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紅き炎が開花の時――Memory3.『調子に乗るなよ』:Vision6

Vision6↓


 小鳥が空を飛んだ。さえぎるもののない青空を過ぎ去る鳥の姿。


 晴天を見上げる少女セラ。彼女のんだ瞳は空を行く者の姿が見えなくなるまで見送っていた。


 草地に立って空を見上げている少女。その背後にある建造物から黒いコートの男が金属音をチャラつかせながら姿を現す。


「いやぁ~~、それなりだったなぁ。金目の物というか、金はあったけどというか……しかし、これでしばらくは安泰あんたいといったところ! 良い子のみなさん~~、よぉく頑張りました☆ 今日は何か美味しいものを食べましょう!」


 黒いコートのサナッチがそのように言う。手にしている布袋の中から「ジャラジャラ」と硬貨が擦れる音。彼が歩くとコートの内側からもそういった音が零れ聞こえてくる。


 サナッチはご機嫌な様子だ。鼻歌混じりに研究所から出てきて、セラの肩にポンと手を置いた。


 セラはチラリと黒コートの人を見る。すると、目を伏せるようにした。


 少女に視線をらされた……。


 そのことについてサナッチは「なんとなく」理由の見当がついている。だから、そのまま変わらない様子にご機嫌な声色で続けた。


「どぉした~、セラ! 君さんも大した活躍だっただろう? 君さんが変異してくれたおかげで“アグゥが”助かったという話しだし、俺さんは嬉しい&ビックリだよ! まぁ、そもそも君が混成体だというのもビックリではあるけど……でも、成功個体だなんてそれも凄いじゃないか!」


 親指を立てて、ウインクをして、サナッチは少女のことを心の底からめた。


「・・・・・。」


 褒められたセラはチラリ、と。それは冷たい目つきで黒コートの人を見上げる。


 サナッチは少女の視線から察した。その温度の低さはつまり、彼女の心の虚しさである。


「あっ……いや、まぁ、その……ゴメンナサイ! そりゃ、君さんにとっては良いことじゃないよね。っというかさ、そもそも君と出会ったのが学者の家だったんだし、今日の襲撃もちょっと配慮して君さんを連れてこなければよかったよ……本当に、そこは謝るしかない。この通り、ちかって御免ごめんッ!!!」


 サナッチは地に座り、両手を広げて地に置いた。そうして頭を下げて後頭部を少女に見せている。


 そうした仕草しぐさを見たセラは言う。


「やめてよ、もう……また“悪い癖”が出てるわよ、サナッチさん? ハァ……違うの、謝るのは私の方なんだから。私だって“もしかしたら”って、アイツらの誰かが居るならやり返してやろうって、期待していたんだもの。ただ、それがまさかあんな形になるとは思ってなかったけど……こういうことを、あらかじめ言っていなかった私が悪いの」


 少女はサナッチが見せた教会仕草を心の底から嫌いながら、されど彼には色々な意味で悪気はないのだと解っている。


 そして。自分の見られたくない姿を見られたのは自分のせいだし、自分の見せられたものではない姿を見せてしまったのも自分のせいだと思っている。


 セラが頭上でそのように言っている。寂しそうに彼女が話した言葉を聞いて、サナッチは「はっ!」として顔を上げて立ち上がった。


 そうして自分が行った振る舞いに対して「また悪い癖だ!」と嫌気がしたし、気を利かせたつもりがかえって彼女に嫌な思いをさせてしまったかと反省もした。


 そうした2人。丸みを帯びた研究所の前で目線も合わせず、互いに「申し訳ない」という様子で向かい合って立つ少女と黒コートの男性――


 ――という光景をあまりにも悪い目つきで見ている者がある。少年アグゥだ。


「…………チッ!」


 舌打ちをした。錆びた門に背中を預けて立ち、腕組みをしていた少年。


 アグゥは気だるそうに、かつ不機嫌そうにして研究所前の2人に向けて言う。


「おいっ、いつまでもショボクレてんなよセラ!! 鬱陶しいだろうが、何がそんなに気に食わねぇんだ!?

 それにサナッチさんよぉ、あんたまで落ち込まれたら意味わかんねぇだろうが。こんなとこさっさと離れて……ほら、美味いものでも食うんだろう!? いつまでも“細かいこと”でゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ!!」


 ぶっきらぼうに、吐き捨てるようにそのように言ったアグゥ。その言葉を聞いて、少女は「はぁ?」と鋭い視線を彼に刺した。


 少女セラがけわしい表情で少年へと早足に向かっていく。


 向かいながらセラが強い口調で言う。


「あなたに何がッ……何が解るのよ!! 私の気持ちも境遇も知らないあなたがッ、気安く“細かいこと”だなんて言わな――」


「そうさ、なんも解んねぇよ! だからてめぇの都合で俺を待たせてんじゃねぇって言ってんだ。おまえがあんな“隠し技”あるからって、それがなんだっつぅの! それよか俺はてめぇの“理不尽さ”にホトホト呆れて、実は怒りまで覚えてんだぜ?」


 向かってきた少女へと、少年もまたゆっくりとだが向かっていた。そうして向かいながら少年も何かをえるように言っている。


 近づいてくる目つきの悪い男。自分の言葉を遮ってまで言い返してきた人に対して、少女がさらに口調を厳しくして返す。


「私の理不尽ですって!? ふざけないでよ、この悪口男!! 私がいつ、どこで、何時何分に理不尽なことを言いましたか?? 滅茶苦茶なこと言うのはいつだってあなたでしょう!!?」


 息を荒くして話す少女。頭に血が上っているのは明らかで、顔は真っ赤になってしまっている。


 そうした荒い息がかかりそうなほどに近い距離。そこに至って2人は同時に立ち止まった。


 唇を震わせながら顔を真っ赤にしている少女。


 いつもより目つきを悪くしながら腕を組んでいる少年。


 少し背を丸めて視線を合わせる。視線を間近に合わせられた少女はされどひるまず、変わらず強く睨んでいる。


 「自分は怒っている」と宣言した少年は組んでいた腕をき、左手の人差し指を少女の鼻先に突きつけた。


 そして、怒りの理由とやらを言う。


「てめぇ……なんであの時、俺を“殴った”んだ!? 意味が解らねぇ、理不尽だろうが!! なんで俺がてめぇに殴られなきゃならねぇんだ!!!」


「なによ!! 私があなたを殴るって・・・・・ん? あれ、え。殴ったっけ……私が、あなたを??」


 アグゥが少女を「理不尽だ」と怒る理由。それはどうやら彼女が彼を”殴った”かららしい。


 それを聞いた少女は「ん?」と。あまりにも意外な返答だったので、言い返すこともできずにいる。


 怒っているらしい少年は続ける。


「あ゛あ゛!!? とぼけんじゃねぇよ、おまえ殴ったじゃん! 忘れたのかよ、おまえがなんか狼の人間じゃなくなったと思ったら……元の姿に戻ったと思ったら、いきなり俺を殴っただろうが!! 今みてぇに顔を真っ赤にしてよぉ……見ろ、こっちの頬がまだ赤いだろうが、それが証拠だ!!!」


 アグゥは左の頬を見せつけるように横を向いた。確かに、彼の左頬はわずかに赤くなっている。れている、とまではいかないかもしれないが。


 そうして自分の頬を指さす彼の左腕。そこからわずかに紅い煙がしょうじ始めた。おそらく、殴られた衝撃を思い出したのだろう。


「あれ、本当なんだったんだ? 俺がなにかしたかよ、俺はただフラフラと立ち上がっておまえを見てただけだろう?? それなのになんで俺が殴られなきゃいけねぇんだ!?」


「・・・・・・・・・あっ。」


 怒っているというか、困惑しているのではないだろうか。


 とにかく理由が知りたいと、アグゥは真剣な表情で少女に迫る。迫られた少女は――思い出した。


 あまりにも「カッ」と瞬間的に沸騰ふっとうしたような状態だったので、すっかり忘れていた。



 そう、あの時――――。



 狼人間の状態から変異して、少女の姿に戻ったさい


 セラは戻れたことに安堵あんどしたものの、すぐに自分が「すっぱだか」である事実に気がついた。


 そうした事実に気がついた時。ふと目の前にあった少年を見てみる……そしてつまり、自分が見られていると理解した。


 すると視界が揺らぐほど、全身が湯だったかのような朦朧もうろうとするほどの熱量を感じ始める。


 朦朧としたまま、無心に少年へと駆け寄って、そのまま右手を振りぬいた。つまり彼の頬を叩いたのだ。それは「見るな!」と物理的に言うかのように、彼の視線を強引にらすものだった。


 そうした自分の行動を思い出した少女セラ。その表情は変わらず赤いままだが、険しくはなくなっている。むしろこまったような、気まずそうな表情で眉毛がへの字に下がっている。


 困り顔の少女に向けてアグゥが問いを続ける。


「だからなんでなんだよ!? おまえ言ったじゃんか、“裸を見られるくらい別にいい”ってよぉ!! それがなんで俺だとこうなるんだ!? 理不尽だろうが!!!」


「イっ!? ――――ッ、そ、それはぁ……」


「だから言ったんだよ!! ほら、見られて良いわけねぇだろうが!! 本当、ふざけんなよこんちくしょう!!!」


「う、うぅぅ…………!」


 怒っているようだが、やはり困惑しているらしい。どうしてなんだと、理不尽だと、少年は自分への暴力行為に対して抗議を行った。


 対して追及を受ける少女は限界と思われたそこからさらに顔を赤くして唇を噛む。


 そうして歯ぎしりをしてこらえたあと、目を見開いて少年へと吼え返す。


「ぅううう五月蠅うるさぁいッッッ!!! 違うのよ、だってさっきは下着すらなかったもの! 今朝には下着を着ていたもの!」


「ぎゃっ、うるさい!? おい、叫ぶなよ……っつかてめぇ、ざけんじゃねぇぞ!? 下着って、あんな薄い布があろうが無かろうがダメなものはダメだろうが!! それがなんで俺は殴られて、朝のヤツらには見せつけて平気なんだ!!?」


「ぜ、ぜぜ全然違うからッ!! あの人たちとあなたじゃ…………いや、下着の有り無しは大違いなのッ!! もうっ、そんなことも解らないの、それでも男なの!!?」


「な、何がだよ!? なんでだ、ココでよりによって俺のこと馬鹿にしたのか!? なんで俺の男らしさを疑うんだ、ココで!? ってか、だから話しを逸らすな、俺を殴った理由を言えッ!!!」


「だぁ~~~かぁ~~~らぁ~~~ッ!!! あいつらじゃなくってあなたが見てたから――――いやっ、下着がなかったからよ!! だからずかしくなって思わず殴っちゃったの、ほら、これでいい!?」


「いや、良くねぇ!!! あんな堂々と人前に裸見せといて、なんで俺は殴られた!? なんであいつらは良くて俺はダメなんだ?? 理由を教えろ、理不尽で納得ができない!!!」


「~~~ッ、~~~~クッ~~~~~~グゥゥゥ……!!! ほんっっっと、この人はどうしてこうも、私の言うことを聞いてくれないのか……! どうして変なところで妙にこだわるのか……グゥゥゥ!!!」


 両手を広げて決死の抗議活動を続ける少年アグゥ。


 頭を抱えて身体をクネらせながら苦悶する少女セラ。


 そうした2人の様子を少し遠目で眺めている黒いコートの男。


「――マ、ともかく落ち込んだ気持ちは吹き飛んだんじゃない? うんうん、よかったよかった。さぁ~~って、こっからどうしますかねぇ……?」


 頭頂部に置くようにして鉄仮面を被っている男。黒コートのサナッチは晴天を見上げた。



 雲1つない空には明るく太陽が輝いている。



 サナッチは仮面の縁を帽子のツバのようにしてまぶしい陽射しをけた。


 目を細めながら、どうせ誰も聞きはしないであろう独り言をつぶやく。


「あの大地域コミュニティは焼けちまったらしいからな……。

 金は入ったが、さぁてさて。美味いもの食うって……どこを目指したものか?」


 しばらくそうして空を見上げてみる。


 しばらくすると、少年は腕を組んで背を向け、少女は顔を覆ってうずくまっている光景が見えた。


 2人が背を向けあって何か文句を言い合っている状態。そうした“ちょっと”落ち着いた光景を確認してから。


 黒コートの男は鉄仮面を被って「やぁやぁ良い子たち!」と、


 声を張るようにして彼らへと歩み寄って行った。


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