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紅き炎が開花の時――Memory1.『意気地なし』:Vision5

Vision5↓


 そう、そこにはサナッチと少女と少年。それにもう1人がいた。


 それもどうやら成人男性のようで、つまりこの部屋に成人男性が2名存在していることになる。


 サナッチはやや不潔だが、もう1人は対照的に清潔というかキチンとしているといった恰好かっこう。白色を基調として深い青色の文様もんようほどこした衣装は「制服」という印象。


 実際、それは「軍服」が正解である。この地をべる【教会勢力】に属する兵士がよく着ているものだ。サナッチにとっても見慣れた姿である。


 つまり現状は―――さわやかな朝。少女と少年が眠る静かな空間。そこに何故なぜか入ってきた白衣の兵士が挨拶も無しにつるぎさやから抜き、切っ先をやや不潔な男に突きつけている―――という状況。



 鋭利な刃物が首元に向けられている。状況を理解しているサナッチはおびえた表情で言う。


「ま、待ってくださいよぉ! 私達だって何が何やら……説明してください!」


「説明?? 何を言っている。ここはサルヴァン指導博しどうはくのご自宅であるぞ! そこでお前らは何をしているのか!?」


「何って、私ら霊具れいぐ技師ですよ!? わざわざ早朝から頼まれてきたら……いらっしゃらないんだもの、指導博様!! どうしたらいいんです、私達!?」


「何、技師って……職人か? ならばその霊光器を……待て、“いらっしゃらない”とはなんだ」


 やや不潔な男は怯えている。その様子と、言葉の内容。それに床に落ちている霊光器。


 それらの情報を立て続けに受けた白衣の兵士は考え始めた。状況を理解しようと思考している。


 そうした状況を理解しているサナッチは刃の腹を優しく持ち上げて切っ先を自分から逸らす。逸らしながらも白い歯の口は止まらない。


「ですから、指導博がいないのです。でも扉は開いていて、だから私た――私は入ったのに……そしたらほら、テーブルもこんな! ひっくりかえってて……それと、この少年と少女は何者なんですか?!」


「いや……知らない。いや、それはでもおかしいぞ? 指導博は迎えを頼んだからこうして私がここにいる。なのにはくはおらず、されど部屋は荒れていて……まさか、ぞくが!? この少年と少女がか!?」


 警戒した兵士は剣の切っ先を眠る少年と少女の方へと交互に向けた。


 慌てた口調でまくしたてるサナッチは落ち着いた表情で一歩、動いて兵士の視野から外れた。


「だから、知りませんよ!! ああ、でもそういえば向こうの部屋!! あそこでさっきみかけましたよ??」


「ん、何をだ!? 見かけたって、でも博はさっき居ないって……じゃ、何を……何、を……」


「ん、どうしました?? 何か私の顔についてます??」


「いや、お前……お前どこかで……あれ? 確かその顔は……手配書……に?」


「はぁ、手配書? 失礼な。どうしたって俺さんがそんなものに……でもどう? 実物の方がカッコいい??」


 青い電流がほとばった。会話の途中でしょうじた電流はサナッチの右腕を青く輝かせていた。


「あっ……ああ!!? お前、キサマッ……あんたまさか!? 創輝そうきうばいのサナッ――――」


「――――チィっと、そこまでね。俺さんさぁ、過去は振り返らないたちだから! もういいじゃん、そういうの……面倒はなことは忘れてさ、一緒に楽しく生きようよっ♪」


 電流を伴うサナッチの右手には銀に輝く細身のつるぎが握られている。銀の剣は虚空こくうで形成されるついでかのように、そのまま兵士ののどつらぬいた。


 霊術――それは偉大なる信託によってけずり出された技術。その中でも特定の領域に格納された金属類へと干渉を行い、青い電流を介して自身の元へと召喚する技術がある。


 女神を信仰する聖なる国家の中枢ちゅうすう、才気ある者だけを集めた特殊な部隊がもちいる秘術。人の思念と女神の光によってもたらされる神秘……それは【創輝そうき】と呼称される。


「――――――。」


 物も言えなくなった兵士。その状態を視たサナッチは「はっ」として己の失言に気がついた。


「あっ……ご、ごめん。言っておいてなんだけど、そうなったらもう楽しくも生きるもないよね。悪いことしたかな……」


 サナッチが口元を両手でおおって失言をやんでいる。手放された剣は青い電流を生じながら虚空に消え去った。


 膝から崩れるように白衣の亡骸なきがらがその場に倒れる。


「いやぁ、参ったなぁ……上手くお話だけで済ませられれば良かったのに。申し訳ないなぁ……」


 倒れた亡骸を前にして、サナッチは優しくその体を仰向けに横たえた。首元から血だまりが広がる最中、サナッチは白衣を漁って通貨コインなどを穴だらけのコートの裏にしまい込んでいく。


 夢中になってサナッチが漁っていると、いつしかその横に立っている人がある。


「……サナッチさんよ。そんことしてないで、急いだほうがいいんじゃないの? コイツの仲間とかいるかもしれないでしょ?」


 欠伸をしながら、眠そうにアグゥが言った。


 その横にも人が立っており、それは杖を支えにしているセラだ。少女は亡骸もそれを漁る人も、特に興味はないらしい。むしろ眠気が零れそうな口元を慌てて抑えるのに頑張っている。


「まぁまぁ、何も無しじゃこの人に悪いでしょ。そんなただ殺されたって、それだけじゃぁ生き物として可哀そうじゃない?」


「普通は殺された時点で“可哀そう”ってなるんじゃないの? まぁ、等しい結末が早まっただけだから別に可哀そうでもないか……」


「…………誰なのよ、この人? ほら、これって教会の兵士でしょ。何かマズいんじゃないの、コレって?」


 亡骸を囲んで3人がそのように会話をした。しばらく会話をして、「とりあえずココから離れるか」と結論が出る。そうしてからひっくり返っているテーブルを直して、朝食を摂った。


 セラは昨夜のようにむさぼりつかない。お行儀よく座ってパンなどを食べている。


 アグゥはパンを1かじりだけして、あとは野菜を少々頬張っただけ。彼はあまり食に興味がないのか、そもそも燃費のよい体質なのか。


 サナッチは一杯食べた。白い歯で惜しみなく、次の食事がいつになるか解らないからと、未来を考えてしっかりと食事を摂る。満足な食事と欠かさない歯磨きはサナッチにとって大事な両親からの教えなのだという。


 そのようなサナッチの身の上話を食卓にえられて、少女は「へぇ~」と相槌あいづちをうってあげていた。少年は何度も聞いているのでこれ以上聞くこともない。


 食べ終えて。サナッチの歯磨きを待ってから3人は動き始める。


 すっかり硬直した白衣の亡骸を越えて、外に出た。


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