第2話
第二話
信長が現世に落とされてから一ヶ月経ち本人も天木修一と言う呼び名にはすっかり慣れた。
東京のとある高校二年生として通っており当初は何で今さら寺子屋に通わないと行けないとかと考えたが新しい物好きは変わらず現代の高校生活にはまってしまった友達は居ないが。
「現世に降りて既に一ヶ月経過したが未だに怨霊一体も倒さずに学生生活を満喫するとは良い身分だな。」
住居は信長と一緒に降りてきた小野篁も同じマンションの部屋に居る。信長の唯一の不満の種である。
「お前が持ってきた閻魔特製の怨霊発見君が未だに鳴らないのにどうやって討伐するって?しかも何だ発見君って?ネーミングセンス皆無だろあの女。」
「馴れ馴れしくツレのように呼ぶな閻魔大王様と呼べ。」
「それに何だってテメェまで現世に降りてきてんだよ?地獄に居ろよ地獄に。」
「貴様のような問題児を現世で野放しにすれば下手したら怨霊よりも悪さをしかねんからな私が付いて悪さをせんように見張ってやる。もし、何かしたら即刻阿鼻地獄に送ってやるからな。」
「ハイハイ分かりましたよ。後、俺の前に二人を送り込んだって閻魔が行ってたけどどこの時代の奴なんだ?俺の知ってる奴か?」
「貴様みたいに五十年も呼び出しを無視してないからな閻魔大王様が誰を送り込んだかは知らん。」
すると突然、小野が持っていた怨霊発見君からけたましいアラーム音が流れ始めた。
「うぉ!何だ!Jアラートみたいな音流しやがって!」
「仕事だ。場所は北東の方角に二十キロ先に反応ありだ。」
二人はマンションから急いで飛び出すが信長は急に立ち止まる。
「ってお前はバカか!二十キロ先ってハーフマラソン走る訳じゃねぇんだぞ!俺にマラソン選手にでもなれってのか?元々は幽体何だから空を翔ぶとかないのか?」
小野はその場で大きなため息を吐くと上着の内ポケットから一枚の札を出してその札をマンションの駐輪場の違法放置された自転車に当てると中型バイクに変わった。
「うひょー!ゼファ400じゃねぇか!お前俺の好み分かってんるじゃんかよ!」
信長は上機嫌でバイクに跨がると後ろに小野も跨がった。
「えっ?まさかお前も乗るの?」
「当たり前だ。お前を野放しにはしないと言っているだろう。」
「いやいや、お前このバイクはなネイキッドブームの火付け役になった最高の奴なんだぜ!しかももう生産されてない物だ。2ケツなんてダサい事できるわけないだろ!」
「全く地獄に居たくせに無駄に現代の物に関しては詳しくなって適用してるな。嫌なら走って向かうでも良いんだぞ。俺は半零体状態だから疲れないからな。」
信長は大きなため息を吐き出して小野を後ろに乗せた状態でバイクを走り始めた。
「それで向かう先の方向はこの先であってるだな?」
「あぁ、発見君は乗り物や怨霊に向かい始めると自動的にナビのようになるからな。二つ目の交差点を左だ。」
「それで俺はどんな風に戦えば良いんだい?チビッ子に人気の仮面ライダーみたいに変身するのかい?」
「怨霊が出てきたら教えてやる。今お前に教えるとろくでも無いことになりそうだからな。」
「ハイハイ。そりゃありがとよ!!」
苛つきながらスピードを上げて目的地にたどり着くとそこは見た限り人の気配はなく心霊スポットにもなりそうな程老朽化した廃ビルだった。
「こりゃあ本当に霊が出てきそうなシチュエーションだな。」
「無駄口叩くに早く行くぞ。」
「その前に俺は何で戦えばいいんだよ?狂暴で暴れるんだろ。」
「ふん。お前には勿体ない代物だ丁重に扱うようにしろよ。」
小野は信長に一本の刀と拳銃を渡す。拳銃には弾倉が明らかに無い。
「おい!これの拳銃弾倉がねぇぞ。玉無しで戦えってか?」
「うるさい!それはトリガー引くと霊体にだけ効く銃弾が発射される。普通の人間には当たらないが私とお前には当たるから銃口を向けるなよ。」
二人はビルに乗り込むと外とは明らかに漂う空気が変わっていた。
「おい、一般人が居る場合はどうするんだ?」
「その時はその時だ。」
「一般人がこのビルに居るからどうするかって聞いてんだよ。少なくとも人の気配が二人は居るぞ。」
「もし怨霊が居るところに居れば私が避難誘導を行うからお前は怨霊にだけ集中しろ。」
「それなら大丈夫だ。大方、肝試しとかで来たんだろ。」
怨霊の反応が一番強く感じる部屋まで二人は登ってきた。
「四階か。最悪飛び降りて避難しようにもこの高さなら無理だな。倒すしか方法はないみたいだな!」
信長がドアを蹴り飛ばして開けると虎のような姿をした物が座り込んでしまっている一般人の二人を襲おうとしていた。
「お前の相手はこの俺だ!」
ドアを開けた勢いに間髪入れずに怨霊にドロップキックをくらわせた。閻魔大王の力で身体能力が上がっており虎を一撃で一般人から距離を離した。
「おい!俺がコイツの相手をしてるからお前は一般人の避難をしてこい!」
「だがお前はその刀での戦いかたを知らないだろ!」
「そんなことしてたら一般人に気を取られて戦えない。お前がさっさと避難させて戻って来たらの良い話だ。」
「ふん。後で文句を言うなよ。さぁ、こちらへ早く移動を。」
一般人の手を引き小野は部屋から非常階段まで走って連れていこうとしたが怨霊の虎が三人にめがけて襲いにかかる。
「テメェの相手はこの俺だ!」
怨霊の前に立ちはだかり鞘から刀を出した信長だが何と刀身が無かった。
「はぁーーーー!鞘と鍔しかねぇじゃねぇか!刀身は!」
刀身が無く焦る信長だが怨霊はそんなことはお構い無しに突っ込んでくる。もうそれは牙が信長の目の前にまで迫ってきており拳銃を使って咬まれるのを避けるが馬乗りにされた。
「畜生!拳銃がデザートイーグルで良かったぜ!テメエの力ぐらいなら昔生きてた時に自分の三倍近い奴を相撲で投げ飛ばしてたんだよ!」
巴投げの要領で力ずくで虎を投げ飛ばすがネコ科の虎は三半規管が優れているため空中で簡単に体勢を整えて着地した。
「クソッタレ!早くあの野郎戻ってこいよ。鉛玉くれてやる!」
拳銃を連射して放つが虎の動体視力が良いのか分からないが簡単にかわされてしまい距離も縮められている。
飛びかかってくるが鞘の部分縦にして口を閉じらせずギリギリ何とか咬まれないように防ぐ。
「ぐぅーー!どうやったらこの刀は使えるようになるんだよ!だったら口の中に直接撃ち込んでやるよ!」
口の中に直接デザートイーグルを連射して撃ち込んで怯んだところに眉間に渾身の拳を叩き込み更に下顎の所に回し蹴りを蹴り込み虎を飛ばして退かした。
「その刀はお前の前世での記憶から捻出される!何か思い出すことはないか?」
避難誘導から戻ってきた小野が武器の説明を大きな声でする。
「前世の記憶?」
信長の記憶がフラッシュバックされる。
比叡山延暦寺や長島での燃え盛る中での女子供の泣き叫ぶ声。無数の銃弾により倒れていく足軽達。打首の順番が近づいてくる恐怖に泣き叫ぶ寺の稚児達。弟の首を跳ねる。
その場で固まってしまった信長に虎の怨霊が牙を剥き出して襲いかかる。寸での所で小野が信長に体当たりして攻撃を回避された。
「何を呆けておるか馬鹿者!貴様、願いを叶える前に地獄に戻りたいのか!」
小野が激しく叱責するが信長は頭を抱え込み動悸や冷や汗は未だに止まらない。
「俺のせいじゃない。俺のせいじゃない。許してくれ止めてくれ。お前達が悪いんだ。お前が悪いんだ。裏切って俺から離れていくお前らが悪いんだ。」
更に虎は飛びかかるが小野が回し蹴りでいとも簡単に吹き飛ばし虎は瓦礫の下敷きになる。そのまま信長の胸ぐらを掴み無理矢理おこす。
「私は貴様の事を買い被っていたようだな。地獄に留まっておったのはただの罪悪感からだったのか?この程度こうなってしまうようであれば貴様はこのまま地獄に堕ちろ!」
「違う。俺は間違ってない!だから、俺はこの世に降りてきたんだ!」
次の瞬間に鍔から炎が凄まじく立ち上ぼり炎が無くなると一つの刀身が現れた。
「刀の名は薬研藤四郎。攻撃時に炎を纏いし怨霊の魂を焼き払え。」
「フン。皮肉にも生き返ったのに死んだ時に帯刀していた刀がまた俺の手元に来るとはな。」
信長が正気を取り戻すと同時に虎が瓦礫から飛び出してきた。
「もう大丈夫だ。お前の魂を安らかに解放してやるからな。」
虎が一直線に飛びかかるのと同時に刀から炎が立ち上がり信長も虎に突っ込んでいきすれ違いざまに一刀両断に切り捨てた。
すると真っ二つになった虎から一人の女性の霊体が現れた。
「おい。これは一体何がどうなっているだ?」
「どういう原理か理由は閻魔大王様に聞かなければ分からんが一つ確かな事はこの怨霊人間時代の姿なんだろうな。」
「あんたが私を助けてくれたの?死んでからさ最初はこの体で空をフワフワ飛んでたんだけどさ私を殺した男を見たら急に心の底から怒りが沸いてきて暴れてたの。」
「どうやら殺されたことによりこの世に未練が残ってしまいそのまま怨霊で暴走したんだな。」
女性の額に札を貼り付けて印を結び始める。
「今からあなたを楽園に送ります。天国に行くか地獄に行くかは分かりません。」
「はぁ~!私、殺されたのにどっちに行くか分かんないの?」
「申し訳ないですが現世で生きていた間にどれくらい徳を積んでいたのか悪いことをせずに生きていたのかを評価されて決まりますので私には分かりかねます。」
「ちなみにアンタを殺した男ってのは何処のどいつなんだい?」
「○○町でEDENってお店でホストしてるのよ源氏名はハヤトって言うの。」
「そうか分かったよ。生まれ変わったら今度は俺みたいな男に惚れなよ。」
「ガキが何を言ってんのよ。でも、私を元に戻してくれてありがとね。」
女性の体は粒子のようになっていきその場から消えた。
「彼女は天国に行けるのか?」
「さっきも説明したがそれは私には分からん。閻魔大王様が決めることだ。」
「そうか。取り敢えず俺はこのまま野暮用を済ましてくるけどお前は帰るのか?」
信長は乗ってきたバイクに跨がると小野も無言で後ろに跨がった。
「貴様から目を離すわけにはいかないからな。今回は私も付き合ってやる。」
「ふん。正直に俺も一緒に着いて行かせてと言えよ。」
二人が向かった先は先程成仏した女性が言っていた○○町のホストへと到着した。オープン前なため店の前は静かだが信長は渾身の力を込めてドアを蹴り破った。
「この店のハヤトって奴を連れてこい!じゃないとテメェ等の為にならねぇぞ!」
数時間後、信長一人でホスト二十人ばかりを叩きのめして乱闘騒ぎを聞き付けた警察が突入し覚醒剤も出てきた為全員がお縄にかかった。
「今回は事が事だから大目にみるが次は保護者や学校に連絡いれるからな。」
「はぁ~い。どうもお世話になりました。
ホストと一緒に暴行の現行犯で信長も一緒に捕まったがホストの店ぐるみでの覚醒剤の所持・使用によりお咎め無しになった。警察署から出ると小野がバイクに乗って駐車場で待っていた。
「貴様にも温情という心があったんだな。前世の貴様自身が見たら驚くじゃないのか?」
「そんなもん前世とか関係無しで俺自身が驚いてるよ。けどよ、あんな話聴いたからには無視できないだろ。
それよりも怨霊倒したんだから閻魔のババアとの約束は果たした筈だ。この後はどうするんだよ?」
「貴様、寝言は布団の中で寝て言え。怨霊をたかが一体討伐した位で何を威張っている?」
「いや、怨霊を討伐したら俺の望みを叶えてくれるんだよな?」
「確かに叶えると言っていたが誰も一体だけ倒したら良いとは言ってないぞ。」
「おい!そんな話は聴いてないぞ!」
「閻魔大王様は貴様が旅立つ直前に言っていたぞ。怨霊を全員倒したら願いを叶えると。」
「いやいや、あんな旅立つ直前に言われても聞こえる訳無いだろ!ってもういいや。今さら閻魔のババアに文句言ったって無駄だしな。腹も減ったしラーメンでも喰って帰るか。」
「二丁目のラーメン屋が旨いと評判らしい。金を出すのは私なんだからその店にしろ。」
「お前もこの一ヶ月で現世に適応してんな。」