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『二つの炎――後章:二つの炎(5)~壮大な喧嘩の決着~』

5.二つの炎~壮大そうだいな喧嘩の決着~


「てめぇコラ、なに“ガッカリ”してんだコンチキショウ!! ざっけんなよ、飛べるわボケェ!! みてろよゴルァ!!!」


 ロキアはそのように叫ぶと浜辺を駆けた。


 そして波打ち際、そこで大きく踏み込むと……跳び上がる。


 跳び上がったロキアは宙を舞い、見下ろしている黄金なる存在へと手を伸ばす。


 黄金なる存在もまた、“思わず”手を伸ばし――そして。


「アっ。やっぱりダメだコレ・・・・・・・うぼォあああぁッ!!?」


 ロキアは水没すいぼつした。異常な跳躍力で跳び上がったまではよかったが、彼はそのまま放物線を描いて海に落ちていった。


 遠目に観ているマバラードの人々は「あっ、落ちた!」と口々に言う。


 砂浜のはじで観ている牙備えの剣士たちも「落ちたな……」と口々に言った。


 そして、海の上で海中を視ている少年は――――


「……ほら、やっぱり。私の言ったとおりだろう?」


 海の一部が弾ける。そこから跳び出した存在は“青色の塊”であり、それは跳び上がってしばらく上昇するとそこで停止した。


「ウェゲッホ、オェェ!! ……っくしょう、海水、飲んじまったぜ! このっ、チクショウ、が……オゲェ!!!」


 蒼き炎を帯びた少年、ロキア=スローデンが空中にとどまっている。それを同じ高さで見るサルダン=ブローデンは「うんうん」と満足そうにうなずいた。


 そうした光景を観て……彼ら以外のだれもが思っただろう。「アレらはなんだ?」――と。


 皇帝のことを見守り続けてきた衛士えいしたちですら、ここまで躍動する彼を見たことなどなかった。


 常々「人間らしくない」と思っていたのだが、いよいよ本格的に力を発揮すると「完全に人間じゃない」という確信のようなものがいてきた。


 人々は畏敬いけいするだろう。彼ら竜人の輝きを見ておそれ、うやまうことが本来あるべき姿である。


 しかし……彼ら2人。空に浮く少年たちはこの時どのようなことを思ったのだろうか?


「よし。じゃあ続きをしようか、ロキア!」


「ハァ、ハァ……マジで飛べるとはな。さすがは俺様だぜぇ……って。いやいや、続きってお前、こんな状態で喧嘩なんてできるわけが――」


「やれるさ……ほらっ!!」


「えっ? ――――どぅぶぇぇッ!? ……ッ、てめぇコラ、なにすんだよ不意打ちすんなやアホゥ!!」


「え。だっておまえができないって言うから……でも、できるだろう?? ……できないか??」


「・・・・・そんなんお前、そんなんはなぁ…………あっっったりめぇだろうがコンチキショウ!! やってやるよ、コラ!! ぶっ飛ばしてやるぜこの金ピカバカ!!」


「――!? ぐあぁッ……アハハハっ!! やっぱり、おまえならやってくれると思ったよ。ありがとう、ロキア!」


「・・・・・あのな、てめぇさっきっから“ありがとう”ってさ。それを喧嘩の最中によぉ……ほんっと、ムカつくヤロウだぜこのアホンダラァ!!!」


 快晴のマバラード。広がる海、穏やかな波の上。青空の中で轟音を響かせ殴り合う2人の少年――。


 そのような様子を観ている人々は口々に言った。


「怪物……異常だよ、あの人。皇帝ってのはやっぱりやべぇんだなぁ」

「そりゃそうさ。だってブローデンは竜人だからな……竜人は人間じゃねぇのさ」

「りゅうじんって……ああ、皇帝とかはそんなんだったっけか。なるほどね……」

「解っちゃいたけど……改めてみると俺たちとは“違う”な。別だわ、ありゃ」

「というか……そんなのと同じにやれてるロキアも怪物だろ。あいつも竜人か?」

「ロキアって……最近聞く名だな。あいつがそうなのか……どうりでだ」

「関わらないようにするって、それは正解だぜ。人間じゃないもの、あんなのさ……」


 遥か上空、海の上で殴り飛ばして殴り飛ばされるを応酬おうしゅうする2人。その様子を見たマバラードの人々は彼らを“怪物”だとする認識を改めて強めた。


 だからもう、彼らと人として関わることなど止めようと――――


「がんばれ…………がんばれッ! かんばって、ロキアぁ!!!」


 だれかが叫んだ。異常な光景を見て静まる群衆の中、だれかが海上に向けて叫んでいる。


「ロキア……ロキア頑張れ! 負けないでロキア! “こうてい”ってよく解らないけど……負けないでよ!! こうていなんて倒してよ、ロキア!!」


 それは子供である。細身で小柄な子供だ。顔や腕に傷やあざがある子供である。


 周囲の大人たちは突然叫んだ子供を注目する。「何だこの子は?」と、いきなり叫び始めた子供を見て「彼がどうして傷だらけなのか」とほんの少しだけ疑問を抱いた。


 いきなりに涙を流しながら叫び始めた“傷だらけの子供”。それを見て呆然とする大人たち……。


 そうした状況の中。慌ただしく砂浜を駆けてくる姿がある。


 それは“ドレスのすそ”を風であわただしくしさせながら砂浜を駆けてきた。


「ちょっと、ちょっと!? ロキア、なにをやっているの!! ……まぁ、よく解らないですけど? ともかく喧嘩ならさっさと相手を倒してくださいな。そして……早くお昼にするわよ――――もちろん私の家でッ!!!」


 ドレス姿の少女である。それが砂浜を駆けながら叫ぶ。


 “赤髪で褐色肌の少女”がそのように声を張り上げると……どうしてか。


 なんでかいつも気になってしまうその声に反応して、ロキアは遥か海上から「まだそんなこと言ってるのか!?」と叫び返す。


 そしてそれと同時に“パキン”とした音がマバラード一帯に響いた。


 かわいたその音が響くと同時に、鋭く、真下へと落下していく青いかたまり……。



――黄金の閃光が数秒間、青空に巨大な円を広げてえがかれた。


蒼き炎がくだけたように飛び散り、霧となって空にただよっている――



 すさまじい一撃である。“よりによって”力を込めたそれがすきだらけの胸部きょうぶに直撃してしまったので黄金なる存在は“あせった”。そして「あっ、大丈夫か?」と蒼き怪物を“心配”する。


 爆発したかのような黄金の閃光を砂浜から見上げる少女。赤髪の彼女は足を止めて、さらに声を大きくして叫ぶ。


「ああっ、ロキア!? ダメじゃないの、ちゃんと前を向いて戦いなさい!! そして勝ちなさい……あなたはだれよりも強いのよ、そうでしょう!!? ・・・・・ん。そういえば彼ったら、なんで空にいたのかしら???」


 顔を紅潮こうちょうさせながら怒ったり喜んだりと、感情をいそがしくする赤髪の少女。


 浜辺にうるさくして立つ少女は普段から目立つ存在であり、その声を聞いたマバラードの人々は「あれはライヤードの……あの化け物と仲が良いって噂は本当なのか。変わり者だな」などと困惑しながらささやきあう。


 そういう声は多少に聞こえただろうが……少女はまったく気にしない。それどころか「私とあいつが“仲良い”ですって??どうしてそんなこと解るのよ!?ウヒャァー!!」などと顔を真っにしてもだえ始めた。


 浜辺で蒸気を発しそうなほどに熱くなっている赤髪の少女。キャーキャーとうるさい少女を大人たちはまた呆然と眺めている。


 そうした大人たちにじりながら、1人だけ海を注視している男がある。そしてそれは海中へと叩き落された存在に向けてたまらず叫んだ。


「ロキア……おまえ飛べたんか、すげぇな!? いや、そんなことより……しっかりしろロキア!! 正直相手が皇帝って“ヤベェ”とは思うけど……かまわねぇ、やっちまえ!! がんばれ、若者よ!!!」


 しゃがれ声で叫んだ男性。それは筋骨たくましく、日々の漁で日やけた肌が健康そうに陽射しを照り返す中年男性である。


 “漁師の男”は腹の底から声援を送った。あれほどまでに超常的な戦いの理由が「小舟のへりが割れたことを謝ったかどうか」などという些細ささいなことだと知る彼だが……そんなことはどうでもよく、心から信頼する少年へと声援を送っている。



 傷だらけの子供、ドレス姿の赤髪少女、たくましい漁師の男……。



 彼らは応援している。怪物同士の戦い、人間ではないとだれもが思うような化け物同士の戦を応援している。


 そんなものが何か意味を成すのだろうか?


 そんなことは彼らに何も……いや、自分たち人間にとっても何の意味すら――



 マバラードの海岸付近につどった群衆の多くは彼らの言動に戸惑っている。


 だが、その中にポツポツと。海中に沈んだ“蒼き炎の怪物”へと声援を送る声がしょうじ始めた。


 数は多くない。周囲をふくめれば万単位で存在するマバラードの人口……ここに集っている群衆が数千人あるとして、声を上げる人は十数人といったところだろう。


 多勢たぜいの中にあって圧倒的な少数である。しかし彼らはずかしいとも思わず、次第に大きく声を張り上げていく。



 蒼き炎の怪物であり、口の悪い乱暴者……そんな、“心優しき少年”の名を叫ぶ。



 青空のした青海せいかいの上。太陽の光を背にして浮かぶ黄金なる存在。


 それは海底深くにある心音を聞きながら、同時に街から聞こえる“声たち”を収集していた。


「……人々が、うたっている。人間が謳うのは……“私ではない”?」


 弾ける海面。弾けた飛沫しぶきびながら、あおい塊がゆっくりと浮上してくる。


「――――――。」


 何も言わず……ガックリとうなだれて、力なく顔を下げたまま浮遊する蒼き存在。

 

だらりとれた腕先から海水がしたたっており、その青い輝きは薄らいでいた。


 力なく浮かぶ蒼き怪物。それに向けて黄金なる怪物が言う。


「なぁ、ロキア……聞こえるか? 人間がおまえの名を呼んでいる……そして、おまえを“謳っている”。あれはつまり、彼らはおまえの力になろうとしているのだろう……これは“声援”、というものだな?」


「――――――。」


「なぁ、ロキア……私は……私は違うよ? 私は“彼”ではない……だから……人々が謳うべきは私であるはずだ。なのに……」


「・・・・・・。」


「なのにどうしてだ、ロキア? 私には記憶がない……だが、そうだったはずだろう? ……違ったのか、ロキア? おまえなら解るか、スローデン??」


「・・・・・・知らねぇよ、ボケカス。」


「そうか、知らないか……だが、現在にしておまえが人々に“支持されている”ことは事実だ。なぜだろう、なぜこの私は……この感覚が……“これ”はなんだ? なぁ、ロキアよ。この感覚はどういった“感情”だろう??」


「・・・・・だからよ、知らねぇってば。てめぇの“感情”なんかてめぇで決めろや……俺様に聞くんじゃねぇよ、このアホンダラ!」


「ふぅむ……では、きっとこれはそうだな……“うらやましい”、か。たぶんそうだろう……なぜなら私は今、おまえの立場が好ましいと考えている。それはつまりおまえが受けている彼ら人間たちの声を私に向けてほしいという思考なのだろうし、そのことに私は――」


「いや、もう・・・・・ゴチャゴチャうるっせェェェ!!! 黙ってろや、この金ピカおおバカ者!! さっきっからワケわかんねぇことばかり言ってんじゃねぇ!! こまっちゃうだろうが、この俺様がよ!!!」


 蒼き炎がほとばしった。再度、輝きを増した蒼き炎をびた少年は叫びながら、独り言がうるさい存在を指さし注意する。


 怒られた黄金なる存在は「すまない」と言ってから口を閉じた。無表情に近いが、し目がちなそれは明らかにさびしそうである。


 蒼き存在はマバラードの街をチラリと見て言う。


「――ったくよぉ、勝手なもんだぜあいつらも! がんばれ、勝ってくれって……あのなぁ、“こんなの”と喧嘩してみろってんだよ。バカだぜこいつ、バカすぎるほど強――いや、そんなでもないけどさ。とにかくバカなんだよ……大バカ、こいつ!!」


 黄金なる存在を指さしてそのように愚痴ぐちを言う【ロキア少年】。

 

 そうして「バカ、バカ」という言葉を言われた通りに黙って聞いていた竜人は……。


「・・・・・ロキアッ!!」


「だいたいよ、応援なんていらねぇって! 見てろや、この最強な俺様がダレなのか思いしらせて――――ン??」


 マバラードの人々を見ていたロキア少年。その視力に映る人々……声を張り上げる十数人の全員を彼は知っている。


 彼らは「くだらねぇ!」ことをされていたところを助けた人たちだからだ。そして“応援”なんてお礼も「いらねぇよ!」とロキアは思っている。


 そうして嬉しそうに微笑んでいた少年の顔。かけられた声に反応して「ン??」と振り向いたそこに……。


「!!? ――――ウゴァッ!?!? うっ……がっ……てんめぇ……!! だから、不意打ちやめろってばよこのクソバカアホ金ピカボケナスぅ!?」


 それは張り手……“ビンタ”である。手のひらほほをぶたれたロキア少年は手で顔を押さえながら口悪く叫んだ。


 そして、ビンタを放った存在は……。


「……ロキア? さきほどからずっとおまえ、“バカ”だの“アホ”だの“ボケ”だのと私を・・・・・それって、つまり“悪口”だろう? やめなさい、この私に悪口なんて……やめろよ、“バカなロキア”!!!」


 指をさしかえし、まゆり上げて口をへの字にしている黄金なる存在……。


 明らかに“怒っている”【サルダン少年】は対面している少年をにらんだ。


 そして、にらまれた蒼き少年は……。


「ああ゛ン?? ・・・・・バカにバカっつって何がわりィんだ、このアホォがよぉ!!!」


 ……と、言い返す。するとサルダン少年が「私はバカじゃない、だからもう言うな!」とさらに返す。


 そうしたらロキア少年が「バカなことばかり言ってバカみてぇなパンチ撃つじゃねぇかよ、このザコ!!」とすぐさまに返した。


 くちびるを噛んで顔を赤く……すでに血で赤いが、それとは別にまた赤くなってサルダン少年は叫ぶ。


「なぜだ、私は“雑魚ざこ”じゃない!! 私は弱くないし、なにより強いだろう!? おまえだってもう、解っただろう!!?」


「解るかボケェ!? 知るかゴルァ!? ……てめぇはやっぱし気にくわねぇ……もう、ぶっつぶす!!!」


「いやっ、この私を潰すなどそれは物理的に不可能な…………っと、なに? “気にくわない”?? いや、それは……それはイヤだぞ、ロキ――――ァぐあっ!?」


 はじかれるように殴り飛ばされたサルダン少年。それに向かって何かをわめくロキア少年。


 空中で停止し、空を蹴るようにして反転。衝撃波をともなった体当たりで返すサルダン。ふき飛びながら何かを繰り返し叫ぶロキア。


 蒼き炎と黄金の炎はそうして何度も衝突を繰り返した。その光景を観る群衆の多くは呆然としているだけだが……十数人の声援はさらに声を大きくして蒼き炎へと送られる。



 そうして、マバラードの外にまでとどろくほど大きな衝撃音が何度か繰り返されたあと……。



「――――フフフ、ロキア! おまえはすごいな。もしかしたら私はずっと……ずっとおまえのことを……」


「ハァ、ゼぇ、ぐぇっ……うぐぐ……な、なんだよ……ハァハァ! やっぱてめぇ、ムカつくぜ……なにが“すごい”、だ! ました顔して……コンチキショウ、め!」


「いや、まぁ…………そうだな、ロキア。おまえ……“コレ”できるか? できないだろうなぁ……だってこれまでしてこないものな」


「・・・・・ああ゛!? なにを勝手に決めつけ――――」


 息を切らして肩を上下に揺すり、大きく呼吸をしていたロキア少年。


 それに向けてサルダン少年は手をかざし、そして――




 “黄金の閃光せんこう”を、撃ちはなった。




 青空を裂くように海上をした一条いちじょうの輝き。その美しい直線をながめる人々はだれもが“みとれた”。


 一瞬の輝きであったが……それを見た人々はただ「奇麗きれい」だと思ったらしい。それはいにしえの時代より人の身にきざまれた本能によるものだろうか。


 続いていた声援はとまり、数秒ののちに少女の悲鳴だけが響き渡る。黄金の光に包まれた蒼き少年は衝撃で仰け反り、煙を上げながら落下し始めた。


 るした糸が切れたかのように落下する少年。


 もう1人の少年はその姿に向けて“一言だけ”つぶやいたという。




 真昼のマバラード。そこでり広げられた竜人と竜人、スローデンとブローデンによる超常的な戦い。


 ロキアとサルダン……竜人の少年らによる喧嘩けんかは最後、一条の光によって決着がついた。




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