98 敬遠と笑み
唐突過ぎて、呼び方を変えてきた理由が分からない。例え先輩であったとしても、今日が初対面の相手だ。距離を測るために敬称くらい付けるべきだろう。
「お姉様、ずるいです。私もただのエミリーと呼んでください。手続きはまだですけど、もう呼んでくださって構わないんですよ」
「手続き? 同性婚でもするのですか?」
とぼけた振りをして、嫌味で返しました。
「この学院特有の制度。シスター制度の手続きの事よ、光」
また私を呼び捨てに。先ほど、エミリーは選民思想など無いと言っていたけれど、この人はそれを持っているような気がする。
きっと、中途入学の後輩だから下に見ているのだろう。
「ああ、シスター制度でしたか。この学院特有の制度でしたね。気付きませんでした」
「馴染みが無ければ仕方ないわね。それで、光は制度を利用するのかしら?」
太く、長い関係と言えばシスター一択だと思う。けれど、私は多方面でコネを作りたい。
「一貫校という事で、既に関係が出来ている人達ばかりなんですよね。なら、私を相手にしようという物好きは居ないですよ。それに、今の所、知り合いと言えばお二人しかいないので」
良縁は既に売り切れているだろうという体で、私は意志が無い事を示した。
正直、シスター制度に良いイメージが持てなかった。
あんなのは、派閥を作る為の前時代的な制度だ。制度なんて、強制的に序列を作り、その関係に縛られるので邪魔でしかない。
私が欲しいのは、卒業後も適度に維持される関係性と、ジャンルを問わない幅広いコネだけだ。
一本だけの糸なんて、切れたら意味が無い。ロープ並みに太かろうと、シスターなんて求めていない。
計画として、クラスで顔見知りを作り、適当に部活に入り、同学年以外の知り合いを複数作る予定だった。
「そうなのね。では、物好きが現れた場合はどうするつもりなのかしら?」
妙にグイグイ来る。ここは当たり障りの無い、学院では当たり前だと思われる返事で返しておこう。
「そうですね。良い出会いがありましたら、お願いするかもしれないですね」
私の答えを聞くと、ライカ先輩は笑みを浮かべた。
(今のは何?)
取り返しのつかない失言をしたような気分になったけれど、気のせいだろうか。
「二人とも、そろそろ中に入りませんか? 新学期の初日に遅れてはいけませんから」
話していたら、登校する生徒の数が随分と減っていた。エミリーに言われて時計を見ると、かなりギリギリで、私達は駆けだした。




