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『二つの炎――後章:二つの炎(6)~青き少年と少女、それと怪物皇帝~』

6.二つの炎~青き少年と少女、それと怪物皇帝~


 かつて、まだ帝都がアプルーザンにあった時代。


 人々が文明のに目をくらませ、“竜のみちびき”を忘れそうになっていた頃のこと――。


 黄金なる輝きをまとってこの世に産まれた異常な個体。それは人ならざるモノとして“存在するだけ”で帝都の民からおそれられた。


 同時期。蒼き炎を帯びた存在は海辺のマバラードへと流れ着き、そこにある人々をその“暴力”によって恐れさせていたという。


「―――――。」


「・・・・・。」


 快晴のマバラード、強い陽射しを照り返す海岸。そこへとうちつける波は実に穏やかなもので……風もまたゆるやかにこの浜辺を流れていた。


「――なぁ、ロキア?」


「・・・・・。」


 その日、浜辺には2人の“少年”があった。1人は大の字になって浜辺で寝そべり、もう1人は黄金に輝いた姿でその横に立っている。


 黄金なる少年が言う。


「ロキア……解っただろう? 私は解ったぞ……そうだ、私のほうがおまえ“より”強い。なぁ、そうだろう?」


 黄金なる少年はそのように抑揚よくようなく言った。表情は無垢むくなほどさわやかで、あたかもめたたえているかのように口調は優しい。


 実際、黄金の彼は勝ちほこっているわけではない。自身と“比較”できる人を心の底から賞賛しょうさんしていたのである。


 そうした言葉を寝ころがって聞いている銀髪の少年。その表情にあるまゆり上がり、口先はとがってゆがむ。


 苦々しい、と。そういった表情で歯をギリギリとしながら銀髪の少年は応えた。


「解るかよ、ボケェ……! あのな……ほら、今日はアレだよ。俺様ってものすごい海水飲んだでしょ? あれでその、もう身体が重くってよぉ……口の中だって塩辛くて集中できねぇっての!

 だからアレなんだよ……勝ちとか負けとか……そういうんじゃねぇ。いいか、だから……本当は俺様の方がてめぇより強いんだ!! てめぇこそ、そこんとこ理解しとけや、なぁ!?」


 少年――ロキア=スローデンがそのように言うと、もう1人の少年――サルダン=ブローデンは……。


「えっ、そうかな? しかし、海水といってもおまえが飲んだ量などしれたものだろうし……何より海水を多く飲むことになった理由はおまえの方が私の攻撃によって吹き飛ばされたからだろう? むしろそれが私とおまえの間にある力量の差、その証拠として――」


 ……などと言葉を発し始めた。それは反論というよりは「事実」を列挙しているだけであり、決して嫌味ではない。


 嫌味ではない……まぁ、それは発する本人がそうだとしても大切なのは受け取る側の“気持ち”だ。


 よってロキア少年は顔を真っ赤にして“金ピカ”なやつをにらんで指さすのである。


「うるせぇ、バァァァカ!! おまえほんとバカ、バカバカのおおバカ!! ぜってぇいつかぶっ飛ばしてやるからな……覚悟しとけよほんと。この大バカ金ピカスットコドッコイ!!!」


「えぇっ……な、なんでそんなことを言う? というより私はすでにおまえに“ぶっ飛ばされている”だろう、今日に何度も。そして私は“馬鹿”ではないはずだ……いいかロキア、おまえは馬鹿という言葉の使用法を間違っているのだ。まず、馬鹿という言葉の意味だが――」


「ダァアァァ、うるっせぇぇぇ!!! このアホがもう……もう、ほんッッッとムカつくクソガキだぜ、お前ってやつはよぉ!! これ以上言うなら怒るぞほんと、こんのボケカス!!!」


「うぐっ……な、なぜだ、ロキアよ。なぜ私をそのように……というかおまえはもうそれ、“怒っている”ではないのか? そうでないならどのような感情で発言を――」


「おだまりッ、もう知らないッ!! サルダンくん、君はもう黙ってなさい……フンっだ!!」


 ロキア少年はほほふくらませてそっぽを向いた。そうして不貞腐ふてくされたように横を向いた少年だが……その身体にある無数の傷はすでにほとんどがふさがっている。出血もほぼ止まっているらしい。


 そうして背中を向けた少年を見下ろす“まるで無傷”なサルダン少年。黄金の少年は明らかに困った表情で眉毛まゆげを下げている。


「うぅ……す、すまない。ロキア……なぜか知らないが謝るよ。だから怒らないでくれ……頼むから……」


 そのように謝るサルダン。その弱々しい声を聞いた銀髪の少年は「チッ!」と、これも困ったような表情で舌打ちした。


 この時、ロキアはこの“サルダン”という男をなんとなく理解しつつあったのだろう。


 ロキアはきっとこの時、怒っていなかった。だから怒鳴りながら「怒るぞ」などという一聴いっちょうして矛盾むじゅんした発言が出たのだと考えられる。



 背中を向けて黙ったロキア。その背中を弱々しい視線で見ているサルダン……。



 しばらく2人がそうしていると……ロキアが急に上半身を起こした。


 そして、キョトンとしているサルダンに向けて聞く。


「よぉ、てめぇ……サルダン。お前は“こうてい”だっつったな? そりゃアレだろ……“皇帝”って……つまり帝都の王様ってことだ。そうだろう?」


 そうして先ほどにあった会話を振り返るように問うロキア。そうした質問を受けて、サルダンはさらに目を丸くしたようにほうけた。


 呆けるサルダンは「なぜそのような当たり前なことを聞く?」とこたえる。そして、そういう応えがあることをロキアは予見していたのだろう。


 だからロキアは驚きも怒りもせず、空を見上げて「ふぅ~~ん」と声をこぼしてから続けた。


「帝都ってのは……このマバラードより人が多いんだろう? すっげぇ色々となんかあるんだろうなぁ……いや、別に興味きょうみなんてねぇよ? だがよ、ホラ……お前はそこの王様なんだから色々知ってるだろうって……いや、別に違ぇからな? ホレ、あの……なんだ、その・・・・・やっぱり、なんでもねぇよバカヤロウ!!!」


 何が言いたいのであろうか? ロキアはどうにも歯切れ悪く、とぎれとぎれに言葉を発した。


 そうしたよく解らない様子である少年の横顔。それをみた皇帝サルダンは「そうだ、帝都……」とつぶやく。


 サルダンは短い距離をすべるように移動した。あしも動かしたのか解らないような移動だったが、それを見たロキアはもう何も思わない。「コイツはなんか変なヤツだ」とある意味悟ったような心境だったのだろう。


 そうしてサルダンは空を見上げるロキアの正面に立った。その表情は明るく、本当に楽しそうで――


「なぁ、ロキア! おまえも帝都……アプルーザンに来い! そうだ、おまえは私のそばにいなければならない! だから帝都だ……帝都に住もうよ、なぁ、ロキア!!」


「・・・・・はいぃ???」


 満面の笑顔。それは太陽のように眩しいほど――実際に黄金の輝きを激しくしながら――言い放たれた“誘い”の言葉。


 いや、誘っているというよりはサルダンとして「そうする」と決めていたのである。まるでことわりを定めるかのように彼の脳内では「ロキアは私と一緒に帝都へと来る。そして住む!」と確定されていたのであろう。


 皇帝の決定と宣言である。それを聞いたロキアは呆然としたし、やたらと嬉しそうな皇帝の表情にちょっと引いた気持ちになっていた。


「なんなんだよ、マジで……。お前、サルダン……てめぇは一体どういう――」


「よし!! ではマバラードを“整備”しよう。ロキア、少し待て……このマバラードに帝国の法を与え、人々に平和をもたらしてから動く必要がある! だから待っててくれ、ロキア!!」


 そう言うと皇帝サルダンはもう動き出していた。厳密には動くというより「フワリ」と浮き上がったかと思うと瞬間移動したかのように凄まじい速度で空を飛び、一瞬にして遠目で浜辺を見守っていた群衆の上空へと到達する。軽く発生した衝撃波で群衆の大半が尻もちを着き、青空を見上げた。


 そこに浮かんで停止している黄金なる存在……。


 これまでその怪物たる証明を存分にながめていたマバラードの人びとは何も言葉を発せず、ただ“おそれた”。中には尻もちを着かずとも自然とひざを地に着いていたものも多いとされる。


 黄金の光をまとう存在は群衆――それをふくむマバラード全域へと声を響き渡らせる。


「安心しなさい、マバラードの人々よ。これよりこの街はサルダン=ブローデンが導く。今日より帝国の法をしるべとし、君たちは大いに平和を享受きょうじゅするべきである……よいな?」


 ……だれも、何も言えなかった。


 マバラード一帯へと響き渡った皇帝の言葉。それを間近で聞く人々、路地にたむろする人々、家屋に引きこもる人々、隠れるように何か相談を行っていた人々……。


 そのだれもが何も言えず、ただ皇の言葉を受け入れるしかなかった。


 そして空中にある皇帝は続けて「では、これより呼び上げる者は私のもとに来なさい。まずゲンダー=フロスト、それに従う“兄弟”達。それと――」といった具合に淡々として人間たちへと命じ始める。


 ……この日、マバラードにあった混沌こんとんは終わりを迎えることとなる。


 どれほど人間が熱狂し、何万と集まったとしても……ただ1つの“真に怪物である存在”を前にしてはありの群れも同然。


 ただ、自身を怪物だとすれば小さな蟻も大きな蟻も等しく、取るに足らない存在なのだろうが……。


 サルダンが真に異常なのは恐らく、彼自身は自分を“怪物”だと思っていなかったことだと思われる。


 あくまで彼は人間をべる“人の一種”として……だから間違っても人を“蟻だ”などと見下すこともなかった。だが、自身をふくめて“生命”に対する考えが根本的に異なるからこそ、人々からみれば“非情”と映るのだろう。


 彼ほど人間を愛した皇帝は他にないと考える者は多いし、逆の考えをもつものもまた多い。つまり、彼に対する評価が現在でも定まらないのは仕方がないことである。


 黄金なる怪物皇帝の号令を受け、早々と改革されていくマバラード。おうの指示を受けた精鋭達がそれを成す手足となってマバラードを駆けまわった。もちろん、それ以上に皇自身が飛び回っていたことは間違いない。


 変わりゆくマバラード。その上空を飛び回る黄金なる存在。


 そうした姿を「ぼ~っ」と、砂浜に座って眺める少年……。


「なにしてんのか知らんけど、とにかくまた無茶苦茶してんだなぁというのは解るぜ。

 ……にしてもよぉ、帝都だとぉ?? ・・・・・バッカヤロウ! 俺はお前、帝都なんざ……帝都なんて…………帝都って、どんなんだろう??」


 ロキアはそう言ってボリボリと銀髪をいた。独り言をこぼしつつ、少年はマバラードの斜面を見上げる。


 そして――頭を掻く少年の手が不意に“つかまれた”。「ん?」と、ロキアは掴まれた左手を見る。


 見ると、細い指が彼の腕をしっかりと掴んでいる。か弱い力だが……それを振りほどくことは困難こんなんきわまりないことであろう。


 そのことを“彼女は”さっしているし、だれよりもロキア自身が“本当は”理解できていた。


「ウッフフフフ…………捕まえたわよ、ロキア♪」


「・・・・・ゲェェっ!? “アルフラン”!!!?」


 ロキアの手を掴んだのは赤髪の少女、“アルフラン”である。ドレス姿の彼女は浜辺でかがみ、そして「ニヤリ」としながらしっかりと少年の左腕を“両手で”掴んでいる。


 いたように出現した少女に驚愕きょうがくするロキア少年。


 少女アルフランは掴んでいた少年の腕に身体ごとしがみついた。


「さぁ、離さないわよロキア!! 喧嘩は終わったのでしょう!? あなたったら、ちょっと負けてしまったみたいだけど……でもいいわ、次は勝ちなさい!! そして大変よ……早く私が手当と食事をあなたに与えないといけない……って、あれぇ??」


「アルフラン!! てめぇちょっ……あのっ……やめろバカ、しがみつくなってアホぅ!! なんかこういうのはその……ほら……なんかヤバいんだよ!! だから離れろ・・・・・って、だれが“負けた”だと!? さっきのは海水がアレだったからノーカウントだろうが、ノーカウント!!」


「ロキア……あなたったら、そうよね? あなたが怪我をするなんてないけど……でも、あんなふうにボコボコにされていたのは初めてだから。怪我くらいもっとあるかと……なんなら私の家でまり込ませて看病かんびょうをするつもりだったのに?? そうだわ、あなたの家に私がとまるってのも“有り”よね!?」


「だれが“ボコボコ”だとゴルァ!? ボコボコなってないわ、むしろボコボコにしてやってたんだわ!? 最後あんなん……あんな“ピカ!”ってズルされなかったら俺の勝ちだったんだよ! 逆転する感じすげぇあっただ――――ギャァッ!? やややや、やめろさわんな、離れろッ…………頼むから、それ以上くっつくなぁぁぁ!!!」


 浜辺でゴソゴソとしている少年と少女。銀髪の少年は真っ赤な顔で怒っているようだが……どうすることもできない。捕まってしまったら、彼女の細い腕を乱暴に振り払うことなどできはしない。


 そんな熱くなっている少年の様子はともかくとして。赤髪の少女は彼の身体にある傷が思ったより“ひどくない”ことに驚いていた。


 遠目に見ていても明らかにボコボコだった彼であるが……なんなら最後、すさまじい光をびて「死んだ!?」とすら思った彼なのに……。


 その傷はすでにほとんどが治っており、出血もなくあざが残っているくらいだ。その痣も見ているうちに薄くなっているような気がする。


 不思議そうに首をかしげながら少年の身体をさする少女。優しく彼女の手や身体が触れて、さらに密着することで真っ赤な顔の少年はやがて石化したかのように動かなくなった。



 マバラードの浜辺で少年と少女がそのような青春の1ページをきざんでいる頃。


 黄金なる存在は街の各地を飛び回り、次々と独断によって導き出した混沌の理由をみ取っていた……。




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