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25、同窓会


 昊ちゃんが大学を卒業して、そのまま同棲を始めた。

今は7月。

同棲を始めてもう4ヶ月が経った。

俺も昊ちゃんもそれなりに家事ができるから分担ってことになってるけど、料理は週末に一緒に作り置きをするのが習慣になってきた。

カレーとかオムライスとかはその日に作るけど、主菜は基本作り置きだ。


その方が食費を抑えられるし、何より仕事終わって帰ってきて作るのは正直めんどくさいから。


今日は俺の仕事が早く終わったから昊ちゃんよりも早く帰ってきた。

家に着いて、少しすると玄関のドアが開く音がしてすぐにリビングを出て玄関に行った。


「昊ちゃん、おかえり。お疲れ」

「ただいま。このままシャワー浴びてくる」

「いってらっしゃい」


昊ちゃんがシャワーを浴びている間に、冷凍しておいたおかずとご飯を温めてお皿に盛る。

さすがに味噌汁は冷凍出来ないから切っておいた野菜を冷凍してそれを入れて味噌を溶かす。

これぐらいなら疲れてても出来なくはない。

本当に疲れてるときはインスタントに頼る。


味噌汁をお椀によそっていると、ちょうど昊ちゃんが戻ってきた。


「やっぱりそのパジャマ可愛いね」

「でしょ?」

「うん。じゃあ、ご飯食べよっか」

「準備ありがとうね」

「どういたしまして」


ダイニングテーブルに向かい合って座って手を合わせた。


「そういえば、もうすぐ茉優たち夏休みだって」

「俺も夏休みほしい」

「私、お盆は7連休だから!」

「俺も5連休はあるけど、そうじゃなくて。高校生の夏休みって受験勉強があるとしても特別じゃん。まあ、俺は高3まではバイトしかしてなくて楽しくなかったけど」

「私と出会ってからは楽しかったならいいじゃん」

「そうだね」


俺の母親は一般的にクズと分類されるだろう。

ほとんど家におらず、いたら失せろ消えろと言われてた。

けど、毎月食費も学費も払ってくれていた。

高校に上がって小遣いが欲しくてバイトを始めたら、その金はホストに貢ぐために使われ始めた。

だから、バイト代をこっそり抜いて少なく見せて残りは貯金していた。


母親が知らない男と出ていって、色々あって母親の実家に引き取られることになった。

その人たちは俺のことを家族だと呼んでくれる母親以上の家族になってくれた。


大学の学費まで払ってくれた。

本当に感謝してもしきれない。


夕食を終えて、食器を片付けてソファに座ってゆっくりしてる昊ちゃんがテレビに出てきたイケメン俳優と俺を見比べた。


「どうしたの?」

「いや、澄くんってテレビ出ても違和感なさそうなくらいイケメンだなって」


そう訊いて思わず笑ってしまった。

昊ちゃんは少しムスッとして俺の方を見た。


「俺がイケメンとか、昊ちゃん俺のこと好きすぎでしょ」

「違わないけど、澄くんは誰が見てもイケメンだし」

「いやいや、昊ちゃんフィルターがかかってるだけだよ」

「高校のとき、モテてた自覚ないでしょ。澄くんが私に好き好き言ってたから皆諦めてただけで、澄くんのこと好きって言ってた子結構多かったんだから」

「え〜」


俺のことイケメンとか言うやつ、友達と兄さんと昊ちゃんくらいだけどな。

皆身内の贔屓目だと思うんだけど。

昊ちゃんのことを抱きしめて昊ちゃんの肩に顎を乗せた。


「不安になるの?」

「不安っていうか。私が澄くんの恩人じゃなかったら澄くんはもっと他の人を好きになってたんだろうなって」

「そうかもしれないけど、昊ちゃんも他の人を好きになってたかもよ」

「それはない。私は澄くんしか好きにならないけど澄くんは他の人を好きになるの」

「何それ。昊ちゃんだけずるくない?」

「だって私、澄くんが初恋だから」

「俺も昊ちゃんが初恋だけど」


昊ちゃんは顔を上げてヘラ、と笑った。

照れたときのこの顔が可愛すぎる。

ゆっくり顔を近付けて、唇が軽く触れた瞬間スマホの通知音が鳴って昊ちゃんが我に返ったようにバッと俺から離れた。

通知切っとけば良かったな。

スマホを見ると、中学の同級生からメッセージが来ていた。

来週の同窓会についての追加連絡だ。


正直、最初は同窓会に参加するつもりはなかった。

中学に友達なんて呼べる人はいなかったから。

けど、お世話になってた担任の先生の定年祝も兼ねると書いてあったため行くことにした。

そもそも、同窓会の連絡が来るまでグループに入ってたことを忘れていた。


「同窓会?」

「うん。先生にサプライズで校歌歌うから歌詞覚えてない人は卒アルに書いてある歌詞の写真撮っておいてって」

「そっか。それにしても、今の澄くん見たら同級生驚くんじゃない?」

「そうかな」

「うん。出会ったときよりめちゃくちゃカッコよくなったもん」


俺は笑って昊ちゃんを抱きしめてキスをした。

昊ちゃんは少し驚いたように目を瞬いた。


「もしそうだとしたら、昊ちゃんのお陰だね。俺、昊ちゃんに好きになってもらえるように頑張ったんだから」


そう言って笑うと、昊ちゃんも少し照れたようには笑った。

その顔が可愛くてギュッと抱きしめた。



同窓会当日の朝。

昼の1時から同窓会があるから、早く起きても少しゆっくりする時間がある。

昊ちゃんも今日は休みだから、同窓会に行くまで一緒に見進めているドラマを見る。


昊ちゃんは恋愛映画とかドラマが好きで、よく伊吹ちゃんと映画に行っている。

自然と映画デートのときはそういう恋愛ものが多くなって俺も見るようになった。

結構感動系の話とかもあって面白い。


ドラマを見終えてスーツに着替えてヘアセットをしてリビングに行くと昊ちゃんが仁王立ちで待っていた。


「同窓会って、可愛くなった元同級生と再会する場所なんだから、ちゃんと私の顔思い出してね」

「当たり前だよ」

「うん。澄くん、今日の髪型もカッコいいよ。笑顔で先生にお礼言っておいで」

「ありがとう」


昊ちゃんは笑って軽く俺の背中を叩いた。

やっぱり、昊ちゃんには敵わない。

俺が下を向きそうになったら、ほら見て!って顔を上げさせてくれる。

俺の方が年上なのに、昊ちゃんの方が頼りになる。

いつも頼ってばかりな分、昊ちゃんが疲れた時に甘えられるようにしっかりしないと。


昊ちゃんにハグをして家を出た。


最寄り駅まで車で向かって電車で30分程の駅で降りてそこから同窓会会場のホテルに向かった。

ホテルに着いて、ロビーの近くのパーティールームに行くと既に結構な人数が来ていた。


俺は少し老けても優しい笑みの変わらない先生を見つけてすぐに駆け寄った。


林田(はやしだ)先生、お久しぶりです。大崎です。覚えてますか?」

「大崎くん?覚えていますよ。見違えましたね。何かいい出会いでもあったのかしら?」

「そうですね」

「今は幸せですか?」

「はい。それはもう」


笑顔で頷くと先生も嬉しそうに微笑んだ。

一度先生から離れて、乾杯のためにノンアルのジュースを手に取った。

幹事をしてくれたのは中学3年のときの委員長だ。


委員長が音頭を取って皆が近くの人とグラスを合わせた。

俺は先生とグラスを合わせて乾杯をした。

先生と少し話していると、春名(はるな)さんと桜井(さくらい)さんがこっちにやって来た。


「申し訳ないんだけど、誰?」

「大崎です。覚えてる?喋ったことないけど」

「え、大崎くん?」

「めっちゃ垢抜けたね」

「ありがとう」


昊ちゃんの言う通り驚かれた。

他のクラスメートたちも俺のことを覚えてくれていたけど、俺の変わりように驚いていた。

まあ、あんな強烈な母親いたら嫌でも覚えるか。


結構皆話が盛り上がって、最後に校歌を歌うと30年以上俺たちの通ってた中学に勤めていた林田先生は懐かしそうに少し思い出を語ってくれてほんの少ししんみりしたようなセンチメタルな雰囲気になった。


お開きになって全員で先生を見送ると、男子メンバーで飲み直さないかと誘われた。


「今日は駅まで車だから遠慮しとくね」

「じゃあ、今度改めて飲みに行こうぜ?連絡先教えてくれよ」

「俺も行っていいの?」

「むしろ、大崎に来てほしいんだよ。今日も全然話し足りないし」

「うん」


男子数名と連絡先を交換して駅に行く組と一緒に歩き始めた。

女子も仲良いグループでこの後カラオケに行くらしい。

クラスメートのうち2人はもう既に結婚していて片方には子供がいるからすぐに帰らないといけないらしい。


「あ、そうだ。大崎くんって今付き合ってる人いるの?」

「うん。大学1年のときから付き合ってて今同棲してるよ」

「やっぱりイケメンの彼女は可愛いの?」


イケメンって、ホントに言われた。

少し驚きつつも笑った。


「イケメンかは分からないけど、彼女は可愛くてカッコいいよ」

「きっとお似合いなんだろうね」

「だといいな」



ホームにちょうど快速が停まっていたから、それに乗って帰った。

お土産にと駅前のケーキ屋に寄って、昊ちゃんの好きなスフレチーズケーキを2つ買って車で家に帰った。


家に着いて鍵を開けると、リビングの電気が消えていた。

出かけてるのかと思ってドアを開けて電気をつけると、昊ちゃんはソファで眠っていた。

昊ちゃんの紙を撫でて洗面所に行ってそのままシャワーを浴びた。


シャワーを出て髪を乾かして、リビングに行くと昊ちゃんは寝返りを打ったのかソファから落ちてもまだ寝ていた。


昊ちゃんの顔を覗き込んで頬にキスをしてゆさゆさと体を揺らした。


「風邪引いちゃうよ」

「………あれ、澄くん。帰ってきてたんだ」

「うん。ただいま」

「おかえり」


昊ちゃんは眠そうにあくびをしながら体を起こした。


「澄くん、服着なよ」

「着てるじゃん」

「いや、上の服ね。私、シャワー浴びてくる」

「いってらっしゃい」


俺も部屋からTシャツを取ってきて着替えた。

いつも風呂上がりは暑いから少し涼しくなるまで半裸でいる。

昊ちゃんは蓮晴みたいだからやめてと言いながらもなんだかんだくっついてくる。


昊ちゃんがシャワーに行っている間にさっき撮った昊ちゃんの寝顔をロック画面の待ち受けにした。

バレたら怒られそうだけど、すぐに見られるようにしておきたい。


夜ご飯はネバネバ丼をすると以前から決めていた。

昨日買ってきたばかりのマグロと切って冷凍しておいたオクラと山芋と納豆をご飯に乗せて市販のタレをかけるだけで出来る夏にピッタリの料理だ。


冷凍していた野菜たちを解凍しているうちにマグロを一口大に切っておく。

ご飯は朝に炊いておいたものをレンジで温めて、丼に盛る。

準備が終わった頃、昊ちゃんがリビングに戻ってきた。


「昊ちゃん、盛り付け対決しよ」

「いいよ」


昊ちゃんはキッチンにやって来てご飯にどんどん具材を乗せていく。

最後に卵黄を乗せて丼を並べた。

昊ちゃんは頑張って綺麗に盛り付けようとしたけど、卵黄が真ん中から落ちてしまっていて直したいけど直せないと悔しそうに言った。


「澄くん、器用だね」

「昊ちゃんも器用だけどね。」

「ありがと」

「俺、昊ちゃんが作った方食べてもいい?」

「澄くん、相変わらず私のこと好きすぎだよ」

「………別にいいでしょ」


丼をテーブルに運んで昊ちゃんと向かい合って座った。

いただきますと手を合わせて真っ先に卵黄をスプーンで割る。

反対に、昊ちゃんは卵黄を割らずに一口目を食べる。


「澄くんってすぐに黄身割るよね」

「うん」

「私と澄くんって正直あんまり合わないよね」

「そうだね」

「面白いよね。ここまで合わないと」


昊ちゃんは楽しそうに笑う。

そう思えるのも、昊ちゃんと俺の違いだと思う。

俺なら、こんなに合わないのにこれからやっていけるのかなって思うけど、昊ちゃんは違いを面白いと受け止める。

本当に考え方が似てないと思う。


ネバネバ丼を食べて、水を飲んでから買ってきたケーキを冷蔵庫から出した。


「今さらなんだけどさ、昊ちゃんってなんで俺のこと好きになってくれたの?」

「澄くんが私の嫌いな私を好きになってくれたからだよ。私、性格悪いのに、いい人ってレッテル貼られてたじゃん。ホントはワガママ言いたいし、ウザいって思うこともあった。けど、周りは私はいい人で悪口なんて一切言わないって勝手に決めつけるから素を出しちゃいけないんだって思ってた。でも、澄くんが休み時間の度に来るから1回ウザいって言ったよね?」

「そうだね」

「澄くんと伊吹以外は皆ドン引きしてたのに、澄くんはじゃあ昼休みだけにするって全然懲りないし」

「ごめん」


昊ちゃんはいいよ、と笑って俺の顔を見た。


「そこからクラスでちょっと浮いてたのに、澄くんは懲りずに毎日来るからこの人には素を出してもいいんだなって思って楽になったんだよ」

「そっか」


昊ちゃんはありがとねと笑ってケーキを一口食べた。

けど、お礼を言われる筋合いはない。

だって、昊ちゃんがクラスで浮いたのって元は俺が毎休み時間に会いに行ってたせいだし。

まあ、俺としては人気者だった昊ちゃんに話しかけやすくなったって考えてたけど。

ごめんね、俺の方が最低だよ。


俺も笑ってケーキを食べた。


食器を片付けてソファに座ってスマホで漫画を読んでいる昊ちゃんの肩に頭を乗せながらテレビのバラエティ番組をつけた。


「澄くん、スマホの通知鳴ってるよ」

「誰から?」

「………優斗くんだけど、このロック画面は何かな?」


昊ちゃんは笑顔でスマホを俺の顔の前にかざした。

慌ててスマホを奪い取るように手を伸ばすと、昊ちゃんは取れないようにスマホを持った方の手を後ろに下げた。

昊ちゃんの寝顔をロック画面にしてたの忘れてた。

なんとか取り返そうとしていると体勢を崩して昊ちゃんを押し倒す形になった。


「返してくれなきゃキスするよ」

「………すれば?」

「いいの?明日仕事だよ?」

「キスだけならいいよ」


昊ちゃんは少し赤い顔のままニヤッと笑った。

俺はキスをして、そのままスマホを取り返した。


「あ、ずるい!キスしたのにスマホ取った!盗撮したのに!」

「ごめん。ロック画面変えるから許して」

「ダメ。寝起きの顔、写真に残すとか有り得ない。消すからスマホ貸して」

「それだけは、勘弁してください。誰にも見せないから」

「普通に嫌だ。なんでこんなブサイクな顔撮るの?意味分かんない」

「いやいや。可愛いから撮ったんだけど。だからお願い、消さないで昊ちゃん」


顔の前で手を合わせると、昊ちゃんは少し納得がいかないような目で俺の目を見る。

ダメ?と不安になって昊ちゃんの顔を覗き込むと、仕方なさそうに笑った。

誰にも見せないなら消さなくてもいいよ、と昊ちゃんは俺の頭に手を置いた。


「ありがとう。大好き」


昊ちゃんを抱きしめて耳元でそう言うと、呆れたように鼻で笑われた。


「澄くん、どんだけ私のこと好きなの?」

「まあ、昊ちゃんが思ってる以上だと思うよ」

「だろうね」


ロック画面を高校の時に初めて撮ったツーショットに戻した。

やっぱこっちの方がお揃いだしいいかも。

それにしても、昊ちゃんがブサイクになる瞬間なんてないのにな。

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