『二つの炎――序節:竜人の導き』
遥か昔、人々は竜による導きを受けていた。
母なる白竜は人を愛し、人から愛される存在である。そして誰しもが彼女の庇護を当然として生きていた。
……だが、偉大なる彼女はやがて時間という病によってその命を落とすことになる。
深い悲しみに陥る人々。果たしてその時、人類は導きを失ったのだろうか?
いや、導きの火は決して消えなどしない。竜の命は果ててもその存在は永遠である。
竜の命が潰えたその日に産声を上げた人間。それは産まれながらにして他とは異なる存在……。
竜の命が潰えたその日に産まれた赤子。穏やかなる炎……“黄金の光”を纏いしそれは外ならぬ、かの偉大なる竜の生まれ変わりであった。
彼は前世と同じく偉大なる存在として振る舞い、その血に宿した竜の火によって人々を導いた。その傍らに立つ者もまた青き炎によって彼を支え、そして同様に人々の道を照らす灯としてあったという。
竜の転化――後に“竜人”とも呼ばれる特異なる存在……。
偉大なる竜の血は女神に倣った宿命の病によって命を終え、そしてまた新たなる火として甦る……これを脈々と続け、人の世――つまりは社会を今に発展させてきたもの。それこそが【ブローデン】というわけである。
その道半ばにていくらかの人は邪な方へと逸れてしまったが……それを文字通り邪道とすれば人の正道、正当なる歴史こそが“帝史”と言えよう。つまりはアプルーザン帝国の重ねた時間こそが唯一まともな人類史となる。
そうした人類史において人々を導くように紡がれた火の縄。そこに輝く転化達の中にも一際輝く結び目というものがある。
歴史の空で燦然とする星々のような存在たち。竜人の中でもより真なる竜に近い力をもつ彼らはこの世界において大いなる役割を果たしてきた。
そうしたいくつもの星々、命の輝きの中で……最も明るい光とは何か?
最初のブローデンはもちろんその候補となるだろう。だが、現在の人類において「影響が強い」光というものは決まっている。
その炎は永き歴史の中でも特に強く、抜きん出て“異常”なる光。人間として分類するにはあまりに突出しすぎて誰にも解られることもなく……ただ、久方に並んだ“蒼き炎”のみが彼を知りえた。
人々を導き、翻弄し、畏れ恐れられた存在。
奇しくも時を同じくして灯った邪悪なる紅き陽を掃い、帝国を救った英雄。それと同時に多くの帝国人から火を奪った罪人でもあるその竜人。
太陽が如き暖かさと厳しさをもつ強い炎……それは人の名にして【サルダン】と呼ばれる者である。
サルダン――その強烈すぎた歴史の烈火は一体、どのようにしてこの世に灯ったのであろうか?