紅き炎が開花の時――Memory3.『調子に乗るなよ』:END
『…………また、遅いじゃねぇか』
『・・・・・・・。』
『ったく、サナッチさん今朝もトイレ長かったのに。日に2回も出るなんて健康的で良いじゃねぇかよ! 一生死なないだったか……信念通りで何よりだぜ』
『・・・・・・・。』
『――しかしまぁ、驚いたよな。新聞だなんて読まねぇから知らなかったけどよ。この前まで居た大地域が今はもう、灰の山だなんてなぁ』
『・・・・・・・。』
『―――んでも、地域なんざそんなものか。どうやら偉い教会人を殺っちまったなんて話しだし……ひでぇことするとは思うが、言ってみりゃぁお互い様ってヤツかな。やれやれ、女神を信じるか信じないかで簡単に人を殺せるなんて、それこそ女神ってのはどう思ってんだろうな? 自分を殺人の理由にされてさ。悲しんでいるのか、喜んでいるのか……まぁ、どうでもいいんだろうな』
『・・・・・・。』
『――――そうだ。なぁ、それこそ美味いものだなんてよ、何を食うかね? おまえは何か食いたいものあるの?』
『・・・・・・。』
『―――――あのさ?』
『・・・・・・。』
『…………いや、あのさぁ!? おまえちょっといい加減にしろよ!! だから謝っただろうがよ、“殴ったのは単なる勢いだった”って、それで納得してやっただろうが!!!』
『・・・・・・。』
『もういいだろう、機嫌を直せってばよぉ! ……確かに思えばそうだよな、下着の有り無しも大事だなって冷静になれば俺も思うよ。自分に置き換えて考えたら……そりゃ、そうだな? まぁ、解ったから。本当にそこは納得したし、殴ったことも別に怒ってはいねぇ。っつか、別に効いたとかじゃないしよ、単に“意味わからねぇ”って思ったらムカついただけだからさ?』
『・・・・・あなたはそういう、意外と細かいことにこだわるのやめた方がいいわよ。そんなんだからすぐに怒るんだから……』
『……ここまで謝ってんのに、尚も俺を責めるおまえもいい加減にしろよ? おまえはそういう、必要以上に人を追いつめるのやめろって。さっきの研究所でも正直、聞くに堪えない悪口をこれでもかと――』
『言ったでしょ、それだけ言われて当然の連中だって。というか、そういうあなたもさっきはしつこく私を問い詰めたじゃない?』
『ハイハイ、解った解った。俺が悪かった、またやり直しはやめようぜ。しかし、そうか……そう言うほどにおまえは酷い目にあったってことなんだよな?』
『――――――。』
『別に、聞く気はねぇよ? 俺だって別に過去は言いたかねぇし、サナッチさんだってそういうのあるかもしれないけど、別に言わねぇしな。だってそんなもんだろう、人間なんざ。そういうのもどうせ死ねば全部消えちまうさ」
「――――――。」
「良い思い出も、嫌な記憶も、積み重ねた金や力も……等しく意味なんか無ぇよ。どうせ短い時間で全部失うものなんだから、気にしてもしょうがねぇぜ? “ムカつくヤツに再会したからぶっ殺した”――そういう衝動的な判断で生きたほうが楽だろう。スッキリすればそれでいい、俺はそう思うぜ』
『……スッキリ、したかな? どうだろう……まぁ、殺して、そうして当然だろうとは思っているけど。その権利が私にはあると思っているけど……』
『スッキリしてねぇのか? あんな爽快に殺っといて? 恨んでいたんだろう、復讐したかったんだろう? なら、良かったじゃねぇか』
『……そうよね、私の復讐だもの。やられっぱなしじゃ、やったもの勝ちみたいで……スッキリ、しないわよね』
『そうさ。まぁ、あとこんなん言いたかねぇけど……おまえ、思ったよりやるもんだな』
『うん?? なに、ヤルって何が――』
『もうやっては欲しくないが、門の兵士をひきつけたりさ。それに、あんな“隠し技”があるなんて思わなかった。いや、だからって別におまえが今後も仕事を手伝えって、そんなことはないがな? これからは大人しくどっかで待ってろよ?』
『え・・・・・あ、ありがとう?? だけど、“アレ”を褒められるのは複雑な感じ……でも、まぁ、あなたを少しは見返せたのなら……それだけは良かったかな?』
『いや、だから褒めたっつぅかよ。思ったより度胸があるというか、口だけじゃねぇというか……だから何度も言うけど、調子に乗るなよな? おまえが無理に危ないことをするこたねぇんだぜ。
俺もそうだが……サナッチさんはああ見えて対面でやったら誰にも負けるなんてあんま有り得ねぇからよ。多少人が多くっても、なんとかするはずだ。作戦とか複雑なのは無理だが、咄嗟の頭は案外に鋭いんだぜ? ……だからこそ、昔馴染みだか知らんが女1人に“勝てない”って、諦めてんのがムカつくんだよなぁ』
『……前から思ってたけどさ。あなたって、サナッチさんのこと好きよね』
『ん? おお、前に言っただろう。サナッチさんは嫌いじゃねぇよ? 一緒に仕事してもいいくらいには強いし、なんか気が合うし……死んで忘れちまうには“惜しい”と思っちまう存在かもな』
『えっ!?!? …………わ、私は?』
『――ん、何が??』
『いや、だから私はどうなの?』
『はぁ? だから何がだって?』
『だから……私は、私のことは“死んで忘れちまうには惜しい人”って思う?』
『んん?? んん~~~~……』
『ど、どうなのよ……』
『んん~~~……いや、そうでもないかな。だって会ったばかりだし、サナッチさんみてぇに強さを認めたわけじゃねぇし、気も合ってないから言い合いばかりだし、だろ?』
『ッ…………そ、そう。ハハっ、まぁそうよねぇ~~…………ん? でも今、あなた迷ったわよね?』
『あ゛? 迷うって……まぁ、ちょっとは考えたか?』
『迷うくらいの存在ではあるのね、あなたにとって私というものは。そうなんでしょ?』
『はぁぁ?? ・・・・・な、なんだよ。なんでいきなり近づくんだよ。迷って悪いか??』
『へぇ?? い、いや……別にィ?? ただ、まぁ、そうねぇ……フフっ♪ 今はそれで良しとしといてあげる』
『あ゛あ゛?? んだよ、何がよしとしとくって……また意味が解らんヤツだな。おまえは度々にそうやって訳が分からなくなるから、困るんだよ』
『訳が分からないって、それはあなたも悪いと思うわよ?』
『あ゛あ゛!? なんだよ、また俺が悪いってどうしておまえはそうやってすぐに俺を挑発――』
『ねぇ、アグゥ? そういえば、あなたって名前はなんていうの?』
『・・・・・そうやって人の言葉をすぐに無視するなよ。ったく、なに、俺の名前?? いや、そんなんだからアグゥだって、何を言ってんだまたおまえは?』
『ううん、そうじゃなくって。それはほら、あだ名とか短くした呼び方なんじゃないの? それとも本名からそうなの? 家名とかないの?』
『ム? あぁ~~……そういうことか。それなら俺はアグリサス・フェノー……だったかな。確か?』
『なによ、確かってどういうことなの?』
『いや、あんまりそうやって名乗らないから。忘れそうになっちまうんだよな……まぁ、いいじゃん。アグゥで十分だぜ、俺はさ。サナッチさんがそう呼んでくれたんだし』
『ふぅん……そう。いいけど、憶えておくわよ。アグリサス……ウフフ、アグリサスが、アグゥなのね♪』
『・・・・・なんで笑うんだよ、なんで機嫌が良くなってんだよ。度々に不気味だよな、おまえって』
『相変わらず失礼な人ね。というか、あなた私の名前は? ちゃんと憶えている??』
『あ゛あ゛?? だからセラだろうが。おまえはセラ、そうだろう?』
『いやいや……だからっ、私の本名よ! 個名と家名!』
『え? ・・・・・いや、知らん。だって名乗ってないだろ?』
『名乗ったわよ、最初に会った時!! セラーシュ・スノー!! それが私だから、憶えて!?』
『せらーしゅ・すのぉ……えぇ、名乗ったっけ? 初耳だぜ。まぁ、でもセラで――』
『呼ぶのはセラでも構わないけどッ!! 私の名前はセラーシュッ・スノーッ!!!!! お願い、憶えて!!』
『う、うぉっ……なな、なんだよ。そんなムキになって――――わわ、解ったよ! 解ったからそんな睨むなって! セラーシュ、セラーシュ・スノーな? 解ったから落ち着け! どうしてそんな急に怒る!?』
『怒ってない!! 怒ってないけど……ふぅ、そうね。私の名前……憶えてくれた。それにきっと、もっと一緒に居れば……“死んで忘れちゃうのは惜しいな”……って。そうなるかもね?』
『・・・・・いや、どうだろう。それは解らんが……だからどうせ死んだら忘れるんだから、別に記憶なんざこだわらなくたって――』
『 おぉお~~~いっ! 待たせたね、少年少女よ! 俺さん、宿のおばさんからいい情報ゲット☆したんだぁ! ほら、こっち来て! こっち抜けると実は道があってだね。それをこう、グぅ~~っと進んで…… 』
『お~~~。遅かったじゃねぇかサナッチさ……って、もう歩き始めてやがる。まったく、せっかちというか……マイペースで困るぜ、あの人はよ』
『そうね、ちょっとサナッチさんて変わってるわよね。だけど、そういうところも楽しくって私も好きよ。エへへ、そこのところは気が合うわねぇ~??』
『あ゛? なんか言ったか?』
『いえいえ、別に……お気になさらず?』
(――――死ねば全部失う。それはそうかもしれない。
でも、私は今、こうして生きてるもの。生きてる間は、持っているもの。
嫌な記憶もあるけど……楽しい思い出だって、きっとこれからできるから。
だからね、もっと一緒にいましょう?
もっと“生きたい”って。私、やっと思えたんだから――――)
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