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26、大学受験


 あっという間に3学期に入った。

俺は他よりも2週間早く受験があるため、あと2日で試験日になる。

俺の志望校は新幹線でも3時間は掛かる。

当日に行けなくなると困るので、今日からホテルに泊まる。


父さんが在宅ワークに切り替えてついてきてくれることになった。

新幹線の駅までは伊吹が車で送ってくれた。


新幹線の中で参考書を読んで1時間くらい寝て、駅についた。

そこからさらに電車に乗ってホテルに向かった。

ホテルに到着して、父さんにチェックインをしてもらっている間に茉優にメッセージを送った。


「ホテル着いたよ」


すぐに既読がついて可愛いスタンプとメッセージが送られてきた。


「とうとう入試だね!体調崩さないで頑張ってね」


猫の応援団のスタンプを見ていると、茉優の頑張れと笑う姿が思い浮かんだ。

ありがとう、と一言だけ返してスマホの画面を消した。

チェックインを済ませてこっちにやって来た父さんと一緒に部屋に行った。


荷物を置いて、早速デスクに参考書とノートを広げた。

父さんは窓側の小さいテーブルでパソコンを開いた。


それぞれ暗くなるまで少し休憩を挟みながら仕事と勉強をして、夜になってからホテル内のコンビニに夜ご飯を買いに行った。


「颯真、それだけでいいのか?」

「あんまり食べると眠くなるから」

「そうか」


俺はサンドイッチとエナジードリンクだけカゴに入れて父さんに渡した。

明日は早く寝たいからその分、今日はギリギリまで頑張りたい。


部屋に戻って、サンドイッチをすぐに食べてまた勉強を続けた。



翌朝、寝坊してしまった。

昨日はほとんどホテルに籠もっていたということで散歩がてら少し早めの昼ごはんとして父さんとホテルの近くの定食屋に行くことにした。


今日は元々父さんは休みだったから在宅ワークもないため2人仲良くの寝坊だ。

朝ごはんを食べていないせいでめちゃくちゃお腹が空いている。


「おまたせしました。さばの味噌煮定食と鶏の照り焼き定食です」


お盆が置かれて早速食べようと手を合わせて、鶏の照り焼きを箸で掴むと父さんがスマホを向けた。


「伊吹に送る用の写真」

「いる?」

「いるだろ。受験前日にちゃんとした飯食べさせてなかったら俺が怒られる」

「確かに」


照り焼きを頬張って親指を立ててスマホのレンズを見た。

父さんはシャッターボタンを押して、それから謎の自撮りをして伊吹に送っていた。


「なんで父さんまで撮ってんだよ」

「伊吹が寂しがるかなって」

「むしろ、久しぶりに1人になって楽かも」

「確かにな。いつものお礼になんかいい土産買って帰るか」

「そうだね」


お昼ご飯を食べ終えて、近くの雑貨屋でお土産を見ることにした。

伊吹が好きな銘柄の紅茶の茶葉を買ってホテルに戻った。

サーッと心配なところを見直して、明日は受験本番だから今日は早めに風呂に入った。

晩飯はホテルの中にある店でうどんを食べて、明日の電車を確認して寝ることにした。



 〜〜〜〜〜



ひとまず試験は無事に終わって家に帰った。

発表は6日後だ。

滑り止めの私立大はもう終わっているから、合格していなかったら父さんの弟の家に居候させてもらうことになったけど、合格していたら一人暮らしをするための部屋を決めるためにまた新幹線で移動しなければならない。


合格していてほしいとは思う。けど、帰ってきたばかりでまた移動だと思うと少しめんどくさく思ってしまう。


けれど、少しでも土地に慣れるためになるべく早く部屋を決めて春休みに入ったらすぐに引っ越せるようにした方がいいと父さんに言われた。


だから、茉優と一緒にいられるのもあと1ヶ月もない。

けど、茉優は一昨日から入試が始まった。

明日は遂に第一志望の大学の試験日だ。

俺は邪魔にならないようにまだ帰ってから一度も会っていない。


会いたいなと思いながらも、茉優に明日の試験が終わるまで会えないし連絡も取れない言われたからには時間が経つのを待つしかない。


暇だしコンビニでも行こうか。



「お、颯真。おかえり」

「ただいま、蓮晴」


コンビニの近くでちょうど蓮晴に会って一緒にコンビニに向かうことにした。


「茉優、無理してない?」

「多少はしてるだろうけど、体調崩したりとかはねえよ。試験終わったら颯真とデートするんだって張り切ってる」

「そっか」


コンビニに入って、インスタントのカップ付きのココアと小分けのチョコと肉まんを買った。

蓮晴はチキンを買って食べながら一緒に帰った。

分かれ道で蓮晴にココアとチョコの入ったビニール袋を渡した。


「差し入れ。茉優に渡して。風引かないようにねって」

「ああ。ありがとな」

「うん。茉優によろしく」

「ああ」



 ✳ ✳ ✳




部屋のドアが叩かれてはぁいと返事をすると、お兄ちゃんがビニール袋を下げて入ってきた。

コンビニに行っていたのだろう。

何かお菓子でも買ってきてくれたのかと思って袋を覗くと、私の好きなチョコのお菓子とココアが入っていた。


「颯真からの差し入れ」

「え!お兄ちゃん、颯真に会ったの?」

「たまたまな。風引かないようにってさ」

「うん」

「お湯、ポットに残ってたと思うけどココア淹れてこようか?」

「ううん。自分でする。ありがと」


リビングに行って、カップの蓋を外してココアの粉とお湯を注いで混ぜてもう一度蓋をして部屋に戻った。

少し冷ましてから一口飲んだ。


「あったか〜」


明日、試験終わったら颯真にお礼言いに行こう。



翌日、なんとか試験が終わってチョコを食べながらホームで電車を待っているとなっちゃんと凛ちゃんがやって来た。

2人とも試験が終わって開放的な笑みでこっちに来た。

元々、なっちゃんとは高2の始めの頃から同じ志望校だと知っていて、凛ちゃんと仲良くなったきっかけも同じ志望校というのがあった。


私達の志望校は学部が多いせいか他にもまだ数人同じ高校から受ける人がいる。

それでも仲の良い人が同じ志望校を目指しているというのは少し心強かった。


「あ、そうだ。2人ともチョコ食べる?」

「食べる」

「ちょうだい」


3人で並んでチョコを食べていると、快速の電車が来た。

電車に乗ろうと思ったけど、他の受験生が多すぎたから次の普通電車に乗ることにした。


「3人で受かってるといいね」

「うん」

「でも、受験終わっちゃうとちょっと寂しいね」

「だね」

「特に、茉優と凛は遠距離になるんだもんね」


なっちゃんは寂しくならないようにたくさん遊ぼうねと笑った。

なっちゃんこそ、去年から伯父さんと伯母さんとほぼ絶縁になって寂しいだろうに。

けど、鈴村くんと航太と航太の彼女である紗奈ちゃんのお陰かなっちゃんは特に変わらない。


お母さんとお父さんも気にはかけていたけど、むしろ吹っ切れたように受験勉強に打ち込んでいたから受かったら伯父さんたちの分も盛大にお祝いしようってことになった。


凛ちゃんが家族に連絡をしていると梶井くんから電話がかかってきたらしい。

少し首を傾げてあっ!と声を上げた。


「そういえばあやくん、今日合格発表だ!」

「出なよ。電車まだ来ないから」

「うん」


凛ちゃんは恐る恐る電話に出た。

こっちまでそわそわしてきて、凛ちゃんの方に視線を向ける。

凛ちゃんはうんうんと少し不安そうな声で頷いてパァ!と顔を上げて笑った。

明らかに声が明るくなった。


「おめでとう。うん、うん。後でね」


凛ちゃんはベンチに座ってスマホを太ももに置いた。


「あやくん、第一志望合格だって」

「おめでとう!」

「一安心だね」

「うん。良かった。帰ったらコンビニのアイスでも買ってあげるよ」


凛ちゃんは嬉しそうに笑って頷いた。

分かるな。

好きな人に嬉しいことがあったら自分まで嬉しくなるんだよね。


電車が来て、それぞれ帰って今日はゆっくり過ごすことにした。




 ✳ ✳ ✳




合格発表当日。

茉優が家に来て伊吹と茉優と俺の3人で合否を確認する。

父さんは仕事のため合否が分かったらすぐに連絡するつもりだ。

自分のスマホの画面と睨み合いながら深呼吸をする。

あと一分で結果が見られる。

数字を探して合格発表をするわけじゃなく、専用サイトを開くと合格か不合格かが表示される。

一瞬で分かってしまう。


予定の時間を3分過ぎてサイトを開くと受験番号や学科の横に二文字。合格と書いてあった。


茉優は嬉しそうに笑って俺に抱きついて、伊吹はべしべしと俺の肩を叩く。


「颯真はもっと喜びなさいよ」

「いや、だって、まだ実感沸かないっていうか。俺の代わりに茉優が喜んでくれてるからいいかなって」

「おめでとう!颯真!」

「ありがとう」


父さんにも合格したことを伝えるとすぐに電話がかかってきた。


『颯真!よかった!おめでとう』

「ありがとう」

『来週の土日で休み取るからそのときに部屋見に行くぞ』

「うん」


通話を終えて住宅検索サイトでいくつか選んでいた部屋の見学を予約しておいた。

どこも大学まで徒歩で通えるから住人は大学生が多いらしい。


一人暮らしって考えると不安だけど、近くに同世代の人が多く住んでるって思うとちょっと気が楽になるかも。



それから部屋を見に行って契約を終えて帰ってくる頃には、茉優も第一志望の結果が出ていて凛ちゃんと八尾さんも揃って合格だった。



昨日、練習をしたばかりというのに明日には卒業式がある。

3学期、ほとんど学校に行ってない気がする。

もう少しで茉優と離れ離れになるんだと思うと、やっぱり寂しいし少し不安だ。

荷造りを終えた自室にいると余計に寂しく感じる。

卒業式の2日後に家を出るけれど、ベッドや勉強机はこっちに置いておく。


段ボールに入れ忘れたものがないか確認して、明日のために早めに寝ることにした。



翌朝、起きて朝食を採って制服に着替えた。

今日でこの制服とはお別れか。

紺色のブレザーにグレーのズボンに白のブラウス、赤のネクタイ。

シンプルだけど、この制服結構好きだったな。


リュックを背負って家を出た。

父さんと伊吹は少し後から来るらしい。

茉優と近くで待ち合わせて一緒に学校に向かう。

こうして2人で登校するのも今日が最後なんだ。


「颯真」

「ん?」

「式終わったらさ、私のクラス来てくれない?」

「うん。分かった」


学校に着いて、教室に行くと皆で黒板にメッセージを書いていた。

俺も右端の上の方に一言メッセージを書いて席に着いた。

胸ポケットに花飾りをつけて式が始まるまでは待機だ。


担任である滝谷(たきや)先生は26歳の若い先生でタッキーというあだ名で呼ばれるくらい生徒に人気があった。

そのせいか、卒業式が始まる前からクラスメートどころか他クラスの生徒に写真をせがまれている。

俺は卒業証書をもらってから一緒に撮ってもらうつもりだけど。


9時半前になると、クラスごとに体育館に向かう。

体育館の前について、卒業生入場というアナウンスのあとに体育館のドアが開いてA組から順番に入場していく。



卒業式が終わって教室に戻ってきた。

いつも思うけど、卒業ソングってなんでこんなに泣けてくるんだろ。

ホームルームで先生からの挨拶があって、卒業証書を手渡されて終わった。


先生と写真を撮ってから茉優のクラスに行った。

茉優はクラスの女子に囲まれて写真を一緒に撮っていた。

声を掛けずに見守っていると、茉優が気付いて俺の方に歩いてきた。


「お待たせ。お父さんとお母さんが、卒業式の看板の前で一緒に写真撮ろうって言ってたんだけどいい?」

「うん」

「早く行こ。並んじゃう」


校舎を出てすぐのところにある卒業式の看板の前で伊吹と父さんと茉優の両親がいた。

先に茉優と茉優の両親、俺と父さんと伊吹でそれぞれ写真を撮ってから茉優と2人で写真を撮った。


父さんと伊吹には先に帰ってもらってまた校舎に戻った。


「颯真、1年生の教室行こ」

「空いてるの?」

「分かんない」


茉優は笑って俺の手を引いて歩いた。

1年の教室に着くと、やっぱりドアの鍵は閉まっていたけれど窓から教室を覗き込むと茉優と話すようになってすぐの頃を思い出す。


「あっという間だったね」

「そうだね」

「まだ卒業したくない」

「もう卒業しちゃったけどね」


笑って壁に寄りかかると、茉優は目に涙を溜めていた。

目が合った瞬間、茉優はすぐに俯いて涙を拭った。

それでもまだ涙が止まらないのか何度も何度も涙を拭う。

そんな茉優を見ていると、俺まで泣けてきた。

茉優を抱き寄せて声を殺して泣いた。


俺だって、もっと高校生活楽しみたかった。

十分楽しかったけど、それでも、終わってしまうと呆気なくて物足りない気持ちになる。


「明後日だよね。颯真が引っ越すの」

「うん」

「本当はね、離れたくない。引き留めたいわけじゃないけど、不安なときとか寂しいときとか嫌なことがあったときとか。こうやってすぐに颯真に会えなくなるのが嫌だ」

「それは俺もだよ」

「お見送りのときはちゃんと笑顔でお見送りするから、今日は泣かせて」

「うん」


茉優を抱きしめる腕に力を込めた。

あと2日、か。

嫌って思われるくらい茉優と一緒に過ごすつもりだけど、やっぱり寂しいと感じてしまう。


しばらくして落ち着いて、茉優はゆっくり顔を上げた。

俺は茉優の顔にかかっている髪を払って、ゆっくりと顔を近付けた。

茉優もゆっくり目を閉じて、そのまま唇を重ねた。


ゆっくり目を開けて茉優の顔を見下ろすとすぐに顔を背けられた。


「了承も得ずにごめん。嫌だった?」

「嫌じゃ、ない。けど、今、多分めっちゃ顔赤いし、どんな顔で颯真のこと見たらいいか分かんないから」

「そっか」


俺は茉優の頭に手を置いて微笑んだ。


「大好きだよ。遠距離になっても絶対に気持ちは揺るがない」

「うん」


茉優はふふっといつも通り笑って顔を上げた。



それから2日後。

駅まで茉優と蓮晴と父さんが見送りに来てくれた。


「それじゃあ、行ってきます!」

「「いってらっしゃい」」


3人に手を振って電車に乗った。

次に会うのは早くてもゴールデンウィークだから2ヶ月後か。

最後に茉優の笑顔が見られて良かった。

本編最終回です

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