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5、キャンプ


 夏休みが終わるまで、あと1週間を切った。

今日から一泊二日のキャンプに出掛ける。

隣の県にあるキャンプ場で道具などは全て貸し出しがあるため着替えさえ持っていけばキャンプができる。


11時頃、家の前に車が停まっていて運転席の窓が開いた。

服部さんの兄、蓮晴さんが顔を出して後ろのドアも開いた。


「おはよう。伊吹、颯真」

「おはよう。今日は運転ありがとう。疲れたら変わるね」

「じゃあ助手席乗る?」

「そうだね」


伊吹は俺に荷物を預けると助手席のドアを開けて車に乗った。

後部座席に荷物を置いて2列目の窓側に昊さんが座って俺も反対側に座って真ん中に服部さんが座った。

会うのはあの日以来だけど、気まずいって思われてないかな。

俺は会えて嬉しいんだけど。



途中、コンビニで昼ごはんを食べてキャンプ場に着いたのは2時半すぎ頃だった。

早速予約していたテントやキャンプ用品を借りてきて組み立てることにした。

初心者向きの簡単な組み立て方だから、できないことはないけど2つも組み立てるとなると少し時間がかかった。


「お、いいじゃん」

「だろ?俺と颯真で頑張ったからな」

「ありがとう」


テントの設置も終えて、借りてきたバドミントンをすることにした。

5人だから2対2で1人が審判というのをローテーションですることになった。

最初は俺と伊吹対服部さんと昊さんだ。


最初にこっちからサーブを打つと、昊さんがパンッと綺麗にサーブを返した。

伊吹も負けじと返ってきたシャトルを打ち返すと、今度は服部さんがネットインギリギリのところに返した。

え、待って。上手すぎない?


結局10対6で負けた。


「昊も茉優も上手すぎ!」

「小学生のとき習ってたからね」

「え、そうなの?」


服部さん、運動神経いいけどバドミントンやってたんだ。


次はペアを変えて俺と服部さん、伊吹と蓮晴さんで試合をした。

結局俺は2試合連続で負けた。


最後にもう一度ペアを変えて、試合をしてから夜ごはんの準備に取り掛かった。

夜ごはんはもちろんバーベキュー。ではなく、カレーを作る。

予算的にバーベキューのコースはきつかった。


調理器具を借りて、炊事場に行った。

キャンプを何度かしたことのある蓮晴さんと昊さんが火を起こしてくれて俺と服部さんは野菜を切って伊吹は米をとぐことになった。

服部さんは料理をするために長い黒髪をポニーテールに結んだ。

可愛い。

ダメだ。料理に集中しろ!


自分に言い聞かせながら人参の皮を剥いていく。


「原田くんって料理するの?」

「時々はね。俺ん家、母親いなくて父親も仕事ばっかだから大体の家事は伊吹がやってくれてるから。疲れてる日とかは俺が料理しなきゃ無理してやろうとするし。1回倒れたこともあったから」

「伊吹ちゃん、1人で抱え込みそうな性格だもんね」

「本当にね。一応当番制なんだけど、無視されてるから」


毎週、金曜日の夕食は俺が作るということにはなっているけれど伊吹が先に作り始めていたり、作り置きをしていてそれを温めるだけだったり。

結局伊吹の負担は減っていないと思う。

弟だから頼りないのか、姉だからやらなきゃって思うのかは分からないけど。


野菜を切り終わって、それを水を一緒に鍋に入れた。

あとは煮込んでルーを溶かしてまた煮込むだけ。


「颯真くんと茉優は受付から紙皿買ってきて」

「うん」

「分かった」


昊さんから百円玉を渡されて服部さんと一緒に受付に向かった。

なんか、カレー作ってキャンプするとか小学生のときにあった野外活動思い出すな。

受付をした施設で紙皿を買って炊事場に戻る。


「いい匂い」

「カレー、出来たみたいだね」

「うん!お腹空いた〜」


服部さんは笑って紙皿を炊事場のすぐ側のテーブルに置いた。

飯ごうで炊けたご飯を袋から取り出して並べた紙皿によそっていく。

そこにカレーをかけてテーブルに置いていく。

とりあえず全員分よそって鍋と飯ごうはテーブルの真ん中に蓋をして置く。

借りたスプーンをそれぞれ取った。


「いただきます」

「「いただきます」」


昊さんの合図で手を合わせて食べ始めた。

やっぱりこういうところで食べるカレーが1番美味いな。

向かいの席に座っている服部さんは一口一口顔を綻ばせながら食べている。

相変わらず美味しそうに食べるな。

そんな彼女が可愛くて仕方ないのと同時に彼女がもし誰かと付き合ったらこうして友達でもいられなくなるんだという寂しさも浮かんでくる。


「茉優、颯真くん。おかわりいる?」

「いる」

「うん!」


昊さんにおかわりをよそってもらって2杯目も綺麗に平らげた。

食べ終わると、薪を片付けて鍋と飯ごうとスプーンを洗って紙皿を捨てに行ってテントに戻った。

風呂は施設内の温泉に行くため、昊さんと服部さんと伊吹は着替えを持って温泉に行った。

俺と蓮晴さんはその間テントの見張りをする。


「蓮晴さんって料理出来るんですね」

「意外だろ?」

「はい」

「素直だな。てか、敬語やめろよ。さん付けも。2歳しか変わらないんだし」

「じゃあ、遠慮なく。蓮晴って彼女いないってマジ?」

「いきなりその話かよ」


蓮晴は楽しそうに笑った。

笑った顔は結構服部さんと似てるな。

服部さん、雰囲気は昊さんに似てるから蓮晴とはそんなに似てるって思ってなかったけどやっぱり兄妹だなって実感する。


「だって、モテるだろ?」

「まあ、それなりに」

「じゃあなんで」

「颯真だって好きでもない子と付き合いたくはないだろ?」

「それはまあ。てか、好きな人がずっといるってこと?」

「まあな」


そんな話をしているうちに服部さんたちが帰ってきた。

お風呂上がりだからかシュシュで緩く髪をまとめている。

可愛すぎる。


「颯真、俺たちも風呂行くぞ」

「そうだな」

「あれ?2人なんか仲良くなってない?なんかあった?」

「別に」

「何もないよ」


着替えを持って温泉のある施設に向かった。

シャワーで頭と体を洗って露天風呂に行った。

夏だけど、ここのキャンプ場は山の方にあるため少し涼しいくらいだ。


はぁ、やっぱ温泉はいいな。


「そういえばさ、颯真って茉優のこと好きだろ」

「俺ってそんなに分かりやすい?」

「まあな」

「夏祭りの日に告白したけど振られた」

「まあ、茉優は恋愛とか疎そうだしな。けど、俺は颯真ならいいと思ってる。チャラチャラしてないし、茉優も結構素を見せてるから気を遣わないんだろうし」


兄の蓮晴から許可をもらっても、服部さんが俺を好きになってくれないと意味がないんだよな。

けど、素を見せてくれてたんだ。

少しは心を開いてくれてるって思ってもいいだろうか。


「蓮晴の好きな人は?幼馴染とか?」

「そこまでじゃないけど、付き合いは長いな」

「年上?年下?同い年?」

「年上」

「伊吹だったりして」


冗談交じりに言ってみると、蓮晴は少し照れたように笑った。

まあ、正直そうかなって思ってた。

それでいて、伊吹も蓮晴を好きだと思う。

この前、酒に酔ってたときにポロッとこぼした何気ない一言。


『蓮晴は彼女作っちゃダメだよ』


多分、俺を蓮晴と間違えたんだろうけど。

こんな確実なこと言われたらさすがの俺も気付く。

2人ならお似合いだと思うんだけどな。


「告白するつもりはないの?まあ、俺は失敗例だけど」

「告白はするつもりだよ。俺、来月誕生日だからデート誘ったんだよ。それで告白するつもり」

「マジで?応援してる」

「ありがとう」


風呂から出て髪を拭いて軽く乾かして受付のすぐそこにある自販機でフルーツ牛乳を買った。

そういえば、と蓮晴はスマホを取り出して俺に向けた。

ラインを交換してフルーツ牛乳を飲んでからテントに戻ると3人でキャンピングチェアに座って夜空の星を見上げていた。

灯りが少ないからかよく見える。


よく見ると昊さんと伊吹の手には缶ビールが握られていた。


「ただいま」

「あ、原田くん。お兄ちゃん。おかえり。それよりさ、伊吹ちゃんが寝ちゃったんだけど」

「颯真くん、起こしてあげてよ」

「伊吹、酔ったら起きないから無理だよ。蓮晴、伊吹運ぶの手伝って」

「分かった」


蓮晴に手伝ってもらいながら、伊吹をテントに運んだ。

昊さんも疲れたからと、空き缶を袋に詰めてテントに戻っていった。

蓮晴も俺に気を遣って服部さんと2人になれるようにテントに戻った。


消灯時間までまだ少しあるので、俺もキャンピングチェアに座って夜空を見上げた。

チラリと服部さんの方に視線を向けた。

懐中電灯があるものの、暗くてあまり顔が見えない。


「二学期に入ったらイベントだらけだね」

「そうだね。10月の初めには体育祭だし、10月末に文化祭もあるし」

「原田くん、体育祭なにでるの?」

「俺は、運動とかあんまり得意じゃないから借り物競争とかかな。どんな競技があるか分からないけど」

「じゃあ、二人三脚あったら一緒に出よ」


俺の話、聞いてた?と笑うと聞いてたよ〜と笑って返ってきた。


「二人三脚は運動神経よりもどれだけ息を合わせられるかが重要だから大丈夫」

「まあ、いいけど。二人三脚があったらね」

「約束だよ」


そう言って彼女は小指を出した。

こうやって仕草一つ一つが可愛いのは本当にズルいと思う。

それにしても、俺が友達でいようって言ったけど告白したこと忘れられてないか?

気まずさがないだけマシだと思いたいけれど、意識されていないという事実が重なって複雑な気持ちになる。


どうすれば、意識してもらえるようになるのか誰か教えてほしい。


「服部さん、明日の朝散歩しない?ここのキャンプ場、近くに湖があるみたいだし見に行かない?」

「行きたい」

「じゃあ、明日6時に集合しよ」

「うん。ちゃんとアラーム掛けておくね」


服部さんは笑ってスマホの画面を見せた。

懐中電灯を服部さんに渡してテントに戻った。

テント内の懐中電灯を消そうとすると、タオルケットを被っていた蓮晴が顔を出した。


「いいことあったのか?」

「まあ、」

「そうか。んじゃ、おやすみ」

「おやすみ」


懐中電灯を消して横になった。



翌朝、アラームの音で目を覚ました。

5時35分だ。

ぐっと伸びをして着替えてテントを出た。

服部さんも丁度テントから出てきていた。

タオルを持っているから顔を洗いに行って帰ってきたところだろうか。


「おはよう、原田くん」

「おはよう。俺、ダッシュで顔洗ってくるからちょっと待ってて」

「ゆっくりでいいよ」


服部さんは笑って手を振ってくれた。

それでも急いで水道に行って顔を洗った。

寝癖も一応直した。

タオルで顔を拭いて、またテントのところに戻った。

服部さんは涼しいからか長袖の羽織を着ていた。

俺も一応持ってきてるから着ていこうかな。


ここのキャンプ場は結構山奥にあるため、昼間も気温は20度を下回っていて涼しい。

テントの中はそうでもないがテントの外はむしろ、少し肌寒いくらいだ。


「お姉ちゃんに言ってあるし、そろそろ行こ」

「そうだね。湖までは案内板があるみたいだし辿れば着くと思うよ」

「楽しみ」


ある程度整備された道を歩いて行く。

この施設の敷地はぐるりと柵で囲われているため、野生動物に出くわす危険性はほとんどないらしい。

けれど、気温が上がらないからか湖に入る人はほとんどいないらしい。


歩いて15分もしないうちに湖に着いた。


「すごい綺麗」


服部さんは目を輝かせながらスマホで写真を撮っていた。


「服部さん、こっち見て」

「なに?」


振り返った瞬間、パシャリと写真を撮った。

写真を撮られたことに気付くと、イタズラっぽく笑って俺の写真を撮った。

最初は、彼女はすごく大人しい子だと思っていた。

けれど、それは違った。

人見知りをする方だし、知らない人に自分から話しかけるタイプでもないけれど、彼女は結構活発で明るい女の子だ。


多分、クラスのみんなに話したら驚かれるだろうな。

けど正直、クラスで静かな服部さんよりも今目の前にいる彼女の方が彼女らしくて好きだ。


「原田くん、一緒に写真撮らない?」

「いいよ」


服部さんはスマホをinカメにして俺の方に一歩寄って写真を撮った。

やっぱりどうしても友達のように写ってしまう。

片想いって、結構しんどいんだな。

中学のときによく女子が教室で恋バナをしていた。

たまに相談を受けたりもした。

俺は相談相手には向いてなかったと思う。

どうしてそんな小さなことで悩んだり、不安になったりするのか全く分からなかったから。

けど、今なら分かる。


少しのことが気になってずっと考えてしまう。

まあいいか、なんて思ってもやっぱりって思いだす。

きっと、これからクラスのみんなと打ち解けて行ったら服部さんは人気が出てしまうだろう。

嫌だなんて思ってしまうのは、俺の器が小さいせいかもしれない。


「そろそろ戻る?」

「そうだね」

「写真、帰ったら送るね」

「ありがとう」


テントに戻って朝ごはん施設の中にある食堂で朝ごはんを食べて車で家に帰った。

着替え類を洗濯機に入れてソファに座ると、伊吹が邪魔と言って俺をソファの端に押しのけた。


「なあ、伊吹って片想いしたことある?」

「そりゃあ、あるけど。私、もう21だよ」

「片想いって楽しくないな。もうやめたい。友達ポジションしんどい」

「折れるの早すぎ。けど、やめたいって思ってもそうそうやめられないのが余計に辛いんだよね」


伊吹は蓮晴と両想いのくせに。

いや、気付いてないから片想いと同じなのか。

はぁ、とため息をついていると服部さんから今日撮ったツーショット写真が送られてきた。

少しぎこちない俺と楽しそうに笑う彼女が映っていた。

まあ、こんなに楽しそうな顔を見られるならもうしばらくは友達でもいいかな。

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