16、再会
8月に入って俺と茉優の誕生日が近付いた。
去年、誕生日を知ったときには既に過ぎていてお互いにお祝いができなかった。
今年は一緒に県外のショッピングモールにやって来た。
お互いに予算を決めて分かれて誕生日プレゼントを選び合って、後で合流する予定だ。
ちなみに、俺と茉優は誕生日が一日違いだった。
何がいいんだろう。
茉優にあげるものって言ったら食べ物しか思いつかない。
あ、可愛いもの。
何か可愛いものをあげれば喜んでくれそう。
夏だしタオルとか?アクセサリー、は重いよな。
近くの雑貨屋に入って可愛いものを探した。
ハリネズミのタオルと水色の蓋が木目模様の水筒を買った。
店員さんに高校生の彼女への誕生日プレゼントは何がいいかと訊くと色々あげてくれたがその中でも水筒は使い勝手が良くデザインも豊富なため人気だと訊いた。
プレゼント用のラッピングをしてもらって待ち合わせをしている自動販売機に向かった。
その途中で迷子の子供を探しているらしい少し背の高い女性がいた。
探すのを手伝おうかと女性に話しかけに行った。
「あの、もしかしてお子さんが迷子になられてますか?」
「そうなんです」
女性は顔を上げて俺の方を見た。
その瞬間、頭が真っ白になった。
何も言えずに固まっていると、女性が驚きと困惑が混ざり合ったような表情を浮かべた。
「そう、」
「迷子になったのはどんな子ですか?」
「えっと、この子。名前は日向」
女性が見せた画像には小学生くらいに見える男の子が写っていた。
近くの店を手分けして探すことにした。
日向くんを探すこと10分、店内の放送で迷子のお知らせが流れた。
名前も特徴も日向くんで間違いないため、女性と一緒にサービスカウンターに向かった。
途中で茉優に待ち合わせ時間に遅れそうと連絡をしようとスマホを見ると、茉優からも遅れそうと連絡が来ていた。
サービスカウンターの隣の迷子センターに行くと写真の男の子が女性を見つけると駆け寄ってきた。
「お母さん!」
「日向!ごめんね。寂しくなかった?」
「お姉ちゃんいたから」
女性はハッと顔を上げた。
すると、茉優が微笑んで会釈した。
それを見た瞬間、女性は少し安堵したような笑みを浮かべた。
茉優は俺の方を見て少し驚いたように目を見開いて小さく笑みを溢した。
そんな彼女に笑い返すほどの余裕がなく目を逸らしてしまった。
女性は茉優にお礼を言うと俺の方を向いた。
「少し、話せる?」
「………茉優、ちょっと待っててくれる?」
「うん」
カフェに行って茉優と日向くんと少し離れた席に女性と向かい合って座った。
日向くんは茉優に懐いているようで楽しそうに話している。
注文したコーヒーを一口飲むと、前に座っている女性が少し寂しそうに笑った。
「久しぶりね」
「そうだね」
「コーヒーとか、飲めるようになってたなんて。大人になるのは一瞬ね」
「………日向くん、何歳なの?小学生?」
「6歳の年長よ。颯真と同じで背が高いからよく間違われるけど」
目の前の女性は楽しそうに笑っている。
俺はそんな気分ではない。
「彼女と来てたのね」
「そう。伊吹がいなくて安心した?」
そう言った瞬間、女性の目からすーっと涙がこぼれ落ちた。
ごめん、ごめんなさいと何度も繰り返し謝った。
少し落ち着くのを待って日向くんに視線を移してもう一度目の前の女性に視線を戻した。
「俺は、正直、どうしたらいいのか分からない。伊吹と父さんはあなたのこと見たくもないかもしれないけど、俺にとっては唯一の母親のままだから。」
そう言った瞬間、目の前の女性はまた泣き出してしまった。
そして、やっぱり颯真は優しいのねと笑った。
目の前にいるのは、7年前に別の男の人と出て行った実の母親だ。
正直、そのときはまだ小学4年生で何があったかは詳しく知らない。
ただ、お母さんが浮気していて父さん以外の人と結婚するために家を出て行ったことは知っていた。
周りから見たら家族を傷付けた最低な母親でも、俺にとっては怒ったときは怖いくて、学校であった話をしてると楽しそうに聞いてくれて、風邪を引いたときは夜中でも夜間病院まで連れてってくれるそんな優しい母親だ。
だから、俺は大好きだった。
伊吹も父さんもそうだったからこそ裏切られたショックで嫌いになったのだろう。
「お母さん、俺たちのことたまには思い出してね」
「毎日思い出してるわよ。私、伊吹に本当に最低なことしたからそれは一生背負って行きていくつもり。颯真、伊吹には今日のこと話さないでね」
「うん」
コーヒーも飲み終わって茉優と日向くんも一緒にカフェを出た。
お代はお母さんが払ってくれて、駅まで車で送ってくれることになった。
駅に着いて車を降りた。
「それじゃあ、元気でね」
「うん」
駅から歩いて茉優を家に向かった。
プレゼントはまだ俺が持っている。
茉優の方が1日誕生日が遅いから、茉優の誕生日に今日買ったプレゼントは交換する。
「そういえば、日向くんと颯真ちょっと雰囲気似てるんだよね」
「………そう?」
「うん。笑った顔が結構似てる。他人のそら似ってあるんだね」
「………だね」
他人じゃないけど。
父親違いの弟だから。
茉優を送ってから、家に帰ると伊吹が帰っていた。
顔を合わせるのが気まずいと思いながらもリビングに行かないと部屋には行けないためリビングを通って階段を上った。
俺が2段ほど上ったとき、伊吹に呼び止められた。
なんか、声が怒っている気がする。
麦茶少なくなってたのを言ってなかったからかな。
恐る恐る振り返ると、ものすごく怒った顔で俺の方を見ていた。
「今日、駅で車から降りてくるところ見たんだけど、車運転してたの誰?」
まさか、見られていたとは思わず驚いたが動揺を隠して普通に答えた。
「今日、茉優とショッピングモールに行ったんだけどそのときに迷子探すのを手伝ってお礼に駅まで車で送ってもらった」
多分、平然とした態度で言えたと思う。
それでも、伊吹は怒った顔のままだ。
「名前は?その人の」
「要さん」
「下の名前」
「………めぐり」
その名前を出した瞬間、伊吹は真顔になった。
色々な感情が混ざり合って、表情も追いつかないように見えた。
言わないって、お母さんと約束したけど伊吹はもう見てるから嘘を吐いたところで信じてもらえないだろう。
「なに、勝手に会いに行ったりしてんの?忘れたの?お母さんが私たちにしたこと」
「会いに行ったわけじゃない。偶然会って久しぶりだからって話してただけだろ」
「なんで話すの?意味分かんない」
「伊吹が嫌ってるからってなんで俺まで嫌わないといけないんだよ!」
「そういうこと言ってんじゃないじゃん!お母さんは私たちのこと裏切ったんだから関わるなってこと!」
「今日、ちょっと話しただけでなんでそんなに言われないといけないんだよ!」
俺はすぐに家を飛び出した。
伊吹がどれだけお母さんのことを嫌って、憎んで、恨んでいるか知ってるつもりだったけど全然分かってなかった。
お母さんも伊吹に最低なことをしたって言ってたから二人の間で何かがあったのかもしれない。
それでも、俺が伊吹と全く同じ考えを持っているわけじゃないのに同じように全く関わりを持つなっておかしいだろ。
気が付いたら茉優の家の前に来ていた。
チャイムを鳴らすと、出て来たのは茉優ではなく茉優の兄の蓮晴だった。
「茉優〜!颯真来てるぞ〜!」
「え!」
蓮晴が玄関から叫ぶと茉優が走って出て来た。
「どうしたの?急に」
「今日、迷子になってた日向くんのお母さん、俺の実のお母さんなんだよ。それで、車で送ってもらったのが伊吹にバレて」
そこまで言うと蓮晴は走って行った。
茉優は驚いたような顔をしながらも、少し納得したような顔をして公園行こうと俺の手を引いて歩き始めた。
「日向くんと颯真似てるなって思ってたけど、お母さんが一緒なんだ。そりゃ、似てるよね」
「ごめん。隠してて」
「いいよ」
公園に着いて、ブランコに座った。
もう、6時を過ぎているけどまだまだ明るい。
ため息を吐いて足元を見た。
伊吹とこんな喧嘩するのっていつぶりだろう。
年が離れているせいか、そこまで大きな喧嘩をしたことがない気がする。
茉優の顔を見ていると、自然と喧嘩の内容について話し始めていた。
「伊吹がずっと苦しんでたのは知ってるけど、それでも俺はお母さんを嫌いにはなれない」
「嫌いにならなくていいよ。颯真は伊吹ちゃんじゃないんだから。伊吹ちゃんも気持ちの整理がつかなくて当たっちゃっただけなんじゃないかな」
茉優はきっとそうだよ、と優しく笑っている。
俺が一番に茉優のところに来たのは、こうやって今ほしい言葉をかけてもらうためだと思う。
ありがとうと呟いて、ブランコから立ち上がった。
そして、茉優を抱きしめて少ししてから離れた。
ここは近所の公園だから、噂になってしまうわけにはいかないため我慢する。
✳ ✳ ✳
なんで、あの人の車から颯真と茉優が降りてきたの?
駅で2人を見た瞬間、見間違いかと思った。
だけど、私が見間違えるわけがない。
家に帰ってすぐに颯真を問い詰めると、やっぱり見間違いではなかった。
母親と会っていたことに対して責めたけど颯真とは意見が合わなくて颯真は家を飛び出して行った。
どうして分かってくれないの。
あの人は私たちがいないのをいいことに浮気相手を家に上げて私にバレたら過呼吸を起こしている私を放って逃げていったのに。
自分の娘よりもどこかの男を優先するような人と颯真は関わってほしくないのに。
はぁ〜、と大きく息を吐いて夕飯の準備を始めた。
無心で野菜を切っていると、チャイムが鳴った。
あの人が訪ねてきたのかと驚いて包丁で指を切ってしまった。
けれど、外から伊吹!と蓮晴の声が聞こえて急いで玄関に行ってドアを開けた。
蓮晴は床を見てギョッとしたように目を見開いた。
「伊吹!何してるんだ!?」
「あ、さっき包丁で指切って」
「早く消毒!」
蓮晴に連れられてリビングのシンクで血を流して自室に行って救急箱からガーゼを取り出して傷口に当てた。
思っていたよりも傷が浅くて少しすると血は止まったけど、このままだったら夕飯を作れない。
どうしようかと思っていると、蓮晴が何も言わず私を抱きしめた。
何か言われたわけじゃないのに、気が付いたら涙が溢れていた。
そんなに傷が痛いわけじゃないんだけどな。
「颯真のために言ってるのに。いつか、颯真まで傷つけられたらって心配なのに。なんで分かってくれないの!」
颯真に言えばいいのに、私は蓮晴に全部ぶちまけていた。
蓮晴はやっぱり何も言わないまま私を抱きしめていた。
「なんか言ってよ」
「え、なんて言えば」
「なんで分かんないの?」
少し間を空けて、自分で何を言っているのか分からなくなった。
なんか言ってって言いながら分からないって言われたらキレるって私ヤバいな。
ごめん、と蓮晴の目を見つめるとさっきまで困惑顔だった蓮晴は耳まで赤くなっていた。
蓮晴ってなんでこんなに私のこと好きなんだろ。
さっきまでなかなか理不尽なこと言ってたはずなのに、ちょっと甘えて謝るだけでこんなに照れてる。
蓮晴の髪に触れてコツンと額を当てると、蓮晴は驚いたような目でこっちを見ていた。
照れてる姿が可愛くてそのまま蓮晴にキスをした。
そういえば、私からキスするの初めてかも。
「伊吹、ちょっと待って」
「ごめん、つい」
蓮晴から少し離れると、蓮晴はふぅ、と落ち着くために息を吐いていた。
「今さらキスくらいで照れなくても」
「伊吹、なんでそんなに慣れてんの?俺以外と付き合ったことないくせに」
「別に慣れてないよ。けど、蓮晴が可愛いからちょっと攻めたくなっただけ」
「男が可愛いって言われても嬉しくねえよ」
蓮晴は拗ねたように私を抱きしめた。
拗ねてるところがもう可愛いんだけどな。
蓮晴は頼りがいがあるけど、こうやって甘えてくるのは年下って感じがする。
蓮晴が家に来て1時間は経ったくらいだろうか。
颯真が帰ってきて蓮晴も入れ違いで家に帰った。
「………颯真」
「なに?」
「さっきはごめん。颯真のためって思ってたけど、おせっかいだったね。けど、もし、何かあったら言ってね」
「うん。俺も最後まで話聞かずに出ていってごめん」
「いいよ」
仲直りはできた。
けど、もうお母さんの話題には触れない。
夕飯は颯真が準備をしてくれることになって、仲直りができたお礼を蓮晴に伝えた。
『良かった』
「てか、今さらだけどなんで家来たの?」
『伊吹に会いたかったから』
「………ホントかな」
『あ、今、伊吹照れた?』
「照れてないよ」
『好きな子のことなら見てなくても分かるから』
「はいはい」
笑って流しながらも、好きな子と言われたことに喜んでしまう。
チョロいな、私。




