『紅き炎:アグリサス・フェノー(2)』
この世には法が必要である。
そしてそれは、絶対的かつ不変でなければならない。
人が創りえるものがこれに足ることはない。
同じく、竜が創りえるものでもこれに足ることはない。
何故なら生命だから。生命を管理する法を生命が司ることはできない。
かつて反逆者たる竜達は世界の女神を討った。
撃ち落とされた女神は地の底へと逃れ、そこに身を封じた。
偉大さと寛大さは神たる証。
その心を裏切られ、その身を撃たれて尚、女神は生命を忘れない。
定命なる者、定命と化した者、等しく神は愛し続けるのであろう。
しかし……しかし、だ。
それではあまりにも不憫ではなかろうか?
いや、神に不憫だなどと恐れ多い表現ではあるが、竜の足らぬ言葉と感情を用いればそのように思わざるを得ない。
不遜に穿たれ、哀れにもその身を潜めた彼女が我々を愛してくれているのだから。
我々はその愛に報いる必要がある。そのためにはまず、信じることだ。
神を信じる、即ち信仰することによって不逞なる姉弟達の過ちを償う。さすれば女神の加護はこの世を満たし、我々を守護し続けてくれる。
これは絶対的かつ不変で確定的なことだ。なぜなら神は偉大で寛大かつ完全だからである。
我々に必要なことは祈り、願い、そして“護る”こと。
不本意ではあるかもしれないが、封じられた女神は不可侵の安眠を謳歌されている。
ならば我々は護ろう。彼女の平穏たる眠りを。
そして広げよう。偽りの法を享受する哀れな民へと。
これこそが我らの本懐。聖圏にある真理。
それら教典を志としてマグナリア派は人々を正しく導く。
人の介在による腐敗も心配ない。教会は神に準じる偉大な存在に守護されている。
それは唯一、女神を信じた善良なる闇の者――
安全なる守護者、【紅蓮の竜】こそが神の見守る平穏と平和を保障するでしょう。
ただし、諸事情により守護者不在となる際にはご注意を。きっと淀みも生じるはずです。
ですが、まぁ……ご安心ください。
大いなる女神に代理して寄り添う者。
教会を導く教父を統べる者。
大教父は必ずや降臨いたします。
えぇ、何より親愛なる人のため世のため。
混沌の時代に生きる者よ。
この唯一善良なる竜をどうか、信じてお待ちいただければ幸いです――――。




