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紅き炎が開花の時――Memory1.『意気地なし』:Vision3

Vision3↓


 穴の中――地下空間は思いのほか狭い。サナッチの身長は175cm、体重は58kg。サナッチが立ち上がってそれほど天井まで余裕はない。


 狭い地下空間と言ってもそれはかえって明るく、床や壁も建材を用いた堅牢けんろうなもので、清潔にされてもいる。


「おぉ、なんだ“霊光器”じゃん。高いぜ?」


 地下空間が明るい理由を天井に貼り付けられた薄い板のような装置に見出し、サナッチは呟く。


 サナッチが装置を「がせるかな~?」などと見上げている間も、少年は彼に背を向けて立ち尽くしていた。


 コンコンと天井の装置をつつきながら、サナッチはまた何かに気がついた。それはこの地下空間の空気が冷たく、それなりにんでいるということ。どうやら通気口がしっかりあるらしく、何処からか風が吹き込んできていることをサナッチは理解した。


 理解して、風を感じる方を――少年アグゥの背中越しにその先を見た。


 見て、確認して、理解して。


 サナッチは口を手でおおった。


 やや不潔な成人男性の視線の先。そこには鉄格子てつごうしがあり、大人2人がどうにか横になれる程度の空間がある。


 そして、そこに大人ではない人が1人だける。大人ではない人と、寝るためのスペースに……あと1つだけの設備が確認できた。


 質素極まりない空間にある人。こちらを見るその目つきはあまりに悪く、鋭い。


「な、なぁ~~んてこったい。こりゃぁ参ったね……どうしたもんだろう。なぁ、アグ・・・・・って、オイ!?」


 現状を理解したサナッチが困り果て、状況の対処を相談しようとした相手。少年アグゥの目つきもまた、あまりに悪い。


 鋭い視線を鉄格子の先に向けるアグゥ。その右手にある短剣ナイフは刃まで黒い。


 少年の背中に漂う気配。それを感じ取ったサナッチは彼の肩を掴んで揺すり、叫ぶ。


「何、考えてんだお前さん!? いくらどうしようコレ……っても、そんなっちまおうだなんて……そんな解決はないだろう!? 大丈夫、教会の関係者とかじゃないよ、たぶん!! きっとこの子はここに捕らわれた被害者だ、被験者だ!! だからその露骨な殺意をおさめなさいって。ほら、“彼女が”おびえてしまうだろう!!?」


 サナッチはちょっと少年の気配にビビりながら鉄格子の先を指さした。指し示された先では狭い空間で1人、座り込んでいる“少女の姿”がある。


 長い黒髪の少女が鉄格子の先で座っている。膝を抱えて、見上げて、睨みつけている……。


 少女の目つきはあまりに悪い。そして、その視線を受ける少年もまた目つきがあまりに悪い。


 狭い瞳孔で捕らわれの身らしき少女を見ている少年。アグゥは低い声色でうるさいサナッチに答える。


「……怯える? よく見ろよ、サナッチさん。コイツは俺を鋭く見ているぜ? そうだ、殺す気だ……何もかも憎い。そうなんだろうよ、俺にはそう感じるぜ?

 殺せるものなら殺してみろってよ……俺もそのつもりだから解る。だから、楽にしてやる……でもよ、あんた。俺を返り討ちにしてくれてもいいぜ? できなきゃ、てめぇも死ぬだけだからな」


 初対面の少女に向けて少年は殺害予告を行った。予告を受けた少女は一瞬だけ表情を「ポカン」と呆けたようにしたが、すぐにまた少年を鋭く睨みつけた。


 緊迫した空間。


 少女と少年。殺意と殺意を互いに刺し合うような緊張感に挟まれて、成人男性サナッチは頭を抱えた。


「あ゛あ゛あ゛!! 自暴自棄になるなって、アグゥ! それにそこの女の子さんも!! そんでお前さん、名前は!?」


「えっ、私? 私は……セラ。セラーシュ・スノー……よ」


 不意に名前を聞かれて、反射的に少女は答えた。それを聞いたサナッチは間髪入れずに言葉を放つ。


「セラーシュ!! そうか、つまり“セラ”だね?? おい、アグゥよ。さっきも言ったがセラには事情があるはずなんだ。今日に“寝かしつけた”学者先生とは違う。この子はここに居たくて居るわけじゃない……なぁそうだろう、セラッ!!!」


「……っ、わ、私は……こんなところ、嫌い。居たいわけないでしょ? 当たり前なことをわざわざ……っていうか何なのよ、あなた達?? 職員じゃないの? あいつはどうしたの? ……あっ、“寝かしつけた”ってまさか……」


「ほら見ろ! ああ~~良かった。いやはや、よろしくセラ!! 俺さんはサナッチ、こっちのはアグゥって名前でな。なんでココにっていうとそりゃあ……おっ、開いてる!」


 サナッチが鉄格子を叩いたり引っ張ったりすると一部が開いた。出入口らしいそこが開かれると、サナッチは手招きして少女を誘う。


 地下空間の少女……みずからを【セラ】と名乗った少女はしばらく開かれた出口を座ったまま眺めていた。しかし、サナッチがあまりにしつこく「ほら、カモンカモン!ビビんな、お嬢さん!」などとうるさいので表情を曇らせながら鉄格子の外へと出ることにした。


 煩い男はともかくとして。


 少女は少年を改めて睨みつける。その少年はずっと、一部始終を視ながらも少女を睨み続けていた。


 鉄格子に掴まり、立ち上がる少女。しかし足元はわずかに震えており、なぜか不安定な様子。鉄格子の外に出た途端、彼女はヨロヨロと前のめりに傾いた。


 少女が立ち上がった姿を見たサナッチは気が抜けたのか、それともずっと気にしていたのか。天井の明るい装置を取り外そうとそれに注目している。


 少女を睨み続けていた少年は彼女が立ち上がり、一歩踏み出してよろけて倒れそうになる様子をすべて見ていた。何せ自分に向かって倒れてきているのだから、見逃すわけもない。


「…………おい?」


「…………あっ!」


 気がついたらそうなっていた。


 少年がけないのなら、前のめりに倒れそうになっていた少女が寄りかかるモノは決まっている。


 少年の胸元に少女の顔面がくっついている。自分へと突っ込んできた少女の身体を支えている少年の手がある。


 しばらく、ほんの数秒。お互いに表情を見ることもなく、そのまま沈黙した。沈黙してから、支えを押しのけるように少女が身体を起こした。


 少年は変わらず睨みつけていたらしい。だから、少女も変わりがないように睨み直した。


 そうした状態になって、ようやく装置を取り外せたサナッチが2人に注意を向ける。


「よっし、取れたぞ~~♪ さてさて、そんじゃお互いに事情を詳しく話そうったって……ここじゃ息苦しいぜ。アグゥ、セラ! 2人とも上にいらっしゃいな。食べ物だってあるぞぉ~~!」


 上機嫌なサナッチは大事そうに装置を抱えて梯子を昇……ろうとした。


 昇ろうとして装置が邪魔で昇れない事に気がつき、「アグゥ!」と言って板のような装置を少年に手渡す。


 光る装置……信託から得られた技術、すなわち【霊術】を用いたそれは“霊光器”と呼ばれる照明装置。それそのものにエネルギーがたくわえられており、発光していても熱量は皆無。だから抱えようが掴もうが火傷はしない。


 霊光器を渡された少年は「あいよ」と答えて、梯子を昇ったサナッチに装置を下から手渡した。


「あぶね~、落とさんでよかった。しかし、これを持ち運ぶのも大変だ……どうしようかね……」


 梯子を昇ったサナッチが上機嫌ながらも装置の扱いについて悩んでいる。梯子を昇りながら、アグゥは「てきとうに袋でも鞄でも奪って入れてこうぜ。むこうの部屋にデカいのあったからよ」とアドバイスを送った。


 2人が昇った後。


 地下空間に残されたセラは梯子を昇る少年の姿を見上げた後も、しばらく見上げ続けていた。


 そして梯子に手と足をかけるのだが……上手く力が入らないことに気がつく。何度か力を込めてみるが、中々梯子を昇れない。2m程度の長さの梯子がとても高く感じられた。


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