something recalled to the mind
「お兄ちゃん、おかあさん・・・・待って」
聞き覚えのある懐かしい声
追いかけても追いつけず覚束ない足取りで二人の背を追うその少女
心の奥底に潜む、忘れかけた幼少時の記憶。
影が長く伸びる部屋の隅に立つ、高身長の女性。
彼女の存在からは、温かな光が滲み出ているような優しさが漂っている
その姿はどこか懐かしく、心地よい安らぎがそのまま溢れ出ていた。
兄である要を見つめ優しく微笑み何か言葉を交わしている
朧げな記憶のその中で、会話の内容は聞き取れず漂い
そこにはただ楽しげな2人と幼い少女の姿が浮かび上がった
(、、、、、おかあさ、、ん?)
手を伸ばそうとしても触れることができず、記憶の中でただ呆然と立ち尽くすしかない自分に
悲しみが込み上げた
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楓が寝ている横で、兄は知らぬ間に看病し疲れ果てて寝てしまっていた。
「ん・・・・うぅ・・・うっ・・・」
楓の苦しむ声が静かな部屋に漂い、聞こえた。
身体を少しよじり汗が垂れる様子が要の細い視界に映り込み
要は心配して飛び起き楓に呼びかけた。
「楓、大丈夫か・・?」
横たわる楓の上にかけられた布からは血が垂れていた
触れた手に視線を流し状況を把握すると楓の足元から流れる多くの血が状況の深刻さを感じさせた
呼びかけに反応がない楓を見つめ、寝てしまっていた自分に罪悪感を抱き、ただ呆然と立ち尽くし
冷や汗が滲む。
すると楓の口元が小さく動き、聞き取れないほどの小さな声で何かを呟いた
「・・・・・さ・・ん」
「・・・!!! 楓!?・どうした?
・・・・・・・俺はどうしたらいい?・・楓?」
「・・・・おか・・・あ・・・ん」
「・・・・?・お母さん?(夢を見ているのか?) 楓、聞こえるか?!!」
要は流れ出す血を横目に焦りを感じながら楓に問いかけたが
返事はなく、沈黙は続く
(本当は病院に連れて行くべきだ・・・
けど今の状態で楓が病院で事件にでも巻き込まれたらどうしたらいい・・)
危険が伴う事に決断しきれず言葉に詰まり体を震わせ情けなさを感じた。
(だけど、このままじゃ駄目だ。とにかくまずは止血しないと、、、)
(・・・・・っ・・はぁ・・はぁ)
呼吸が早くなり苦しそうな表情の楓に要は困惑し、その場に立ち尽くしていた
名前を呼び楓の手を握るものの、要は何をすべきか分からずにむなしさが募る
(もし楓がunaだったら、、、 unaだったら・・!?)
楓がunaだという疑念が要の脳裏をよぎる。
(もし、、、もしも楓がunaだったら、制御装置か何かプログラムされてる何かがあるかもしれない・・
楓を助けられる何かが・・でもまずは血を止めて・・)
要は複雑な心情を押し殺し迷いを捨て決断しようとしていた、
足から見える機械部分に目をそらし包帯を取り換えた
そして楓を助ける手立てを探り、身体を調べようと抱きかかえようと首元に手を伸ばす。
すると、楓は目を覚まし要を見つめ腕をつかみ口を開く。
「・・・・大丈夫 大丈夫だよ要」
二人の視線が合うと、心配そうな表情で見つめる要に、楓は引きつった笑顔を見せた。
楓は眠っている間、昔の夢を見ていたような気がしていた。
その夢の中で何か重要なことを見落としているような気がしていたが、うまく思い出せず
不思議な感覚に、少し戸惑いを覚えていた。
夢で見た内容を考え、自分自身がunaだという疑心を確信に変えていた。
楓は要に真実を話す決意を固め口を開く
「・・要・・・」
「楓・・・大丈夫か?・・・足から血が・・今止血して・・・痛くないか?何かしてほしいことがあれば・・・」
「要、大丈夫。 私夢を見てたの・・懐かしい夢。・・ほら覚えてる?昔、、、」
「楓・・今はそんなことより・・!!」
「わかってる!!!でも・・聞いてほしい私・・私やっぱりunaかもしれないの・・本当に」
要の胸は嫌な予感で大きく高鳴り楓の疑心に気づいていたものの知らないふりを続けた。
「そんなわけないだろ、こんな時に冗談やめろよ!!」
「冗談じゃないの・・今回は本当に・・要も観たでしょ私の足・人間ならこんな風になってない・・」
楓は真剣な眼差しで要を見つめ小さく震えていた
その様子に要は黙り込むと涙を流し、首を横に振りそれを否定した
戸惑いや恐れ、否定しきれない自分に対し複雑な感情を覚えた
強くこぶしを握り手に食い込んだ爪には痛みを感じず、かみしめ唇からは血が流れる
重く流れる時間に黙り込む二人、窓の隙間から流れる風に冷たさが宿る
そしてその時間、楓の疑念が少しづつ確信に変わっていったのだった。