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1、プロローグ


 高校に入って、3ヶ月が経とうとしていた。

期末試験が終わり夏休みが目の前に近付くと、クラス内は浮かれた空気でいっぱいになる。

そんな中、1人窓の外を眺める生徒がいる。

長いまつ毛にスッと通った鼻筋、唇も綺麗に収まっている。

この横顔は誰が見ても美しいと言うだろう。


彼女の名前は服部(はっとり)茉優(まゆ)

背が高くサラサラのロングヘアの彼女は女優顔負けの美人だ。

いつも、クラスでは1人。

浮いているというよりかは、あのオーラを纏う彼女には近付きにくいからだろう。

昼休みは別のクラスの女子とよく一緒にいる。

どうやら幼馴染らしい。

そんな幼馴染以外近付きにくい彼女のことが気になり始めた。



きっかけは些細なことだった。

試験前の昼休み、体育の移動で早めに弁当を食べて更衣室に向かっていると中庭に彼女と幼馴染がいた。

2人はベンチに並んで楽しそうに話していた。

そのとき、初めて彼女が笑っているところを見た。


「茉優は相変わらず美味しそうに食べるね」

「甘いものは正義だからね。なっちゃんも1口いる?」

「あ、ちょうだい」


幼馴染のことなっちゃんって呼んでるんだ。

意外な1面に驚いていると、友人が口を開いた。


「服部さんって笑うんだな」

「な」

「笑った顔、可愛いな」

「「え、」」

颯真(そうま)って服部さんのこと好きだったの?」

「そういうわけじゃないけど」


でも、彼女の笑顔にドキッとしたのは確かだ。



そこから気になり始めたとはいえ、俺と彼女が釣り合うわけがない。

勉強運動も平均程度。

強いていえば179と平均より高い背丈なことくらいだけど、服部さんも170くらいだろうから意味がない。

せめて、もう少しイケメンに生まれていたらな。


「今すぐイケメンになりたい」

「それではこの薬を飲みなさい。友人の颯真さんには一粒5万円と破格でお渡ししましょう」


絢斗(あやと)がラムネを傾けて俺の手に乗せた。

ラムネ一粒5万のどこが破格なんだよ。

もらったラムネを口に放り投げて服部さんに視線を向けた。

今日もつまらなさそうに空を見上げている。

画になるな。

すると、急に視界が遮られた。

顔をあげると同じ中学出身の坂倉(さかくら)瑠璃(るり)がいた。


「原田、なに見てんの?」

「何も見てないよ」

「ふ〜ん。ま、いっか。それよりさ、夏休みみんなで学校近くの海行かない?」

「お、いいな。誰来んの?」

「水野くんたちは部活で無理らしいから、野球部以外の男子と女子は全員」


てことは、服部さんもか。

絢斗に視線を向けると、近くで試験の答案用紙を見て頭を抱えていた凌我(りょうが)の肩を叩いた。


梶井(かじい)くんと鈴村(すずむら)くんも海行かない?」

「絢斗と颯真は?」

「俺は行くけど。絢斗も行くだろ?」

「んじゃ、俺も参加」

「オッケー」


坂倉は女子のグループの方に戻っていった。


放課後、凌我は補習を受ける生徒の集まりに行って絢斗はバイトだからとさっさと帰っていった。

昇降口で靴を履き替えていると、外にいた生徒から声が聞こえてきた。


雨が降ってきたらしい。

徒歩通学のため、家までダッシュしようかと考えているうちに雨が強くなった。


この中濡れて帰るのはさすがに嫌だな。

スマホで天気予報を見ていると、後ろから肩を叩かれた。

振り返ると、服部さんが折りたたみ傘を俺の方に差し出してくれていた。


「これ、よかったら使ってください。私は友達に入れてもらうので」

「あ、りがとう、ございます」

「いえ。風邪引かないように気をつけてください」


服部さんは幼馴染の女の子と一緒の傘に入って帰っていった。

なんだ、これ。

心臓がうるさくて雨の音がかき消されてる。

俺、本気で服部さんのこと。


ふぅ、と息を吐いて傘を開いた。

薄紫の猫の柄の傘。

俺には似合わないくらい可愛い。

それにしても、服部さんって猫好きなのかな?

明日、お礼になんか渡そう。


毎日雨降ればいいのにな。



次の日の朝、乾かした傘と猫型のクッキーを持って服部さんの席の前に行った。


「昨日は傘貸してくれてありがとう。本当に助かったよ」

「役に立てたならよかったです」

「甘いもの好き?お礼にクッキー持ってきたんだけど」

「ありがとうございます」


俺はクッキーを手渡した。

猫の形のクッキーに服部さんは笑みをこぼした。


「かわいい」


そんなあなたが可愛いです。

心の中で叫んでいると、服部さんがクッキーをさっそく袋から取り出して食べた。


「美味しい。これって、原田くんの手作りですか?」

「姉が作ってくれた生地を型抜きして焼いただけ。猫、好きなのかなって」

「好きです」


即答。

って、なんか、俺が告白されたみたい。

顔が熱くなるのを感じつつも気にしないように服部さんの目を見た。


「クラスメートなんだし、タメ口でいいよ」

「うん。ありがとう」


服部さんはあの幼馴染の女の子に見せていたような可愛い笑顔を浮かべた。

こんなの、好きになるに決まってんだろ。

速くなる心臓の音が聴こえないように平然を装って自分の席に戻った。


はぁ、とため息をつくと坂倉が俺の席まで走ってきた。


「ちょっと!いつの間に服部さんと仲良くなってたの?」


坂倉は小さい声で叫んだ。


「昨日、傘貸してもらったから、返してお礼渡しただけだよ」


まだまだ仲良くはなれてない。

ため息混じりに坂倉の顔を見ると、安堵の表情を浮かべていた。


「そっか。そうだよね」


うんうんと頷いて、坂倉は自分の席に戻った。

俺と服部さんが釣り合わないってことか?

そんなこと自分が1番よく分かってるよ。



俺の初恋で片想いが幕を開けた。

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