第3話
第三話
「これで王手だ。詰みだな。」
「うむむむ待った!待っただ!十手前まで戻ってくれ。」
「将棋でもあるまいし待ったなどあるか。それに、ナイトとクイーンを取られた時点で貴様の負けは決まっておる。」
「クソッタレが!」
信長は怒りまかせにチェス盤をちゃぶ台のようにひっくり返す。
「あっ!このチェス盤高いんだぞ!貴様よりも価値があるんだもっと丁重に扱え。」
「高いって別にお前働いて金を稼いでる訳じゃねぇだろうが!何を「自分頑張って働いて買いました。」みたいスタンスで居るんだよ?」
「バカにするなよ!地獄の通貨を換金して所持しているんだ!今、お前をお目付けしている事が仕事なんだ!」
「お前の仕事月給制なの?月にいくら貰ってんの?」
「知らん。あの世では金を使わなかったからな。現世に来てから金が減るのが早くなったような気がする。」
「そりゃあお前、毎晩あんだけ外食してたら金なんかいくらあっても足りないだろ。
このチェス盤もいい例だお前はあの世では金を使ってこなかった分金銭感覚がおかしいんだよ。」
「貴様なんぞ説教される筋合いはないぞ!」
「おぉ!テメェみたいな頑固頭には釈迦に説法だろうよ!」
二人は取っ組み合いの喧嘩を始める。ちなみに現世に降りてきてから何回喧嘩したのか分からない程部屋も所々荒れている。
「オォーオ!二人とも仲良くやってるようじゃの。」
画面が消えていたテレビが勝手に付きそこには閻魔大王が映し出されていた。
「おいおいこりゃあどういう原理だよ?」
「これはあの世との通信機も兼ねている。」
「この糞ババア!怨霊全部倒せとか聴いていなぞ!」
「なんじゃお主は人の話を聞いておらんかったか?お主が出発する直前に確かに全員倒せとい言うたぞ。」
「あんな土壇場で言われても聞こえてる訳がないだろ!それよりも怨霊の事をもっと言えよ。何か隠し事があんだろ?
それと、お前が俺が呼び出しを無視している間に二人送り込んだって言ってたよな?そいつ等の事も教えて貰おうか。」
「矢継ぎ早じゃのお主は。この前倒した怨霊はランクで表すなら下級の者じゃ。最上級の怨霊十二体倒すのがお主の仕事じゃ。」
「十二体!?普通に一ヶ月過ごしてもこの前の一体だけだってのにそんな最上級の怨霊と会える保証もねぇだろうが!」
「だからお前一人ではない。お主を送り届ける前に二人が現世に降りておる。ただ、協力する奴等とは思えんのじゃがな。」
「こんなふざけた仕事を押し付けやがって!今すぐ俺を地獄に帰せ!」
「あれ?おかしいの通信が上手くいっとらんのか聞こえん。では、切るぞ。」
テレビはブツンと言う音とともに通常の日曜日のお昼のワイドショーに変わった。
「あの野郎!自分の都合が悪くなったからって通信が悪いってありきたりなことで逃げやがった!」
「負けそうになるとチェス盤をひっくり返す貴様も対して変わらん。」
信長は床に大の字になって横になり大きなため息を吐いた。
「最上級の十二体ってよ、その十二体を束ねる怨霊でも居るのか?」
「私も閻魔大王様も全てを知っているわけではないが数百年前からこの怨霊の事を調べておられた。
分かっていることは十二体居ることと今貴様が言った十二体の中に全てを束ねる物がいること現世に留まっている時間は強さに比例しないと言うことだ。」
「そんな言い方したら十一体を束ねているリーダーが分かってるような言い方だな。」
「人物までは分からんが妙に統率が取れているらしいのだそれを調べるのに現世に調査に来た何百という鬼達が犠牲になった。」
「ふーん。あの鬼達も現世に降りられるだな。」
信長は心の中であの頭の角はどうなっているのだろうか?と考えていると怨霊発見君からアラームが鳴った。
「怨霊か!」
「ここらか北北東に十五キロ先から反応だ。急ぐぞ!」
二人乗りのバイクで法定速度ギリギリで走っているが先日といい少し距離が離れていることに若干不満を抱いている。
「この前もそうだけどよ何か怨霊の場所遠すぎじゃないか?まぁ、発見君の正確性が分かるって事だけどよ。」
「たまたまだ。無駄なことを考えずにどう戦うかを考えていろ。」
信長はずっと発見君を凝視している小野に違和感を覚えながら目的地まで着いた。
「おい!人が倒れてるぞ。」
「少し待て。私が様子を見る。」
小野が倒れている男性の額に手を当てて確認をする。
「大丈夫だ。魂は喰われていない気を失っているだけだ。頭を打った様子も無さそうだから置いておいても平気だろう。」
「けどよ怨霊が居るんだったら俺達が探してる所に入れ違いでここに来たらどうするんだよ?みすみす喰われちまうぜ。」
「いや、私の推測が正しければこの人間は安全だろう。早く探しに行くぞ。」
二人はビル郡の間にある路地裏に入り込むと奥にはちょうど一坪分だけのスペースがあった。
「何でこんなビルの回りにこんだけの隙間があるんだ?」
「大方、ビル郡を作っている際にここの一坪の土地の所有者が分からずにここだけが残ったんだろう。そして、怨霊だが既に倒されている。」
「何で分かるんだよそんなこと?」
「ここに来る前から発見君から妙な違和感を感じていてな。ここに来てその違和感は確かだった。」
「勿体ぶらずに早く言えよ。」
「ここの怨霊を倒したのはお前よりも先に現世に降りてきた者だろう。その上に私のようにお目付けが居ることも確かだ。この空き地に向かう途中に人避けの札を見つけた。
見たところの術式は完全に閻魔大王様の従者の者だな。そして、私はこの術式を書く者を知っている。隠れていないで出てこい!」
「あ~らら。せっかく新しく覚えた透明術式で隠れていたのにもうばれちゃったか。」
空き地の二人との対角線の角から二人の男女が突如として現れた。男は信長と同じような年頃をしており、女は小野と対して変わらないように見える。
「貴方が新しく地獄から来た子ね。私は天邪鬼って言うの宜しくね。」
「この程度の術式をしているようでは先が思いやられるな。いつか人間に我々の存在が感づかれてしまうぞ。」
「何よ百年ぶりに会っての一言目がお説教?勘弁してくれないかしら。私はアンタの説教臭い所が大嫌いなのよ。」
「奇遇だな。私も貴様のように人を小馬鹿にしたり苛つかせたりするその喋り方に虫酸が走っていたんだ。」
二人が目線で火花を散らしている間に信長が入る。
「ちょっと待てよ!地獄からの奴って言うことは分かったよ。取り敢えず今は喧嘩してる状況じゃねぇだろ。
それと、お前は誰でどこの時代の人間だったんだ?俺は安土桃山時代の戦国大名織田信長でこの現世じゃ。」
「天木修一だろ。」
「そう天木修一。って何で俺の名前を知ってるんだ?」
「同じ高校の同じクラスだ。お前の学校の食堂の券売機やカップラーメンの自動販売機で目をキラキラと輝かせていたから覚えていたが織田信長だったのか。」
「お前、学校で食堂の券売機で目をキラキラさせていたのか?」
「うるせぇ!俺の生きてた時代や地獄には無い物だから気になってたんだよ!」
「織田信長は前世での塾で新しい物好きだとは習っていたが本当だったんだな。」
「テメェの目見たら分かるぞ。明らかに小馬鹿にしてんなコラ!」
「小馬鹿にはしていない本当に馬鹿にしてるんだ。」
「コイツ超ムカつく!こっちは名乗ったんだから早くお前も名乗れよ。」
「俺はこの時代では近藤隼人で産まれた時代は江戸時代の多摩の百姓生まれの土方歳三だ。くれぐれも学校では土方歳三で呼んでくれるな。まぁ、絡むことは無いだろうがな。」
「土方歳三ってそう言えば地獄で現世の動向を観てた時に新撰組ってあったな。明治維新を送らせた時代遅れの大馬鹿野郎共が居たのを。」
すると凄まじい踏み込みで土方は信長の目の前まで迫り刀を抜いて切りかかってくるが信長も対応する。
「貴様!俺達の新撰組を愚弄するきか?」
「俺は事実を述べてるだけだ。お前らが倒幕派の人間達を殺さなかったら日本はもっと早く発展してたかも知れないぜ。まぁ、上が新しきを受け入れない頭の固い奴じゃ無理か!」
「テメェはこの場で殺してやるよ。」
信長を力ずくで押し飛ばして距離を開けると土方の持っていた刀は更に長くなり刀身が二メートル程の大太刀に変わった。
「ちょうど和泉守兼定も怨霊じゃなくて生の人間の生き血を吸いたいと言っているんだよ。」
「来いよ。テメェはみていな何かに付いていないと何もできない野郎には負けるわけが無いだろうが。」
信長も薬研藤四郎を鞘から抜き出して刀身から炎が猛りたつ。二人が同時に踏み込もうとした瞬間にお互いのお目付け役が間に入る。
「それまでだ大馬鹿者共!そこから一歩でも動いてみろ即刻地獄に落とすぞ。」
「お前達が争う為に閻魔大王様は現世に降ろした訳ではないぞ。叶えたい望みを捨てるのであれば戦うが良い。」
信長も土方はにらみ合いながら素直に刀を鞘に収めた。
「ケッ!今回は怨霊は居なかったそれで良いんだよな小野篁。」
「分かればそれで良い。まぁ、別に仲裁を押し退けて戦ってくれたら貴様を地獄に戻せるから手間が省けたんだがな。」
信長と小野はバイクに跨がりエンジンがかかる。
「いいか!俺はお前と協力する気は無いし十二体の怨霊も俺が倒すからな足だけは引っ張るなよ!」
言い残すとバイクのアクセルを目一杯捻って信長はその場から立ち去った。
「あれが閻魔大王が送ると言っていた者か。まさか、織田信長に会えたのとは驚きだが性格は過去の書物に載っていた者その者だな。人選はしっかりと選んで欲しいものだ。」
「そんなこと言っちゃって私が間に入って助かったって内心思ってるんじゃないの?」
「馬鹿は休み休み言えよ。俺は前世では死ぬような思いで修羅場を越えてきたんだ。負けるわけがない。」
土方は天邪鬼と喋りながら車(GTR)を停めている場所に歩いて戻って来たが車のフロントガラスには無情にも駐車違反の張り紙が貼られていた。
それを見て「クソッタレ!」と運転席側のドアを蹴った。
「あぁ~まだ腹の虫が収まらねぇ。何か荒木村重に裏切られた時よりもムカつくぜ。」
「怒るのは勝手だが法定速度は守れよ。スピード違反で捕まっても貴様の小遣いから減らすだけだからな。」
「うるせぇな!俺はいたって冷静だよ!」
苛ついてるところに更に言われて気が立ってしまい法定速度よりも二十キロオーバーで走っていると信号の無い交差点からサイレンを鳴らした車が出てきた。
「そこの中型バイク。スピードを落として端に寄ってください。」
「クソ!地獄みたいに逃げてやる!ってあれ?」
スピードを出そうとしたバイクはみるみるとゆっくりになり勝手に端の方に寄っていった。
「このバイクは私が作ったんだ。この札で遠隔操作も可能だ。」
結局信長と土方はお互い違反の為に罰金と減点そして警察署でこってりと油を絞られる羽目になる。小野と天邪鬼が作った偽装免許がバレる事は無かった。