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紅き炎が開花の時――Memory2.『もう少しだけ』:Vision4

Vision4↓


 つまり数時間が経過したことになる。


 昼間の騒動から数時間後。時刻は夕刻。


 そろそろ暗くなってきた頃合いに大地域の各地では火の灯りが点いている。それらは光源でもあるが、ほとんどは食事の用意に利用されるものだ。


 粗末すぎるテントの前でも何かを焼いている人たちがある。


「結局、今日は何もしないで1日過ごしちまったな……ふぁ」


 欠伸をかく少年、アグゥ。


「そうね。でも、いいじゃない? 別に急ぐことなんか何もないんだし……ふぁ」


 欠伸をかく少女、セラ。


「いやぁ~、急ぐことはあるよ。だってお金がそろそろさ……ふぁ」


 欠伸をかく不潔な男性、サナッチ。


 3人は夕陽の中、焚火に向かって串をかざしていた。そこには芋が刺さっている。


「で、実際どうすんのさ。サナッチさんよ、明日は動くのかい?」


 ちょっと火に当てた程度でアグゥは串のさきにある芋を小さい口で齧った。


 芋を噛みながらの問いにサナッチは応じる。


「そうだねぇ……動こうか。一応、情報は仕入れてあるんだよ。今時に狙いやすいところは……」


 穴だらけのコートの裏にある複数のポケット。その1つから何か紙切れとペンを出して考え始めるサナッチ。


 その姿を視たアグゥは不安そうな表情になる。


「おいおい、大丈夫か? この前は確かに男1人が住んでただけだったし、地下には女が1人隠れてただけ。だが、その前はよ――」


「あんなん想定外ですぅ~! 小部隊が3つも4つもわらわらと集合してくるなんて、解るわけないですぅ~! あんな辺鄙へんぴな跡地になんだってまったく……というかだね、アグゥ? あの時だって君さんが“ボンッ!”と一発やってくれれば済むことだったのに!!」


生憎あいにく、こいつは生まれつきでも自分だってまだよく解らねぇんだよ。いつも言ってるだろ、“俺の気分次第だ”って……」


「ちぇっ! まったく、便利なんだか不便なんだか……こういうちょっとした火ならいつでもいけるのにね。ちょっとは真面目に修行なんてしたらどうだい?」


うるせぇ。俺がそんな先を見据えたことなんてするか。無駄だろうが、こんなのを制御できるようになったって、どうせ俺はいつだって死ぬんだからな……」


 アグゥとサナッチはどうやらアグゥの左手から生じる紅い炎について語っているらしい。その様子を聞いていたセラはアグゥの「死ぬ」発言を聞いて「また……」とあきれた表情で彼の顔を眺めていた。


 芋を食べ終えたサナッチ一行いっこう。少年と少女は寝ころがっている。昼間も寝ていたと思うのだが、育ち盛りだからであろうか。とりあえず目はつむっているようだ。


 サナッチは立ち上がると家宝の歯磨きセットを持っていそいそと小走りに動き始めた。


 夕刻の砂地、大地域の道をこそこそと駆けるサナッチ。穴あきのコートが風に揺らぎ、暗くなってきても尚、被っている鉄仮面に冷たくなってきた風が当たる。彼にはここ最近、決まって日に3回訪れる場所がある。3回なのはもちろん歯磨きの回数である。起きた時と寝る前には特にみがかないらしい。“食後の歯磨き”だけにやたらとこだわるサナッチ。


 いそいそと夕暮れを駆けるとあかい砂地に砂埃がわずかしょうじる。見上げた空も朱く、左右に流れる景色には道端で食事をする人の姿が数々と。


 1人の姿もあれば、数人で集まっている姿もある。この段階ですでに顔を真っ赤にして寝ころがっている人も多い。


 そうした光景を鉄仮面の瞳は眺め、穏やかな気持ちで目的地を目指す。


 その途中。サナッチは駆ける途中、道半ばで足を止めた。


 サナッチはある一点をみつめて立ち止まっている。


 そこには元の色が解らないほどぐしゃぐしゃになった制服が丸めて捨ててあり、そのかたわらには年頃も解らないほどに変形した顔面の人がうなだれて座っている。


 最終的に木のくいに縛り付けられて放置されたらしい。それは昼に観た若い白衣の兵士だったモノだ。


 残った前髪が風になびいている。自然の影響以外で何も動かない、硬くなった死骸しがい


 サナッチは鉄仮面の下で鼻をすすった。そしてゆっくりと彼の元へと近づくと、屈みこむ。


 物言えぬモノにサナッチは言う。


「今日は冷えるねぇ……しっかし、ひどいもんだ。まったく、価値も解らんやつらだよ……ほら、やっぱり残っていた」


 サナッチは死骸の右襟に付いている勲章を取り外した。表や裏を見て、溜息を吐く。鉄仮面の下にある瞳はそれを見つめて物憂ものうげだ。


「俺さんさ……過去は振り返らないたちなんさ。だけどよ、それは過去をまるっきり忘れるってことじゃぁないんだよな。いや、忘れられないっていうか……だからさ、お前さんが付けていたコレの価値、俺さんは理解できているよ。お前さん、頑張ったんだなぁ……きっと、勇敢で真面目だったに違いない。まったく、価値も解らないとこういうのが残るんだから……高いぜ?」


 サナッチは勲章――水の雫かのような形である青い半透明の勲章をコートのポケットに押し込んだ。


「アルサン・ブリーガー……セイデン生まれの聖騎士さんよ。俺さん、礼儀は尽くさないぜ? だってそんなことしたら見られっちまうもの。お前さんみたいにはなりたくないからさ……せめて女神さんが今後を良くしてくれるといいな。俺さんはもう信じてないけど、お前さんは信じているのだから……大丈夫だろ?」


 ポケットの中の勲章を外側からいじりながら、サナッチはまたいそいそと駆け始めた。


幸運ラッキー、幸運……っと、また悪い癖が……」


 鉄仮面下の口を片手で押さえ、舌を出してはにかんでいる。だが、そんな表情はだれにも伝わることがない。それでもそうするのはきっと、そういう癖というか性分なのだろう。


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