。
「颯真、途中まで一緒に帰ろう」
「うん」
「久しぶりだな〜。3人で帰るのとか」
「そうだね」
昇降口に向かう途中、女子4人のグループが話しかけてきた。
そのうち1人は凌我と同じ陸上部でマネージャーをしているらしい。
「1年C組のダンスめちゃくちゃカッコよかったよ」
「ありがとう」
「原田くんだっけ?体育祭の応援団もカッコよかったよ」
「颯真、体育祭から人気上昇中だよな」
「謎にね」
「いや、普通にカッコいいからでしょ。原田くんってよく見たらイケメンだよねって今噂になってるんだよ」
まさか。
イケメンとか初めて言われた。
まあ、悪い気はしないけど。
「あ、八尾っち!今帰り?」
「八尾さんと同じクラス?」
「そ。1A。原田くんこそ八尾っちと知り合い?」
「あ〜、うん。なんか、成り行きで知り合った」
「そうなんだ」
「じゃあ、俺たちもそろそろ帰るから」
「バイバ〜イ」
女子グループと別れて昇降口に行くと、八尾さんを待っていたらしい服部さんがいた。
「原田、モテ期到来」
「思った!クラスでも原田くんのことカッコいいって言ってる子多いもん」
なにをそんな得意気に言っているのだろうか。
可愛いけど。
「服部さんは?」
「………カッコいいって思うよ」
「良かった」
服部さんは真っ赤になりながら八尾さんと一緒に帰っていった。
俺が服部さんのことを好きだと知っている筈の絢斗と凌我は驚いたように固まっている。
どうしたのか訊くと、2人は顔を見合わせて俺の顔を見た。
「付き合っては、」
「ない」
「なんかそこらのカップルよりも自然にイチャついてたけど」
「は、イチャ、ついてなんかないし」
「………颯真はそのままでいてね」
「そうだな」
何言ってるのか分からないけど、バカにされた気がするのは気のせいだろうか。
翌日、文化祭2日目になった。
今日は模擬店がメインでグラウンドにはテントが立てられている。
模擬店は11時からで、午前は主に中学生に向けた部活見学会がある。
部に寄れば体験もできるらしい。
俺たちのクラスは昨日で大体のことが終わってるし午前に準備は要らないから、登校時間は10時20分だ。
10時前に家を出て歩いていると、坂倉に会った。
「あ、おはよう」
「おはよう」
「原田、頑張ってるみたいだね」
「頑張ってるって、服部さんのこと?」
「そう。茉優に聞いた。私、もう完全に吹っ切れたから応援してるよ」
「ありがとう、」
学校に着いて喋っているうちに放送が流れた。
模擬店が始まるらしい。
服部さんの方に行くと、教室の前に八尾さんがやって来た。
八尾さんと合流して一緒にグラウンドに向かった。
グラウンドに入ってすぐの焼きそばのテントの前にはすでに列ができていた。
早めに並ばないと売り切れそうだ。
「どうする?何か食べたいのある?」
「めっちゃある!けど、ちゃんと絞ったよ。唐揚げとお好み焼きとワッフル」
「じゃあ、俺お好み焼き並んでくるよ。2人は唐揚げ並んで」
「ありがとう。金券渡しておくね」
「私のも買って」
「了解。じゃあ、俺の分も唐揚げ買っといて。200円だよな?」
「うん」
金券を受け取って渡してお好み焼きのテントの前に並んだ。
結構並んでるな。
思っていたよりも列が進むのが早い。
お好み焼きを4人が同時に焼いていて、それを半分に割って売っているため8人分が同時に焼き上がる。
意外に早く順番が来てお好み焼きを3つ頼んだ。
ちょうど焼き上がったばかりのものがあってそれを買えた。
ビニールパックを3つ持って唐揚げの方に行くと、ちょうど順番が来て買ってくれていた。
美味そう。
「どこで食べる?」
「体育館の階段のところは?」
「そうしよっか」
他にまだ人がいなかったため3人並んで座った。
「はい。お好み焼き」
「ありがとう。はい、唐揚げ」
「ありがとう」
服部さんは写真を撮っていただきますと笑顔で唐揚げを頬張った。
やっぱり美味しそうに食べるな。
可愛い。
「美味しい」
「本当だ。美味い」
お好み焼きも美味しく食べ終えた。
「そういえばさ、1年生はクラスTシャツ作れないってルール誰が決めたんだろうね」
「確かに」
「来年は作るのかな?」
「じゃあ、茉優とおそろいのクラスTシャツ着たいな」
「私も。なっちゃんと同じクラスなりたい」
俺も。
心の中で大きく手を挙げた。
ゴミを捨てに行って、他のクラスを回ることにした。
最初に八尾さんのクラスに行った。
運命の人を探せ!という看板が飾ってある。
運命の人、ねえ。
ハートの片割れに書かれた数字が同じであればその人が運命の人らしい。
まあ、やってみるけど、服部さんじゃなかったら嫌だな。
そう思いながら箱の中に手を入れた。
服部さんも同じタイミングで隣の箱に手を入れた。
取り出すと俺の紙には96と書かれていた。
服部さんの紙には
「え、96!?」
「ううん。69」
「………そっか」
やっぱり、そう簡単には揃わないよな。
小さくため息をつきつつ、紐のついたハートの紙を首から下げた。
服部さんの運命の人が先輩の男とかだったらどうしよう。
ものすごく嫌だ。
せめて女子であってほしい。
そんなことを考えていると、隣で八尾さんが歓声を挙げた。
何事かと思っていると69と書かれた紙を持っていた。
「やっぱり茉優と私は親友だよね」
「やった!なっちゃんとおそろい」
いいな。
八尾さんのクラスを出てどこのクラスに行こうかとプログラムを開いた。
「そういえば、2人っていつからの幼馴染なの?」
「いつからって生まれたときからだよ」
「私のお父さんと茉優のお父さんが兄弟だからね」
「………え、待って、従兄弟ってこと?」
「茉優、言ってなかったの?」
「忘れてたかも」
知らなかった。
服部さん家族と仲が良いのも幼馴染ってこんなものなのかなって思ってた。
親族だったからなんだ。
服部さんの知らなかったことを知れて良かった。
けど、運命の人引きたかったな。
八尾さんが羨ましい。
でも、引いてたら引いてたで、服部さんが気まずくなるかもしれないからって少しホッとしたのはもっと嫌だな。