96 野望の始まりと挫折 いけ好かない思想
私がお嬢様学校であるサンブライト学院を目指した理由は一つだ。
世間でそう呼ばれているように、学院に通う生徒はほぼお金持ちの娘。
親が社長や会長なんてのがごろごろ居る。学院内でパイプを構築する事が出来れば、将来はその関係で大金を得られるかもしれない。
そう、私の目的はコネ作りだ。
私はこの学院の生徒達に顔を売り、今の人生をひっくり返し、左団扇な生活を目指している。
六歳の頃から一つの場所しか知らないような相手なら、手の平で転がすのも容易いだろう。
そんな風に思って入学したけれど、もうこの時点で計画に問題があった事に、私はまだ気付いていなかった。
入学式の日。生徒用の玄関に行くまでは、私は野望のためにかなり意気込んでいた。
私が野心を抱いたのは小学生の頃。なので、早ければ早い方が良いだろうと思い、中等部からでも入学しておきたかった。
けれど、お嬢様学校だけあって学費が高い。私が学院で過ごすためには、色々な条件があった。それらの条件と、学院特有の奨学金制度の条件を満たせたのは、高校受験の時だった。
その努力が報われ、野望の一歩となる日が今日だ。だからやる気満ち溢れていた。
けれども、入学初日から上手くいかなかった。
たくさんの生徒達を目の当たりにした瞬間、住んでいた世界の違いに圧倒されてしまった。
歩き方、仕草、どれもが私が積み重ねてきたものと違っていた。
私も溶けこめるように努力をしてきた。けれど、そんな努力の成果をここの生徒達は、幼稚園児よりも前から身に付けている。
雰囲気だってそうだ。生まれた時から纏っているものが違う。
タンポポの綿毛と言えば良いのか、ひよこのようなふわふわと言えば良いのか。私の場合は、全方位が剣山並にトゲトゲしている。
私がここの生徒に触れようものなら、相手はこちらを異物と見なして離れていく。そんな印象を持った。
終わりが見えず、どんどん悪い方向へ思考が進んでいる。良くないからと考える事を止めようにも、坂道を転がるようにマイナスな思考が続き、膨れていく。
「あなた、顔色が悪いようですけど、大丈夫かしら?」
自分に嫌気が指していると、物好きが私に声をかけてきた。
振り返ると、金髪ロングな女子が居た。とても良い物に囲まれて育ってきたと分かる外見。
コネ作りの一人目だと思ったけれど、今の心境では自分が追い込まれかねない。
「心配には及ばないわ。ちょっと周囲に圧倒されているだけよ。すぐに慣れるわ」
皮すら維持出来ず、私はほぼ素の状態で話していた。
「周囲に圧倒? あなた、中途入学の人?」
彼女の言葉が、ささくれた私の心に引っかかる。
「中途じゃないわ。高校からここなの」
別に編入が悪い訳では無い。ただ、入学式の日にやって来た人間に対し、中途だと言う失礼な令嬢に腹が立っただけだ。余裕も無かったので、私はムッとした感情を抑えられなかった。
「言葉が悪かったようね。ごめんなさい。この学院は一貫校なので、途中から来た人の事を中途入学者と呼ぶのよ」
事情は分かった。それに、彼女に悪気は無いとも理解した。けれど、それだけに質が悪い。
「そうなの。まるで選民思想ね。その感じ、好かないわ。それとも、流石はお嬢様学校というべきなのかしら?」
世間知らず特有の無神経さに腹が立ち、心配して声をかけてくれた女の子に対し、随分な態度を取っていた。
「私の言葉で気分を害した事は認めましょう。ですが、そのような思想の上で運営されている学校ではありませんよ」
非を認め、母校に落ち度は無いという金髪ロングの女の子。
意外だと思った。彼女からすれば、中途入学者の半端者が差し伸べた手に噛みついてきたのだ。もっと高飛車に私を罵倒でもするかと思えば、帰ってきたのは謝罪。私は毒気を抜かれてしまった。




