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『二つの炎――後章:二つの炎(3)~変化の時~』

3.二つの炎~変化の時~


 砂浜に倒れたサルダン帝。黄金に輝くその姿を見下ろし、少年は蒼き拳を突きつけた。


「てめぇ……このヤロウ、バッキャロウ!!! こういう時はまず、“ごめんなさい”でしょうがッ!! てめぇはこれまでどんな人生送ってきたんだ!?

 いいか、お高くまってんじゃねぇぞ、このスットコドッコイがよぉ!!!」


 次から次へとり出された暴言。なんと口の悪い乱暴者であろうか。


 もう明らかに罪であろう。いていなかったとはいえ、すでに最初の一撃から罪といえば罪だ。不敬ふけいだし、なにより暴行罪である。


 だが……皇帝の側近たる牙備えのだれ1人としてその場から動けず、ただ呆然としていた。


 “そんなことより”現状が理解できないからだ。罪だなんだと……法がなんたるかを合理的に考えるより、まず。現状を整理しきれていない。


 砂浜の少し外では恐る恐るにも集まってきたマバラードの人々がいつの間にかれとなっている。


 群衆が見た光景……それは倒れている“黄金なる皇帝”だった。


 そうした状況にあっても少年ロキアはまるで周囲のことなど関せず。ただ、倒れている男に向かって言い放つ。


「どうだ、効いたか?? これで解ったかよ。金だなんだとする前に、悪いことしたら言うべきことがあんだろうが……違うか、オイ!!」


 そのように言いながらもちょっとロキアは不安だった。


 彼はそれまで蒼き炎を帯びて生身の人間を殴ったことなどない。つい「カッ」となってしまったけど、実のところは「大丈夫かあいつ?」と心配だった。


 そうして内心ハラハラとしていたロキアだが……その心配はとんでもない杞憂きゆうである。


「…………これは……どういうことだ??」


 倒れていたサルダン帝はゆっくりと身体を起こしてから、何事もなかったかのようにすんなりと立ち上がった。


 とくに傷があるわけでも出血したわけでもない。だが、“衝撃しょうげき”は確かにあったのだろう。


「おっ。よかったぜ、無事かぁ!? ハッハハハ・・・・・いや、よくねぇよ!? てめぇゴルァ、なんで平然と立ってんだこのボケェ!! どうなってやがんだてめぇはコンチクショウ!?」


 立ち上がった男を見てロキアは安心したが、すぐに“立ち上がれた”事実にイラ立ったらしい。初めて殴った気合の入った拳……それがどうにも“効いていない”ようなので困惑したのだろう。


 そしておそらくサルダンも“そう”だった。皇帝は平然と立ち上がったが……その表情には“明確な変化”がある。


 驚いていた。その時、確かにサルダン帝は“驚き”……そう、彼も“困惑”していた。


 サルダンは砂浜を歩き始める。そうして銀髪の存在との距離をみずかちぢめていく。


 そして黄金なる彼は歩きながら言うのである。


「君は今、なにを……いや、足りない。そうだ、なぁ……“もう一度”、いいか? りないんだ……いいか、“頼むよ”?」


 そのように言いながら歩み寄っていくサルダン。


 そして、そのような発言をしっかりと聞き取ったロキアは――


「ほぅ――――なんだと、足り……ない? 足りないって、何が??

 ……はぁ、ナニ? つまりは俺様の拳が“足りない”って……ことぉ?? そっ……かぁ、なるほどね。ウッフフフ♪」


 笑った。ロキアは笑い、そして――


「ハッハハハ! なるほど、なるほど・・・・・って、んだとゴルァアアアア!!? まさかッ、このヤロウ……“もう一度だと”このバカヤロウ!!! クッッッソ、ムカつくぜッ、てんめぇぇぇ!!!」


 そして“キレ”た。瞬間的に沸騰ふっとう噴火ふんかした彼の怒りは理性を吹き飛ばし、マグマのように煮えたぎった感情を丸出しにした。


「上ォォォ等じゃねぇかオラァァァ!! 覚悟はイイんだろうなぁ、この金ピカアホヤロウがよぉ――――ぶっ壊してやる!!!」


 怒りの感情――それが沸き立った時。ロキアの全身からき出すように蒼い炎が放出された。


 全身を深き青色に包まれた怒れる男。それは「クソムカつく」存在へと早足に急接近する。


 黄金なるサルダンは足を止めて“彼”を待った。


 そのほとばしる強き炎と眼光……そこに産まれたばかりの時に見た“竜人”の輝きを感じたのだろう。


 立ち止まって攻撃を待つサルダンの表情。それはなんとも“おだやか”なもので……なにか“安心”したかのような、それまでだれも見たことがない彼の表情変化だったという。


「知らんぜ、ゴラァ!! こ~~なったらもう、俺だって何が何だが……っかんねぇんだからよォォォ!!! 加減なんかクソ食らえだぜ、ボケナスが!!!」


 蒼き炎を帯びた“竜人”が感情を丸だしのままに拳を引く。


 立ち止まっている黄金なる“竜人”は再び突き出される拳を“微笑みながら”受け――


「……おっ?? あれ、これは一体――――!!? “ぐぁぁッ”!?」


 その時、すさまじい衝撃が発生した。


 竜人と竜人……その“頭部と頭部”が激突した衝撃の余波は音となり、少し離れた牙備えはもちろんのこと、遠目に見ていたマバラードの群衆すら身をすくませた。


 ロキアが行った攻撃は拳によるものではなく、それと見せかけて胸元を掴み、そして渾身こんしんの力でち付けた“頭突き”であった。


 あまりの威力に微笑みを失い、苦悶くもんの表情を浮かべて後退するサルダン。そのひたいからは赤色の飛沫しぶきが弾ける。


「――――ケェッ、バカがよぉ!! だぁれがてめぇの“注文”なんざ受けるかっつぅの。これでちったぁ反省して態度を…………んおっ??」


 ロキアは得意気に指をさして説教をれようとしていた。思いっきりの一撃をくらわせたことで少し冷静になったらしい。


 それほど会心の一撃だったのだろう。というより、普通の人間ならみじんにき消えるような破壊力である。


 そんなものを直撃され、頭部を押さえて苦悶していたサルダン。しかし、彼はすぐに表情を“変えて”顔を上げた。


 そして真っすぐに蒼炎そうえんまとう存在を見ていると……自身の額から流れる液体に気がつく。


「これは…………これは、血か!? おお……私の血が、流れている。つまり、竜の血脈が私の身体の外に……そしてこれは確かに“赤い”ものだ!」


 額にれ、指先を赤く染めた液体をじっくりと眺めるサルダン。そうした様子を見たロキアは「なんだコイツ……」と、“不気味さ”を覚えて困惑した。


 流れた血を眺めたりめたりしていたサルダンだが……「あっ!」として若干じゃっかん引き気味に立っている少年のことを思い出す。


 そしてサルダンはまた微笑んだ。今度はさきほどよりさらに明るく、ほがらかに……。


「君は言っていたな。こういう場合は謝罪を……そうだ、“ごめんなさい”。少しだけ君のことを忘れてしまった……そしておそらく、これも言うべきなのだろうな……“ありがとう”、と」


「・・・・・んがぁ??」


 笑いながら何か状況に合わないことを言ってくる黄金なる存在。そのよくわからない言動を受けた少年ロキアは「マジでなんだコイツ……」と、さらに一歩下がって明確に気味悪がった。



 ――マバラードの昼時。穏やかな波がうちよせる海岸にて。


 その日、2人の“竜人”は出会い、そして言葉をわした。


 この時ロキアは14歳だったが……サルダンもまた、14歳をむかえたばかりである。





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