10、新学期
元旦はいつもよりもゆっくり起きた。
リビングに行くとコタツに座ってゲーム三昧の父さんの姿があった。
正月から父さんは父さんだな。
キッチンに行くと、伊吹が予約して昨日届いたおせちを開けてお雑煮を作っていた。
「あけおめ」
「あけおめ。おせち持ってって」
「美味そう。ローストビーフある」
「普通のおせちよりこっちのが好きでしょ?」
「うん」
コタツにおせちを持っていって取り皿も運んだ。
家族3人で過ごすお正月なんて久しぶりだ。
おせちを食べながらテレビを見てごろごろ過ごすつもりだったけど、初詣に行って屋台でフルーツ飴を買いたいらしい伊吹に急かされて着替えて上着を着て家を出た。
さっむ。
クリスマスが終わったくらいから雪が振り始めて、道路の橋にはまだ雪が残っていた。
「颯真、そんなマフラー持ってたか?」
「クリスマスにもらった」
「好きな子から?」
「誰が言うか」
「それはもう言ってるようなものだろ。な?伊吹」
「だね〜」
父さんってなんかノリが凌我とか絢斗みたいなんだよな。
その分距離が近くて話しやすいけど。
さすがに服部さんの話は恥ずいからできない。
神社に行って参拝を済ませてから屋台を見ていると、ポンッと肩に手を置かれて振り返った。
「原田くん!伊吹ちゃん!」
「服部さん!来てたんだ」
「うん。明けましておめでとうございます」
「あ、明けましておめでとうございます」
「今年もよろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
新年早々、服部さんに会えるなんて今年はいい年になりそうどころか既にいい年だな。
イカ焼きの屋台に並んでいると、また背中に手を置かれた。
さっきとは違ってなんかすごく力が入っている。
恐る恐る振り返ると、知らないイケメンが俺の肩に手を置いていた。
誰だ?と思っていると、服部さんが少し怒った顔をして俺の肩からイケメンの手を振り解いた。
「航太、初対面の人相手に何やってんの?」
「茉優に近付く虫は全員俺が殺す」
「何言ってんの!ごめんね、原田くん。この人は八尾航太」
「八尾?って、」
「なっちゃのお兄ちゃんで私の従兄弟」
「お前、夏芽にも手出してんのか?」
「ないです!それは、」
「ああ?なんでお前が断る側なんだよ。お前は夏芽に振られる側だろ」
服部さんはハァ〜、と大きなため息をついて俺を屋台の方に向けた。
無視していいよって、身内には結構厳しいんだな。
服部さん曰く、航太さんはシスコンらしい。
そして、妹同然の服部さんに対してもそのシスコンぶりは発揮されるらしい。
けれど、同い年でずっと言いなりにされていた昊さんはその対象には入っていないらしい。
「そんなんだから、モテないんだよ」
「彼女いるし!」
「彼女にめんどくさがられてるんでしょ?過保護やめなよ」
「紗奈はツンデレなんだよ」
「ホントに?」
服部さん。そりゃあ、俺とは口調変わっても当然だよな。
幼馴染で身内なら。
俺だって伊吹とか父さんに対する口調と服部さんに対しての口調は違うし。
けど、服部さんが誰かのこと呼び捨てで呼んでるの初めてみた。
八尾さんのこともちゃん付けなのに。
って、従兄弟に嫉妬するとか心小さすぎ。
「原田くん、大丈夫?人混みで疲れた?」
「え、あ、そうだね。今日はもう帰ろうかな」
「一人で帰るの?送っていこうか?」
「父さんと伊吹と来たから大丈夫。またね」
「うん。お大事にね」
服部さんに手を振って神社を出た。
父さんと伊吹にメッセージを送って先に家に帰った。
コタツの電源を入れてすぐに中に入った。
さみい。
寝転がってテレビをつけると、服部さんからメッセージが着ていた。
心配、かけちゃったかな。
申し訳なく思いながらメッセージを見ると、何故か父さんと伊吹と服部のスリーショットがあった。
驚きのあまり服部に通話を掛けた。
「え!なんで!」
『えっと、原田くんのお父さんと伊吹ちゃんが写真撮って送ったら原田くんが元気になるって言ってたから』
「めちゃくちゃなった」
『良かった。あ、そうだ。マフラー使ってくれてるんだね』
気付いてたんだ。
「お気に入りだからね。服部さんも使ってくれてたね」
『あの色好きだから』
「良かった」
『じゃあ、航太たち来たから行かないと。またね』
「うん。またね」
通話が切れて、スマホをコタツの上に置いた。
やっぱり今年はいい年だ。
1週間後、新学期が始まった。
昨日始業式があったかと思うと、今日からはもう通常授業が始まった。
今日は6時間目に体育がある。
5時間目が終わってすぐに着替えてグラウンドに行った。
3学期の最初の体育は持久走をするらしい。
一応、自販機でスポーツドリンクを買っておいた。
グラウンドにはいつも体育は別の筈の女子の姿があった。
どうやら持久走は男女合同らしい。
「なんでこんなに寒い中走るんだよ」
「マジでな」
「走るの楽しいだろ」
凌我は楽しそうにストレッチをしている。
短距離選手のくせに、長距離も得意らしい。
絢斗と顔を見合わせてため息をついた。
ストレッチを終えてそれぞれ出席番号順になってペアを作った。
俺は服部さんとペアだ。
20分間で200メートルのトラックを何周走れるかを数えるらしい。
「よろしく」
「うん、」
なんか、元気ない気がする。
久しぶりの学校で疲れたのかな。
少し心配に思いながらも、スタートラインに並んだ。
笛の合図と同時に走り始めた。
20分走って結果を服部さんに聞きに行った。
「16回だったよ、」
「ありがとう」
記録係に回数を伝えに行って体育の先生のいるところに行った。
「服部さんが体調悪そうなので保健室に連れて行ってきます。俺はもう走り終わって記録係の人に記録を伝えてあります」
「分かった。熱がありそうなら担任に伝えに行ってくれ。多分、今は職員室にいるはずだから」
「分かりました」
服部さんのところに戻って、自分のペットボトルと長袖のジャージを持った。
「保健室行こ」
「え、」
「体調、悪いんでしょ?」
服部さんは否定も肯定もせずにゆっくり立ち上がった。
一緒に保健室に行くと、養護の先生が驚いたように服部さんの顔を見上げていた。
まあ、これだけ分かりやすく顔色が悪かったら心配になるだろう。
疲れていたんじゃなくて体調が悪かったんだ。
俺がもっと早く気付いていれば。
グラウンドで動かずに座ってるって絶対に寒かっただろうな。
「熱、測ろっか」
「はい、」
服部さんが体温を測っている間に冷水機に水を飲みに行ってきた。
「38.2℃です。私、担任の先生に言ってくるから少し待っててくれる?」
「はい」
養護の先生が出ていって、服部さんと2人きりになった。
服部さんの座っているソファの横に座ってペットボトルを服部さんに手渡した。
「これ、まだ口つけてないやつだから。水分補給した方がいいよ」
「………ありがとう」
服部さんはペットボトルを受け取って、スポーツドリンクを飲んだ。
辛そうだな。
服部の額に手を当てると、熱があると分かるくらい熱くなっていた。
冷却シートとかはないけど、冬だから手は冷たいと思う。
額が冷たいと少し楽なのかゆっくり目を閉じた。
そして、そのまま俺の肩に頭を乗せた。
寝ちゃった。
自分の体操服のジャージを持って匂った。
一瞬しか着てないし臭いないよな。大丈夫だ。
服部さんにジャージを掛けて時計を見た。
先生遅いな。
そんなことを考えていると帰ってきた。
「服部さん、お母さんと連絡が、あらあら」
「結構しんどいみたいで。俺、着替えてホームルーム終わってからまた様子見に来ます」
「ついでに服部さんの荷物持ってきて。担任の先生が持ってきてくれそうなら大丈夫だけど」
「分かりました」
教室に戻って制服に着替えた。
今日は最後に集合とかなかったらしく、俺がいなくなっていたことに気付いていたのは絢斗と凌我くらいだった。
ホームルームを終えて、担任の先生が服部さんの鞄と着替えを持って教室を出ていった。
俺も後を追うように鞄を持って教室を出た。
保健室に行くと、担任と養護の先生が話していた。
「服部さんの親御さん、仕事中みたいで連絡がつかないのでどうしましょうか。タクシーで送るにしても、この体調で道案内をできるかどうか」
この時間なら多分、
「………あの、服部さんのお姉さんに電話しましょうか?」
「え、」
「俺の姉と服部さんのお姉さんが高校からの友人でその繋がりで服部さんとは兄弟ぐるみで仲が良いんです。服部さんのお姉さん、車の免許持ってますし今日は姉とゲームするって言ってたんで家にいると思います」
「それじゃあ、お願いしてもいい?」
「はい」
何気に昊さんと連絡取るのって初めてかもな。
蓮晴はこの時間は講義だから、仕方ないけど。
通話をすると、少しして昊さんが出た。
急な連絡に驚いているようだけど、それよりも電話越しで伊吹がゲームに騒いでいる声がうるさい。
「急にごめん。服部さん、熱出したみたいなんだけど晴彦さんたちに連絡つかなかったらしくて昊さん迎え来られる?」
『え、茉優、熱出したの!?』
「うん。あ、担任の先生に代わる」
担任にスマホを渡すと詳しい状況を話してくれた。
すぐに来てくれることになったらしく一安心だ。
それから15分もしないうちに保健室のドアが叩かれて昊さんが入ってきた。
服部さんはまだ眠っている。
昊さんは車に乗せるために起こそうとリュックを背負って服部さんの肩を揺らすけど、起きる気配はない。
心の中でごめんと謝って、服部さんを抱き上げた。
ホントにごめん。俺にお姫様抱っこされるとか嫌だよね。ごめんね。
昊さんは俺のリュックと服部さんのリュックを持って職員玄関側の駐車場に向かった。
「あ、そうだ。病院、どこ?俺と伊吹のかかりつけのところ紹介しようか?」
「それなら大丈夫。伊吹がついてきてくれたから。道案内もしてくれるって」
「良かった」
車に着くと、助手席から伊吹が降りてきて後部座席のドアを開けた。
服部さんを座席に座らせてシートベルトをつけた。
それにしても、全然起きないな。
俺がしんどいときも、眠いわけじゃないのにめちゃくちゃ寝るもんな。
「颯真くんも乗ってく?」
「俺は歩いて帰るよ。寒いかもしれないからジャージそのままにしておいてあげて」
「何から何までありがとう。先生方もありがとうございました。それじゃあ、失礼します」
「お大事に」
昊さんは運転席に座って、伊吹も助手席に座った。
車が走り出したのを見送って俺も家に帰ることにした。
リュックを背負って学校を出た。
服部さん、大丈夫かな。
家に帰って制服から着替えた。
1時間半後くらいに、伊吹が帰ってきた。
「茉優、インフルじゃなかったよ。季節の変わり目の風邪だって。冬は時々こうして体調崩すらしい。2日、3日すれば治るって」
「そっか。良かった」
早く治るといいな。
土曜日、朝から家のインターホンが鳴った。
伊吹が出てなんか話してるなと思っていたら、服部さんと一緒に家に入ってきた。
「服部さん!?もう、体調は平気?」
「うん。色々ありがとう。それと、ジャージも貸してくれてありがとう」
「どういたしまして」
ジャージの入った紙袋を受け取ろうとすると、服部さんはギュッと紙袋を握って少し気まずそうに俺の顔を見上げた。
「保健室から車まで運んでくれたって聞いたけど………」
「ごめん!」
「いや、謝ってほしいわけじゃなくて。むしろ、感謝してるし。私が言いたかったのは、その、重くなかったかなって」
「なんだ。そんなことか。嫌われたのかと思った」
「なんで嫌いになると思ったの?」
服部さんは可笑しそうに笑った。
嫌われてないなら良かった。
ホッと胸を撫で下ろして、やっとジャージを受け取った。
ちなみに、変な噂が流れることはないだろう。
ちゃんと周りを見て保健室から車まで運んだし。
俺は片想いを続けるし好きだと伝えているけれど、服部さんに迷惑をかけない程度に収めている、筈だ。
クラスメートが他にもいる前で好きとかは言わないようにしてるし。
騒がしいグループが文化祭くらいで付き合い始めたクラス内カップルをからかったりしているのを見ると、服部さんを好きだと公言するのは絶対に迷惑がかかると思う。
だから、距離感も友達を越えないように意識している。
「お〜い。二人の世界に入ってる中申し訳ないんだけどさ、私今から蓮晴とドライブ行ってくるから留守番お願いね」
「ああ、うん。服部さん、ゲームでもする?」
「そうだね」
最近、思うことがある。
もしかしたら、服部さんの気持ちが少しは傾いてきてくれているのかなって。
さすがに自惚れすぎか。
ちょっと人気で出したからって調子乗ってんのかな、俺。




