23、絢斗と彼女
高校3年生の4月。
最後のクラス替えだ。
受験勉強に専念するために、2年の3月いっぱいで合気道を辞めた。
元々、道場に通っていたからという理由で入っていただけだから辞めるのに名残惜しさみたいなものはなかった。
そもそも、幽霊部員ばっかだし。
教室に入ると友達の原田颯真がいた。
今年は颯真も同じクラスなんだ。
楽しみかも。
「颯真、また同じクラスだね。よろしく」
「よろしく、絢斗」
他に誰か同じクラスの人がいないかと見ていると1人の女子生徒がこっちに歩いてきた。
俺と颯真の友達の鈴村凌我の彼女、八尾夏芽さんだ。
「さっきまで凌我が原田と梶本と同じクラスとか羨ましいってずっと言ってたよ。こっちとしても、3年間茉優と同じクラスとか普通に羨ましいんだけど」
「本当にな。でも、凌我がいるなら安心だよ。茉優に変なやつが近付いたらすぐに教えてくれるだろうし」
「確かに」
颯真の彼女の服部茉優さんと八尾さんは従兄弟同士らしい。
それもあってか、颯真と凌我と八尾さんと服部さんはすごく仲が良い。
正直、少し羨ましく思うときもあるけど、俺とも同じように仲良くしてくれる優しい人たちだ。
始業式とホームルームが終わって、すぐに帰れる。
明日は入学式だから準備担当の委員会だけは居残りみたいだけど。
ワイヤレスイヤホンをつけて、電車に乗った。
学校の最寄りから3駅先で降りて、乗り換えてまた3駅のところで降りた。
改札を出てすぐのところで県内の私立高校の制服を着た女子生徒が待っていた。
イヤホンを取ってその女子生徒の方に行った。
俺の幼馴染の朝日凛。
小学生の頃までは俺の方が背が低かったけど、いつの間にか凛ちゃんを追い越していた。
凛ちゃんが153センチで俺が176センチだから今は結構な身長差だ。
凛ちゃんの横に並んで家に向かって歩き始めた。
実は今、凛ちゃんと喧嘩中で少し気まずい。
まさか待ってくれてるとは思ってなくて改札を出たときは少し驚いた。
喧嘩の原因は俺だ。
俺の受けたいと思ってる建築学部の大学はここから電車で片道3時間。
受かれば確実に寮生活になる。
凛ちゃんは実家から通える大学を志望してるから、今見たいにすぐに会おうとしても会えなくなる。
だから、別れて幼馴染に戻ろうって提案した。
側にいてくれる誰かを好きになった方が良いって。
それですでに怒らせちゃったのに、凛ちゃんは可愛いからすぐに他の人と付き合えるよって言ったのが悪かった。
『私があやくんと付き合ってるのは彼氏がほしいからじゃなくて、あやくんが好きだからだよ!』
そこから1週間、口をきいてくれない。
謝りに行こうとしても帰ってって言われるし、メッセージも無視されてた。
今日、待ってくれてたのは話を聞く気になったって捉えてもいいかな。
「凛ちゃん、この前はごめん。凛ちゃんの気持ちを軽んじた発言だったと思う。それに、相談もせずに急に別れ話したのもごめん」
「………あやくんは、私のこと嫌いで別れようって言ったわけじゃないんだよね?」
「うん。好きだから、凛ちゃんを不安にさせたりすれ違って喧嘩するくらいなら幼馴染に戻りたいって思った」
凛ちゃんはそっか、と笑うと俺の右手を握って見上げた。
そのまま俺の胸に頭を当てた。
「許してあげる。そのかわり、別れないから」
「いいの?どのくらいの頻度で会えるか分からないんだよ?」
「私、車の免許取るから、寂しくなったら会いに行くよ」
「凛ちゃんらしいね」
とりあえず仲直り、かな。
家に着いて凛ちゃんに手を振って鍵を開けた。
俺と凛ちゃんの家は向かい側にある。
両親が共働きで一人っ子の俺は、昔からよく凛ちゃんと凛ちゃんのお兄ちゃんと妹と一緒に遊んでいた。
だから、小学校の高学年くらいに凛ちゃんを好きだと気付いても幼馴染の関係が壊れるのを恐れてなかなか告白できなかった。
告白してしまったら、凛ちゃんだけじゃなく凛ちゃん兄弟とも幼馴染ではいられなくなるんじゃないかって。
結局、俺から告白することは出来ず、高1の12月の最初に凛ちゃんから告白してくれて付き合うことになった。
〜〜〜〜〜
テスト最終日、部活はなかったけど委員会の仕事があって1時過ぎまで学校で居残りをしていた。
やっと仕事が終わってお礼として先生にもらった菓子パンを食べていると、メッセージが届いた。
『委員会終わったら外来て』
パンを飲み込んで同じ委員の人たちに挨拶をして校舎を出た。
すると、校門のところに見覚えのある制服を着た女子生徒がいた。
驚いて駆け寄ると、凛ちゃんが笑って待っていた。
今朝、凛ちゃんと駅まで行くときに、今日一緒に帰らないかと誘われたけど委員会の仕事があるからと断っていたから、まさか迎えに来て待ってるなんて思ってもいなかった。
「驚いた?」
「それは、もう」
「やった。サプライズ成功。委員会お疲れ、あやくん」
「ありがとう。それより、なんで待ってくれてたの?」
「………モール行かない?」
「いいよ。行こ」
乗り換えの駅からバスで10分ほどでショッピングモールに着く。
一度、凛ちゃんと遊んだときに、颯真と凌我と偶然会ってそのときに紹介した。
幼馴染と紹介したのに、颯真には俺が凛ちゃんを好きだとバレたらしい。
その次の日は質問攻めだった。
そんなことを思い出しながら、モール前でバスを降りた。
凛ちゃんもすでにお昼ご飯を食べたみたいだからゲームセンターで遊ぶことにした。
エアホッケーが空いていたからまずはそれからしようとなった。
100円ずつ入れてボタンを選択すると、円盤が出てくる。
凛ちゃんは二刀流で、投入口を塞いでいる。
けど、少し余白があるからそこに目掛けて円盤を打つとピッタリ入った。
凛ちゃんがこっちに打った円盤を止めて、投入口の方を見た。
今度はさっき円盤が入った方を押さえてるから逆側を狙って打った。
「なんで入るの!?」
「あと1回で俺の勝ち」
「なんでそんなに強いの?」
「凛ちゃんが弱いだけだよ」
エアホッケーは俺がすんなり勝ってしまって、今度はカーレースの勝負を申し込まれた。
カーレースにも勝つと、凛ちゃんはなんでそんなに強いの?と少しむくれたような顔をした。
「凛ちゃんがゲーム一緒にしてくれないからじゃない?」
「だって、あやくんがゲームしてるところ見るの好きだもん。一緒にゲームしたら、あやくんのこと見れないじゃん」
「そう、だね」
本当に俺の幼馴染は思わせぶりばっかしてくる。
もしかしたら凛ちゃんも俺のこと好きなのかなって勘違いしては、やっぱりそんなことないよなと落ち込む。
その繰り返しばかりだ。
「あやくん、プリクラ撮ろ」
「俺、撮ったことないけどいいの?」
「大丈夫。私もないから」
「友達と撮らないの?」
「私の友達、プリクラ興味ないから。けど、漫画とかアニメ好きだからよくおすすめ紹介しあってるんだよ」
「そっか」
中学のときは、オタクだってバカにされたり、俺と一緒にいたら男に守ってもらってるぶりっ子だって悪口叩かれたりしてたから正直心配してたけど、高校ではちゃんとした友達できたみたいで良かった。
そもそも、凛ちゃんが酷いこと言われてたのって可愛いしモテるからその嫉妬だろうし。
プリクラの外の機械でモードを選択して、撮影ブースに入った。
荷物を置いて、ボタンを押すと早速撮影が始まったらしい。
ポーズの指定があった。
凛ちゃんとハート作るってなに?付き合ってもないのに。
プリクラってそういうものなの?
「あやくん、早くしないと」
「あ、ごめん」
とりあえず、ハートを作った。
こんなの、端から見たらカップルに見えるんじゃ。
なんとか撮り終えて、落書きとかは分からないからとりあえず今日の日付だけ書いてプリントした。
QRコードから読み取って、プリントしなかった分の画像をダウンロードできるらしいけど、俺も凛ちゃんもアプリを持っていなかったから読み取るのは諦めた。
プリクラを1枚ずつもらって、凛ちゃんは満足そうに笑いながら見ていた。
凛ちゃんが楽しそうだからそれでいっか。
ゲームセンターを出てちょうどバス停に停まっていたバスに乗って駅に向かった。
駅から家の最寄り駅まで帰って凛ちゃんと一緒に家に向かった。
「あのさ、あやくん。クリスマス空いてる?」
「空いてるよ。今年も凛ちゃんの家でクリスマスパーティーするの?」
「それは、するけど。『初恋の観覧車』って映画、面白いんだって。イブに見に行かない?」
「いいけど。イブってカップルばっかだよ?俺と凛ちゃんが2人だと中学の同級生とかに会ったらデートだってからかわれるかもしれないけどいいの?」
凛ちゃんはムッとして俺の顔を見た。
なんでこんなに拗ねてるの?
分からずに首を傾げていると、凛ちゃんが俺の腕を引いて顔を近付けた。
顔が熱い。
赤くなってるだろうなと思いながらも凛ちゃんの顔を見ると、俺と同じくらい真っ赤になっていた。
「あやくんのことが、好きなの。私、あやくんとならデートってからかわれてもいいよ。あやくんは、私と付き合ってるって思われるの嫌?」
「………嫌じゃ、ないよ。むしろ嬉しい」
凛ちゃんは俺の腕から手を離して俺の顔を見上げた。
「俺も、ずっと凛ちゃんのことが好きだったよ。怖くて自分の気持ちも言えないような奴だけど、付き合ってくれる?」
「うん」
〜〜〜〜〜
昼ごはんを食べて、皿を片付けているとインターホンが鳴って出ると凛ちゃんがいた。
玄関のドアを開けて凛ちゃんをあげると、参考書とノートを持って俺の部屋に向かおうとした。
慌てて凛ちゃんを引き止めると凛ちゃんは首を傾げた。
「エロ本?」
「違います。けど、片付けてくるからちょっと待ってて」
「ちゃんと見えないところに隠しなね」
「だから違うって!」
階段を上って、凛ちゃんの誕生日プレゼントをクローゼットに隠した。
凛ちゃんの誕生日は明後日だから、サプライズにするためにも今日は隠しておく。
いや、クローゼットよりも勉強机の引き出しの方がいいか。
なんとか隠して凛ちゃんを呼びにリビングに戻った。
「遅かったじゃん。ホントに何か隠してた?」
「………そんなことより、早く勉強しよ」
「まあ、あやくんも男子高校生だし、深くは訊かないよ」
「言っとくけど、凛ちゃんが思ってるのとは絶対に違うからね」
「分かってるって」
部屋で参考書を広げてそれぞれ勉強をした。
しばらく勉強して、少し休憩しようと伸びをすると凛ちゃんと目が合った。
凛ちゃんは何も言わないまま、俺の胸に顔を埋めた。
甘えてくるのはいつものことだけど、俺の顔を見ないのは珍しい。
「何か話したいことでもあるの?」
凛ちゃんを抱きしめてそう訊くと、凛ちゃんは俺から離れようとしたけど強く抱きしめると俺の着ていたトレーナーを掴んだ。
「好きだよ、あやくん」
「俺も」
「周りで彼氏いた子たち、進路が違うからって別れてる人多いみたい」
「遠距離になるの不安?」
「あやくんが私以外を好きになるのは想像できないけど、あやくんが私を好きじゃなくなるんじゃないかなって不安にはなる」
やっぱり、誕生日まで待たなくてもいいかな。
誕生日は誕生日で凛ちゃんの好きなケーキ屋さんに一緒に行けばいいか。
引き出しを開けて小さい箱を取り出した。
いざ、渡すとなると緊張するな。
「凛ちゃん。って、寝てるし」
最近はテスト勉強と受験勉強の両立で睡眠時間削ってたみたいだし、少しくらい寝かせてあげよう。
あ、そうだ。
寝てるうちに指輪が入るか試してみよう。
凛ちゃんに渡すつもりでいた小さい箱からリングを取り出して凛ちゃんの左手の薬指に通した。
一応測っておいて正解だった。
結構すっと入って一瞬焦ったけど、ピッタリっぽい。
だんだんこの体勢が疲れてきて、ソファの背もたれにもたれかかってそのまま目を閉じた。
〜〜〜
「あやくん!起きて!」
「ん、なに?」
眠い目をゆっくり開けると、凛ちゃんが泣きそうな顔で俺の目の前に左手の甲を持ってきた。
「これ!薬指!指輪!」
「凛ちゃん、語彙力」
あくびをしながら凛ちゃんの顔を見下ろすと、泣きそうな震えた声で俺の名前を呼んだ。
なに?と笑って訊くと、凛ちゃんはとうとう涙を溢した。
けれど、泣きながらも笑って俺に抱きついた。
「ありがとう、あやくん」
「どういたしまして」
「あやくんって、私のこと大好きだね」
「はいはい。大好きですよ」
「私も大好きだよ、あやくん」
重いって思われたら困るから、ギリギリまで買うのを迷ってたけどバイトして頑張って買って良かった。
まさか、こんなに喜ばれるとは思ってもなかった。
凛ちゃんは上機嫌で参考書を開いて勉強を再開した。
夜になると、凛ちゃん宅で夕飯をいただくことになった。
凛ちゃん宅にお邪魔すると、凛ちゃんの5歳年下の妹の舞ちゃんと年子の兄の景くんが一緒にゲームをしていた。
相変わらず仲良いな。
2人の後ろを通り過ぎて凛ちゃんの部屋に来た。
「ペアリングなら、あやくんも身に着けてね」
「はい」
「高校は無理だから仕方ないけど、大学生になったらちゃんと指につけてね」
「凛ちゃんもね。大学なんて変な男いっぱいいるだろうし」
「毎日つけるよ」
顔を見合わせてニッと笑い合った。
遠距離恋愛に対する不安が全く無くなったわけじゃないけど、それでもなんだか俺と凛ちゃんなら乗り越えられそうな気がしてきた。




