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27、遠距離恋愛


 大学生活が始まってもう1年半だ。

春に伊吹と蓮晴が婚約して、昊さんと澄晴さんも夏に籍を入れて来年の3月に式がある。


今年は既にいろいろなことがあってまだ半年しか経っていないなんて信じられないくらいだ。


明日からシルバーウィークのため実家に帰省する。

今日は金曜日で、今日の夕方に地元に着く予定だ。

新幹線に乗るために駅まで向かって、お土産を買ってから新幹線に乗った。


寝ていたせいで気が付いたらもう駅に着いていた。

急いでキャリーケースを引いて新幹線を降りてたまたまあった快速電車に乗り換えて地元まで帰った。


成人して初めての帰省だから、今日は父さんと伊吹と家で飲むことになってる。

俺、結構酒強かったんだけど父さんの遺伝かな?


大学の友達と誕生日が偶然一緒で、その友達も彼女と遠距離恋愛中だったから惚気合いながら一緒に酒を飲んだ。


その友達も帰省して彼女に会いに行くんだと言っていた。



駅に着いて、キャリーケースを引いて家に向かった。

家に着くと誰も帰ってきていないのか電気がついていなかった。

鍵を開けてリビングの電気をつけた。

お土産、先に茉優の家に渡しに行くか。


何気にサプライズなんだよね。

今日はバイトないって言ってたからもしかしたら家にいるかもしれない。

少し期待しつつ、茉優の家に行くと、出てきたのは茉優のお母さんの芽衣子さんだった。


「颯真くん?おかえりなさい。久しぶりだね」

「お久しぶりです。これ、良かったらどうぞ」

「お土産?わざわざありがとうね」

「いえ」

「時間ある?良かったら上がっていかない?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


家に上がらせてもらうと、渡したお菓子と一緒に紅茶を出してもらった。

あまりこうして話す機会がなかったから少し変な気分だ。

正直、茉優とあんまりにていない。

多分だけど、昊さん以外は父親似なんだと思う。


「颯真くん、帰ってきてるのに、茉優ったら何してるんだろうね」

「いや、サプライズなんで、茉優は俺が帰ってきてることは知りません」

「そうなの?それにしても、正直、大学生の付き合いでこんなに長く続くと思ってなかったのよ、私。しかも遠距離で」


もしかして俺、あんまり信用されてない?

ゴクリ、と唾を飲み込むと芽衣子さんは慌てて手を振った。


「颯真くんを信用してないわけじゃなくてね、茉優のこと。茉優、末っ子って感じするでしょ?実際本当に甘えん坊というか寂しがり屋というか。途中で寂しくなって耐えきれないと思ってたの」

「それは、本当に、すみません」

「謝らないで。むしろ、感謝してるの。そりゃもちろん寂しいんだろうけど、颯真くんが頑張ってるから自分も頑張ろうって思えるところもあるみたいだし。あの子、颯真くんと出会ってから本当に楽しそうだから」


芽衣子さんは優しく笑った。

少し、いや、結構?だいぶ?羨ましいなと思った。

こんなに心の底から子供の幸せを喜んでくれる母親が目の前にいるなんて。

俺も微笑んで、紅茶を一口飲んだ。


「俺も、茉優が頑張ってるから頑張れるのでお互い様ですよ」

「そうだね。そういうものだね、恋人とか夫婦って」

「まだ、付き合って3年半くらいですけど、そうだと思います」


笑ってお菓子を食べた。


お菓子を食べ終えてしまって、そろそろ帰ろうと思って席を立つとちょうどリビングのドアが開いた。

帰ってきたばかりなのか茉優は驚いたように立ち尽くしていた。


「ただいま」

「おか、えり。え、なん、え、」

「ごめん。驚かせたくてサプライズで帰ってきた。明日はバイト午前だけなんでしょ?夜ご飯食べに行こう」

「うん。って、もう帰るの?」

「結構長居しちゃったからね」


茉優はえ、と驚いたような顔でリビングのドアの前に立ち塞がった。

苦笑いを浮かべて茉優の顔を見ると、すーっと視線を逸らした。

本当に芽衣子さんの言う通り、茉優は本当に末っ子として育ってきたんだろうって感じがする。

まあ、そこも可愛いところだけど。


「まだ明るいし、ちょっと散歩でもしよっか」

「うん!」


茉優が鞄を部屋に置いてから一緒に家を出た。

久しぶりに歩く道はまだまだ夏の気配が残っている。

まあ、9月ってぶっちゃけほぼ夏だしな。


「暑くない?大丈夫?」

「平気。それより、ちょっとこっち見て」

「ん?」


首を傾げて茉優の方を見ると、茉優は背伸びをして俺にキスをした。

そして、笑って俺に抱きついた。

ドクドクと少し早い鼓動が伝わってくる。

ああ、帰ってきたんだな。

安心感というと単純すぎるけど、それに似た感情が満ちていく。

心の底から会いたかった。

お盆に会ったから1ヶ月ぶりだけど、その1ヶ月がものすごく長かった。


じわりと汗をかいてきて茉優の背中に回していた手を離した。


「そうだ。颯真、誕プレ使ってくれてるんだね」

「うん。まさか被るとは思ってなかったけどね」


俺も茉優も郵送でプレゼントを届けた。

お互いに送り合ったのはスマホケースだ。

何を贈るかなんて話し合ってないのに偶然被った。

郵送を開けたとき、やっぱりこういうときは気が合うなと嬉しかった。


ちなみにスマホのロック画面は茉優の後ろ姿だ。

これは前のスマホだった高校2年のときから変わっていない。

茉優に高3のときにバレて真似されたけど。



それから茉優を家に送り届けて俺も家に帰った。


翌日は茉優と一緒にラーメンを食べに行って、その次の日は高校の同級生たちと飲みに行った。



帰るときは茉優が見送りに来てくれた。


「次、帰って来るとしたら冬休み?」

「うん。そうなると思う」

「………そっか」


茉優は少し目を伏せてから顔を上げた。

微笑んで茉優を抱きしめた。


「またね。大好きだよ」

「うん」

「3日間ってあっという間だね。ホント」

「そうだね。って、颯真!新幹線の時間!」

「帰りたくない」


茉優に背中を押されて車両に乗り込んだ。

すぐにドアが閉まってガラス越しに茉優に手を振った。

忘れてたけど、俺も一応末っ子なんだよね。



それから2ヶ月。

11月の3連休。

初日の今日だけバイトがあるものの、日曜日と月曜日はバイトがない。


今日も午前だけバイトだから終わってもう家に帰ってきた。

バイト先は近所のドラッグストアでバイトをしている。

近くに通っている大学があるからか同じ薬学部の同級生も何人か働いている。


日が暮れてきた頃、茉優からメッセージが届いた。


『もうバイト終わった?今、家?』


どうしてこんなメッセージが来たのだろうと思いながらも、家だよと返信すると、ベランダに出てきてと言われた。

まさかと思って急いでベランダに出ると、下にコートを着てマフラーを巻いた茉優の姿があった。

両手はキャリーケースとビニール袋で塞がれていて、ビニール袋を持つ方の手を上げてこっちに手を振ってきた。


俺は急いで部屋を飛び出して階段を駆け下りた。

俺の住んでる部屋は10階建てマンションの5階だから、エレベーターよりも階段の方が早い。

エントランスに着いて、外に出ると茉優が少し申し訳なさそうな顔でこっちをみていた。

けど、そんなのは気にならずそのまま茉優を抱きしめた。


「ごめんね。急に来ちゃって。急に会いたくなっちゃって。クリスマスまで待てなかった」

「いいよ。俺も会いたかった。寒かったでしょ?早く上がって」

「うん。ありがとう」


茉優の持っていたビニール袋とキャリーケースを引いてエントランスに入って、エレベーターに乗って5階まで行った。

てか、鍵閉めて来てないから自動ロックで入れない。

焦ってポケットに手を突っ込んでも持ってきているわけがない。

茉優は俺の肩を叩いて、渡していた合鍵を出した。


「やっと使う機会があったね」

「確かに。前に泊まりに来たときは俺が駅まで向かえ行ったからね」

「うん。あ、そうだ。お鍋しよ。お酒も買ってきたよ」

「俺が準備するから茉優はお風呂入ってきな。寒かったでしょ?」

「いや、いいよ。私が準備する」

「茉優さん、お風呂入ってきて。風邪引かれたら俺が伊吹に殺される」

「もう、分かったよ」


俺はすぐにお風呂を溜めて、茉優を脱衣所に連れて行った。

パジャマはないらしいから、俺の高校のときのジャージを貸した。


茉優が買ってきてくれた野菜を切って、ホットプレートをリビングのダイニングテーブルに持ってきて出汁スープと一緒に野菜と鶏肉を入れて温め始めた。


ちょうど出来上がる頃に茉優がリビングに戻ってきた。

身長は10センチくらいしか変わらないけど俺のジャージじゃやっぱりズボンが大きかったみたいで、一応短パンも渡していて正解だった。


「いい匂い」

「もう出来たから早く食べよう。お皿とお箸取ってきて」

「うん」


茉優が持ってきてくれた食器にお鍋の具材とスープを入れて、缶チューハイの封を開けた。

シュッと音を立ててコツンと缶を当てた。


「美味しい〜!」

「お鍋もね」

「しめはどうする?」

「雑炊かうどんだと思うけど、うどんある?」

「あ、買ってない」

「じゃあ、雑炊でいい?」

「うん」


具材を食べ切って、ご飯と溶き卵を入れて雑炊にして食べ終えた。

ホットプレートの鉄板と食器を洗うと、まだ残っているチューハイの缶を開けた。

俺はいいとして、茉優が少し酔ってきてる気がする。


ソファに座ってテレビをつけると、茉優が隣に座って肩に寄りかかった。

茉優の頭に自分の頭を乗せると、茉優はふふっと笑った。


「大好き。颯真、ちゃんと私のこと好き?」

「大好きだよ」

「じゃあ、一生一緒にいてね」

「そうだね。もう2年くらい待ってくれたら毎日一緒にいられるようにするよ」

「なにそれ」


プロポーズです。

まあ、どうせ茉優は起きたら覚えてないんだろうけど。


「颯真は私以外好きになっちゃだめだからね。ずっと好きでいてね。世界一の美女に告白されたとしても、ちゃんと断ってね」

「断れないかな」

「やだ。断って」

「無理。だって、俺にとって世界一可愛いのは茉優だから」

「………バカ」


茉優はぽすっと俺の胸を叩いた。

その顔は怒っていなくて、かといって照れたような笑みでもない。

ただ、真っ赤な顔で少し申し訳なさそうに眉をひそめていた。


「重くてごめん」


茉優は目に涙を溜めて俺の顔を見上げた。

これは、なんか嫌なことでもあったな。

だから急に俺に会いに来たんだ。

いつもなら、俺に迷惑がかからないようにって事前に連絡するからなんでだろうとは思ってたけど。


茉優を抱きしめて軽く背中を叩いた。


「どうしたの?何があったの?」

「重いって言われて。大学の男の子に。飲みに行こうって言われて、2人は無理って言ったの。もし颯真が女の子と2人で飲みに行ってたら嫌だから。でも、そう言ったら束縛きつい、重すぎって笑われて。颯真にもそう思われてたらどうしようって」


いやいや。それ、茉優に断られたからって八つ当たりしてるだけでしょ。

てか、俺も茉優が男と2人で飲みに行ってたら嫌だし。

別に重いとか思ってないし。


茉優の顔を上に向けてキスをして笑った。

まだ目に涙を溜めている。

茉優の頬をぐいーっと引っ張ると、少し驚いたように目を見開いた。


「重くないよ。いや、重いのかもしれないけど、俺は嫌だって思ってないよ。てか俺、仲良い女子友達なんて八尾さんと凛ちゃんくらいしかいないから束縛されたところでって感じなんだけど」

「あ、確かに」

「そんなやつの言葉で落ち込まなくていいよ。誰に何と言われようと、俺が茉優のこと嫌いになるわけないんだから」

「そうだね。私より颯真の方が重いから気にしなくていいよね」

「それは、ごめん」

「いいよ。慣れてる」


慣れないで。

ムッと口を尖らして茉優にキスをすると、やっと涙を拭いて笑ってくれた。

まあ、茉優が笑ってくれたなら別にいいか。



翌日、有名な神社に行って縁結びのお守りを買って、近くのショッピングモールで買い物をすることにした。

もう冬になるから、新しいアウターを買うことにした。

もちろん、茉優とお揃いで。


アウターを選んでいると、大学の友達に会った。


「あ、颯真。て、その子、もしかして噂の彼女?」

「噂?」


茉優が不思議そうに首を傾げた。

茉優の耳を塞いでそのまま店を出ようとすると、茉優が立ち止まって友達の方を見た。


「噂ってどんな噂ですか?」

「遠距離のめちゃくちゃ可愛い彼女がいるっていつも言ってたんだけど、見て好きになられたら困るからって写真は見せてくれなくてさ。電話で彼女の声聞くだけで毎日幸せすぎるって一生惚気てるんだよ」

「そんなこと言ってない」

「言ってるだろ。彼女の話するときのあの顔、見せてやりたい」

「どんな顔してるんですか?」

「こーんな顔」


友達はへらぁと目も口も柔らかく笑った。


「そんなニヤニヤしてない」

「してる」

「してない」

「してる」


そんな言い合いをしていると、茉優がふふっと笑った。

子供っぽいって思われたのかな?

茉優の方を見て、こんな変な顔してないからね、と慌てて弁解するとホントかな?と笑った。


「けど、良かった。颯真、ちゃんとこっちでも馴染めてるみたいで。始めの頃はあんまり声に元気なかったから心配だったけど、ちゃんと大学生活楽しんでて安心した。いつも、颯真と仲良くしてくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

「任せて。颯真が惚気てるときの顔ちゃんと撮るから。颯真のスマホで撮ってそのまま送るから楽しみに待ってな」

「ありがとうございます」


変な約束するなよ。

友達と別れてアウターを買って家に向かった。


手を繋いでいつもの道を歩くけど、茉優と一緒に歩くとなんかいつもと違う道のように感じられる。


「ご機嫌だね」

「かもね」


家について、昼ごはんを食べてあっという間に新幹線の時間になった。

駅までキャリーケースを運んで、改札の近くまで見送りに来た。

もっと一緒にいたかった。

あっという間すぎる。

まだ返したくない。


「茉優、」

「そんな顔で引き留められても帰らないとだから」

「クリスマスってことは1ヶ月後か。じゃあ、1ヶ月後分の充電」


両手を広げると、茉優は躊躇いがちに俺に抱きついた。

一瞬のような長いような時間、ハグをして茉優はゆっくり離れると笑顔で手を振った。

キャリーケースを引いて改札を通っていく姿を見送った。

茉優が見えなくなるまで颯爽と歩く後ろ姿を見つめた。


早くクリスマスが来てほしい。



 ✳ ✳ ✳



スタスタと音を立てて歩きながら急いで新幹線に乗り込む。

溢れてくる涙を拭って席を探した。

離れるのはまだ慣れない。

けど、笑顔でバイバイしないと、颯真が心配しちゃうから。

通知音が鳴って鞄からスマホを取り出した。

通知を切るのを忘れていて慌てて切った。


『茉優、また来月』

『また来月』


早くクリスマス来ないかな。

そんなことを思いながらこの2日で撮った颯真との写真を見返した。

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