11、失恋
2月に入ると、駅前にはたくさんのチョコが売り出された。
来週の金曜日はバレンタインか。
彼女がいる絢斗は手作りのチョコをもらうんだと奮闘している。
凌我も既に八尾さんからチョコをもらう約束をしているらしく分かりやすく浮かれている。
まさか自分のことを好きだなんて思ってもないんだろうな。
八尾さん、お菓子作るの好きだから毎年たくさん作るって言ってたし絶対に義理だと思われてるんだろうな。
伊吹におつかいを頼まれて、スーパーに行くと、逆チョコの宣伝があった。
「逆チョコか」
もう何度も好きだと伝えているのに、好きが分からないという服部さんにまた間隔も空けずに好きだと伝えるのは迷惑だと思われないだろうか。
やめておいた方がいいか、さすがに。
板チョコを棚に戻して頼まれていた調味料と野菜と肉を買って駐輪場に戻った。
買い物袋を自転車のカゴに入れた。
この自転車は最近父さんが会社で貰ってきて、ほとんど俺の私物化としている。
学校までは変わらず徒歩通学だけど。
家に帰って冷蔵庫に食材を入れてコタツにもぐった。
あ~、至福。
「服部さん、チョコくれると思う?」
「私はもらうよ。土曜日に昊と茉優と夏芽と私で友チョコ交換会するから」
いいな。
服部さん、チョコ作るならって、くれるわけないか。
俺、服部さんに告白したし服部さんは断ってるからさすがにバレンタインチョコはくれないよな。
2月14日。
学校は明らかに甘ったるい空気に包まれていた。
バレンタインなんてなくなればいいのに。
机に突っ伏していると、絢斗と凌我が俺の席にやって来た。
「早退しようかな」
「バレンタインくらいで大袈裟だな」
「もらう相手がいるやつは黙れ」
「絢斗は彼女だけど、俺は普通に友達としてだと思うぞ」
「友達としてでも貰えるか分からないんだけど、こっちは」
昼休み、隣のクラスの女子たちがうちのクラスに来て男子が騒ぎ出した。
女子たちは俺の席の前にきて、ラッピングされた箱を差し出した。
まさかの俺?と思いながらも、好きな銘柄のチョコだったのでありがたく受け取った。
「ちなみに、私たち3人からね」
「へ〜。ありがとうございます」
「冷たい〜!」
女子たちは笑って自分たちの教室に帰っていった。
絢斗と凌我は羨ましそうに箱を見た。
蓋を開けて2人の方に箱を寄せた。
「ありがとう」
「いただきます」
「美味しそう」
「美味っ!」
「な!」
「よし、食べたな。ホワイトデーは俺ら3人からのお返しだからな」
冗談で言ったつもりが、2人とも仕方ねえなと笑った。
なんだかんだ真面目なんだよな。
それから他のクラスや同じクラスの女子からもお菓子をもらって、結構な量になった。
さすがにここまで貰えるとは思ってなかった。
バレンタインっていいな。
チョコだけじゃなくてマドレーヌとかカップケーキとかも作ってるんだな。
どうしよ。リュックに入らない。
「お困りのようですね、モテ男くん」
「凌我、それはっ、」
「絢斗が先生から紙袋もらってきてくれた。入るか?」
「うん」
俺がもらったのは全部しっかり包装されたお菓子ばっかりで、箱や缶の物が多い。
バレンタインはラッピングに命をかけるらしい。
紙袋に貰ったお菓子を詰めて教室を出た。
結局、服部さんからは貰えなかったな。
これだけ好きって言ってても貰えないってことは、脈ナシってことだよな。
やっぱり俺に気持ちが傾いてるかもしれないっていうのはただの自惚れか。
調子乗りすぎてバカみたいだ。
「バイバイ」
「またな。絢斗、颯真」
絢斗と凌我は浮かれた様子で手を振って歩いて行ってしまった。
絢斗はこれからデートらしい。
凌我も八尾さんにチョコを貰いに行くからと廊下で別れた。
家に向かう途中にある公園で、服部さんがベンチに座って小さな箱を見つめていた。
こんな寒い中、何をしているのだろう。
「服部さん?何してるの?また風邪引くよ」
「原田くん!………チョコすごいね。さすが」
「さすがって。服部さんは誰かにあげたの?」
「なっちゃんと瑠璃ちゃんと、なっちゃんのクラスの男の子たち」
「………手作り?」
「まあね。多く持ってきてたし、義理チョコでいいから欲しいって言われたし」
義理でも俺は貰えなかったわけだ。
ああ。もう、そういうことだよな。
俺がどれだけ頑張ったところで、服部さんは俺を好きになってくれない。
服部さんの中で俺は友達ですらなくなってるのかもしれない。
だって、義理にすら入れてもらえないんだから。
あ〜、こんなんで嫉妬するとか本当にダメだな。
友達でもいい、服部さんと一緒にいられるならって思ってたのに時間が経てば経つほど余裕がなくなっていく。
「………私、好きな人できたと思う」
「………そっか、」
「渡せなかったけどね。でも、多分これが好きってことなんだろうなって思う」
俺、振られたんだな。
いや、元々振られてたな。
「好きな人、聞かないの?」
「あ〜、できれば聞きたくないかな。応援してるよ。けど、誰か聞いちゃったら素直に応援できないと思うから」
笑って服部さんに手を振った。
まだ、暗くないし人通りが多い時間だから送らなくても大丈夫だろう。
服部さんの家までここから5分もかからないし。
失恋したな。
元々してたけど、友達でもなくなったらもうただのご近所さん。
明日、学校で会うの気まずいな。
家に帰って少しすると、八尾さんと凌我からほぼ同時にメッセージが着た。
付き合うことになったらしい。
めでたいけど、今は素直におめでとうって言えない。
どうやったら好きなのやめられるんだろう。
もらったお菓子をヤケ食いのように食べて、自室に籠もった。
ふと顔を上げると、リュックの上に置いたマフラーが目に入った。
マフラーをクローゼットに片付けた。
夜ご飯は伊吹が帰るのが遅いらしいから、自分で用意するつもりだったけどお菓子を食べてそこまでお腹が減っていないから食べずに風呂に入ってすぐに自室に戻ってベッドに入った。
バレンタインからもう一週間が経った。
もうすぐ学年末考査だ。
あれから服部さんとは一言も交わしていない。
目が合うと気まずくて逸らしてしまうくせに、結局無意識のうちに目で追うから何度も目が合ってしまう。
服部さんも俺が目を逸らすから気まずいのか話しかけてこない。
放課後、1人で図書室でテスト勉強をしながらテスト範囲をもう一度確認しようとスマホを見ると昊さんからメッセージが着ていた。
驚いてメッセージを開いた。
話があるから駅のカフェで待ってるねって。
急いでノート類をリュックに入れて駅のカフェに向かうと昊さんと見知らぬ男性がいた。
え、なに?何か始まるのか?
「あ、颯真くん。こちら彼氏の大崎澄晴。今日は仕事休みでデートしてたから颯真くん来るまでにナンパされるかもって一緒に待っててくれただけだから気にしないで。ありがとね、澄くん」
「いいよ。初めまして、颯真くん。昊ちゃんのことよろしくね」
「あ、はい」
席に座ると、ちょうどココアが運ばれてきた。
澄晴さんが少し前に注文してくれていたらしい。
さすが、大人だ。
昊さんの向かいの席に座って、ココアを一口飲んだ。
それにしても、急に呼び出しだなんてどうしたんだろう。
「バレンタイン過ぎた辺りからかな。茉優が元気ないんだよね。聞いても何でもないしか言わないし。颯真くん、何か聞いてない?」
「………」
話してもいいのだろうか。
好きな人にバレンタインチョコを渡せなくて落ち込んでるらしいって。
いや、勝手に好きな人がいることをバラすのはダメだよな。
「最近、服部さんと話してないから分からない。八尾さんに訊いたほうがいいんじゃない?」
「いや、今分かったからいいよ。それよりさ、どれくらい話してないの?」
「バレンタインの次の日から一言も話してない。」
「なんで?」
「昊さんは知ってると思うけど俺、服部さんのこと好きなんだよね。けど、もう完全に失恋したから。諦めるためには距離を置いた方がいいかと思って」
昊さんはふぅんと頷いて席を立ち上がった。
慌てて追い掛けた。
てか、会計!と思ったけど澄晴さんは俺でも惚れるくらいカッコいい人だった。
さりげなく伝票を持っていって会計も済ませてくれていたらしい。
近所のコンビニを通ると、服部さんと蓮晴がコンビニから出てきた。
「姉貴と颯真ってこれまた珍しい組み合わせだな」
「あ、蓮晴。アイス私の分もあるよね?」
「あるけど」
「ありがと〜」
服部さんと目が合うと、服部さんは少し気まずそうに目を逸らして鼻までマフラーで覆った。
もう、使わなくてもいいのに。
そういえば、ここ1週間、彼女の笑顔を一度も見ていない。
女子と話して笑ってたけど、愛想笑いって感じだったし。
いや、別に見なくていいんだ。
見たらもっと好きになるだけだから。
なるべく彼女の方を見ないように薄暗い空を見上げた。
ちょうど白い塊が落ちてきた。
雪が降り始めてしまった。
「昊さん、俺、もう帰るね」
「うん。急に呼び出してごめんね。気をつけて帰ってね」
「分かった」
家まで走って帰った。
なんで、会いたくないのに会ったら嬉しいって思うんだよ。
気まずいのに、もっと一緒にいたい、話したいって。
俺、どうかしてる。
帰ってすぐにコタツに入って教科書とワークを開いた。
勉強しよう。
勉強して、服部さんのことは忘れよう。
来年からは文理選択で服部さんとは確実に違うクラスになるから今ほどの関わりはなくなるだろう。
そしたら、忘れられるはずだ。
早く、2年生になりたい。




