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2、海


 夏休みが始まって、最初の木曜日。

今日はクラスメートたちと一緒に海に行く。

学校の最寄り駅から電車で20分ほどのところに海はある。

現地集合で俺と坂倉は家が同じ市内のため、駅から一緒に向かった。


海近くの駅の改札を通るとクラスメートが9人来ていた。

そうだ。これで全員だ。


「めちゃくちゃ減ったよな」

「みんな、それぞれ予定入っちゃったからね」

「ドタキャンじゃないだけマシだろ」

「それもそうだな」


全員揃ったということで海に向かった。

海の家にある更衣室で水着に着替えて外に出ると、俺が思いを寄せている彼女は私服のまま空を見上げていた。

すぐに更衣室に戻って私服に着替えると、凌我と絢斗が首を傾げた。


「颯真、なんで着替えたの?」

「私服で泳げねえよ」

「まあ、今日は泳がなくてもいいかなって」


2人は不思議そうにしてたけど、更衣室から出て納得したように頷いた。

鞄を持って彼女の側に行った。

彼女は驚いた顔で俺を見上げていた。

そんな顔も可愛くてニヤけそうになる。


「原田くんも水着忘れたの?」

「うん。服部さんも?」

「朝、入れたと思ったんだけどね」

「じゃあ、今日は仲良く荷物番してようか」

「そうだね」


海の家でパラソルを借りてきて、その下に家からそれぞれ持ってきたレジャーシートを敷いた。

レジャーシートは11人分あるから、荷物を置いても余裕がある。

服部さんと並んで座って、みんなが浮き輪で浮いたり水鉄砲の水を掛け合ったりして遊んでいるのを遠巻きに見ていると彼女は膝を抱えて座って俺の方を見た。


「原田くん」

「どうしたの?」

「泳いできてもいいんだよ」

「え、」

「水着、忘れてないでしょ?私に気を遣ってくれただけでしょ?」

「カッコつけようと思ってたのに、バレてた?」

「うん。だって1回着替えてたし」


1回着替えて更衣室から出たから、バレててもおかしくないか。

けど、少し恥ずかしくて頬を掻いた。

彼女は申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。


「そんな顔しないでよ。俺、服部さんが来るって聞いて来たんだから、こうやって話せるだけで十分だよ。海なんていつでも来られるし」

「私と話してるより、海に入った方が楽しいと思うよ」

「それを決めるのは俺だから。俺は服部さんと話す方が楽しい」


そう言ってニッと笑うと、彼女は耳まで真っ赤になって少しだけ高い俺の目を見つめていた。

もしかして、照れてる?

可愛すぎる。

その照れが俺まで移ってきたのか顔が熱くなる。

すると、風が吹いて彼女の長い髪がなびいた。

目の前にいる彼女は本当に綺麗だなぁと改めて実感した。


「可愛くて綺麗とか最強じゃん………」

「へ、」


彼女の顔がまた赤くなるのを見て、自分の心の声が漏れていたことに気付いた。

嫌な思いをさせてたら、と焦って謝ろうとすると思ってもいなかった質問をされた。


「原田くんって、坂倉さんのこと好きなんじゃないの?」

「坂倉!?中学から一緒ってだけで別に好きじゃないけど」

「そうなんだ。そっか」


まさか、勘違いされてたとは。

それもそうか。俺、クラスで話す女子って坂倉ぐらいだもんな。

他の女子と全く話さないわけじゃないけど、授業関係とか以外では特に話し掛けられないからな。

坂倉は大した話題じゃなくても話し掛けてくるからよく話してるように見えても仕方ない。


泳ぎ疲れた絢斗たちが戻ってくる頃には、もう昼になっていた。

昼ごはんは海の家で食べて、また俺と服部さんで荷物番をしていると坂倉と凌我と絢斗がアイスを2つ買ってきた。


「荷物番ありがとね」

「これ、2人で食べて」

「ありがとう」

「いただきます」


俺はスイカバー、服部さんはソーダ味のアイスの袋をそれぞれ空けて口に運んだ。

暑いからか、彼女と食べるからか分からないけどめちゃくちゃ美味い。

幸せそうに笑っている彼女の方にアイスを向けた。


「俺のも一口食べる?」

「いいの?」

「気にならないなら全然いいよ」

「じゃあ、私のと一口交換しよ」


彼女は笑って俺の持っていたアイスと自分の持っていたアイスを交換した。

ソーダもいいな、と思いながら彼女にアイスを返した。

あ〜、ヤバい。海って入らなくてもこんなに楽しいっけ。


緩みきった口元をキュッと引き締めて軽く息を吐いた。

凌我が俺のスマホを奪い取って撮るぞ〜と言いながらシャッターを押した。


「ごめん、服部さん。急に写真とか。嫌なら消すけど」

「嫌じゃないよ。だから、消さなくていいよ」

「うん」


俺は立ち上がって、凌我の首に腕を回して彼女の側から離れた。


「何やってんの?バレたらどうすんの?」

「いや、こんぐらいでバレてたら颯真の表情ですでにバレてるから」

「それは同感」

「絢斗まで」

「まあ、颯真は良かったんじゃない?連絡先聞くきっかけができたわけだし、好きな子とツーショットが撮れたわけだし」


それもそうか。

後で服部さんの連絡先、聞いてみようかな。

写真送るからって。

いや、それだと下心あるって思われないか?

ないわけでもないから否定しきれないし。


彼女の方に視線を向けると、坂倉と何かを話しているようだった。

誰とでもすぐに打ち解けられる坂倉なら、服部さんとも仲良くなれる気がする。

上から目線かもしれないけど、服部さんがクラスに馴染めるのは嬉しいな。



少しずつ、日が落ちてきて海で遊んでた組は私服に着替えに行った。

俺と服部さんは荷物を1箇所に固めてレジャーシートを片付けて、パラソルを返しに行った。

まだ、他の皆は戻って来ていなかったため、今だと思ってスマホを取り出した。


「服部さん、ライン交換しない?」

「え、」

「嫌なら、いいんだけど」

「そういうわけじゃないよ。驚いただけ。交換しよう」


交換してすぐに、服部さんがよろしくと可愛い猫のスタンプを贈ってくれた。

俺も自分の持ってるスタンプの中でなるべく可愛いものを探して送った。


「可愛い………」


これからこのスタンプを送るたびにそう呟く彼女を思い出すだろう。


みんな着替え終わってから、駅に向かった。

電車内は少し混雑していてベンチシートに座りたかったけど、まばらでしか空いてなくてみんな少し離れて座ることになった。

凌我と絢斗の気遣い?で俺と服部さんが3人分くらい空いているところに座ることになった。

2人とも面白がってるのはバレてるからな。

少しは感謝をしながらも席に座ると、空いていた隣のスペースに坂倉が座った。


「ねぇ、今度一緒に宿題しようよ」

「そうだな」

「どこでしよっか。あ、原田ん家行ってもいい?」

「まあ、いいけど。服部さんも来る?」

「え、と」


服部さんは少し困ったような顔をして俯いた。

仲良くなった気でいたのは俺だけだったのかな。

友達とも思ってない人から急に家に誘われたら普通に嫌だよな。


「あの、予定が分からないから、分かってから返事してもいい?」

「うん。もしかして夏休み忙しいの?」

「あ、実はそうなんだ。8月の初めにマンションから一軒家に引っ越すから、結構バタバタで」

「そっか。じゃあ、引っ越し終わって一段落してからにしようか」


お盆くらいになってもどうせ宿題終わってないし。

駅について、俺と坂倉は電車を降りた。

俺と坂倉は小学校は別だったため、同じ市内ではあるものの家はあまり近くない。

数分ほど歩くと、分かれ道が来た。

坂倉は立ち止まって俺の服の裾を掴んだ。

振り返ると、少し赤く染まった顔で見つめていた。


「好きだよ、原田。中1のときからずっと」

「………マジ?」

「マジ」

「………けどごめん。俺、好きな子がいるから」

「知ってる。服部さんでしょ?見てれば分かるよ。けど、諦めるつもりはないから」

「じゃあ、なんで」

「告白しないと意識してくれないでしょ」


初めて告白されたしドキドキしますけど。

俺は服部さんのことが好きだし、変わることがないと思う。

坂倉は本当に友達でしかない。


「そういう真っ直ぐなところも好きだよ」

「ありがとう」

「私のこと振って、後悔しても知らないから。これでも結構モテるんだよ」

「知ってる」

「困らせちゃって。ごめんね。また学校でね」


坂倉は走っていった。

それにしても全く気付かなかったな。

坂倉、気持ち隠すの上手すぎる。

それに比べて俺はバレバレらしいし。

というか、また学校でって、宿題の件は無しってこと?

服部さんと2人、はさすがにまだ早い気がする。

服部さんの予定が確定してからだし、凌我と絢斗でも誘おうか。


家に帰ってすぐにシャワーを浴びて部屋に行った。


みんなが今日撮った写真がグループにどんどん送られてくる。

絢斗と凌我と俺の3人のグループの方では俺と服部さんの写真が何枚も送られてきた。

隠し撮りしてたのかよ。

そう思いながらも服部さんに絢斗たちから送られてきた写真と、俺のスマホで凌我が勝手に撮ったツーショットを送った。

既読がついてソワソワしながら写真を見ていると服部さんからも1枚写真が送られてきた。

その写真には、スマホを満面の笑みを浮かべて見ている俺が写っていた。


『すごく、いい笑顔だったから撮っちゃった』

『服部さんと連絡先交換できたのが嬉しすぎて』

『私も嬉しかったよ』

『本当に?』

『うん!原田くんとお友達になれて嬉しい』

『こっちの台詞だよ、これからもよろしくね』


よろしくというスタンプが送られてきた。

可愛い〜。

スマホを胸に当ててベッドでゴロゴロと転がっていると部屋のドアがノックされた。

ドアを開けると姉が立っていた。


「夜ごはん」

「りょうかい」


リビングに行って夜ごはんが並べられたテーブルの前に座った。

夜ごはんはほとんど姉が作ってくれている。

時々、父方の祖母が家に来て作り置きをしてくれることもある。

うちは小さい頃に母親が家を出ていってずっと父子家庭だ。

仕事で忙しい父さんの分、姉が家事を担ってくれている。

そのため、俺は姉に逆らうことは基本的にできない。


「あ、そうだ。颯真、8月3日空いてるよね?空けといて」

「何曜日?」

「土曜」

「空いてる」

(そら)、分かるでしょ?私の友達の」

「うん」

「家族で近所に引っ越してくるらしいから荷解き手伝ってほしいんだって」

「分かった」


夜ごはんを食べ終えて洗い物をしてソファに座った。

バラエティを観たかったけど、すぐに連ドラに変えられた。

姉の好きなイケメン俳優が出ているドラマだ。

これはこれで面白いからいいかと思いながら冷凍庫からアイスを取り出した。


「颯真〜、私のも」

「チョコかバニラ」

「バニラ」


アイスとスプーンを持って姉に渡した。


伊吹(いぶき)、彼氏できたら言ってよ」

「はぁ?いつからシスコンになったわけ?」

「そうじゃなくて、ご飯当番変わるから。昊さん以外友達いないのも、家事1人でしてくれてるからだろ?」


家の事を全部請け負ってくれているから、事情を知らない人は姉が自分と遊びたくなくて断る口実にしているだけだと思っている人が多い。

申し訳なくて姉から目を逸らすとデコピンされた。


「昊しか友達いないとか余計なお世話。私、こんな性格だからさ、すぐに人とぶつかるし、昊以上に気が合う人がいないだけだよ。家事は好きでやってるし。でも、デートのときは当番変わってね」

「いつになるか分からないけど」

「うっさい」


ごめんごめんと謝りながらテレビに視線を向けた。

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