17、モテ期
新学期に入って、あっという間に体育祭も文化祭も終わって高校最大イベントである修学旅行が近づいて来た。
あと1週間で修学旅行となってくるとカップルも増えてくる。
そして、恐れていた事態がやって来た。
昼休み、こっそり茉優の教室を覗きに来たけど茉優はいなくて代わりに凌我が茉優が呼び出されたことを教えてくれた。
空き教室に行くと、中から声が聞こえてきた。
悪いなと思いながらも耳を立てた。
「服部さん、もし良ければなんだけど、修学旅行の自由行動、俺と一緒に回らない?」
「………ごめんなさい」
「もう、誰かと回る予定とか」
「うん。瑠璃ちゃんたちと」
そっか。友達と回るのか。
友達と………。
空き教室のドアが開いて、慌てて曲がり角に隠れた。
茉優に告白していた生徒は真っ直ぐ俺の横を通り過ぎていって、少ししてから茉優も空き教室から出て来た。
茉優は俺のいる方に曲がってきた。
周りに誰もいないのを確認して、茉優を抱き寄せた。
どうしたらもっと心が広くなるだろう。
付き合ってるのを隠したいっていう茉優の気持ちを考えれば修学旅行の自由行動は別の方がいいのだろう。
だから、茉優が友達と回る約束を既にしていてもおかしくはない。
分かっていても、俺も一緒に回りたかったなんて思ってしまう。
「颯真、誰か来ちゃうよ」
「ごめん」
茉優を離して階段を降りようとすると手を掴まれた。
振り返ると、罪悪感たっぷりの顔で俺の顔を見ていた。
「今日、颯真の家行ってもいい?」
「うん。おいで」
茉優の手を一度握り返してから手を離して階段を降りて教室に戻った。
隠したいって行ったときに断っておくべきだったかもしれない。
修学旅行、来てほしくないな。
放課後、茉優がまた告白されている現場を見てしまった。
茉優は元々美人と言われていたけど、あまり話さないし背が高いから気にしている男子が多かった。
けど、2年生に上がってからは茉優はどんどん明るくなっていって学校でもよく笑っているところをよく見るようになった。
そのせいかモテ初めてしまった。
まあ、元々モテなかったのがおかしいけど。
もし、茉優が俺よりも先に他の人に告白されてたらその人を好きになっていたのかもしれないと思うと告白の現場を目撃してしまう度に怖くなる。
そのうち、別の人を好きになるんじゃないかって。
家に帰って着替えて少しすると、私服姿の茉優がやって来た。
玄関のドアを開けてリビングを通って自室に茉優を案内した。
「颯真の部屋入るの初めて」
「あ、確かに」
茉優は面白いものを見るかのように俺の部屋を見渡した。
大したものは置いてないんだけどな。
まあ、楽しそうだからそれでいいか。
「茉優、今日、2回も告白されてたね」
「え、や、3回だけど」
知らない間にもう1回告白されてる。
少しムッとして茉優の顔を見た。
「他の人のこと好きになったりしない?」
「しないよ。颯真が思ってるよりも私、颯真のこと好きなんだから」
「………それなら、いいんだけど」
「ごめんね。不安にさせちゃった?」
「これは俺が自分に自信ないせいだから」
「カッコいいのに?」
茉優は首を傾げる。
なんで自信ないのか分からないとでも言いたげだけど、茉優こそ自分が可愛いって自覚してほしい。
茉優の方を向いて抱きしめた。
離れないでほしい。
ずっと隣にいたい。
そんな本音を茉優が知ったら引かれてしまうだろうか。
「颯真も、告白されても他の人のこと好きにならないでね」
「茉優以外の人、好きになるわけないじゃん」
「確かに。颯真が他の人を好きになったって聞いたらショック以前に驚きそう」
でしょうね。
茉優は俺の顔を見て笑った。
可愛い。
茉優の肩に顎を乗せるようにしてもう一度抱きしめた。
「茉優、修学旅行の自由行動のことなんだけど」
「私は瑠璃ちゃんたちと回るけど、颯真は誰と回るの?」
「あ、まだ、決めてない」
誘ってみようかと思ったけど、やっぱり無理か。
茉優は、隠してるからとか関係なく俺と回りたいって思ってもないのかな。
せっかくの修学旅行なのに。
凌我と八尾さんは2人で回るらしい。
他にもカップルで回る人は多いだろうし、俺もって思いながら修学旅行過ごすのは嫌だな。
外が暗くなってきて、茉優を家まで送った。
翌日の昼休み、八尾さんと凌我と昼ご飯を一緒に食べることになった。
元々、八尾さんと凌我が一緒に食べるところにお邪魔させてもらっただけだ。
学校で付き合っていることを隠しているからって修学旅行まで別行動だということに対しての不満を愚痴っていた。
「茉優がなんでそんなに隠したがるのか分かる?」
「中学のときに、茉優と蓮晴の後輩で私らの1個上の先輩がいて、その人がモテてたんだよね。それで、茉優が仲良かったから嫌がらせ受けたりしてて。そのせいかな」
「………じゃあ、絶対一緒に回れないじゃん」
「そもそも、颯真は服部さんに一緒に回りたいって言ったのか?」
「言ってない」
言ってないけど、そんなこと聞いたら言えない。
俺のワガママで茉優が不安になるくらいなら………。
放課後、八尾さんが茉優の家に行くらしく途中まで一緒に帰った。
家に着くと、既に伊吹が帰ってきていた。
今日は帰るの早いなと思っていると、キャリーケースを取り出していた。
「もうすぐ修学旅行でしょ?これ使っていいよ」
「ありがとう」
「自由行動は茉優と回るんでしょ?自由行動って遊園地だっけ?いいな。私たちは温泉街だったから」
「茉優は友達と回るって。付き合ってるの隠してるし」
「え、」
伊吹は同情するような目を向けてきたけど無視だ。
修学旅行まであと2日になった。
やっぱり、茉優と回りたい。
今日も茉優が家に来るからダメ元で言ってみよう。
放課後、茉優が家にやって来た。
修学旅行の準備で部屋が散らかってるから、今日はリビングに上がってもらった。
紅茶を淹れて、テレビの前のローテーブルにマグカップを置いた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
茉優の隣に座って、フーと紅茶を冷まして飲んだ。
もう11月になるから寒くなってきた。
秋って一瞬で過ぎ去るよな。
茉優を横目で見てテレビに視線を戻した。
視線に気付かれていたらしい。
茉優はどうしたの?と首を傾げている。
「今さらだとは思うんだけど、修学旅行の2日目の自由行動、茉優と回りたい」
「………それは、2人でって意味?一緒にって意味?」
「2人で」
茉優は間を空けずにごめん、と呟いた。
やっぱり無理だよな。
俺の方こそごめん、と謝ろうと茉優の顔を見ると寂しそうに笑っていた。
「茉優は、俺と2人で回りたくない?」
「回りたいけど、」
「もし、茉優が嫌がらせを受けることがあったら絶対に守る」
「分かった。瑠璃ちゃんたちに話してみる」
茉優はスマホを開いてメッセージを打っていた。
すぐに既読がついたのか、またメッセージを打っている。
それから少しして、茉優がスマホを置いて顔を上げた。
「みんな、楽しんでって」
「え、」
「2人で回ろう」
「ホント?ありがとう!茉優!」
抱きしめると、茉優は少し照れくさそうに笑った。
遊園地のサイトを開いて、何から乗ろうと計画を立てていると伊吹が帰ってきた。
伊吹は茉優とパレードの話で盛り上がっていた。
このキャラが可愛いとか、絶対に写真撮りたいとか。
俺は正直分からないけど、茉優と着ぐるみが一緒に写真を撮ってたら絶対に可愛いだろうなとは思う。
結局、予定は絶対に乗りたいアトラクションとパレード以外は向こうに着いてから考えようとなった。
朝の10時頃から閉園まで遊園地にいるため向こうに行ってからも時間はたっぷりある。
外が暗くなってきて茉優を家まで送り届けた。
茉優と遊園地か。
楽しみだな。
修学旅行前日、今日は4限で終わりだ。
帰ってすぐに準備を終わらせて茉優の家に行くと、八尾さんが来ていた。
明日の集合が早いから、学校に近い茉優の家に泊まるらしい。
「初日って、茉優のクラスどこ行くんだっけ?」
「C組は日本銀行だよ。E組は?」
「最高裁判所。確か、B組と合同だった気がする」
「うちのクラスはA組だったかも」
「そっか。楽しみだね」
「そうだね」
茉優と八尾さんは顔を見合わせて笑っている。
明日は早いため、俺もそろそろ帰って早めに寝ることにした。
修学旅行、楽しみだな。




