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『二つの炎――後章:二つの炎(END)~そして彼らは並び立つ友となった~』

 マバラードの街――今でこそ観光地としてそこそこな存在感に過ぎない地域。


 そこにはかつて熱狂的で混沌こんとんとした異様な社会があり、それは黄金なる時代によってしずめられた。



 マバラードに黄金の象徴が降り立った翌日。街では皇帝直属の精鋭部隊である“牙備きばそなえ”らの姿が散見された。


 黄金なる皇帝がとにかく目立つので影が薄くなってはいるものの、本来はそれぞれが数十人を1人であしらえる実力を持つ剣士達である。


 各自が“秘技の牙剣がけん”と呼ばれる剣術を習熟しており、とくに“竜牙の一振り”と称される高速精密なる奥義は回避・防御不能とさえうたわれるものだ。


 しかし、そんな彼らも皇帝のそばにあると基本的には剣を使える機会が少ない。なぜなら剣をさやから抜く以前に、黄金なる存在を見た相手はほぼ戦意を喪失そうしつしているからである。


 この時代……現代での価値でみる犯罪数は異常なほど※少なかった(=主に帝都付近において)。それは人間の事情・感情を抜きとした数値的な絶対的判断があったからであり、そういう意味では平和であったとされる。


 そうして絶対なる存在によって築かれた平和な時代……そこに生きた人々が“幸せだったか”というと、それには疑問符が付く。


 実に、人の社会というものはままならぬものである。



7.二つの炎~そして彼らは並び立つえいゆうとなった~



「――まぁ、一応な? 見るだけでもよぉ、一度は行ってみたほうがいいとは思ってたんだよ。・・・・・だからてめぇに言われたからじゃねぇぞ!! いいか、そこんとこ勘違いすんなよこのバカヤロウ!!!」


 銀髪の少年、【ロキア】はそのように強い口調で言い放つ。


 そのように指をつきつけながら強く言い放たれて……。


「いや、私は勘違いなどしていないぞ、ロキア? そしてまたおまえは私を馬鹿だと言う……まぁ、それはいい。だが私はおまえに怒られたくないからな、ロキア?」


 金髪の少年、【サルダン】は困ったようにまゆを下げる。


 しゅんとした表情になった少年皇帝を見て、乱暴者な少年は「チッ……怒ってねぇよ、クソが!!」と顔を赤らめて怒鳴どなった。


 少年たちは晴天の下、丘の上に立っている。


 マバラードの大通り……そこを登っていたる“勝手に”整備された街道への入口。


 帝国の正規職人たちによるものではないのでこの街道はあまり奇麗きれいではない。会話しながらも「直さないといけないな」と、サルダンは思考の一部で考えていた。


 マバラードを見晴らせる丘の上に立つ少年たち。一方的な口喧嘩でもしているかのような彼らだが、実際は喧嘩しているわけでもない。


 彼らはこれから“共に”向かおうとしていた。どこへかといえばそれは帝都、“アプルーザン”へである。


 昨日、サルダンが勝手に決めたように「帝都へ行こう!」などと発言したが……ロキアとしても以前から“帝都”なるものに興味きょうみはあった。


(どんなところだろう? なにがあるのだろう? なにを見れるのだろう? なにを知れるのだろう?)


 実のところそのように度々思っていたロキア=スローデン。彼は認めていないものの、サルダン=ブローデンの言葉は結局として切っ掛け、“未来への導き”になったのだと思われる。当のロキアはそのようなことを絶対になんとしても認めなかったようだが……。


 ロキアはマバラードからの旅立ちを前にして、知り合った人々へと挨拶あいさつを行ったらしい。


 たくましい漁師の男は「おうよ若者、この舟は俺が管理しといてやる……いつでも使えるように、いつお前が来てもいいようにな!」と、“彼”の肩を叩いて笑顔で送り出した。


 細身で小柄な少年は泣いたという。泣いたが……少しすると涙をぬぐい、彼を真っすぐに見た。そして「ロキアならきっと大活躍するよね!ぼく、話を聞くの楽しみにしてるよ!」と、どうにか笑顔をつくって“彼”を送り出したらしい。


 実はこの時のロキアは内心、「別に活躍とか……ただちょっと見てみたいだけだし……」と戸惑とまどったものだったようだ。だが、彼はあまりにキラキラとした純粋なひとみを見て本心を言えず「おう、楽しみにしておけ!」と、得意気にしてみせたという。


 そのようにして十数人と話して回ったロキア。彼がこのマバラードに滞在した期間というものは1ヵ月と少し程度だったのだが、そこで与えた“影響”というものは大きなものだったとされる。


 そうしてから少年2人は丘の上で待ち合わせた。そしてしばらくゴソゴソと喧嘩のようにしたあと、「いいから行くぞゴルァ!!」というロキアの発言によって出発の時を迎えた……いや、“迎えようとした”らしい。


「そんで、帝都はこの道をどっちに行くんだ? ……つか、けっこう遠いだろうが!! 飯とか用意してねぇぞ!?」


「なに、道だと?? なぜだロキア、“飛べばいい”ではないか。それならあまり時間もかからないよ」


「えっ……!? ああ、そうか。俺って飛べるのか……いや、そんなん実感ねぇものよ。まだ自分がそういう感じにできるって感覚が信じられねぇ気分だもの」


「でも、おまえは飛べるぞ。では私についてこい……フフフ! おまえの住む場所も近くに用意せねばな……なんなら王宮に住むか、ロキア? 私はそれがいいぞ、むしろ?」


「飛ぶ……飛ぶって昨日は夢中だったからアレだけどよぉ。いざ、あらためて“飛べ!”ってなると……ちょ、ちょちょちょっと待ってな? ええと、昨日はどうやって――」


 楽しそうに独り言を言いながら「フワリ」と浮き上がるサルダン。その眼下で空に手を伸ばしたり屈伸をしてみたりと試行錯誤するロキア。


 サルダンが「飛べなくなった?」と眉を下げてさびしそうにすると、ロキアは「ふざけんなボケェ!飛べるわアホォ!」と声を張り上げた。


 サルダンが見るからに「ガッカリ」したのを見て、ロキアの全身に蒼き炎がともる。かがんで脚に力をめた彼が今にも飛び立とうとしていると……。


「ア――――ッ!!? ロキア、ここにいたのね……待ちなさぁぁぁあい!!!」


 大通りを駆けてきた人がある。それはドレス姿の少女であり、なにやら大きなかばんの角を地面にこすりながら斜面の通りを登ってくる。


 “駆けた”と言ったが……それほど勢いはない。鞄が重いのであろう。


 飛び立とうとしていたロキアは自身の名前を呼ばれたので「ん?」と声の方角を見た。そして風になびくそのしなやかな“赤髪”……それを見た銀髪の少年は驚愕してさけぶ。


「――――ゲェェッ、アルフラン!? お前、どうしてここが……!?」


 ここに駆けてきた少女は【アルフラン=ライヤード】。マバラードきっての豪商であるライヤードの一人娘である。


 坂道を駆けるその姿を見た通りの人々はだれもが振り返り、彼女の姿を見上げた。それは彼女が有名な商人の娘だからというだけではない。彼女もまた、存在するだけで目立つ輝きをもっていたのである。


 ドレスの少女――アルフランが息を切らしている。昨日とは異なり、なにかいっそう豪奢ごうしゃで飾りの多いよそおい。それはまるでどこか遠出でもするかのような……パーティにでも参加するかのような姿である。


「ハァハァ……ロキアぁぁぁぁ……! あなたは……あなたって人は……!!」


「うぐぐ、アルフラン……! いや、あのな……俺はホラ、別にちょっと見に行くだけだから別にいなくなるってわけでも――」


 肩を上下させながら深く呼吸をするアルフラン。その姿を見て明らかに狼狽うろたえるあおき炎を帯びた存在。


 ロキアがオロオロと挙動不審になるのは彼に後ろめたさ……つまりは何か「思い当たるふし」があるからだった。


 何に思い当たるのかというと、それは――


「ロキア……ロキアっ!! なんでよ、どうして……どうして私に何も言わないのよ!! なんで一言も話さずに行ってしまおうとしたの……!?」


「バカお前……俺はホレ、言おうとはしたんだって。でもよ、あのよ……」


「なによどうして!? さぁ、一緒に行くわよロキア! あなた帝都に行くって……だったら私も行くわ、お父様も“彼になら任せられる”と言ってくれたもの!!」


「マジかよ、バカかアイツ!! …………いや、バカじゃねぇよお前のオヤジは、言い過ぎたごめん・・・・・いやいや、そうじゃなくって!

 俺はな、その……お前、一緒にってなんかよぉ、俺はそのよぉ……」


「なに、どうしたのよ? まさか、もしかしてだけど……あなた、私と一緒に行きたくない? なんで、どうして?? だいたい、どうして私だけ“黙って”置いていこうとしたの? 他の人には声をかけていたのに……私だけ、無視したの??」


「あっ、いやっ!? それはその……そういうつもりじゃなくってね??」


「なにが“そういうつもりじゃない”?? なによ、ロキア……あなたもしかして私のこと……私のこと、“キライ”…………なの??」


「えっ・・・・・はぁぁあ!!? い、いやいやッ……いやッ、ちっげぇよバカ!! どうしてそうなんだよボケェ!!!」


「私がキライだから何も言わない……そうなの??」


「あわわわわ……! ち、ちがちが……違うくってですね? あのその……俺は……その……」


「……うぅぅ!? 私、ずっと邪魔じゃまだったの?? でも……でも、そうよね。いつも逃げてたものね、あなた。だけど、それはてっきり私……なのに、私は勘違いして…………うぅぅぅ、ごめんなさい……!」


「ギャッ!? な、泣くなよ泣かないで!? ちち、違うんだ。あの……あのな? 俺はその……バッカお前、あの……ああチキショウ!! だから……なんで俺ってやつは……」


「うぅ――――うわぁあああああん!! ごべんだだいぃぃぃ!! ロギア゛、ごべんだだいぃぃぃぃ!! だからざよな゛らじゃあね、どうかお元気で……うわぁああああん!!!」


 なぜかハッキリとしないロキア少年の言動……それはともかくとして。


 少女アルフランは多量の涙を流しながら逃げるようにけだした。


 大きな鞄を引きずりながらその場を駆けだす少女アルフラン。それは走り去ろうとしているのだろうが、思うほど速度が出せていない。


 そんな、泣き叫ぶ少女の後姿を……。


「ま、待て……待ってくれ、アルフラン!! だらか違うくって……俺は……俺は……俺は俺は一体、何をしてんだよ俺のバカヤロウ!?!? 俺はドアホウかよ、コンチキショウ!!!」


 その姿を見て何か吹っ切れたのだろう。蒼き炎を帯びた少年は一度、自分の頭に拳骨げんこつを落とした。


 そうしてから彼は――“飛んだ”。踏み込むこともなく、呆気あっけなく飛び上がって「あっ」というまに少女の前へと回りこんだ。


 そして着地すると、前も見ずに突っ走っていた彼女の身体を受け止める。



――蒼き炎が燃え盛っている。炎に包まれた少年の身体……それに抱き止められた少女はしかし、燃えることはない。


 火傷やけどするような熱量などまるで感じないが……彼の体温だけは確かに感じられた――



 少女を受け止めたロキアは言う。


 それはもう……何も考えなどまとまっていないまま、ありったけの“想い”をれ流すように言った。


「――――わりィ、俺が全面的に悪かった。でもよ、信じてくれ。

 俺さ、ほんとうは最初に言おうとしたんだよ? でも、なんでかよ……お前に“さよなら”って、そんな感じのこと言おうと思ったら……なんつぅんだ、コレ?

 わっかんねぇけどよぉ……お前の顔を思い浮かべると、そんなん言えなくなったんだわ。だから、なんつぅかもう……もう…………ダァァァッ、そうだよ!! “逃げた”んだ、お前から!!

 いつもとは違う感じだけど……しかも本当に言いたいのは“さよなら”じゃなくって……だけどそんなん…………そんなん言えるわけねぇだろ、俺のクソザコヤロウ!!! しかもお前を泣かせて……バカヤロウか、俺わ!!! 何してんだ、チックショウ……ああ、言うよ!! 言ってやるぜ、アルフラン!!!

 あのな……逃げて“ごめん”!! そんで俺と……できれば俺と一緒に帝都へと来いこのヤロウ!!!

 本当は初めて会った時から……初めっから大好きだったぜバカヤロウが!!! ほんとごめんね、こんッチキショォォォう!!!!!」


 少年は最終的に叫んだ。それはとても口が悪く、罵詈ばり雑言ぞうごんでも並べているかのようなものである。


 叫ばれた口の悪い言葉……それはつまり“愛の告白”に他ならない。


 どのような感情によってそうなってしまうのかは解らないが……しかし、ともかく。


 その時ロキアは口悪くアルフランに告白したのだという。


 以後、ことあるごとにアルフランはこの時のことを周囲に語ったらしい。


 そのたびにロキアは何を想ったのだろうか? それは歴史では永遠に知れず、彼自身にしか解らないことだろう。


 そして当たり前だが少年はこの時、とても“気合”が入っていた。だからそれに応えるように蒼き炎が大きく放たれた。



――炎の中で少女は彼の胸に顔をうずめ、そして声を上げて泣いていた。かなしいのではない、うれしいから彼女は泣いていた。


 激しく炎を放つ少年は興奮こうふんした様子ながらもしかし、その怪物的な力を制する。


 そして精一杯の優しさで彼女の身体を抱き寄せて――



 抱き合う彼ら2人。まるで蒼き炎が彼らを包み、護るかのように揺らぐ光景。


 黄金おうごんあお……“二つの炎”しに彼らの様子を見ている少年皇帝はこの時、何を想ったのだろうか?


 それを知るすべは存在しないが……のちの彼らを見る限り。


 おそらくその怪物しょうねんはそこに“幸せ”を見たのだろう。だからこそ、サルダンにとってその2人は最も重要な存在となった。


 そうして彼ら2人の抱擁ほうようを黄金なる存在がじっと眺めて数分。


 ようやくに少年と少女は落ち着きを取り戻したらしい。彼らは無言で自分たちを観ていた皇帝に話しかける。


「それでは――ええと、初めまして皇帝様? 私はアルフラン……ライヤードあるじたるフラダン=ライヤードの長女ですわ。以後、お見知りおきを……」


「そうか……フラダン=ライヤードは優れた知性をもつが、同時に良く言って手広くしたたか、悪く言えば信用ならない人物だと判断できた。だが、君はとても素直なように思われる……情報よりもよほど誠実なのだな。ロキアの“友”だというのなら信用にもる、だから一緒に来てもいい。私は君を歓迎かんげいしよう」


「・・・・・。」


「な、ムカつくだろ? でも悪く思ってやるな……きっとこいつは悪気があるんじゃなくって、ただ思ったことを口から出してるだけなんだよ。可哀かわいそうなやつなんだよ」


「む、ロキアよ……どうして私が“可哀そう”なのだ? 私はおまえよりも強く、竜人として人々を導くからには――」


「……本当だ、確かに変な人ね。でもロキア、あなたはこの人を“気に入った”のでしょう? もう“ダチ公(=友達)”だって、そう言ったものね?」


「まぁな! だからこいつの言動もれてきたら・・・・・って、言うなよソレ!! さっき言うなって厳重に言ったばっかりだろうが!!」


「おお、ロキアッ……!! “だちこう”というのは未知の概念がいねんだが……おそらく、良いものなのだろう? それに気に入ったというのもまた、きっと“嬉しい”。そうだこれは間違いなく……嬉しいという感情だ!! なぁ、そうだろう、ロキア!!」


「うわぁ……やっぱり変な人。でも、うわさに聞くより恐い人ではなさそうね?」


「ハァァ――ったく、先が思いやられるぜ。こんチクショウが……」


 少年と少女。3名が丘の上で何かゴソゴソと話したりさけんだりしている。


 マバラードの空を流れる雲は遅く、飛ぶ鳥の鳴き声がよく周囲にとおった。


 植林された林の近くで話す3人は少し落ち着いたと思うと、またさわがしくなる。


「えっと……ちょっとマテ。飛ぶにしたってどこを持てばいいんだ??」


「“持つ”ってなによ、持つって!? かかえなさいよ、ほらこうしてここを――」


「――ンダァァア!!? やめろ、くっつくなって!! そんなんダメだろ、だから何か大きな袋にでも――」


「大きな袋ってなに!? 私を荷物扱いしないで、ちゃんといてくれなきゃダメじゃない!?」


「いや、だからそれがダメだって言ってんだろうが!? 俺はお前このッ……お前のどこを持てばいいのか解らねぇんだってばよ!?」


「だから言ってるでしょ!! ここをこうして……ほらッ、ちゃんと脚をかかえてよ!!」


「ヒィィィ!? いいのか、コレ!? なんかダメだろうが、コレェ!?

 おい、サルダンッ!! てめぇも見てねぇでなんとかイイ感じのアイデアを出せよ!!!」


「む、良い感じとは? 別にそれでいいだろう……むしろ何が問題なのだ? さきほどからアルフランは正しいことを言っているように思えるぞ。彼女を運ぶには安全性を考慮こうりょしてもその体勢で問題ない。何か問題があるのならば……ロキアよ、はっきりと言ってくれ。私はおまえの考えなら知りたいぞ?」


「うるッせぇぇぇ!!! いちいちバカみてぇに話の長い奴だ……てめぇに聞いた俺様がバカだったぜ!! ――ったく、チクショウ!! 解ったよ……もう知らんからな!? このまま飛んでいくからな、俺様は!! いいな!?」


「だぁ~~~から。さっきから“そうしなさい”って言ってるのに……何をずかしがってるんだか??」


「・・・は、ははは恥ずかしい!? この俺様がそんな……ふざけんなテメ!! 放り投げっぞゴルァァァ!!!」


「ふぅん……いいわよ? でも、あなたのバカちからでそんなことされたら私、壊れちゃうけどね」


「・・・・・ば、バカヤロウ。本当に投げるわけないだろこのヤロウ……クッソォ! どうしてこの俺様がコイツの言いなりになってんだ!? なんかやりづれぇぜコンチキショウ!!!」


「ウフフ♪ ほら、落とさないでねロキア。ちゃんと私を捕まえていてくれないと……ダメじゃない?」


 ロキアがこの時行ったのは“お姫様抱っこ”というものである。


 つまり、抱える側が抱えられる側の背に片手を回して肩を押さえ、もう片方の腕で太ももの裏側、膝の近くを抱き上げる姿勢だ。そのうえで本来なら「ギュっ」と、胸元へと抱えられる側の身体を密着させる。


 しかし、緊張のためか……この時のロキアは若干じゃっかんひじが張っていたらしい。もっとも、それでも彼の怪力があれば安定性は問題ないだろう。



 何かと騒ぎはあるものの……ようやくに彼らは飛び立つ準備を終えた。


 帝都へと旅立つ間際まぎわ。二つの炎越しに少女が皇帝に向けて言った。


「ええと、サルダン……様? あのね、私たちは帝都に行くわけですけど……あなた、ちゃんと私たちを護ってね?」


「ん……いや、ロキアはともかく君は守護するぞ。私はブローデンだからな……だから安心したまえ少女、アルフランよ」


「違う。あのね、ロキアも……彼も護ってください。この人はとても強いけど……でも、あなたより弱かったでしょう? この世界にはどんなのがいるか解らないから……だから、この先はあなたが彼をちゃんと護ってあげてね?」


「・・・・・いやいや、ふざけんなてめぇ何を勝手なこと言って――」


「あなたはだまってて! ――ねぇ、サルダン様……頼むわよ。もし、万が一にも彼に何かあったら私は…………私は、あなたを許さない」


「ふむ? ロキアを護る必要性を感じないが……いいだろう。君の願いを聞こうではないか。なぜなら私はブローデ――」


「――違う!!! 友人として……“ダチ公として”彼を護れって言ってるの!! いいこと、解った!? 絶対だからね!?

 ……もし約束破ったら、本当の絶対にあなたを許さない……許さないから!!!」


「えっ……ど、どうしたアルフラン?? なんでそんな俺のことを……」


「…………君は竜人か? いや……そうではない。だが…………うむ。

 私は約束する、君を失望させない。そうだ、私はこの男の…………“だちこう”、なのだからな。

 ・・・そうか、だちこうとは“友人”ということか……なるほど、それも初めてだ。この私の友人…………友、か」


 アルフランは鋭い視線を皇帝に向けた。それを受けた皇帝はほんのわずかにだが“ひるんだ”のかもしれない。ともあれ以後、彼はこの少女に対しては人間というより竜人に接するような態度をとるようになる。


 短い時間だが……そうとうに緊張したらしい少女は安堵あんどして急ににじみだした冷や汗をぬぐった。この頃はまだ、サルダンへの畏れというものが彼女にあったのだろう。


 そしてかなり「ムカつく」ことを言われた気がしたものの、少女に一瞥いちべつされて何も言えなくなった銀髪の少年。彼もまた、サルダンと同じく彼女への考えを少しあらためたらしい。



 そして……ついに二つの炎が浮き上がる。


 黄金と蒼の輝きはマバラードの丘を離れ、山岳地帯を越えていった。



 その日を境にしてマバラードの街は秩序を得た。「しばらくは毎日顔を出す」と宣言した通り、日帰りで出現する黄金なる存在による変化を人の社会はこばめはしない。


 帝都では2人の希代なる竜人がそろい、やがて彼らは並び立つ英雄としてその名を歴史にきざむこととなる。



 二つの炎――――激動の時代にともった輝きを人々はおそれ、たたえ……そして記憶した。


 多くの人々が無数と残した記録、記憶……。


 それらは現在を生きる我々に“彼ら”の輝きを伝えてくれている。そうした輝きの続きはまた別の機会にでもしょう。



 これはサルダンとロキア……彼ら2つの炎が出会うまでの“記憶”である。




『帝国の歴史:二つの炎――サルダンとロキア――』




END






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