95 意識 これは大変な事になりました
反射では無く、自身の考えを口にしている状態は珍しいです。
仮に会話が成立しても、それはそのようになっただけというパターンがほとんどです。
たまに考えを言う事もありますが、それも一言、二言で終わります。
だというのに、今回はすぐに終わらず、ちゃんと会話も成立しています。
「あなたがあの子と離れたと分かれば、嫌がらせも無くなるかもしれません。それでも風当たりがまだ強ければ、私が傍で彼女を守りましょう。だから任せておきなさい」
こんな時でもエミリー先輩は私を気遣っていました。何故ここまで私を気にかけるのか、本当に分かりません。どれだけ冷たい対応で返そうとも、彼女は何時も私を気遣うのです。
私が居ない所でも同じ事を言っているので、口だけでは無いようです。
(もしかして、私とお姉様を離れさせようとし続けているのは、このような事態から私を守るためだった?)
今まで見えていなかった角度からの情報に、動揺が止まりません。
(それでも私は……)
私の今までの認識が間違っていたとしても、それでも、憧れの人と離れたくないという気持ちを強く感じました。
ですが、光お姉様はどうでしょう。自分が原因と言われ、それでも傍に置いてくれるでしょうか?
不安に思いながら、私は二人の話を聞き続けました。
「光。聞いているの?」
「ありがとう。でも、それは聞けない」
「あなたねぇ。慕ってくれている後輩が辛い思いをし続けても良いと言うのですか?」
「そんな訳無いわ。あんなに慕ってくれている後輩を守らないで、何が先輩よ」
今までになく強い感情を露わにするお姉様。
「その強気な物言い。昔みたいです。昔? そう言えば……。あなたっ!?」
ちゃんと会話が成立していた事に今頃になって気付いたようです。
エミリー先輩は光お姉様の肩を掴みました。
「痛い。離しなさい」
お姉様が抵抗し、エミリー先輩は慌てて腕を引っ込めました。
「すみません、つい」
すぐに離れましたが、お姉様は急に動いたために貧血を起こしたようです。
ふらついたかと思ったら、そのまま階段の方へと倒れようとしているではないですか。
「お姉様っ!!」
お姉様がふらついた瞬間に私は飛び出していました。
このままでは危ないと思ったのは、その直後でした。
「陽子さん!? 何時の間に」
突然現れた私に、エミリー先輩は驚いていました。
「話よりも、お姉様を」
考えるよりも前に体が動いたおかげで、受け止める事が出来ました。
ですが、いくら痩せ細っているとはいえ、人一人を階段という狭い足場で支えるのは、マッチョでも無い私には厳しかったです。
「今引っ張りますね」
私には見えませんが、エミリー先輩がお姉様を引っ張ろうとしてくれています。
ですが、その前に体勢を維持出来なくなり、私達は階段から落ちてしまいました。
「陽子さん!! 光!!」
エミリー先輩の焦る声が遠くに聞こえます。
「大丈夫ですよ」
そう答えたかったのですが、答える前に意識が遠のいていきました。




