15、嫉妬
茉優のお祖母さんの家から海までは車で約10分。
海に着くと家族連れや数組のカップルがいたものの、去年行った海とは比べ物にならないくらい人が少なかった。
海の家にある更衣室で水着に着替えて先にレジャーシートやパラソルを準備した。
そのうち、茉優たちが水着に着替えて戻ってきた。
茉優はラッシュガードを羽織っているけど、スカートの水着らしい。
私服でも基本的にパンツスタイルかワンピースやロングスカートが多いから、太ももくらいの短さのスカートを履いているのを見るのは初めてだ。
ラッシュガードか、と少しショックを受けたのはなるべく顔に出さないように茉優から荷物を受け取ってレジャーシートに置いた。
「俺たちは荷物番がてらちょっと日陰で休んでるから、颯真くんと茉優ちゃんは遊んできていいよ」
「じゃ、行こっか」
「そうだね」
砂浜を歩いて、波の前にやって来た。
引いては押し寄せるを繰り返す波と追いかけっかをするように茉優ははしゃいでいる。
足でパシャパシャと水を蹴っている。
モデルみたいに画になるな。
夏の恋愛ソングのミュージックビデオとかに出てそう。
「颯真もおいでよ」
「うん」
海に足をつけるとザバァ〜!と波が足に当たった。
夏って感じがして気持ちいい。
昼ご飯は海の家で食べて日が暮れる前にはシャワーを浴びて茉優のお祖母さん家に帰った。
家に帰るといい匂いがしてきた。
お祖母さんとお祖父さんがたくさんご馳走を用意してくれていたらしい。
居間に長い机が並べられていて、その上にどんどん料理の皿が並べられていく。
料理を運ぶ手伝いをして、全ての料理が並ぶとそれぞれおにぎりと箸を持って畳に座った。
「いただきます」
「「いただきます」」
昊さんに続くように手を合わせて、おにぎりを頬張った。
塩おにぎりだ。
めちゃくちゃ美味い。
「美味しいです」
「良かった。たくさん食べてね」
「はい」
大量の料理は気がついたらすっかり食べ終わっていた。
若い人が6人もいるとあっという間に無くなるねとお祖母さんが笑った。
後片付けを手伝って、庭に出た。
昊さんと澄晴さんが準備してくれていた大容量花火2袋をする。
付属のろうそくに火をつけて立てていると、お祖父さんと同世代か少し年下くらいの男女2人がやって来た。
「昊!蓮晴!茉優!久しぶり」
「さすが田舎コミュニティ」
茉優は少し困ったような嬉しそうな顔で2人を見ていた。
茉優が言ってた幼馴染だろうか?
そんなことを考えていると、男の方がこっちにやってきて茉優の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「元気にしてたか?にしても、そのうち身長抜かされそうだな。今いくつだ?」
「4月に測ったときは170.2cmだったけど」
「2センチしか変わんねえのかよ」
誰か知らないけど茉優と距離近すぎ。
だからといってあからさまに嫌な態度を取るのは茉優も気分が悪くなるだろうから見ないように手持ち花火を持ってろうそくの火をつけた。
チラッと茉優たちの方を見ると、久しぶりの再会を喜んでいるのか楽しそうに話している。
ただの幼馴染に嫉妬してるとか知られたら呆れられるかもしれない。
花火を眺めながらため息をついていると、女子の方が隣に来た。
「茉優ちゃんのこと好きなの?」
「そうだけど、」
「あ、私は茉優ちゃんの幼馴染であれの妹の夕凪。茉優ちゃんの1個下の高校1年生だよ」
夕凪ちゃんは茉優と話してる男の方を指して言った。
「夕凪ちゃんのお兄さんは茉優のことが好きなの?」
「多分ね」
「ライバルとか本当にいらない」
そう小さく呟くと、夕凪ちゃんは可笑しそうに笑った。
嫉妬に呆れられたのかもしれない。
いつの間にか花火の火が消えていて、もう一本手持ち花火を取りに行くと不意にTシャツの裾をつままれた。
振り返ると、茉優が立っていた。
「夕凪ちゃんと何話してたの?」
「………別に」
「なんで怒ってるの?」
「怒ってないよ。花火しよ」
茉優に花火を渡すと、納得がいかないような顔をして花火を受け取った。
火をつけて少しすると花火が綺麗に光り出した。
茉優の幼馴染の男の方は蓮晴と楽しそうに話しながら時々茉優の方を見ていた。
その男から茉優が隠れるように立つと俺の肩に手を置いて耳打ちした。
「もしかしてだけど、海くんに嫉妬してたの?」
「………距離近いし仲良いなとは思ってた」
「海くんはただの幼馴染だよ」
向こうもそうだといいんだけど。
そっかと笑ってその場にしゃがみこんで花火を見つめた。
火が消えると、茉優に花火を奪われてそのまま抱きしめられた。
驚いて瞬きをしていると耳に茉優の息がかかって、くすぐったくてバランスを崩してしまった。
そのせいで茉優が俺を押し倒したみたいになって慌てて起き上がった。
他のみんなは花火に夢中で気づいていないようで良かった。
「ごめん。くっつきたくなって」
「それは全然いいけど、しゃがんでるときはやめよう。俺、体幹めちゃくちゃ強いわけじゃないから」
「分かった」
茉優は俺の背中の砂をはたいて縁側に座った。
すると、茉優の幼馴染の海くんがやって来た。
「茉優、花火しないの?」
「もうしたよ」
「あ、髪に砂ついてる」
海くんが茉優の髪に手を伸ばして、反射的にその腕を掴んでしまった。
慌てて手を離した。
今のは嫉妬というか、ほぼ無意識だった。
茉優は驚いた顔で俺の顔を見上げていた。
海くんも驚ろいたような顔をしていた。
「ごめん。」
靴を脱いでそのまま台所に向かうと、お祖父さんとお祖母さんがアルバムを開いていた。
お茶をもらってイスに座るように促されて座った。
「これって茉優たちの小さい頃の写真ですか?」
「そうだよ。これは茉優が6歳のときの母の日にお母さんに一生懸命手紙を書いてるところ」
「へぇ〜。可愛い」
少しアルバムを見せてもらってから庭に戻った。
茉優と海くんはもう話していなくて、それどころか少し気まずそうな雰囲気が流れていた。
もしかしたら、俺のせいで気まずくなったのかもしれない。
茉優は少し寂しそうな顔で線香花火をしていた。
俺も線香花火を取って茉優の花火から火を移した。
「さっきはごめん。俺のせいで海くんと気まずくなった?」
「誰のせいとかじゃないから、気にしないで」
「そっか」
線香花火が落ちると他の花火ももうなくなっていて海くんと夕凪ちゃんは帰っていった。
部屋に戻ってから順番に風呂に入っていった。
全員風呂から出て部屋で蓮晴と澄晴さんと話していた。
澄晴さんと昊さんが来年から同棲を始めると聞いて、そこから恋バナになっていった。
「今日、結局茉優の水着見られなかったな」
蓮晴が少し同情するような目で俺の方を見ていた。
「最後くらいは見れるかと思ったけど、まさかずっとラッシュガード着てるとは」
「俺も昊ちゃんがずっとラッシュガード着てたら複雑な気分になるよ」
「多分、颯真が何も言わないからラッシュガード脱ぐの忘れてたんだろうけど」
忘れないでよ。
正直、海行くって決まったときからずっと楽しみにしてた。
明日はもう海に行く予定はないから見れないし。
「来年までお預けか〜」
「プールとか行けばいいのに」
「2人で行ってるところを誰かに見られて学校に広まるかもしれないだろ」
「そういえば隠してるんだっけ」
近くのプールなんて絶対に知り合いがいる。
俺はまだしも、茉優は背が高いし美人だから目立ってしまう。
知り合いがいたら絶対に気づかれる。
隠れて付き合うのって結構面倒かもしれない。
それからしばらく話して布団に入って寝た。
途中で通知音が聞こえて目を覚ますと、茉優からメッセージが着ていた。
翌朝、6時に部屋を出て私服に着替えて玄関に行った。
「おはよ、茉優」
「おはよ。颯真」
「海まで行くってどうやって行くの?」
「自転車。昔のだけど、ブレーキも壊れてないしパンクもしてないから」
茉優が自転車を2台運んできて俺に渡した。
行きは下り坂のため、自転車でも海まで15分もかからなかった。
海に着くと、茉優は急に服を脱ぎだした。
慌てて止めようとすると、中に水着を着てるからと笑った。
「昨日、丸聞こえだったよ」
「………ごめん」
「別に謝ることじゃないけど。お祖母ちゃんに水着洗濯してもらっててよかったよ」
茉優はTシャツも脱いで水着姿になった。
俺が水着見たいって言ってたのが聞こえたからって、わざわざ朝に見せてくれるだけでも十分嬉しいのに実際に見れてもっと嬉しい。
何言ってんだって話だけど、彼女の水着姿とか見たくない彼氏はいないと思う。
「………可愛い」
「惚れ直した?」
「それは、もう」
大きく頷くと、茉優は少し照れくさそうに笑った。
少し浜辺を歩こうとなって砂浜をゆっくり歩いていると、茉優が立ち止まった。
そしてゆっくりと俺の方に歩いてきて抱きついた。
「今日はしゃがんでないからいいよね」
「うん」
「こうやって颯真とハグするの好き。落ち着く」
「その割には心臓がうるさいような」
「聞かなかったことにして」
「分かった」
6時半を過ぎて足についた砂を落としてから自転車でお祖母さん宅に帰った。
朝食をいただいて、帰る準備をしてお礼を言って澄晴さんの車で家に向かった。
隣は茉優が座っていて、疲れたせいか俺の肩に寄りかかって寝ている。
俺も目を閉じて肩に寄りかかって寝た。
もう少し器を大きく持たないと、そのうち茉優に愛想を尽かされてしまいそうで心配だ。
昨日みたいなあからさまな嫉妬は態度に出さないように気をつけよう。




